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第五章 戦争への序曲
5-3 米国の謀略
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ルーズベルト大統領は、出頭したクラーク・ベンソン大佐に対して、婉曲ながら欧州参戦のための切っ掛け、及び日本に対する戦争開始理由を何か見いだせないかと尋ねたのである。
その場での返答は避けて、一旦は持ち帰ったベンソン大佐であったが、1941年(昭和16年)1月下旬、二つの案を持参してきた。
一つは、欧州参戦のためのシナリオである。
ベンソン大佐は、計画の概要について説明を始めた。
「米軍駆逐艦に護衛させた米国商船を、ドイツ潜水艦に襲わせるというシナリオです。
無論、ドイツが自分の意思でそうするわけではありません。
ドイツに潜入している工作員によって、偽情報を流すのです。
偽情報は、英軍の協力を得て、フランス解放軍が貨客船を使って秘密裏にノルマンディ若しくはカレーに上陸を企てているというモノです。
情報は、概略の時期のみ流してあとはうやむやにします。
情報で流したその時期にカレー向けの商船を一隻向かわせます。
英軍駆逐艦に似た駆逐艦1隻を護衛として配置します。
但し、その商船は本来1日遅くカレーに入港する予定の船とします。
貨物は何でも宜しいのですが、できれば婦女子を多数乗船させた貨客船の方が、事案が起きたときに反響が大きいので望ましいと考えています。
駆逐艦には英軍で試験的に導入している最新のソナーを装備させ、確実に潜水艦を撃沈させる能力を持つ船に改造します。
同じ能力の船を更にもう一隻周辺に配置して撃沈の確度を高めます。
この作戦は、どうしてもドイツUボートの仕業ということを万人に見せる必要があるからです。
カレー沖50乃至100マイル程度の海域で輸送船は漂泊することになります。
本来的には、一日遅い入港予定なのですから、沖合で待機する必要があるのです。
漂泊の間、駆逐艦はUボートの存在を知っていてもこちらからは攻撃はしないことが肝要です。
輸送船が攻撃を受けてから、駆逐艦は攻撃を行い確実に撃沈させます。
そうしてドイツ潜水艦のものとわかる証拠を収拾させます。
大統領は事件発生を受けて参戦の意思を議会に表明することが宜しいでしょう。
自国民に被害を受けてまで、モンロー主義に固執する議員は少ないはずです。
但し、相手のあることですし、攻撃されるかどうか不確定な部分があるのは否めません。」
「しかしながら、その計画では国民を我が手で殺す事になる、そんなことは出来ない。」
渋るルーズベルトにベンソン大佐は言った。
「これから戦争を始めようかと仰るお方が何を言うのです。
多少の犠牲を恐れていては、戦など出来ません。
戦を始めれば、数万、数十万単位の将兵が死ぬかもしれません。
そのための試金石と割り切る事です。
ロンドンでは毎日何十人、何百人という非戦闘員が爆撃で殺されているのですぞ。
それに、大統領はこのシナリオを一切知らないことが肝要です。
後は我々にお任せ下さい。
大統領がこのことを知っていたという証拠は絶対に残しません。」
大統領は思わず唸った。
「次いで、日本との案件ですが。
これもかなり不確かなものになりそうです。
共産ゲリラの仕業に見せかけて、米国の資産若しくは駐在の米人を襲撃させます。
我が国は、共産主義については政治的に許容しておりませんから、共産ゲリラが我が国の在外施設を攻撃しても何ら不思議はありません。
今まで被害の無いのがむしろおかしな程です。
共産ゲリラの襲撃に関してのみでは、国民党政府から軍の出動要請を受ける事にはなりませんが、少なくとも国民党政府をつつく材料にはなります。
これが幾度か続けば、国民党政府にも心変わりがあるでしょう。
在留米人の保護のために米軍を派遣する用意がある旨を国民党に知らせます。
在留米人の保護という名目ならば国際的には通用します。
日本にとっては必ずしもそうではありませんが、少なくとも大義名分は立ちます。
日本の了解を得る必要はありませんが、宣戦布告の意味合いではないことを日本政府に事前に通知してから実施すべきです。
それが外交上の礼儀でしょう。
尤も、これで、日本が在留米軍を叩くかどうかは判りませんが、日本人はメンツを重んじる民族です。
国民党政府との約束を勝手に反故にされて黙ってはいないと思います。
