親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第七章 英国との交渉

7-8 女王との密談 その三

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「私は天皇陛下の御意思により派遣された者です。
 少なくとも天皇陛下はそのようにお考えです。」

「だが、それでは、軍部も右翼も黙ってはおるまい。
 天皇制の維持すら困難になるのではないのか。」

「それは女王陛下がご心配される事ではないと思われますが、・・・。
 敢えて申し上げるなれば、陛下のご意思を尊重する少数の有力者が後押しをすることになるでしょう。
 そうして、その有力者達は実質的な国家の辿るべき道を正常に歩ませることの出来る人達であり、右翼はおろか、軍部をも信服させるはずです。
 私が申し上げた内容については、実際に英国との同盟締結交渉に入れば我が国の意思として公式に表明されるはずです。」

「ヒロヒト天皇の意思とはそのような意味であったか・・・。
 だが、英国では、・・・・難しいと思う。
 女王は統治せず、君臨するのみ。
 そなた達はこの言葉の意味を知っていますか?
 わらわに統治の実質的権限はない。
 象徴的に君臨しているだけなのです。」

「女王陛下、・・・。
 天皇陛下の立場も同じなのです。
 天皇に大権があろうと無かろうと、実質的な政治は首相が行い、軍の指揮は軍の組織が行っています。
 天皇陛下が口を挟む余地は殆どありません。
 しかしながら、首相にしろ、軍にしろ、それぞれの拠り所は天皇陛下から与えられた形式的な権威なのです。
 それを失っては、彼らの後ろ盾がなくなり、国民はついてゆきません。
 英国も同じようなところがあると思います。
 英国王室は日本に比べると歴史が浅く、また、千年以上にも渡って只一つの家系が君臨した天皇制と異なり、王位の転覆、あるいは王室の変更もあったやも知れませんが、女王陛下は現実に政治にもかなりの影響力をお持ちのはずです。
 昔のように王命としての絶対的効果は無くとも、首相その他の有力者に働きかける事はできましょう。
 天皇陛下が女王陛下に望まれているのは正に其の事なのです。
 非公式の折衝は既に外務官僚が行いましたが、英国側から断られております。
 その際には、私が申したようなことは一切話をしておりません。
 ドイツの眼も耳もあるために、米国大使館を通じての間接的な手紙のやり取りであり、万が一にでも外部に漏れるようなことがあれば、我が国が信義則に反している事が公になるからです。
 我が国がこうまで危険を冒していることの意味をご理解下さい。
 先ほども申し上げました通り、事は急がねばなりません。
 我が国は日独防共協定の廃止をドイツに通告したのは昨年4月ですが、今年3月一杯まではその効力を有します。
 日独防共協定は友好条約の意味合いを有する協定であり、本来はドイツの交戦国である英国と交渉することすら許されません。
 それほど事態は深刻なのです。
 ここには危険ですので資料は一切持ってきておりませんが、ドイツが行っている非道な行為の証拠は日本が持っています。
 ナチスドイツには昨年4月に協定廃止の通告をする前に何度か交渉を行っており、彼らに善処を申し入れましたが彼らは聞き入れません。
 止むを得ず、日本は協定廃止を通告したのです。」

「日本は、本当に英国と戦争をする覚悟があるのですか?
 そうして殆ど地球の裏側にある英国を攻めると言うのですか?」

「女王陛下は日本の戦力をお疑いですか?」

「確かに米軍を日付変更線に押しとどめた力は認めるが、何故に米国本土を攻めなんだのか?
 ハワイや西海岸などを攻撃できたのなら何故にしなかったのか?
 モンゴメリー夫人などは、日本は米軍を恐れて決戦に踏み切らなかったのではないかとまで言うているぐらいで、多分に夫君の言動が影響していると思うが、・・・。」

「このたびの日米戦争に際して、我が国が米国に攻め込めば一番困るのは英国ではなかったのではないでしょうか?
 この際明言しておきますが、日本は、西海岸はおろか東海岸まで攻撃できる力を持っておりましたが、それを使わなかっただけなのです。
 米国を叩けば叩くほど、米国は英国に援助が出来なくなります。
 結果としてドイツは漁夫の利を得る事になったでしょう。
 また、米国の罪のない若者達の命と未来を無駄に奪う事になったでしょう。
 我々としては、米国の仕掛けた戦だからこそ戦ったのであり、いずれの被害も最小限度に留めたかったのです。
 頑強に抵抗するものには降伏するまで熾烈な攻撃を加えました。
 バターン半島での戦いがそうです。
 日付変更線での戦いでは予め派遣艦隊に対して警告を与えました。
 それを無視する船のみを攻撃したのです。
 結果として米国の司令官や無能な幕僚の頑迷無知な指示により多くの米国将兵の命が無駄に奪われました。
 米軍の撤退についても、我々からは攻撃をせず、警告を与えて域内から撤退させただけです。
 これにより多くの将兵の命が助かってよかったと思います。
 今の日本は決して戦を望んでおりません。
 止むを得ず戦をする場合には、出来るだけ早く、しかも敵味方とも最小限度の被害で終わらせるように最大限の努力をするように心掛けているはずです。
 我が国が大事にするのは、第一に我が国の安寧ですが、同時にいずれの国家に属する人々であれ、その生命財産を守ることに最大限の努力を払います。
 場合によっては非道な国家の犠牲になっている民衆を救うための戦も厭いません。
 全ての人々は差別のない世界で生きる権利を持っていると信ずるからです。
 私達はそのために身を粉にして働いています。」

