親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第六章 日米の戦いと紅兵団の役割

6-4 膠着からの脱出条件は?

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 米軍艦艇の曳航が出来ないならば、豪州政府が全てを貰い受けるか沈めるしかないでしょうから、その場合は豪州政府の判断ににお任せするという。
 更なる話し合いにより米軍の撤退期限は1ヶ月以内とされた。

 米軍の撤退は東方向にのみ認められること、豪州船籍の船の数が少ないことから英国船籍等米国以外の船舶を使用することにも了解が得られた。
 ある意味、期限付きの停戦状態が生れたのである。

 7月10日、豪州との決着がついてまだ間もない時期に、英領シンガポール駐在日本領事がシンガポール英国総督府を訪れた。
 表向き英国は中立国であるが、その実、米国に支援を貰っている以上正しく同盟国以上の間柄である。

 日本領事は案の定、豪州政府と同じ内容の要請を持ち出した。
 異なる点は、範囲を太平洋及びインド洋に限るとしたことである。

 総督府は、本国に問い合わせる旨の約束をして追い返した。
 現時点で、当該海域の英領及び英国の信託統治領に米国駐留軍はほとんど存在しない。

 シンガポールやインドに中隊規模の駐留軍が存在するが米国領事館の武官及び警護要員である事から、この駐留には人員規模が拡大されない限り日本側も同意した。
 従って、英国や米国にとって特に支障の生じない要請であったが、新興国日本からの申し入れに大英帝国が応じる事が気に食わなかったのである。

 英国本土からはすぐに返電が来たものの、総督は暫く日本領事にその内容を伝えなかった。
 だが、8月10日には日本領事が再度やってきていた。

 電話・電報でやり取りができる時代に一ヶ月以上相手を待たせる事は問題であった。
 総督は、日本領事に本国の決定を伝えた。

「中立国の義務として、交戦国の一方に加担をしないことは当然である。
 貴国もドイツ、イタリアとの間に同様の措置を取るならばこれを受け入れる用意がある。」
 
 日本領事は、即座に答えた。

「我が国も以前からドイツ、イタリアとは一線を画しており、如何なる軍事協力もしていないことを申し上げる。
 日独防共協定は、去る4月1日その破棄を意思表明している。
 協定の条文効力上、1年間は協定に縛られる事になるが、来年三月末にはその束縛からも完全に離れる事になります。
 なお、貴国とは日露戦争時代に同盟を結んだ誼です。
 非公式ながら、必要があれば、第二次日英同盟について話し合う用意が日本政府にはある旨お伝えしておきます。
 但し、かく言う話し合いは、英国にかなりの犠牲を強いるものになるかもしれません。」
 
 総督は驚いて聞き返した。

「貴官の言われるのは、ドイツ、イタリアと手を切り、この両国と戦いをするつもりがあるということなのか。」

「そのように考えていただいて結構です。
 但し、同盟ではないにしても、防共協定の性格上、協定の効力が失われる4月以降でなければ無理と思われますし、米国との戦争状態も継続中です。
 そちらが片付かない事には、米軍と同じ戦場に入ることは出来ないでしょう。」

「ふむ、興味深い話ではあるが、・・・。
 それに犠牲が必要になるかもしれないというのも気がかり・・・。
 まぁ、私の手元に置いておくべき情報ではない。
 早速本国に知らせましょう。
 ところで、なぜこのシンガポールでその話を、・・・。」

「東京の英国大使をお呼びする事も可能でしょうが、ドイツ大使の眼もあることから、内密の話をするにはこちらかあるいはインドぐらいしかありません。
 他の第三国にはドイツ大使館か領事館がございますし、英国本土では工作員の眼もありましょう。
 ここならば、先ほど回答を伺った件での話だけと勘ぐられずに済みます。」