日本が我が軍を攻撃すればめっけもの、そうでなければ、その後の日本の動きを見て、再度検討するということではいかがでしょう。」
渋い顔をしながら、ルーズベルトは言った。
「私はその件も聞かなかった。
だが、そういう事件が起きるとすれば何時頃になるかを知っていれば後々動きやすい。」
「ドイツ分は来月第二週、日本分はその後に何件か連続して起こる可能性があります。」
密談は終了したのである。
◇◇◇◇
2月9日夜間、カレー沖合で米国籍輸送船がUボートに撃沈されるという事件が発生した。
輸送船には、仏系米人10家族46名が乗船しており、みやげ物を沢山持ってフランスの親族を訪問する予定であったが、僅かに2名を除いて全員が死亡した。
輸送船は魚雷2発を受け、あっという間に破壊され沈没した。
轟沈である。
護衛の駆逐艦が直ちに救助艇を下ろして捜索救助に当たらせる一方、反撃し、潜水艦を撃沈した。
Uボートを撃破した証拠として油にまみれた多数のドイツ語表示の漂流物を揚収した。
事件の詳細を聞いた直後、朝の臨時ニュースで、米大統領はドイツを激しく非難すると共に、議会において、欧州参戦の議案を提出する旨表明した。
その夕刻には、米国中のマスメディアが一斉に号外を出した。
特に、タイムズに掲載された記事が読者の涙を誘った。
生存者2名のうち1名は7歳の娘、マリア・ジェームズであり、奇跡的なことにかすり傷一つ負っていなかった。
両親と兄弟が亡くなった事を知らずに、皆に会いたいと駆逐艦の乗員を困らせているという。
海軍が駆逐艦からの情報を特別に流したものであった。
2月10日、急遽提出された政府議案は満場一致で可決されたのである。
これを受けて大統領は、直ちにドイツに対して宣戦布告を発し、大西洋全域に非常配備を令したのである。
米国は欧州参戦を開始したのである。
一方2月11日、中国南京にある米国領事館が爆弾による攻撃を受けた。
手製の爆弾であり、稚拙な作りから共産ゲリラの仕業ではないかとの政府筋の推測を報じる小さな記事が新聞に載った。
二日おいた14日、上海の郊外に住む米人家族が銃撃を受け惨殺された。
ソ連製の銃弾であったことからやはり共産ゲリラの介在が推測された。
米政府は相次ぐ在留米人へのゲリラ攻撃について、国民党政府に遺憾の意を表明し、共産ゲリラの取締りを強く要請したのである。
国民党政府は慌てて、米人等の居留地警備を厳重にしたが、その最中に更なる事件が発生した。
15日、北京の大使館職員が帰宅途中に銃撃を受けて死亡したのである。
犯人はいずれも見つかっていない。
業を煮やした米国は、国民党政府に申し入れを行った。
『これ以上被害が増えるならば、我が国は国民党政府への協力を一切停止する。
さもなくば、在留米人保護のために米軍部隊の駐留を認めなさい。』
国民党政府は二重の困難に陥った。
共産ゲリラの活動を抑制できないし、さりとて米軍の援助を断ち切られるのは困る。
一方で、米軍駐留を認めれば日本との約束を反故にすることになる。
日中講和からまだ1年有余、ようやく混乱から立ち直り、共産党勢力を徐々に追い詰めている途上にある。
1年半前の日中対立の悪夢のような構図を再現しようとは思わない中華民国の政府幹部である。
だが、そんな苦悩をあざ笑うように、第4の事件が起きた。
2月18日広州にある米系企業が爆弾で破壊されたのである。
荷馬車一杯の爆弾が、米系企業の持ちビル前で爆発、ビルが倒壊し、多数の死傷者が発生したのである。
米国大使館からは再度の強い要請があったのである。
一方で相次ぐ共産ゲリラの活動と思われる事件を、米国内のメディアが大きく取り上げ始めた。
対独参戦前は、慎重論であったメディアの姿勢が、一変していた。
在留米人を救うためには何としても米軍駐留が必要であり、そのためには日本との断交も止む無しとする意見が大半を占めたのである。
二国間の協定で他国を規制するのはそもそもおかしいとの理屈がまかり通り、むしろそのような協定を結んだ日本に対して非難が集中したのである。
この機会を捕らえて、ルーズベルトは、議会に中国へ五千名規模の駐留部隊を派遣する議案を提出した。
中国国民党政府の事前了解を極力執るよう努めるが、1ヶ月以内に進展が得られなければ了解なしに実力で派遣を実行するという強硬なものであった。
按に反して、議会の抵抗は無かったのである。
一旦歯止めを外したモンロー主義は、もはや存在意義を持たず、むしろ反日感情に支えられた覇権主義が頭をもたげ始めたのであった。
