親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

文字の大きさ
69 / 112
第五章 戦争への序曲

5-3 米国の謀略

しおりを挟む
 ルーズベルト大統領は、出頭したクラーク・ベンソン大佐に対して、婉曲ながら欧州参戦のための切っ掛け、及び日本に対する戦争開始理由を何か見いだせないかと尋ねたのである。
 その場での返答は避けて、一旦は持ち帰ったベンソン大佐であったが、1941年(昭和16年)1月下旬、二つの案を持参してきた。

 一つは、欧州参戦のためのシナリオである。
 ベンソン大佐は、計画の概要について説明を始めた。

「米軍駆逐艦に護衛させた米国商船を、ドイツ潜水艦に襲わせるというシナリオです。
 無論、ドイツが自分の意思でそうするわけではありません。
 ドイツに潜入している工作員によって、偽情報を流すのです。
 偽情報は、英軍の協力を得て、フランス解放軍が貨客船を使って秘密裏にノルマンディ若しくはカレーに上陸を企てているというモノです。
 情報は、概略の時期のみ流してあとはうやむやにします。
 情報で流したその時期にカレー向けの商船を一隻向かわせます。
 英軍駆逐艦に似た駆逐艦1隻を護衛として配置します。
 但し、その商船は本来1日遅くカレーに入港する予定の船とします。
 貨物は何でも宜しいのですが、できれば婦女子を多数乗船させた貨客船の方が、事案が起きたときに反響が大きいので望ましいと考えています。
 駆逐艦には英軍で試験的に導入している最新のソナーを装備させ、確実に潜水艦を撃沈させる能力を持つ船に改造します。
 同じ能力の船を更にもう一隻周辺に配置して撃沈の確度を高めます。
 この作戦は、どうしてもドイツUボートの仕業ということを万人に見せる必要があるからです。
 カレー沖50乃至100マイル程度の海域で輸送船は漂泊することになります。
 本来的には、一日遅い入港予定なのですから、沖合で待機する必要があるのです。
 漂泊の間、駆逐艦はUボートの存在を知っていてもこちらからは攻撃はしないことが肝要です。
 輸送船が攻撃を受けてから、駆逐艦は攻撃を行い確実に撃沈させます。
 そうしてドイツ潜水艦のものとわかる証拠を収拾させます。
 大統領は事件発生を受けて参戦の意思を議会に表明することが宜しいでしょう。
 自国民に被害を受けてまで、モンロー主義に固執する議員は少ないはずです。
 但し、相手のあることですし、攻撃されるかどうか不確定な部分があるのは否めません。」

「しかしながら、その計画では国民を我が手で殺す事になる、そんなことは出来ない。」
 
 渋るルーズベルトにベンソン大佐は言った。

「これから戦争を始めようかと仰るお方が何を言うのです。
 多少の犠牲を恐れていては、戦など出来ません。
 戦を始めれば、数万、数十万単位の将兵が死ぬかもしれません。
 そのための試金石と割り切る事です。
 ロンドンでは毎日何十人、何百人という非戦闘員が爆撃で殺されているのですぞ。
 それに、大統領はこのシナリオを一切知らないことが肝要です。
 後は我々にお任せ下さい。
 大統領がこのことを知っていたという証拠は絶対に残しません。」
 
 大統領は思わず唸った。

「次いで、日本との案件ですが。
 これもかなり不確かなものになりそうです。
 共産ゲリラの仕業に見せかけて、米国の資産若しくは駐在の米人を襲撃させます。
 我が国は、共産主義については政治的に許容しておりませんから、共産ゲリラが我が国の在外施設を攻撃しても何ら不思議はありません。
 今まで被害の無いのがむしろおかしな程です。
 共産ゲリラの襲撃に関してのみでは、国民党政府から軍の出動要請を受ける事にはなりませんが、少なくとも国民党政府をつつく材料にはなります。
 これが幾度か続けば、国民党政府にも心変わりがあるでしょう。
 在留米人の保護のために米軍を派遣する用意がある旨を国民党に知らせます。
 在留米人の保護という名目ならば国際的には通用します。
 日本にとっては必ずしもそうではありませんが、少なくとも大義名分は立ちます。
 日本の了解を得る必要はありませんが、宣戦布告の意味合いではないことを日本政府に事前に通知してから実施すべきです。
 それが外交上の礼儀でしょう。
 尤も、これで、日本が在留米軍を叩くかどうかは判りませんが、日本人はメンツを重んじる民族です。
 国民党政府との約束を勝手に反故ほごにされて黙ってはいないと思います。
 日本が我が軍を攻撃すればめっけもの、そうでなければ、その後の日本の動きを見て、再度検討するということではいかがでしょう。」
 
