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8.熱
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サ終が発表されてから、何曲か新曲が出て、キャストさんたちのトーク番組の配信とか、色々盛り上がった。常に寂しさは付きまとってたけど。
スマホアプリの方も、最後のイベントが今日のお昼に終わる。
これで、本当にみんな終わりだ。
アプリはまだしばらくは遊べるけど、イベントが終わる今日が実質最終日という感覚だった。
俺はスマホを操作しながら、今日何度目かになる深い溜息を吐いた。
この前、山崎さんに教えてもらったコンテンツのアニメを見た。
ストーリーは面白そうだったし、もしかしたら好きになれるかもしれない。けど、今はまだよくわからない。
当然だ。何年も好きだったものと比べて、最初から同じ熱量で好きになれるものなんて、早々ないだろう。
そんなことを考えていたら、12時過ぎてイベントが終わった。
いつも通りの、あっさりとした最後だった。
「はぁー」
机に突っ伏して目を閉じる。
しばらくボーっとしていると、ふいにスマホの通知音が鳴った。
「あ、二条さんだ⋯」
『今から会える?』
届いたメッセージを見て、俺は少し迷う。
今は家にいるし、この後特に予定もない。けど、正直なところ人と会いたい気分じゃない。
ちょっと今は都合が悪いと返すと、すぐにわかったとだけ返事が来た。
再び机に突っ伏す。だけど、少しして後悔の念が襲ってきた。
誰かに会える気分じゃなかったはずなのに、1人でいるのがなんか寂しい。
かと言って1度断ったのを撤回するのも気が引けて、二条さんに送ったメッセージを睨んでいると、ふと玄関先で人の気配がした。
「?」
カサッ、と音がした後、すぐに去っていく足音が聞こえる。それと同時にスマホにまたメッセージが届いた。
『ドアにケーキ掛けといたから、良かったら食べて』
「えっ⋯?」
すぐに玄関を開けると、ドアノブに有名なケーキ屋の袋が下がっていた。
外を見るとまだ二条さんの車がアパートの前に停まっていて、慌てて駆け寄る。
「二条さん!」
「あ、良かった。やっぱり家にいた」
「なんで⋯?」
ケーキの箱と二条さんの顔を交互に見つめる。
「今日、バイトも休みって言ってたから、そしたらアプリのイベント終わるまで家にいるかなって思って」
「――⋯」
会える?とメッセージを送ってきた時には、きっともうケーキを買ってこの近くにいたのだろう。1人になりたいと言った俺の気持ちを優先して、これだけ置いて帰ろうとしたんだ。
気遣いに胸のあたりがあったかくなった。
「じゃあまた⋯」
「あっ、あの!」
「うん?」
こんなにも自分のことを考えてくれる人が、今までいただろうか。
「上がっていきませんか?」
「いいの? 都合悪かったんじゃ?」
「⋯もう済んだので」
そう言うと、二条さんはくすっと笑った。
都合が悪いと言ったのが嘘なのは多分バレてるだろうから、ちょっとバツが悪い。
とは言え、特にそこは突っ込まれずに、二条さんは駐車場に車を回した。
✦✦✦
コーヒーを淹れて、買ってきてくれたケーキを一緒に食べる。
「理人君の家来るの、久しぶりだな」
「そう、ですね⋯」
自分の家なのに、ちょっと落ち着かない。
「ここのケーキ、ずっと食べたかったんだけどいつも並んでてさ。今日たまたま通ったら空いてたから」
「有名なお店ですもんね。すごく美味しいです」
食べながらチラチラと二条さんの様子を伺う。ゆっくり食べてもすぐに無くなってしまって、手持ち無沙汰になってしまう。
「あ、あの、二条さん」
「うん?」
言わないといけないことがある。けど、なかなか切り出せない。