2月22日米国政府は、一ヶ月の猶予期間を与えつつも、国民党政府に対して強硬な意思表明を行った。
3月20日、その期限切れ寸前に国民党政府は米軍駐留を認めたのである。
その場での返答は避けて、一旦は持ち帰ったベンソン大佐であったが、1941年(昭和16年)1月下旬、二つの案を持参してきた。
一つは、欧州参戦のためのシナリオである。
ベンソン大佐は、計画の概要について説明を始めた。
「米軍駆逐艦に護衛させた米国商船を、ドイツ潜水艦に襲わせるというシナリオです。
無論、ドイツが自分の意思でそうするわけではありません。
ドイツに潜入している工作員によって、偽情報を流すのです。
偽情報は、英軍の協力を得て、フランス解放軍が貨客船を使って秘密裏にノルマンディ若しくはカレーに上陸を企てているというモノです。
情報は、概略の時期のみ流してあとはうやむやにします。
情報で流したその時期にカレー向けの商船を一隻向かわせます。
英軍駆逐艦に似た駆逐艦1隻を護衛として配置します。
但し、その商船は本来1日遅くカレーに入港する予定の船とします。
貨物は何でも宜しいのですが、できれば婦女子を多数乗船させた貨客船の方が、事案が起きたときに反響が大きいので望ましいと考えています。
駆逐艦には英軍で試験的に導入している最新のソナーを装備させ、確実に潜水艦を撃沈させる能力を持つ船に改造します。
同じ能力の船を更にもう一隻周辺に配置して撃沈の確度を高めます。
この作戦は、どうしてもドイツUボートの仕業ということを万人に見せる必要があるからです。
カレー沖50乃至100マイル程度の海域で輸送船は漂泊することになります。
本来的には、一日遅い入港予定なのですから、沖合で待機する必要があるのです。
漂泊の間、駆逐艦はUボートの存在を知っていてもこちらからは攻撃はしないことが肝要です。
輸送船が攻撃を受けてから、駆逐艦は攻撃を行い確実に撃沈させます。
そうしてドイツ潜水艦のものとわかる証拠を収拾させます。
大統領は事件発生を受けて参戦の意思を議会に表明することが宜しいでしょう。
自国民に被害を受けてまで、モンロー主義に固執する議員は少ないはずです。
但し、相手のあることですし、攻撃されるかどうか不確定な部分があるのは否めません。」
「しかしながら、その計画では国民を我が手で殺す事になる、そんなことは出来ない。」
渋るルーズベルトにベンソン大佐は言った。
「これから戦争を始めようかと仰るお方が何を言うのです。
多少の犠牲を恐れていては、戦など出来ません。
戦を始めれば、数万、数十万単位の将兵が死ぬかもしれません。
そのための試金石と割り切る事です。
ロンドンでは毎日何十人、何百人という非戦闘員が爆撃で殺されているのですぞ。
それに、大統領はこのシナリオを一切知らないことが肝要です。
後は我々にお任せ下さい。
大統領がこのことを知っていたという証拠は絶対に残しません。」
大統領は思わず唸った。
「次いで、日本との案件ですが。
これもかなり不確かなものになりそうです。
共産ゲリラの仕業に見せかけて、米国の資産若しくは駐在の米人を襲撃させます。
我が国は、共産主義については政治的に許容しておりませんから、共産ゲリラが我が国の在外施設を攻撃しても何ら不思議はありません。
今まで被害の無いのがむしろおかしな程です。
共産ゲリラの襲撃に関してのみでは、国民党政府から軍の出動要請を受ける事にはなりませんが、少なくとも国民党政府をつつく材料にはなります。
これが幾度か続けば、国民党政府にも心変わりがあるでしょう。
在留米人の保護のために米軍を派遣する用意がある旨を国民党に知らせます。
在留米人の保護という名目ならば国際的には通用します。
日本にとっては必ずしもそうではありませんが、少なくとも大義名分は立ちます。
日本の了解を得る必要はありませんが、宣戦布告の意味合いではないことを日本政府に事前に通知してから実施すべきです。
それが外交上の礼儀でしょう。
尤も、これで、日本が在留米軍を叩くかどうかは判りませんが、日本人はメンツを重んじる民族です。
国民党政府との約束を勝手に反故にされて黙ってはいないと思います。
日本が我が軍を攻撃すればめっけもの、そうでなければ、その後の日本の動きを見て、再度検討するということではいかがでしょう。」
渋い顔をしながら、ルーズベルトは言った。
「私はその件も聞かなかった。
だが、そういう事件が起きるとすれば何時頃になるかを知っていれば後々動きやすい。」
