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第七章 英国との交渉
7-6 女王との密談 その一
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2月12日午後1時半、サキと絵里子はイリアンの離宮に自動車でついた。
運転手は、別室で待ってもらうことになっている。
サキと絵里子は服装を色々と考えた結果、二人とも赤紫のワンピースにした。
赤と白のネッカチーフを首に巻き、赤紫のベレー帽、靴も赤紫である。
赤紫のロングドレスは、今度の旅行のために作ったのだがそれが奏効した。
赤紫は紅部隊のカラーである。
この色の衣装を纏っていると勇気が沸いてくる。
女王陛下は親書を見ずにサキ達を茶会に招いたが、親書を見てもやはり再度の謁見を望んだだろう。
但し、その場合、チャーチル首相等の政府要人も一緒にその場に居たかもしれない。
今日のイリアン離宮を見る限りは、女王陛下は他の誰かに相談をしなかったようである。
いずれにしろサキ達の渡英の任務も今日が正念場である。
サキと絵里子はすぐに居間へ案内された。
チャーチル夫人が既に来ていた。
挨拶を交わしている間に、サッチャー夫人も合流した。
4人が揃ったところへ女王陛下が室内に入ってきた。
4人が揃って、片膝を折る挨拶で出迎える。
女王陛下が挨拶をする。
「皆さん、よくいらっしゃいました。
お招きしておいて大変に申し訳ないのですが、急用が出来ましたので今日は1時間で切り上げたいと思います。
今が2時40分ですから、3時40分までとします。
皆さんどうぞご了解をお願いします。
それでは、マリア、お給仕をお願いね。」
マリアと呼ばれた若い侍女が、ワゴンにティーポットやお湯を用意してきた。
マリアが紅茶の準備をしている間に、チャーチル夫人とサッチャー夫人は手作りのクッキーをテーブルの上に広げて披露する。
サキと絵里子も、クッキーの代わりにブランデー、リキュール、ワイン、日本酒を用いた小さなスポンジケーキ、それに和菓子を披露した。
和菓子の材料はサキが日本から用意してきたものであった。
和菓子をサキが、スポンジケーキは絵里子が、ヘストン邸のキッチンを借りて作ったものである。
沢山作るよりも、色合いと出来栄えを優先して作った和菓子であり、スポンジケーキである。
三人の英国人女性は、初めて食する日本酒のケーキと和菓子に舌鼓を打ち、好評であった。
和菓子は春夏秋冬をイメージするものを一つずつ、サキも我ながら上々の出来と思っていた。
歓談の合間に、侍女のマリアがサキにそっとメモを渡した。
『お二人とも茶会の後に居残ってください。
女王陛下から非公式の話がございます。』
歓談は楽しいひと時であった。
二人の中年夫人が英国上流社会のしきたり等を若い二人に紹介し、清楚な姉妹のような二人も日本の伝統や華族の生活などを紹介した。
華族の話は絵里子の独壇場であり、サキは日本の伝統や習慣を紹介したのである。
世代を超え、民族を超えた交流は楽しいひと時であり、サキや絵里子も無難な対応に終始したのである。
部隊での教育が大いに役立ったことは言うまでも無い。
部隊では訓練ばかりではなく、女性としての身だしなみ、お稽古事、家事全般、それに国際儀礼や主要各国での一般的な礼儀までもが知識として習得するように推奨され、訓練で忙しい合間を見ながら、サキ達も十分な知識を得ていたのである。
そのお陰で、華道、茶道は言うに及ばず、日舞、社交ダンスまでサキたちはこなせるようになっていた。
サラ・サッチャー夫人とマーガレット・チャーチル夫人は、この異国の若い二人を特に気に入ったようで
14日に予定されているパーティに招待をしてくれた。
バレンタイン・デイの社交界パーティは、本来大々的に開催されるのだが、戦時中ということもあって今年は極ささやかなものであるらしい。
14日午後6時からグランド・ブリティッシュ・ホテルで開催される。
男性同伴が原則であるが、知人の子息をエスコートさせるという心遣いまでしてくれた。
楽しいひと時は過ぎ、茶会はお開きとなった。
サキ達はサッチャー夫人やチャーチル夫人らに別れを告げ、マリアの手引きで気付かれないように別室に入った。
そこで暫し待機していると、マリアが迎えに来た。
イリアン離宮にある女王のプライベートルームに案内された。
先ほどの茶会で見せたにこやかな表情から一転して厳しい表情の女王が待っていた。
二人が入室して挨拶をすると、直ぐに座るように命じた。
「さて、あなた方の持参した天皇陛下の親書を読ませて頂いたし、いずれ返書をしたためねばならないのですが、少々話は込み入っているようですね。
詳しい話は二人に聞いて欲しいと書かれてありましたが、あなた方は内容を知っているのですね。
