仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開?

3ー18 新鋭空母「若狭」 その一

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 1941年(昭和16年)7月末までに予定されていた、空母の護衛艦群12隻が小笠原の母島大崩湾に存在するブンカーに勢揃いしていた。
 そうして10月上旬には新鋭空母「若狭」が小笠原母島沖に到着した。

 吉崎財閥系の建設会社は、巨大な秘密基地を、離れ小島である母島にこともなげに造っていた。
 新鋭空母「若狭」の要目は以下の通りである。

満載排水量 64,516 t
全長    342 m
最大幅   76.8 m
吃水    8.4 m
主機 吉崎重工中道造船所製水素反応炉「原―1型」 6基
 ガスタービン 4基
推進 スクリュープロペラ 4軸
出力 420,000hps(340 MW)
速力 44.3ノット (82 km/h) 以上
乗員 士官・兵員:800名
      航空要員:1600名
兵装 短SAM(橘花)8基
   RAM近接防空ミサイル(鳴花) 4基
   20ミリ6銃身ガトリング対空機銃8基
搭載機 150機

 新鋭空母「若狭」の竣工に当たっては、艦政本部長及び航空本部長のたってのにより、この両名と副官等が横須賀海軍航空基地から零式輸送機(ユー303)に乗って、母島まで視察に訪れていたのだった。
 この両名の将官ボスは、吉崎財閥総帥対応を担当する黒木及び菅野の両中佐からの報告と添付された写真により、機動部隊の軽巡及び潜水艦の性能とその姿を十分に承知していたが、その実物を確認したいのと、恐らくは海軍随一のデカ物となるであろう空母をどうしても自分の眼で見たいと我儘を通したのだった。

 このため、二人の中将は、一旦は母島の舟木山飛行場に降り立って、そこからヘリコプターに搭乗し、沖で試運転を行う予定の若狭に乗り込んだのであった。
 艦政本部長は石村清一中将、海軍航空本部長は片山英吉中将であり、いずれもこの1941年(昭和16年)9月中旬に入れ替わったばかりの人物であり、前任者との引継ぎの時から新鋭空母「若狭」の完成を待ち焦がれていたとも言える。

 母島の舟木山飛行場から飛び立ったのは、吉崎航空が世界に先駆けて実用機を作ったヘリコプターの一つであり、乗員2名を含めて14名が搭乗できる輸送機ユー301であり、新型護衛軽巡の「八代」、「宗谷」、「勝浦」、「笠戸」に各一機ずつ配備されているほか、空母若狭には4機が搭載されている。

 海軍ではこのユー301には秘匿名称「漣遙れんよう」を名付けている。
 一方で同じく護衛軽巡に搭載している攻撃ヘリのユー302については、同じく秘匿名称「海楝蛇うみかがし」と名付けた。

 ユー301は天頂部に大きな二重反転プロペラをようし、後部には推進用の可変ピッチプロペラを擁しているので、そもそもヘリコプターとしては非常に高速である。
 巡航速度は約250kn(460km/h)に達し、ひと頃の九六艦戦の最高速度を上回っている。

 一方で、これが民生用のY―311になると、後部の推進用プロペラが無く、また、エンジンの出力調整がされているために、巡航速力は140kt(260km/h)にまで落ちるようだ。
 軍用なので防音が余り為されていないことからエンジン音等が少々うるさいのだが、防弾機能は非常に優れていると聞いている。

 海軍の二人のボスは座席に座ってみて、少なくとも九六中攻や、九七式飛行艇よりも乗り心地は良さそうだとご満悦である。
 特にピンポイントで離着陸できるのが良いらしい。

 高度約30mの低空で飛ぶ漣遙の前方に大型艦が見えて来た。
 何やら傍に小さな駆逐艦?いや余り武装の無い海防艦のような艦影が見える。

 そこでふと気づいた。
 あの小さな艦が全長150mほども有る護衛軽巡であるのだと。

 そうしてその背後に浮かぶ平たい航空母艦は極めつけにデカかった。
 徐々に近づいている筈なのに、なかなか傍に寄らないのである。

 遠近感が違っていることにようやく気付いた二人だった。
 全長が340mを超える巨体は間近で視界に留めるには大きすぎるのだ。

 航空母艦の赤城や加賀は以前から見ていたし、最新鋭空母の瑞鶴はこの9月に竣工したので実際に横須賀で乗艦する機会もあった。
 瑞鶴は全長257m、飛行甲板は242m幅29mで、排水量は3万トンを超えるため飛行甲板に立つととても広いと感じられたのだが、この若狭はというと近づくにつれ視界に収まらない巨体は流石である。

 しかしながら戦艦大和や武蔵の全長を50m以上も超えながら排水量では両戦艦よりも少ないという異常な空母でもある。
 300mを超える巨体であれば、鋼鉄の船ならば間違いなく排水量で10万トンを超える筈なのだ。

 しかしながら、吉崎重工中道造船所は航空機に使用している新素材と似たような構造材を使い、より強靭な装甲甲板を造り上げ、恐らくは鋼鉄の半分以下の重量でこの巨体を造り上げているのだ。
 余りに軽すぎるために艦底には鉛の錘を入れて安定性を保っているとの話もまことしやかに流れている。

