親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第六章 日米の戦いと紅兵団の役割

6-5 日米講和の可能性?

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 米国が7月中に撤退した太平洋の島嶼には、8月初旬には日本軍が入り込んでいた。
 パラオ、カロリン、マーシャル諸島、ウェーキ島などの島々である。

 其処からの情報は殆ど入ってこない。
 日本軍が住民を手名づけてしまったのかもしれないが、地元に残してきたスパイ要員からも連絡は途切れているようだ。

 太平洋での膠着状態をどう打破するかが日本との戦に踏み切った大統領の最大の課題でもあった。
 一方で、米国においても武器製造が順調に進んでいた。

 英国への供与もあるが、自国軍兵士が使用する武器が主体である。
 銃器メーカー、航空機製造工場、造船所などの軍需産業はいずれも大きな受注で活気を帯びていた。

 しかしながら、日付変更線の魔物に対抗できる兵器は作れていない。
 太平洋方面の将兵の間にはすっかり噂が定着してしまっていた。

『日付変更線には魔物が棲んでいる。
 米国の船、航空機はそのために海に引きずり込まれている。
 魔物は空から金の矢を放ち、あるいは海から銀の矢を放ち、船や航空機の中央部で破裂させる。
 そのために燃料や火薬に火が付き一瞬にして沈没し或いは墜落する。
 魔物は海に棲み、空に潜んで船や航空機を見張っている。
 米国の船や航空機が通らないかどうか、あるいは、米国の兵士や兵器を積んだ船が通らないかどうか。
 衣類、家具、食料や医薬品は戦に関わりが少ないから米国の製品でも外国の船は運べる。
 魔物は港で何を積み、誰が乗り込んでいるかをじっと見つめている。
 魔物は何事も見過ごさない。』

 大統領はそんな馬鹿なことが起きるわけがないと思ったのだが、実際にキンケイドが辞表を提出した後も、航空機が123機、船舶が2隻、潜水艦が3隻いずれも見事に消息不明になった。
 航空機のうち一機は北緯60度線以北で編隊飛行中に撃墜された。

 僚機のパイロットは突然前方を飛んでいた哨戒機が火炎を吹き上げて爆発したと証言し、空域には他の航空機などいなかったと断言した。
 潜水艦のうち一隻は、太平洋艦隊司令部の発案で南緯60度線以南の南氷洋まで進出して消息を絶った。

 それほど南に下がれば、日本の秘密戦隊の眼も届かないだろうという意見の実証をするためであった。
 キンケイドが指揮したフィリピン攻略部隊の際は、艦載航空機が駆逐艦の沈没した海域よりも西の空域での捜索にも当たったが、攻撃を受けなかった。

 ために、空母を派遣して日付変更線付近で発艦、西に向けさせたところこれも撃墜された。
 以後は如何なる船であろうと航空機であろうと、日付変更線付近への就航が出来なくなったのである。

 それにしても、これほど優位に立っている日本軍が、何故日付変更線を越えてミッドウェイやハワイを攻撃してこないのかが不思議である。
 日本から東経180度、南緯60度までの距離は、優に米国西岸までの直線距離を越える。

 従って魔物が船にしろ、航空機にしろ、米国を攻撃できないわけが無いのである。
 心理学者、日本の研究者、その他の有識者を集めて、何故日本が攻めてこないのかを検討してもらったが、結論は出てこなかった。