「えっと⋯、あ、これ、知ってますか? この前同じ大学の子から教えてもらって」
結局俺は、山崎さんに教えてもらったコンテンツの話で誤魔化してしまった。
「へえ。面白そう」
「結構面白かったです。アニメの1話が配信されてるので、見ますか?」
「うん」
タブレットを準備し、一緒に1話を鑑賞した。すでに見たやつだから全然いいんだけど、内容が全くと言っていいほど頭に入って来ない。
集中している二条さんの横顔を、またしてもチラチラと伺ってしまう。
アニメは20分ちょっとで終わってしまい、俺はまた落ち着かない気持ちになる。
「理人君」
「え、あ⋯、なんですか?」
「なんか、俺に話したいことがあるんでしょ」
「!」
バレてた。
何から話したらいいのか。テンパった頭では、話が上手くまとまらない。
「⋯今日、ごめんなさい」
「え?」
「都合悪いって言ったの、嘘なの、気付いてましたよね⋯」
それなのに、責めることも、からかうこともしない。せっかく買えた自分が食べたかったケーキを、置いて帰ろうとして。
「誰だってひとりになりたい時はあるよ。そういうのは嘘とは言わないと思うよ」
「二条さん、優しすぎます」
「そんなことないよ。前に理人君怒らせちゃったし」
「あれは、俺が悪いので⋯」
この前のことがあったから、今日はそっとしておいてくれようとしたんだろう。
「それに、最近優しいのは、下心があるからだし」
「最近だけじゃなくて、初めて会った時だって銀テ譲ってくれて、その次も話しかけてくれて、すごく嬉しかった。二条さんは最初からずっと優しい」
「褒め殺しだな」
「好きです」
時間が、止まったような気がした。
二条さんの瞳が一瞬大きく瞠られて、それからふっと緩む。
一気にしゃべってしまい、ちゃんと伝わったのか自信がなかったけど、ギュッと抱き締められて安堵した。
「――うん。ありがと」
熱い吐息が耳にかかる。思わず溜息が漏れると、そっと唇が重なった。
「ん⋯」
「キス、2回目なの、覚えてる?」
唇が触れそうな距離で囁く二条さんに、俺は小さく頷いた。
「やっぱり起きてたんだ。ずるいな」
「どっちが。覚えてなかったら困ります。ファーストキスだったのに」
「ふーん」
「⋯なんでそんな嬉しそうなんですか」
「嬉しいよ。当たり前だろ」
もう1度、軽く唇に触れた後、すぐ隣のベッドの上に抱え上げられた。
二条さんが覆い被さってくるのに、ドキッと心臓が跳ねる。顔を見ていられなくて視線を逸らすと、そっと顎を捉えられた。
「口開けて」
言われた通り僅かに口を開けると、深いキスをされた。
頭がボーっとして、唇が離れる時に聞こえた水音が、近いのに遠く感じる。
「んっ、ぁ⋯、に、じょうさ⋯」
「理人君、嫌だったら言って」
首筋を濡れた感触が走り、鎖骨に歯を立てられる。
ピリッとした微かな痛みが、感覚を鋭くしていくみたいだった。
耳許で切羽詰まったような声で何度も名前を呼ばれ、荒い呼吸が聞こえる。それが、なぜかひどく安心してしまった。
この人が、こんなにも激しい情欲を内に隠していたなんて。
今は受け止めるだけで精一杯のそれを、いつか同じだけ返せたらいいなと思いながら、俺はしがみついた腕にぎゅっと力を込めた。
スマホアプリの方も、最後のイベントが今日のお昼に終わる。
これで、本当にみんな終わりだ。
アプリはまだしばらくは遊べるけど、イベントが終わる今日が実質最終日という感覚だった。
俺はスマホを操作しながら、今日何度目かになる深い溜息を吐いた。
この前、山崎さんに教えてもらったコンテンツのアニメを見た。
ストーリーは面白そうだったし、もしかしたら好きになれるかもしれない。けど、今はまだよくわからない。
当然だ。何年も好きだったものと比べて、最初から同じ熱量で好きになれるものなんて、早々ないだろう。
そんなことを考えていたら、12時過ぎてイベントが終わった。