 実質的なトップである吉崎社長に言わせれば、艦底にも特殊な材料を使っており、特にその素材が鉛の2倍近く重いのだそうだ。
 そうしてその強靭さは途轍もなく、仮に艦底で10トンの重さの徹甲弾が音速の五倍の速度で衝突しても何ら被害を及ぼさないと豪語している。

 つまりは、若狭の艦底(水線付近の側板を含むらしい)に新鋭戦艦大和の主砲弾が命中しても被害を生じないと言っているに等しい。
 そうしてまた吉崎社長は、装甲鋼板を含めて非常に軽い金属で造った上部構造物も24インチ砲(60センチ砲)の攻撃に耐えられるようにしていると言っていた。

 空母でありながら、戦艦の主砲弾を跳ね返すとは常識はずれにもほどがある。
 そもそも空母を新鋭戦艦と比較するなどということ自体が異常なのだが、瑞鶴や翔鶴の排水量に比べると若狭の排水量は倍ほども有るのだが、それにしても飛行甲板の幅が78mというのは広すぎる。

 漣遙が降り立ったのは艦橋のすぐ脇だったが、これまでの空母に比較して異様に艦橋の低さが目立ち、同時に飛行甲板の広さが際立った。
 若狭に取り入れられたアングルドデッキは、これまでの空母の運用方法を決定的に変えることになるだろう。

 実はこれから母島の舟木山飛行場の地下格納庫に保管してあった艦載機が、順次この若狭に着艦する予定なのだ。
 これまで舟木山飛行場で何度も訓練を重ねて来たパイロットたちのお披露目でもある。

 整備士の四分の三は、今早朝からこの若狭に移乗して艦載機がやって来るのを待ち受けているらしい。
 当然のことながら周辺海域の警戒は怠ってはいない。

 護衛潜水艦の8隻は、若狭を中心に100キロ近く離れて周囲の警戒に当たっている。
 また、この9月に納入されたばかりの双発の早期警戒機レー331こと「蒼鴎そうおう」が1万m上空で監視警戒に当たっている。

 蒼鴎は塗装を施さない特殊機体であり、レーダーには非常に映りにくい機体であるらしい。
 従って、高々度に居る限り隠密行動が可能な機体であるようだ。

 但し、蒼鴎は機体上部に大きなレーダー装備を持つ特殊な航空機であって、そもそもレーダー監視を行うことを目的とした航空機であることから、アクティブレーダを使用中はレーダー波の探知により、おおよその位置が敵方にわかってしまう恐れもある。
 その為に移動しながら間欠的にレーダー波を発して位置をごまかす様に運用しているらしい。

 帝国の防備体制について、吉崎航空からはもう一つの提案がなされている。
 一般の航空機では到底到達できない高度35キロの上空に無人の飛行船を浮かばせ、そこを起点に本土防衛の監視網を造るという計画である。

 飛行船は左程大きなものではないのだが、一機当たり200万円ほどの建造費がかかる。
 そうして南北に弓なりに広がる本土上空の守りを固めるためには常時8機、交代機を含めると最低でも16機が必要となるようだ。

 つまりは、防空監視システムの構築には、3200万円の費用が掛かり、なおかつ維持費もかかるということになるようだ。
 維持費の方は16機全部で年間100万円ほどになるだろうと言われているのだが、それなりに安上がりではある。

 昭和16年海軍航空機整備計画により、蒼電(ルー101)は、全国の海軍航空基地に順次配備されて行くが、配分を受けた航空機の性能を維持するためには、平常時で2年、戦闘が始まれば1年で重要部分の部品を交換する必要があるようだ。
 当面総数では千機の蒼電を配備することになっているから、仮に一機当たり千円の交換部品が必要としても総額では100万円の金が必要となる。

 それでも四菱のA6M1「旋風」に比べると大分安上がりなのだが、航空機とは金食い虫のようだ。
 海軍の艦艇もその意味では維持費に掛かる。

 百万円ぐらいの経費ならば第一から第五までの航空艦隊が二、三日高速で走ってくれば、すぐに重油の燃料代で消える程度の金だった。
 今は吉崎石油のお陰で安い重油が手に入るので、燃料費は5分の一から7分の一にまで減っている。

 その代わり新たな装備費に金がかかるようになった。
 吉崎重工中道造船所の製造の舶用レーダーシステムや通信システム更にはソナーシステムが、駆逐艦以上の軍艦には順次整備されるようになっているが、予算が全く追い付いていない。

 新造艦の場合はともかく、既存の艦に取り付けるとなると手間暇がかかり、経費も割高なのだ。
 吉崎重工中道造船所は、前任の豊田艦政本部長との約束を守り、機動部隊とは別に護衛潜水艦8隻も建造(無論タダではなく別料金)してくれている。

 この潜水艦については機密事項が多すぎるので、これまでの海軍基地に配備することははばかられ、高知県宿毛湾の大島に小笠原の母島と同じようなブンカーを造り、秘密潜水艦基地とすることになった。
 ブンカーの建造は吉崎財閥系の建設会社が格安で請け負ってくれることになっている。

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