「なるほど、いや近頃めったにない貴重なお話を伺った。
 では、何か良い話があればこちらから連絡を差し上げる事になりましょう。」

「そうしていただければ私の役目も無事に終わったというものです。
 本日はお会いできて大変光栄でございました。」
 
 全ては宏禎王の発案により、国際的な包囲網に破れ目を入れるための工作であった。
 蘭印と豪州が抜け、更に英国に楔を打ち込んでおけば、米国の足がかりはフランス領しか存在しない。

 仏領インドシナと同ニューカレドニアは、ドイツの手が伸びていない場所であり、ドイツ寄りのペタン政権の手からも独立している場所である。
 だが、米軍が日付変更線を超えられない限り、新たに駐屯地を作ることも出来ないはずである。

 ◇◇◇◇

 米国政府は苦慮していた。
 大西洋方面の米英連合はうまく行っているのだが、残念ながら対独反攻作戦が中々に進展しない。

 むしろ6月にはドイツ軍がエジプトまで侵攻している。
 大陸に足がかりが無い事が最大の原因であるが、大西洋方面軍司令官のアイゼンハワーは地中海からの反攻を計画しているようだ。

 足がかりといえば太平洋域における足がかりが失われて久しい。
 米軍に協力的であった豪州、蘭印が基地の提供を断ってきており、事実上の増援を送れない米軍も妥協せざるを得なかった。

 ポートモレスビーにいた海軍艦艇は巡洋艦を基軸にしたものだが、その半数を止むを得ず豪州に譲渡し、乗員は輸送船で本国へ送還して貰った。
 情けない事に輸送船で運べない爆撃機なども豪州に譲渡するしかなかった。

 輸送船の確保に問題があり、物資についてもかなりの分を置いてきたのである。
 それ以降、状況は全く変わってはいない。

 依然として米国の艦船及び航空機は日付変更線を越えることが出来ないでいるのである。
 これでは戦争にならない。

 だが、少なくとも日本は、本来の目的である米軍の中国駐留を完全に阻止している。
 それに加えて太平洋の半分から完全に閉め出されているのが米軍の現実であり、問題だった。

 米国籍の民間船舶も同様に日付変更線を超えることができなかった。
 そのために貿易にも若干の支障が生じていた。

 アジアとの貿易に際して、他国籍船を使わねばならないことは、米国の権威に傷がつくことでもあったのである。
 こうして交戦中でありながら、米国は手も足も出せず、日本は戦闘を回避しながら経済活動を充実させている。

 その経済発展は目を見張るものがあり、米国大統領も気が気ではない。
 先ず、サハリンの海底油田は、日量100万バレルの原油を生産している。

 また、その近傍で天然ガス田を開発し、サハリン真岡までパイプラインを伸ばし、この7月からは極低温で液化して国内に良質のエネルギーを供給しているという。
 天然ガスは米国でも油田から出てくるが、余計なものとして油田で分離し、燃やしてしまっている。

 天然ガスの利用などおそらくは誰も考えてはいなかっただろう。
 因みに学者に聞いたところでは、天然ガスはマイナス169度以下にならないと液化は出来ないという。

 今の米国にそのような工業技術は無い。
 発電所についても驚くべき情報が伝わってきていた。

 従来、日本の発電所は水力発電が主体であり、火力も石炭を利用するものが都市近傍に若干あったのだが、石炭の質が悪く効率が悪かったという。
 それが戦争を始めた途端に新機軸の発電所に一斉に切り替えたようである。

 これまでも地脈発電機により発電所が建設可能なのではという推測がなされていたのだが、精々が一基数万キロワット単位であった発電所が、100万キロワット単位の発電所に生まれ変わっていたようだ。
 山奥にあった水力発電所は水利ダムに切り替えられ、大電力を必要とする都市近郊には比較的小さな発電所が設けられて効率的に給電されているようなのだ。

