親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第四章 戦に負けないために

4-14 紅兵団の動き その一

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 昭和13年11月末には、雄冬基地には全国から徴募された婦女子2万3587名が集結し終えていた。
 河合サキ達が基地に到着してから早6ヶ月目に入り、サキたちは随分とたくましくなっていた。

 連日の訓練がなせる業とは言え、最初に入隊したサキ達と、先月22日に入隊した台湾採用の訓練生とを比べると、その練度には雲泥の差がある。
 河合サキは、7月15日には班長から中隊長に昇格していた。

 中隊副長2名、小隊長10名、小隊副長20名、その他分隊長を含め625名の隊員を抱える大所帯の長である。
 更に9月12日には隊員数が1万2000名を超えたのを契機に、10個中隊を創設したのである。

 残り5600名ほどは、その後1ヶ月の間、従来の班編成のままとされた。
 その後、10月15日及び11月15日に、それぞれ10中隊が新たに編成されて加わった。

 11月22日には、全国で最後となる台湾での徴募が終了したのである。
 12月1日付で大規模な編成替えが行われた。

 それまでの中隊を解散、新たに4個大隊を編成、大隊は原則6400名の構成員から成る。
 河合サキは、第一大隊長に指名されたのである。

 奇しくもその日はサキの16歳の誕生日であった。
 大隊長には、小隊長格の副官1名がつくほか、司令部要員として大隊副長3名、大隊参謀2名のほか司令部員5名が付き、配下に中隊長9名、中隊副長9名、小隊長81名、小隊副長81名、隊員5731名の隊員が原則として配分されている。

 但し、現状では185名の隊員が不足し、各大隊に46名から47名ほどの欠員を抱えている。
 欠員は来年度の新規採用を待たねばならないのかもしれない。

 12月1日は、総帥が雄冬基地完成後に初めて訪れる事になっていた。
 サキ達紅兵団候補生を激励するのが主目的と聞いている。

 午前11時、サキ達は訓練棟脇にある多目的大訓練場に第一種制服で集合していた。
 赤紫のダブルの制服であり、スカートにちょっと可愛い制帽である。

 この制服はネクタイ代わりに紅白の縞模様のネッカチーフを襟元から覗かせる。
 左肩には赤紫色の小さなハンドバックを下げている。

 女性らしい出で立ちで、サキもいい制服だと思っている。
 但し、この制服では歩き方に注意をしなければならない。

 エレガントにかつ集団行動の際は姿勢を正して毅然と見えるように歩くのが難しい。
 靴も普段履きなれているローヒールではなく、少し高いハーフヒールでやはり赤紫色である。

 200m上には天井があるのだが、多目的大訓練場は一応屋外と見做されている。
 11時丁度、総帥が濃紺の制服に身を包み、基地長の案内で会場に現れた。

 管理棟から乗用車で移動してきたのである。
 降車と同時にサキが精一杯の大声で「気をつけ」の号令をかける。

 殆ど無音の空間に、サキの若々しい声が隅々まで響く。
 号令一過、全員が休めの姿勢から気をつけの姿勢に移ったとき、ザッという靴を移動する音が一瞬聞こえ、新人隊員にも遅れが無かった事にサキはほっとした。