「ドイツ分は来月第二週、日本分はその後に何件か連続して起こる可能性があります。」
密談は終了したのである。
◇◇◇◇
2月9日夜間、カレー沖合で米国籍輸送船がUボートに撃沈されるという事件が発生した。
輸送船には、仏系米人10家族46名が乗船しており、みやげ物を沢山持ってフランスの親族を訪問する予定であったが、僅かに2名を除いて全員が死亡した。
輸送船は魚雷2発を受け、あっという間に破壊され沈没した。
轟沈である。
護衛の駆逐艦が直ちに救助艇を下ろして捜索救助に当たらせる一方、反撃し、潜水艦を撃沈した。
Uボートを撃破した証拠として油にまみれた多数のドイツ語表示の漂流物を揚収した。
事件の詳細を聞いた直後、朝の臨時ニュースで、米大統領はドイツを激しく非難すると共に、議会において、欧州参戦の議案を提出する旨表明した。
その夕刻には、米国中のマスメディアが一斉に号外を出した。
特に、タイムズに掲載された記事が読者の涙を誘った。
生存者2名のうち1名は7歳の娘、マリア・ジェームズであり、奇跡的なことにかすり傷一つ負っていなかった。
両親と兄弟が亡くなった事を知らずに、皆に会いたいと駆逐艦の乗員を困らせているという。
海軍が駆逐艦からの情報を特別に流したものであった。
2月10日、急遽提出された政府議案は満場一致で可決されたのである。
これを受けて大統領は、直ちにドイツに対して宣戦布告を発し、大西洋全域に非常配備を令したのである。
米国は欧州参戦を開始したのである。
一方2月11日、中国南京にある米国領事館が爆弾による攻撃を受けた。
手製の爆弾であり、稚拙な作りから共産ゲリラの仕業ではないかとの政府筋の推測を報じる小さな記事が新聞に載った。
二日おいた14日、上海の郊外に住む米人家族が銃撃を受け惨殺された。
ソ連製の銃弾であったことからやはり共産ゲリラの介在が推測された。
米政府は相次ぐ在留米人へのゲリラ攻撃について、国民党政府に遺憾の意を表明し、共産ゲリラの取締りを強く要請したのである。
国民党政府は慌てて、米人等の居留地警備を厳重にしたが、その最中に更なる事件が発生した。
15日、北京の大使館職員が帰宅途中に銃撃を受けて死亡したのである。
犯人はいずれも見つかっていない。
業を煮やした米国は、国民党政府に申し入れを行った。
『これ以上被害が増えるならば、我が国は国民党政府への協力を一切停止する。
さもなくば、在留米人保護のために米軍部隊の駐留を認めなさい。』
国民党政府は二重の困難に陥った。
共産ゲリラの活動を抑制できないし、さりとて米軍の援助を断ち切られるのは困る。
一方で、米軍駐留を認めれば日本との約束を反故にすることになる。
日中講和からまだ1年有余、ようやく混乱から立ち直り、共産党勢力を徐々に追い詰めている途上にある。
1年半前の日中対立の悪夢のような構図を再現しようとは思わない中華民国の政府幹部である。
だが、そんな苦悩をあざ笑うように、第4の事件が起きた。
2月18日広州にある米系企業が爆弾で破壊されたのである。
荷馬車一杯の爆弾が、米系企業の持ちビル前で爆発、ビルが倒壊し、多数の死傷者が発生したのである。
米国大使館からは再度の強い要請があったのである。
一方で相次ぐ共産ゲリラの活動と思われる事件を、米国内のメディアが大きく取り上げ始めた。
対独参戦前は、慎重論であったメディアの姿勢が、一変していた。
在留米人を救うためには何としても米軍駐留が必要であり、そのためには日本との断交も止む無しとする意見が大半を占めたのである。
二国間の協定で他国を規制するのはそもそもおかしいとの理屈がまかり通り、むしろそのような協定を結んだ日本に対して非難が集中したのである。
この機会を捕らえて、ルーズベルトは、議会に中国へ五千名規模の駐留部隊を派遣する議案を提出した。
中国国民党政府の事前了解を極力執るよう努めるが、1ヶ月以内に進展が得られなければ了解なしに実力で派遣を実行するという強硬なものであった。
按に反して、議会の抵抗は無かったのである。
一旦歯止めを外したモンロー主義は、もはや存在意義を持たず、むしろ反日感情に支えられた覇権主義が頭をもたげ始めたのであった。
2月22日米国政府は、一ヶ月の猶予期間を与えつつも、国民党政府に対して強硬な意思表明を行った。
3月20日、その期限切れ寸前に国民党政府は米軍駐留を認めたのである。
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