推し活で出会った人と

さくら優

文字の大きさ
8 / 10

8.熱

しおりを挟む
サ終が発表されてから、何曲か新曲が出て、キャストさんたちのトーク番組の配信とか、色々盛り上がった。常に寂しさは付きまとってたけど。

スマホアプリの方も、最後のイベントが今日のお昼に終わる。

これで、本当にみんな終わりだ。

アプリはまだしばらくは遊べるけど、イベントが終わる今日が実質最終日という感覚だった。

俺はスマホを操作しながら、今日何度目かになる深い溜息を吐いた。

この前、山崎さんに教えてもらったコンテンツのアニメを見た。

ストーリーは面白そうだったし、もしかしたら好きになれるかもしれない。けど、今はまだよくわからない。

当然だ。何年も好きだったものと比べて、最初から同じ熱量で好きになれるものなんて、早々ないだろう。

そんなことを考えていたら、12時過ぎてイベントが終わった。

いつも通りの、あっさりとした最後だった。

「はぁー」

机に突っ伏して目を閉じる。

しばらくボーっとしていると、ふいにスマホの通知音が鳴った。

「あ、二条さんだ⋯」

『今から会える?』

届いたメッセージを見て、俺は少し迷う。

今は家にいるし、この後特に予定もない。けど、正直なところ人と会いたい気分じゃない。

ちょっと今は都合が悪いと返すと、すぐにわかったとだけ返事が来た。

再び机に突っ伏す。だけど、少しして後悔の念が襲ってきた。

誰かに会える気分じゃなかったはずなのに、1人でいるのがなんか寂しい。

かと言って1度断ったのを撤回するのも気が引けて、二条さんに送ったメッセージを睨んでいると、ふと玄関先で人の気配がした。

「?」

カサッ、と音がした後、すぐに去っていく足音が聞こえる。それと同時にスマホにまたメッセージが届いた。

『ドアにケーキ掛けといたから、良かったら食べて』
「えっ⋯?」

すぐに玄関を開けると、ドアノブに有名なケーキ屋の袋が下がっていた。

外を見るとまだ二条さんの車がアパートの前に停まっていて、慌てて駆け寄る。

「二条さん!」
「あ、良かった。やっぱり家にいた」
「なんで⋯?」

ケーキの箱と二条さんの顔を交互に見つめる。

「今日、バイトも休みって言ってたから、そしたらアプリのイベント終わるまで家にいるかなって思って」
「――⋯」

会える?とメッセージを送ってきた時には、きっともうケーキを買ってこの近くにいたのだろう。1人になりたいと言った俺の気持ちを優先して、これだけ置いて帰ろうとしたんだ。

気遣いに胸のあたりがあったかくなった。

「じゃあまた⋯」
「あっ、あの!」
「うん?」

こんなにも自分のことを考えてくれる人が、今までいただろうか。

「上がっていきませんか?」
「いいの? 都合悪かったんじゃ?」
「⋯もう済んだので」

そう言うと、二条さんはくすっと笑った。
都合が悪いと言ったのが嘘なのは多分バレてるだろうから、ちょっとバツが悪い。

とは言え、特にそこは突っ込まれずに、二条さんは駐車場に車を回した。


   ✦✦✦

コーヒーを淹れて、買ってきてくれたケーキを一緒に食べる。

「理人君の家来るの、久しぶりだな」
「そう、ですね⋯」

自分の家なのに、ちょっと落ち着かない。

「ここのケーキ、ずっと食べたかったんだけどいつも並んでてさ。今日たまたま通ったら空いてたから」
「有名なお店ですもんね。すごく美味しいです」

食べながらチラチラと二条さんの様子を伺う。ゆっくり食べてもすぐに無くなってしまって、手持ち無沙汰になってしまう。

「あ、あの、二条さん」
「うん?」

言わないといけないことがある。けど、なかなか切り出せない。

「えっと⋯、あ、これ、知ってますか? この前同じ大学の子から教えてもらって」

結局俺は、山崎さんに教えてもらったコンテンツの話で誤魔化してしまった。

「へえ。面白そう」
「結構面白かったです。アニメの1話が配信されてるので、見ますか?」
「うん」

タブレットを準備し、一緒に1話を鑑賞した。すでに見たやつだから全然いいんだけど、内容が全くと言っていいほど頭に入って来ない。

集中している二条さんの横顔を、またしてもチラチラと伺ってしまう。

アニメは20分ちょっとで終わってしまい、俺はまた落ち着かない気持ちになる。

「理人君」
「え、あ⋯、なんですか?」
「なんか、俺に話したいことがあるんでしょ」
「!」

バレてた。

何から話したらいいのか。テンパった頭では、話が上手くまとまらない。

「⋯今日、ごめんなさい」
「え?」
「都合悪いって言ったの、嘘なの、気付いてましたよね⋯」

それなのに、責めることも、からかうこともしない。せっかく買えた自分が食べたかったケーキを、置いて帰ろうとして。

「誰だってひとりになりたい時はあるよ。そういうのは嘘とは言わないと思うよ」
「二条さん、優しすぎます」
「そんなことないよ。前に理人君怒らせちゃったし」
「あれは、俺が悪いので⋯」

この前のことがあったから、今日はそっとしておいてくれようとしたんだろう。

「それに、最近優しいのは、下心があるからだし」
「最近だけじゃなくて、初めて会った時だって銀テ譲ってくれて、その次も話しかけてくれて、すごく嬉しかった。二条さんは最初からずっと優しい」
「褒め殺しだな」
「好きです」

時間が、止まったような気がした。

二条さんの瞳が一瞬大きく瞠られて、それからふっと緩む。

一気にしゃべってしまい、ちゃんと伝わったのか自信がなかったけど、ギュッと抱き締められて安堵した。

「――うん。ありがと」

熱い吐息が耳にかかる。思わず溜息が漏れると、そっと唇が重なった。

「ん⋯」
「キス、2回目なの、覚えてる?」

唇が触れそうな距離で囁く二条さんに、俺は小さく頷いた。

「やっぱり起きてたんだ。ずるいな」
「どっちが。覚えてなかったら困ります。ファーストキスだったのに」
「ふーん」
「⋯なんでそんな嬉しそうなんですか」
「嬉しいよ。当たり前だろ」

もう1度、軽く唇に触れた後、すぐ隣のベッドの上に抱え上げられた。

二条さんが覆い被さってくるのに、ドキッと心臓が跳ねる。顔を見ていられなくて視線を逸らすと、そっと顎を捉えられた。

「口開けて」

言われた通り僅かに口を開けると、深いキスをされた。

頭がボーっとして、唇が離れる時に聞こえた水音が、近いのに遠く感じる。

「んっ、ぁ⋯、に、じょうさ⋯」
「理人君、嫌だったら言って」

首筋を濡れた感触が走り、鎖骨に歯を立てられる。
ピリッとした微かな痛みが、感覚を鋭くしていくみたいだった。

耳許で切羽詰まったような声で何度も名前を呼ばれ、荒い呼吸が聞こえる。それが、なぜかひどく安心してしまった。

この人が、こんなにも激しい情欲を内に隠していたなんて。

今は受け止めるだけで精一杯のそれを、いつか同じだけ返せたらいいなと思いながら、俺はしがみついた腕にぎゅっと力を込めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...