 総帥が演台に上がり、定位置に付いた瞬間を捉えて「頭中かしらなか」の号令をかける。
 先ほどとは異なる、ザッという衣擦れの音が一瞬響いて消える。

 中隊長以上の役職にある者は挙手の敬礼を行っている。
 総帥の答礼を確認して「なおれ」をかける。

 総帥がちらっとサキの方を見て、休ませなさいと言った。
 「休め」の号令をかける。

 総帥がゆっくりと視線を右からと左へと向ける。
 それから正面を向いて、ゆっくりと話し出した。

「ここに、ようやく、念願の紅兵団の基盤ができたことは誠に喜ばしい限りである。
 諸君らも承知の通り、先月21日の台湾台南市における徴募を終えて、総勢2万3587名の紅兵団候補生が勢ぞろいした事になる。
 諸君らは14歳から24歳までのうら若き女性である。
 大変に申し訳ないことではあるが、その諸君らの双肩に我が国の未来が掛かっている。
 これは誠にもって異常なことではある。
 私が全てを計画し、実行に移した。
 従って、責任は全て私が負う。
 諸君の任務は、祖国を、そうしてそこに住む同胞を守る事であるが、同時に非道な国家権力の前で苦しむ民衆を救うことでもある。
 此処で言う民衆とは日本人に限らない。
 最終的には、世界中の全ての人々が対象となるだろう。
 諸君らの中には、台湾、朝鮮さらには南洋諸島の出身者も多数存在する。
 中国語や朝鮮語等日本語以外の言語に幼い頃から馴染み、育った人達のはずである。
 あなた方の郷土は、いま日本という国の枠組みに嵌めこまれている。
 考えようによっては、このことは著しく不合理かもしれない。
 あるいは、少なからずそのことに憤りを覚えている者もいるかもしれない。
 私自身は、必ずしも国家は一つの民族にこだわる必要は無いと考えているが、世の中は一筋縄では行かない。
 人種、民族、宗教、出自、家系、生まれ、性別、学歴そうして貧富による相応の差別が厳然と存在する。
 平等な世の中を創設するのは極めて難しいのだ。
 私は、その中の少なくとも一つの差別を打破するために紅兵団を創設した。
 女性だとて、男に負けぬ働きができることを証明するためである。
 だからと言って、諸君らが決して気負う事は無い。
 生理的に男女の差は歴然としており、一般的に体力で女は男に劣るものである。
 無論、例外は何処にでもある。
 稀にではあるが、男を力づくで負かしてしまう女性の例もある。
 しかしながら、戦争は、古来より男の働く場所であった。
 男ゆえに猛々しく残虐な戦いとなった。
 女だから残虐ではないという事ではない。
 むしろ女性のほうが、時には残虐になることすらある。
 話が逸れてしまったが、人として、男女の差が体力だけならば、それを補う事によって女性は男性と対等に、あるいはそれ以上に社会貢献も出来るはずである。
 戦国時代の豪傑が槍と刀を持って天下無双を誇ったところで、女性や子供達が持つ現代の機関銃百丁には絶対に適わないはずである。
 現在の戦争は、正しくそのような物量と兵器の戦いなのである。
 陸海軍の旧態然とした精神論だけでは戦争には勝てない。
 もちろん精神的な強さも必要ではある。
 戦争とは、兵士を極限にまで追い込み、ストレスを抱えた兵士は、時に狂気に陥る。
 それが、あらゆる戦争に認められる残虐性だ。
 近代の戦争は、兵士同士が自分の肉体で戦う時代ではない。
 多くの場合、遠く離れたところで、敵兵の顔も見ずに相手を殺戮する手段を講じて行われる。
 諸君に申し上げておく。
 諸君は、此処で訓練を受ける事により、実際に大きな力を持ち得る事になる。
 だが、その力に奢るなれば、今の帝国陸軍あるいは帝国海軍のように大きな過ちを犯すだろう。
 諸君が、銃砲の引き金を引くとき、あるいは爆弾を投下するとき、必ずそのために死傷する者がいるということを知っておいて欲しい。
 諸君の任務で大事な事は、相手を打ち負かし、服従させる事ではない。
 戦争を如何に最小限度の被害で終わらせるかである。
 この被害とは味方の被害だけではなく、敵方の被害をも含むものである。
 諸君の力を無駄にひけらかしてはならない。
 しかしながら、必要な場合には仮借なく最大限の力を見せる事だ。
 そうすることで敵に畏怖を感じさせることができれば、戦わずして勝つことが出来、あるいは、敵に戦いを放棄させることが出来るだろう。
 その意思のない相手を挑発して戦を挑むなど愚の骨頂である。
 繰り返すが、諸君の任務は祖国郷土を守り、その住民を守る事が第一である。
 但し、そのためだからといって、他国を侵略し、他国の領民を虐げることに何ら正当性を与えるものではない。
 だが、おそらくは、この準則に違背して私は諸君に命令をすることになるだろう。
 敵国の領民であり、おそらくは真面目な青年が乗るであろう敵の軍艦を攻撃し、母国に愛する妻子を置いてきた良き夫、良き父親の操縦するであろう軍用機を打ち落とせと言うであろう。
 また、そして、敵国の領土に爆弾を落とせと言うであろう。
 その命令に諸君が従えば、諸君は少なからず人を死傷させる事になる。
 その全責任は、総帥である私が負うし、ここに居並ぶ退役軍人のご老体たちが負うことになる。
 諸君らは兵士にしか過ぎないのだから・・・。
 だが、常に自問自答して欲しい。
 本当にこの命令に従っていいのだろうかと。
 今までの軍隊では決して許されざることだが、自分で納得が行かない命令に従う必要は無い。
 だが、一方で自分勝手には動いてはならない。
 諸君は、この相反する二律違反に戸惑うことになるだろう。
 そうして、敵兵を殺す罪悪感に終始苛まれることにもなるだろう。
 それらのことに耐えられない者は紅兵団を去ってもらわねばならない。
 そのために適性試験がある。
 諸君らがここで訓練を受けるのは、来年半ばまでである。
 来年半ばには、所謂適性を総合的に判断して、合格者は別のところで最終的な教育訓練を受けてもらう事になる。
 私としては、諸君ら全員に合格して欲しいと願っている。
 何故ならば、諸君ら一人一人が得がたい人材だからである。
 たとえ一人が欠けたとしても、それは未来にとって大きな損失となる。
 戦争は起きて欲しくないが、いずれ、必ず起きるだろう。
 それも極めて近い将来にだ。
 私は戦争を起こさないようあらゆる努力を惜しまないつもりだが、不幸にして戦が起きたならば諸君達に出陣してもらわねばならない。
 その場合に、諸君らの只の一人であっても死傷することのないように、考え得る限りのあらゆる手段を講じている。
 それが、一番輝ける時代を国家に捧げる諸君らに対しての、私のせめてもの償いで有り、私の責務であると考えている。
 最後に、諸君らの更なる健闘を祈念して私の訓示とする。」

 緩急をつけ、抑揚のある一つ一つの総帥の言葉が、身体に侵み入るようだった。
 サキは、感激に胸を震わせながら号令をかけた。
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