親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第七章 英国との交渉

7-10 英国議会とスピーチ

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 だが、翌日の朝にサキとエリカが出席した秘密会議では、議長役のチャーチル首相が紹介に際して「悲恋のエンジェルことミス・サキ・カワイを紹介する。」とぶち上げた挙句、自らもエンジェルの艶姿を拝見した一人だと冷やかした。
 そうしたウィットで始まった会議ではあったが、内容はかなり深刻であった。

 女王陛下も臨席する会議で、サキは再度渡英の主目的の説明をさせられた。
 サキの説明に幾つもの質問が飛び交った。

 サキは一つずつ冷静且つ慎重に答えた。
 国家利益と民衆の利益が相反するとき、如何にすべきかで激論が交わされた。

 国家利益を優先すべきだとする英国政治家を前にしてサキは一歩も引かなかった。

「国家利益と民衆の利益は共存すべきであり、国家は国民に過度の負担を掛けてはならない。」

と主張したのである。

「過度の国民負担は国家のシステムそのものを崩壊させる。
 過去における封建制度しかり、王政しかり、いずれも制度そのものの存続を優先させ、国民負担を省みなかったことで崩壊した。
 国家とは領土と国民があって成り立つものであり、いずれが欠けても国家は成立しない。
 ギリシアにおける都市国家では1万人の市民を支えるために10万人の奴隷が存在した。
 英国は正にその歴史を繰り返している。
 1万人の英国人を贅沢に暮らさせるために10万人の植民地の原住民を熾烈な労働環境で貧困の極地において放置している。
 これは明らかに平等の原則から外れている。
 勿論、英国においても貧困は存在するであろうが、植民地における貧困とは明らかに様相が異なる。
 一方の貧困は贅沢な暮らしが出来ないだけの貧困であり、植民地での貧困は食うや食わずの貧困である。
 これは一方の犠牲の上に成り立つ社会であり、永続性が無い。
 自由社会での社会分配は共産主義のように均一である必要は無いが、相応の限度があるべきである。
 会社組織を見れば判るとおり、労働者に必ずしも贅沢をさせる必要は無いかもしれないが、快適な生活を送れる程度に報酬を与えなければ労働意欲は薄れ生産効率は落ちて会社の業績も低下する。
 製造業である場合、製品の品質低下は場合によって命取りである。
 製品は妥当な価格で質が良いものは売れるが、出来上がりにばらつきがあったり、質が悪いものは売れない。
 結局のところ、粗悪品は消費者又は購入者からそっぽを向かれ、経営は悪化するだろう。
 製造業は、同業他社製品よりも品質をよくする為の努力が大切であり、それが自由競争の最も良いところではないのか。
 あなた方は努力をしていない。
 過去の栄光に漫然と胡坐をかき、現状維持だけではなく、今何をなすべきかを考えるべきだ。
 植民地は遠からず無くなる運命にある。
 何となれば人は進歩するものであるからである。
 あなた方から見て如何に未開であろうと、キリスト生誕時代のイギリスに比べ彼らが劣っているわけではない。
 それなりの教育を与えれば彼らに自覚ができる。
 そうした自覚は搾取の意味を悟り、あなた方に反旗を翻すだろう。
 そうした時代の流れを悟って早めに適切な措置を行えば、彼らはあなた方に感謝し、何らかの恩恵を返すだろう。
 それが高度な技術を要する労働力かもしれないし、新たなアイデアを生み出す想像力かもしれない。
 そうした貢献がなければ、いずれ英国は衰亡の危機に遭うだろう。
 このままでは英国の製品がいずれ売れなくなる時代がやってくる。
 例えば、日本がドイツを追い越して新たな工業製品の数々を生み出すことになる。
 それらの工業製品の幾つかはあなた方の生命線でもあるインドの産品すら無価値なものとするだろう。
 それでもインドの植民地にしがみついていれば、インドと共に心中しなければならないことになる。
 あなた方は既に知っているはずだ。
 インド人はゼロを初めて見つけた民族である。
 ペルシャはそれを受け入れアラビア数字として欧州に伝えた。
 インド人がゼロを生み出さなければ数学は発展しなかっただろう。
 彼らは潜在的に素晴らしい能力を持っている。
 将来的に有望な電子工学利用技術においてはハードの開発と共にソフトの開発が重要な鍵となる。
 そのソフト開発にはゼロを編み出した民族の頭脳はかけがえの無いものになるだろう。
 あなた方はその芽を摘んでいる。
 今、教育を施せば20年後には優秀な頭脳労働者となるべき人材に恣意的に知恵を与えないようにしている。
 これは国家的損失であるばかりでなく、人類全体にとって大いなる損失である。
 英国は世界で最初に産業革命を果たし、大量生産に道筋をつけた。
 だがその影で、炭鉱堀の子供が如何に犠牲になったかをあなた方は知らないはずが無い。
 その中にはノーベル賞を得られるべき人材が隠れていたかもしれない。
 産業効率を優先させるために人々を犠牲にした典型的な例だろう。
 だが、その炭鉱ももはや斜陽産業である。
 流通に便利で効率的に燃やせる石油が見つかったからである。
 世界は常に流動的である。
 その中で政治が或いは国家政策が旧態然としていて良い訳が無い。
 変わるべきなのです。
 あなた方がその時期を遅らせば遅らせるほど回復は難しくなるだろう。
 転換期に乗り遅れたばかりに倒産した企業は英国でも多数あるはずである。
 国家も大きな企業である、自助努力をしなければ時代に取り残されることは明白な事実である。
 あなた方はここで植民地からの脱却を図らねばならない。
 そうしなければ、日本がドイツのみに宣戦布告をする理由が無くなるからである。
 日本も自らの海外領土をいずれ手放すことになる。
 そうしなければ、世界平和を保てないからである。
 日本は世界警察的な役割を果たすべく、動き出すだろう。
 国家の非道な搾取に遭っている人達を、国家、民族、人種に関わらず救う手立てを考えており、必要ならば戦争をも辞さないだろう。
 日本がドイツと戦う意味合いは、英国を救うためではなく、ドイツの圧政に喘ぐ欧州各地の人々を救うためにある。
 にもかかわらず、アジア、アフリカでは英仏などの植民地が多数存在し、人々は圧政に苦しんでいる。
 それを放置してドイツのみを懲らしめるのは理屈に合わない。
 だからこそ、日本はドイツと戦うために、英国の譲歩を必要としている。
 仮に英国の譲歩が無ければ、無理にでもその譲歩と同じ状況を作り出すことになる。
 それがドイツ及び英国に対する宣戦布告となるだろうし、それ以外の国家に対する宣戦布告ともなり得る。
 日本軍が本気で動けば、如何なる抵抗にあっても英国は半年以内に滅亡するだろう。
 必要ならば全てを根絶やしにもできるだろう。
 あなた方がそれを望むのであれば日本は最終戦争をいつでも始められる用意ができている。」