此処には他のものはいませんから、フランクに話してください。」
「はい、文言についてはともかく、概要については親書を預かった際に承っております。」
「なるほど、・・・。
では、今この時期に、英国が日本と同盟を締結しなければならない理由は何なのか。
あなた方でわかる範囲で説明なさい。」
サキと絵里子は顔を見合わせ頷いた。
サキが説明する。
「はい、端的に申し上げるならば、日本がナチスドイツに宣戦布告をするために必要でございます。
英国はナチスドイツと交戦中でございますが、日本は欧州戦線に参戦する理由を持ちません。
先年、米国と相互安全保障条約を締結し、米国とはある意味、同盟関係にございますが、米国は独自の事情によりドイツとの交戦に踏み切ったことから、規定上、相互安全保障条約では日本が参戦する理由になりません。
一方で、ナチスドイツは米国の参戦により、いずれ敗北するでしょうが、かなりの時間を要することになるでしょう。
ドイツは、昨年6月にソ連にも侵攻しました。
英米だけでも大変なのに、ソ連との参戦に踏み切ってはドイツに勝ち目はほとんどありません。
しかしながら、それでもドイツの降伏までには今後2年ほどの時間が経過する事になるでしょう。
それでは遅いのです。
女王陛下はドイツのユダヤ人差別政策をご存じでしょうが、ユダヤ人を大量虐殺している事実についてはおそらくご存じではないのではないでしょうか?」
驚きの表情を見せながら女王が言う。
「ほう、それは初めて聞く話じゃ。」
「このまま放置すれば、100万以上のユダヤ人が秘密裏に虐殺されることになります。
我が国としては、そうした蛮行を見過ごす事は出来ません。
また、一方で、ソ連との参戦に踏み切った事により、ドイツの降伏前にはドイツ領域内にソ連の逆侵攻を許すことになります。
このままでは、ドイツ国内はソ連と英米の二つの占領地に分断されることになります。
共産主義と自由主義陣営との対立は、ドイツが現在占領している東欧諸国にも及ぶ事になります。
それに戦線の問題から東欧諸国はソ連の圏内に組み込まれることになるでしょう。
ソ連のこうした占領はソ連の国際的地位を高めると共に、自由主義陣営にとっても大きな脅威となります。
しかも、ドイツは世界にも冠たる科学大国。
ソ連と英米に分かれたドイツ領域の科学技術はそれぞれの陣営で新たな武器を産み出し、次なる大戦を生みかねません。
例えば女王陛下はドイツのV1、V2ロケットは兵器としてご存じかと思いますが、原子爆弾をご存じでしょうか?」
「いや、確かにドイツのロケット兵器は知っているが、原子爆弾とやらは初めて聞いた。」
運転手は、別室で待ってもらうことになっている。
サキと絵里子は服装を色々と考えた結果、二人とも赤紫のワンピースにした。
赤と白のネッカチーフを首に巻き、赤紫のベレー帽、靴も赤紫である。
赤紫のロングドレスは、今度の旅行のために作ったのだがそれが奏効した。
赤紫は紅部隊のカラーである。
この色の衣装を纏っていると勇気が沸いてくる。
女王陛下は親書を見ずにサキ達を茶会に招いたが、親書を見てもやはり再度の謁見を望んだだろう。
但し、その場合、チャーチル首相等の政府要人も一緒にその場に居たかもしれない。
今日のイリアン離宮を見る限りは、女王陛下は他の誰かに相談をしなかったようである。
いずれにしろサキ達の渡英の任務も今日が正念場である。
サキと絵里子はすぐに居間へ案内された。
チャーチル夫人が既に来ていた。
挨拶を交わしている間に、サッチャー夫人も合流した。
4人が揃ったところへ女王陛下が室内に入ってきた。
4人が揃って、片膝を折る挨拶で出迎える。
女王陛下が挨拶をする。
「皆さん、よくいらっしゃいました。
お招きしておいて大変に申し訳ないのですが、急用が出来ましたので今日は1時間で切り上げたいと思います。
今が2時40分ですから、3時40分までとします。
皆さんどうぞご了解をお願いします。
それでは、マリア、お給仕をお願いね。」
マリアと呼ばれた若い侍女が、ワゴンにティーポットやお湯を用意してきた。
マリアが紅茶の準備をしている間に、チャーチル夫人とサッチャー夫人は手作りのクッキーをテーブルの上に広げて披露する。
サキと絵里子も、クッキーの代わりにブランデー、リキュール、ワイン、日本酒を用いた小さなスポンジケーキ、それに和菓子を披露した。
和菓子の材料はサキが日本から用意してきたものであった。
和菓子をサキが、スポンジケーキは絵里子が、ヘストン邸のキッチンを借りて作ったものである。
沢山作るよりも、色合いと出来栄えを優先して作った和菓子であり、スポンジケーキである。
三人の英国人女性は、初めて食する日本酒のケーキと和菓子に舌鼓を打ち、好評であった。
和菓子は春夏秋冬をイメージするものを一つずつ、サキも我ながら上々の出来と思っていた。