 但し、日本の研究者の一人が面白い事を言っていた。

「これまでの日本人のメンタリティからすると、この膠着状態の維持には、異様に理知的、寛容的、強固な意思が働いているように思われる。
 彼らの民族的特性から言えば、集団の中で突出することを非常に嫌う傾向がある。
 我々アメリカ人は、自分の手柄を吹聴し、誇張して、自分の存在を誇示するところがあるが、日本人の多くは控えめで、誇示する必要がある場合も暗示的に示す場合が多い。
 今回の場合、意味があるとすれば敵である我々米国民に対して、日本と戦をする愚かさを圧倒的な力を持つ者が我々にわからせるために、敢えて行っているようにも思える。
 人生経験豊富で知識もあり、体力も優れている父親が我が子にしつけをしている姿のようにも見えるのである。
 それが、如実に現れているのは、今回のオレンジ作戦に参加したフィリピン攻略部隊に対する戦果について一言も広報がなされていないことである。
 大本営は、グアム占領やフィリピン占領、さらに日本周辺での潜水艦撃沈については大々的な広報を行っている。
 ために、フィリピン及びグアムの攻略以外に対する戦果については、大本営自体に戦果確認が出来ていないので、広報をしていないのではないかと思われるのである。
 また、キンケイド元大将に当てた電文で自らを秘密戦隊と呼称していることと考え合わせると、公表されていない軍隊の介在がここにはあるのでは無いかと推測される。
 関連して、あくまで推測の域を出ないが、2年余り前に創設された紅兵団という女性だけの支援部隊が存在するが、創設時の報道のみでその後一切の報道がなされていないことは、この部隊が何らかの形で関与している可能性も否定できない。
 開戦後の日本経済の急速な進展にも紅兵団の発案者、Prince Hiroyoshiouの貢献によるところが大きいとみられることから、この人物が大いなるキーパーソンである可能性が大である。
 成立は時間の問題と思われていた日独伊三国同盟の不成立、満州帝国の成立あるいは唐突な日中講和の成立など、ここ数年の出来事にもこの人物が関わっている可能性もあると考えられるのである。
 さらには、ロシア革命時の皇帝一家の救出劇にも或いは関わったのではないかとの憶測が一部でささやかれているほど Prince Hiroyoshiou については、もやのような霧が付きまとう。
 もしそうであるとすれば、彼の人物は決して戦争を望んではいないし、敵である我々米国民の命をも大事に考える人物であると推測される。
 彼の留学中における言動、未だに文通を続けている知識人達は揃って彼のことを平和愛好者だと讃えている。
 彼の存在が陰の存在だとは断定できないが、何れにしろ、極めて優秀な陰の存在が、国家間の戦争という事態において、自らが属する国家及び同胞を優先して考えているのは明らかであり、同胞である将兵の命を守るためにもこの膠着状態を故意に作り出したのではないかと思われるのである。
 あくまで個人的見解として申し上げるなれば、彼の人物が介在する限り、日本とのこれ以上の戦闘継続は我が国にとって何ら利益をもたらさないだろうし、我が方から戦争の終結を望まない限り、我が国船舶や航空機は、日付変更線を越える事は一切出来ないだろうと思われる。
 同時に、いつまでこの膠着状態を継続するかは彼の人物の意向次第であり、状況によっては痺れを切らして米本土侵攻が一気に始まる可能性もある。
 その場合、彼の人物が意図することとしては、決着を急ぎ、なおかつ双方の犠牲を最小限度にするため、圧倒的な戦力で首都を目指し、障害となる我が軍を粉砕して降伏を迫るのではないかと思われ、我が国の現状の兵力では到底支えきれないのではないかと危惧している。
 但し、私の推測が正しければ、彼の人物は欧州戦線にも注意を払っており、ナチスドイツがこれ以上膨張することを必ずしも望んではおらず、そのために米国の主力を残すよう最大限の配慮をしているように思われ、その意味では、ナチスドイツが倒れるまでは、我が国への本格的侵攻は無いのではと思っている。」

 ルーズベルトはある意味で非常に機微ある分析だと評価していた。
 英国から秘密裏にもたらされた情報では、日本側は何らかの条件付ながら第二次日英同盟をさえ締結する用意がある旨非公式に伝えてきているらしい。

 その際に障害となるのは日米間の戦争であることさえ明言しているそうだ。
 確かに日本が欧州戦線に参戦してドイツと戦う際に、戦争中の米国将兵と肩を並べて戦うわけには行かないだろう。

 ある意味で、これは英国を介して伝えてきた和平のメッセージなのかもしれない。
 これに応じない場合、或いは一気に片をつけるべく、一気果敢に本土攻撃を敢行するかもしれない。

 或いは、研究者の読みが当たっていればナチスドイツが倒れるまで待つつもりかもしれない。
 意味があるとすれば、来年の4月には日独の防共協定が無効になることである。

 これは日本がドイツに対して宣戦布告が可能となる時期であり、それまでは国際信義則に縛られて日本は動けないという事でもある。
 米国との関係ではそうしたことに縛られるわけではないが、今、米国を倒せば、来年4月までは米国の戦力がないまま欧州で英国とソ連がドイツを足止めしなければならず、場合によっては英国やソ連がドイツに占領される可能性もあると見ているのではないだろうか。

 おかしなことに敵である日本が、当座、米国の戦力を当てにしているということになる。
 本当に其処まで読まれた上での膠着状態ならば、ルーズベルトとしては誠に面白くない構図である。

 ドイツとの戦争を契機に、アジアへの覇権をも考えていた自分の構想とは異なり、むしろ、日本の掌で躍らされていることになるからである。
 だが、日付変更線を超える有効な方法が見つからない以上、休戦又は停戦以外方法は無いのである。

 米国に大手の船会社はさほど多くは無いが、それでも経済界から幾つかのクレームが付き始めている。
 実際のところ、講和を進めなければいけないとは思いつつも、先延ばしにしているルーズベルトであった。

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