 恐るべき脅迫である。
 若い娘が先進国たる英国の政治家を恫喝しているのである

 だが、不思議に怒りを覚えなかった。
 要点をついているからである。

 この若い娘が言っているのは戦争に必要な大義名分ではない。
 国家が本来どう動くべきかの行動規範を言っているに過ぎず、首尾一貫している。

 ディベートにおいて、如何に首尾一貫をさせるかが難しい。
 一定の結論に至るためにどうしても詭弁を弄せずには入られなくなる。

 それが能弁者の欠点である。
 だが、この娘はそうした詭弁を弄さず、何が正義で何が悪かを問うているだけなのだ。

 非常にストレートである。
 だから余計に真実味がある。

 これが老獪な政治家の発言であれば裏があると勘ぐり、此処まで感銘を受けることも無いだろう。
 但し、感銘を受けたからといって直ぐに賛同できるものでもない。

 政治家は国民と自分を信じてくれる者に対する責任があるのである。
 そうして国家利益のためにも国家を誤りの無い道に誘導する義務もある。

 いまや、彼らの関心は如何にすれば、極東からの圧力に抗して行けるか、或いは如何にすれば国民の納得が得られるかという問題に移っていた。
 それにしても不思議な娘達である。

 英語を母国語のように操り、顔立ちは東洋人であるのに、外国人と感じさせない。
 しかも発言すべきとき、そうでないときの勘所を知っている。

 一旦発言を始めると様々な事象に憧憬が深いことを言葉の端々に滲ませる。
 経済、歴史、文学等々、驚くほどの博学振りを見せ付ける。

 女として一番の輝きを持った美しい世代の娘でもあり、老年に差し掛かった男達に一層の老いを感じさせ、普段感じた事の無い羨望と眩しさを感じさせる。
 会議が終わった後にこれほどの敗北感を味わった事は無かった。

 どんなディベートにも負けるなど思いもよらなかった男達が始めて味わう爽やかな敗北感でもあった。
 後日、彼女達が帰国する前にチャーチル夫人に託した色紙が出席者全員に届けられた。

 薄い色彩の水彩画である。
 英国の花をモチーフに画いたものであるが、作者の人柄が見えるような優しい線と色使いでほのぼのとした懐かしさを感じさせる。

 綺麗な飾り文字で添え書きがある。

「大英帝国の繁栄を担った方々に大いなる敬意を表して S・K」

 男達はNYタイムズの記者ディックがウィッチと評した理由が今更のようにわかった。
 しかも可愛い。

 スマート&キュートの名がこれほど相応しい娘も珍しく、その多彩な才能はイタリアのダヴィンチにも匹敵するかもしれないとそう思った。
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