歓談の合間に、侍女のマリアがサキにそっとメモを渡した。
『お二人とも茶会の後に居残ってください。
女王陛下から非公式の話がございます。』
歓談は楽しいひと時であった。
二人の中年夫人が英国上流社会のしきたり等を若い二人に紹介し、清楚な姉妹のような二人も日本の伝統や華族の生活などを紹介した。
華族の話は絵里子の独壇場であり、サキは日本の伝統や習慣を紹介したのである。
世代を超え、民族を超えた交流は楽しいひと時であり、サキや絵里子も無難な対応に終始したのである。
部隊での教育が大いに役立ったことは言うまでも無い。
部隊では訓練ばかりではなく、女性としての身だしなみ、お稽古事、家事全般、それに国際儀礼や主要各国での一般的な礼儀までもが知識として習得するように推奨され、訓練で忙しい合間を見ながら、サキ達も十分な知識を得ていたのである。
そのお陰で、華道、茶道は言うに及ばず、日舞、社交ダンスまでサキたちはこなせるようになっていた。
サラ・サッチャー夫人とマーガレット・チャーチル夫人は、この異国の若い二人を特に気に入ったようで
14日に予定されているパーティに招待をしてくれた。
バレンタイン・デイの社交界パーティは、本来大々的に開催されるのだが、戦時中ということもあって今年は極ささやかなものであるらしい。
14日午後6時からグランド・ブリティッシュ・ホテルで開催される。
男性同伴が原則であるが、知人の子息をエスコートさせるという心遣いまでしてくれた。
楽しいひと時は過ぎ、茶会はお開きとなった。
サキ達はサッチャー夫人やチャーチル夫人らに別れを告げ、マリアの手引きで気付かれないように別室に入った。
そこで暫し待機していると、マリアが迎えに来た。
イリアン離宮にある女王のプライベートルームに案内された。
先ほどの茶会で見せたにこやかな表情から一転して厳しい表情の女王が待っていた。
二人が入室して挨拶をすると、直ぐに座るように命じた。
「さて、あなた方の持参した天皇陛下の親書を読ませて頂いたし、いずれ返書をしたためねばならないのですが、少々話は込み入っているようですね。
詳しい話は二人に聞いて欲しいと書かれてありましたが、あなた方は内容を知っているのですね。
此処には他のものはいませんから、フランクに話してください。」
「はい、文言についてはともかく、概要については親書を預かった際に承っております。」
「なるほど、・・・。
では、今この時期に、英国が日本と同盟を締結しなければならない理由は何なのか。
あなた方でわかる範囲で説明なさい。」
サキと絵里子は顔を見合わせ頷いた。
サキが説明する。
「はい、端的に申し上げるならば、日本がナチスドイツに宣戦布告をするために必要でございます。
英国はナチスドイツと交戦中でございますが、日本は欧州戦線に参戦する理由を持ちません。
先年、米国と相互安全保障条約を締結し、米国とはある意味、同盟関係にございますが、米国は独自の事情によりドイツとの交戦に踏み切ったことから、規定上、相互安全保障条約では日本が参戦する理由になりません。
一方で、ナチスドイツは米国の参戦により、いずれ敗北するでしょうが、かなりの時間を要することになるでしょう。
ドイツは、昨年6月にソ連にも侵攻しました。
英米だけでも大変なのに、ソ連との参戦に踏み切ってはドイツに勝ち目はほとんどありません。
しかしながら、それでもドイツの降伏までには今後2年ほどの時間が経過する事になるでしょう。
それでは遅いのです。
女王陛下はドイツのユダヤ人差別政策をご存じでしょうが、ユダヤ人を大量虐殺している事実についてはおそらくご存じではないのではないでしょうか?」
驚きの表情を見せながら女王が言う。
「ほう、それは初めて聞く話じゃ。」
「このまま放置すれば、100万以上のユダヤ人が秘密裏に虐殺されることになります。
我が国としては、そうした蛮行を見過ごす事は出来ません。
また、一方で、ソ連との参戦に踏み切った事により、ドイツの降伏前にはドイツ領域内にソ連の逆侵攻を許すことになります。
このままでは、ドイツ国内はソ連と英米の二つの占領地に分断されることになります。
共産主義と自由主義陣営との対立は、ドイツが現在占領している東欧諸国にも及ぶ事になります。
それに戦線の問題から東欧諸国はソ連の圏内に組み込まれることになるでしょう。
ソ連のこうした占領はソ連の国際的地位を高めると共に、自由主義陣営にとっても大きな脅威となります。
しかも、ドイツは世界にも冠たる科学大国。
ソ連と英米に分かれたドイツ領域の科学技術はそれぞれの陣営で新たな武器を産み出し、次なる大戦を生みかねません。
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