 日本の北部地域には巨大な建造物が新たに確認されている。
 20キロ四方の底面と200mの高さを有する巨大な建造物であり、工場ではなく農場だという。

 日本の北方地域では気候が不安定で農業に適さない土地柄であったが、人工環境の農場で大規模な農業を行っているらしい。
 これまでは、地下に隠されていたものが、地上への増築工事を始めたことでその存在が明らかとなったようだ。

 北海道と東北の二つの新型農場では、既に増産を始めており、大量の食糧輸送が始まっていた。
 日本人の主食である米だけでも、この8月に一つの工場から150万トンの出荷があったという。

 150万トンの米は、日本人千万人がほぼ一年の間食いつなげる量である。
 その工場は5月から増産活動を開始したばかりであり、三ヶ月で米が出来るという事は、年間で600万トン、四千万人の腹を満たす事が出来るという事である。

 もう一つの工場は一ヶ月遅れて増産活動を開始した事から、来月にならなければ正確にはわからないが、同じレベルの能力があれば8千万人分の年間食料が二つの農業工場で生産できるということになる。
 これは日本本土の人口に匹敵する。

 そうして、この他にも、日本国内に更に二箇所、サハリン、朝鮮半島、満州にも同じ工場の建設が既に始まっているという。
 サハリンに一箇所、朝鮮に二箇所、満州には四箇所である。

 それら全ての事業を手がけているのが飛鳥総業という会社であり、日本の財閥である三井、三菱、住友、安田をはるかに超える財力を持っているという。
 その総帥が日本の Emperor の甥である Prince FUJINOMIYA・HIROYOSHIOという男らしい。

 各種事業を手がけているらしいが、その事業の全体像と実態は秘密に包まれており掴めていないという。
 表面上に出ているのは、飛鳥鉱山、飛鳥特殊鋼、飛鳥重工、大和製薬、飛鳥電気製作所、雄冬造船所、飛鳥総業、飛鳥石油ガス産業などであるが、それらの会社及び工場は出入りチェックが軍以上に厳重であり、部外者は殆どが入れないという。

 特に外国人で入れる者は皆無であるという。
 無論、受付までは行けるし、応接間に通されることもある。

 だが、彼らのオフィスに入り、或いは、工場を見学したものはただの一人とていないのだ。
 取引は可能だが、そのノウハウは一切門外不出という事である。

 一昨年の日中講和に伴って、50万人近い兵士が復員を果たしたが、その内の2割から3割ほどが飛鳥グループに雇用されたという。
 また、新基軸の農場生産に併せて、農業人口のかなりの部分が農業工場に社員としてシフトしているらしい。

 一頃の不況を完全に脱して、物価は安定し、米国よりも安くて良い品物が国内に流通しているという。
 例えば自動車である。

 韋駄天と呼ばれるシリーズは1907年に売り出されてから既に三十有余年も経つが、未だにその機能と品質は米国の誇る自動車産業が模倣すらもできていないのだ。
 韋駄天は、日本の道路事情に合わせたマイクロとも言うべき小型自動車、少し大きめの中型自動車、米国のフォードにも匹敵する大型の高級自動車の三種類がある。

 それらはいずれも米国車、英国車、ドイツ車よりも性能が良い上に、電気自動車であるために燃料を食わないという特徴がある。
 駐日の英国大使館、ドイツ大使館でも韋駄天を購入して使っているが、他国の製品とは歴然とした差がついていることを確認しているという。

 日本の国家政策で、韋駄天は日本国内、朝鮮、台湾及び委任統治領以外への持ち出しは出来ない事になっている。
 このほかにも新機軸の高性能な工業製品が生まれている様なのだが、多くの場合、外国には輸出を制限されている場合が多いらしい。

 実物の入手ができずとも構造などは推測できるので模倣はできるが、生憎と性能は落ちてしまうようだ。
 米国の実業界ができないことを、彼らは易々とやってのけているのだ。

 本当に彼らと戦争をすることが正解であったのかどうか、陰謀を推し進めた当の米大統領ですら迷いが生じていた。
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