「うーむ、・・・・。
 今ひとつ尋ねるが、そなたのような年齢の者に、このような大事を任せるのは常識はずれのように思えるが、何故そなたらが選ばれたのじゃ。」

 サキはにこっと笑って言った。

「女王陛下もそう思し召されるくらいですから、ドイツや其の他の国も私達が大事な役目を負っているとは決して思わないでしょう。
 そこが狙い目なのだと思います。」

「それにしても、そなた達の博識、弁舌の確かさは年齢にはそぐわない。
 ましてや女性の身でありながら・・・。」

「女王陛下も国王の代わりに女王をなさっておいでです。
 男女の差別も、肉体的な差異は止むを得ないものですが、能力において決して男性に劣るものではありません。
 ですから、女の身でありながらと言うのはある意味で偏見に過ぎないと思います。
 女性でも十分な活躍の場を与えられれば相応に力を発揮するものです。
 英国の防空司令部でも女性がかなり多く採用されていると聞きましたが、・・・。」

「確かに、防空司令部に女性職員はいるが、必ずしも彼女達は作戦を立てたりしているわけではない。
 言われた事を忠実に守って仕事をしているだけだ。」

「私達も基本的には同じです。
 但し、幾分裁量の範囲が広く、応用的に判断しなければならない部分もございますが、・・・。」

「そう、それが、決定的に違うのじゃ。
 多少の工夫は進言もできるし、それが採用される事もあるだろう。
 だが、わが国の男性は、其の女性を一国の使者として他国に送り込もうとは思わないと思う。
 さほどに女性は公的な場所から締め出されているし、そのための訓練も受けてはいない。
 そなた達は一体何処でそのような訓練を受けてきたのじゃ。
 特に、サキ、・・・。
 そなたと同じ名前が米国講和会議の日本代表団の一員として名を連ねていることを昨日ハリントンから聞いた。
 そなた達の素性を知っておこうと思って聞いたのだが、NYタイムズを見せられて驚いた。
 通訳ならばいざ知らず、其の者は代表団の広報担当として活躍をしていたそうな。
 しかも、名だたる記者仲間にも一目置かれているNYタイムズのディックに、オリエンタル・ヤング・ウィッチズとまで言わしめた。
 そなたの年齢、所属が一緒であることから九分九厘間違いないだろうとハリントンは言っていたが、そうなのか?」

「はい、隠しておくつもりはございませんでしたが、確かに私は講和会議の際に日本側代表団の一員として参加した者でございます。
 但し、記事の中身は少々誉めすぎでございましょう。
 少々割り引いて読んで頂かねばなりません。」

「いや、・・・・。
 わらわはそうは思わぬな。
 茶会でのそなた達の様子、まるで10年以上もの間社交界で暮らした者でも適わぬほどの仕草と話し方、実に見事であった。
 かと思えば、此処での話し様は、一国の元首でもかくやと思わせるほどの説得力、そなた政治家にでもなれば後世にも名を残すであろうに。」

「日米講和会議代表団の全権大使であられた吉田茂様にも、当時一緒に行きました私ども3人の娘に対して弟子になれと誘われましたが、取り敢えずお断りを申し上げております。
 私どもは政治には向いていないと思っています。
 私達では保身のための権謀術策は出来ません。
 人に使われるぐらいが丁度いいと思っております。」

「ふむ、謙虚な言い様だが、果たしてそなた達を効果的に使える男性が何人いるのかな?
 そこら辺の政治家や役人では到底足元にも及ぶまい。
 まぁ、そなた達の素性をどうのこうの言っても始まらない。
 この件は暫し時間を掛けて検討しなければならぬ。
 場合によっては、宰相などとも話し合う必要もあろうし、その状況如何によっては、そなた達も同席した会議を開かねばなるまい。
 その場合、そなた達が日本の全権代表と見てよいのか。」

「あくまで私どもは非公式な訪問者でございます。
 協議の場における全権は委任されてはおりません。
 しかしながら、そのような場で私達が発言する事柄は、特に個人的見解と申し上げない限り、日本政府が考えている範囲に限定されているということをお含みおきください。」

「なるほど、判りました。
 此度のそなた達の任務は日本の意向を正確に伝える事にあって、何らかの協議で結論を出すためのものではないと言う事じゃな。
 いずれにせよ、そなた達がロンドンを発つ予定の19日までには、返書をしたためるつもりじゃが、確たる返答は出来ないかも知れぬな。
 その場合は、許せよ。」

 こうして、女王との密談も無事終了した。
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