 渋い顔をしながら、ルーズベルトは言った。

「私はその件も聞かなかった。
 だが、そういう事件が起きるとすれば何時頃になるかを知っていれば後々動きやすい。」

「ドイツ分は来月第二週、日本分はその後に何件か連続して起こる可能性があります。」

 密談は終了したのである。

◇◇◇◇

 2月9日夜間、カレー沖合で米国籍輸送船がUボートに撃沈されるという事件が発生した。
 輸送船には、仏系米人10家族46名が乗船しており、みやげ物を沢山持ってフランスの親族を訪問する予定であったが、僅かに2名を除いて全員が死亡した。

 輸送船は魚雷2発を受け、あっという間に破壊され沈没した。
 轟沈である。

 護衛の駆逐艦が直ちに救助艇を下ろして捜索救助に当たらせる一方、反撃し、潜水艦を撃沈した。
 Uボートを撃破した証拠として油にまみれた多数のドイツ語表示の漂流物を揚収した。

 事件の詳細を聞いた直後、朝の臨時ニュースで、米大統領はドイツを激しく非難すると共に、議会において、欧州参戦の議案を提出する旨表明した。
 その夕刻には、米国中のマスメディアが一斉に号外を出した。

 特に、タイムズに掲載された記事が読者の涙を誘った。
 生存者2名のうち1名は7歳の娘、マリア・ジェームズであり、奇跡的なことにかすり傷一つ負っていなかった。

 両親と兄弟が亡くなった事を知らずに、皆に会いたいと駆逐艦の乗員を困らせているという。
 海軍が駆逐艦からの情報を特別に流したものであった。

 2月10日、急遽提出された政府議案は満場一致で可決されたのである。
 これを受けて大統領は、直ちにドイツに対して宣戦布告を発し、大西洋全域に非常配備を令したのである。

 米国は欧州参戦を開始したのである。
 一方2月11日、中国南京にある米国領事館が爆弾による攻撃を受けた。

 手製の爆弾であり、稚拙な作りから共産ゲリラの仕業ではないかとの政府筋の推測を報じる小さな記事が新聞に載った。
 二日おいた14日、上海の郊外に住む米人家族が銃撃を受け惨殺された。

 ソ連製の銃弾であったことからやはり共産ゲリラの介在が推測された。
 米政府は相次ぐ在留米人へのゲリラ攻撃について、国民党政府に遺憾の意を表明し、共産ゲリラの取締りを強く要請したのである。

 国民党政府は慌てて、米人等の居留地警備を厳重にしたが、その最中に更なる事件が発生した。
 15日、北京の大使館職員が帰宅途中に銃撃を受けて死亡したのである。

 犯人はいずれも見つかっていない。
 業を煮やした米国は、国民党政府に申し入れを行った。

『これ以上被害が増えるならば、我が国は国民党政府への協力を一切停止する。
 さもなくば、在留米人保護のために米軍部隊の駐留を認めなさい。』

 国民党政府は二重の困難に陥った。
 共産ゲリラの活動を抑制できないし、さりとて米軍の援助を断ち切られるのは困る。

 一方で、米軍駐留を認めれば日本との約束を反故にすることになる。
 日中講和からまだ1年有余、ようやく混乱から立ち直り、共産党勢力を徐々に追い詰めている途上にある。

 1年半前の日中対立の悪夢のような構図を再現しようとは思わない中華民国の政府幹部である。
 だが、そんな苦悩をあざ笑うように、第4の事件が起きた。

 2月18日広州にある米系企業が爆弾で破壊されたのである。
 荷馬車一杯の爆弾が、米系企業の持ちビル前で爆発、ビルが倒壊し、多数の死傷者が発生したのである。

 米国大使館からは再度の強い要請があったのである。
 一方で相次ぐ共産ゲリラの活動と思われる事件を、米国内のメディアが大きく取り上げ始めた。

 対独参戦前は、慎重論であったメディアの姿勢が、一変していた。
 在留米人を救うためには何としても米軍駐留が必要であり、そのためには日本との断交も止む無しとする意見が大半を占めたのである。

 二国間の協定で他国を規制するのはそもそもおかしいとの理屈がまかり通り、むしろそのような協定を結んだ日本に対して非難が集中したのである。
 この機会を捕らえて、ルーズベルトは、議会に中国へ五千名規模の駐留部隊を派遣する議案を提出した。

 中国国民党政府の事前了解を極力執るよう努めるが、1ヶ月以内に進展が得られなければ了解なしに実力で派遣を実行するという強硬なものであった。
 按に反して、議会の抵抗は無かったのである。

 一旦歯止めを外したモンロー主義は、もはや存在意義を持たず、むしろ反日感情に支えられた覇権主義が頭をもたげ始めたのであった。
 2月22日米国政府は、一ヶ月の猶予期間を与えつつも、国民党政府に対して強硬な意思表明を行った。

 3月20日、その期限切れ寸前に国民党政府は米軍駐留を認めたのである。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~

灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」 魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。 彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。 遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。 歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか? 己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。 そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。 そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。 例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。 過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る! 異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕! ――なろう・カクヨムでも連載中――

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...