いつも通りの、あっさりとした最後だった。
「はぁー」
机に突っ伏して目を閉じる。
しばらくボーっとしていると、ふいにスマホの通知音が鳴った。
「あ、二条さんだ⋯」
『今から会える?』
届いたメッセージを見て、俺は少し迷う。
今は家にいるし、この後特に予定もない。けど、正直なところ人と会いたい気分じゃない。
ちょっと今は都合が悪いと返すと、すぐにわかったとだけ返事が来た。
再び机に突っ伏す。だけど、少しして後悔の念が襲ってきた。
誰かに会える気分じゃなかったはずなのに、1人でいるのがなんか寂しい。
かと言って1度断ったのを撤回するのも気が引けて、二条さんに送ったメッセージを睨んでいると、ふと玄関先で人の気配がした。
「?」
カサッ、と音がした後、すぐに去っていく足音が聞こえる。それと同時にスマホにまたメッセージが届いた。
『ドアにケーキ掛けといたから、良かったら食べて』
「えっ⋯?」
すぐに玄関を開けると、ドアノブに有名なケーキ屋の袋が下がっていた。
外を見るとまだ二条さんの車がアパートの前に停まっていて、慌てて駆け寄る。
「二条さん!」
「あ、良かった。やっぱり家にいた」
「なんで⋯?」
ケーキの箱と二条さんの顔を交互に見つめる。
「今日、バイトも休みって言ってたから、そしたらアプリのイベント終わるまで家にいるかなって思って」
「――⋯」
会える?とメッセージを送ってきた時には、きっともうケーキを買ってこの近くにいたのだろう。1人になりたいと言った俺の気持ちを優先して、これだけ置いて帰ろうとしたんだ。
気遣いに胸のあたりがあったかくなった。
「じゃあまた⋯」
「あっ、あの!」
「うん?」
こんなにも自分のことを考えてくれる人が、今までいただろうか。
「上がっていきませんか?」
「いいの? 都合悪かったんじゃ?」
「⋯もう済んだので」
そう言うと、二条さんはくすっと笑った。
都合が悪いと言ったのが嘘なのは多分バレてるだろうから、ちょっとバツが悪い。
とは言え、特にそこは突っ込まれずに、二条さんは駐車場に車を回した。
✦✦✦
コーヒーを淹れて、買ってきてくれたケーキを一緒に食べる。
「理人君の家来るの、久しぶりだな」
「そう、ですね⋯」
自分の家なのに、ちょっと落ち着かない。
「ここのケーキ、ずっと食べたかったんだけどいつも並んでてさ。今日たまたま通ったら空いてたから」
「有名なお店ですもんね。すごく美味しいです」
食べながらチラチラと二条さんの様子を伺う。ゆっくり食べてもすぐに無くなってしまって、手持ち無沙汰になってしまう。
「あ、あの、二条さん」
「うん?」
言わないといけないことがある。けど、なかなか切り出せない。
「えっと⋯、あ、これ、知ってますか? この前同じ大学の子から教えてもらって」
結局俺は、山崎さんに教えてもらったコンテンツの話で誤魔化してしまった。
「へえ。面白そう」
「結構面白かったです。アニメの1話が配信されてるので、見ますか?」
「うん」
タブレットを準備し、一緒に1話を鑑賞した。すでに見たやつだから全然いいんだけど、内容が全くと言っていいほど頭に入って来ない。
集中している二条さんの横顔を、またしてもチラチラと伺ってしまう。
アニメは20分ちょっとで終わってしまい、俺はまた落ち着かない気持ちになる。
「理人君」
「え、あ⋯、なんですか?」
「なんか、俺に話したいことがあるんでしょ」
「!」
バレてた。
何から話したらいいのか。テンパった頭では、話が上手くまとまらない。
「⋯今日、ごめんなさい」
「え?」
「都合悪いって言ったの、嘘なの、気付いてましたよね⋯」
それなのに、責めることも、からかうこともしない。せっかく買えた自分が食べたかったケーキを、置いて帰ろうとして。
「誰だってひとりになりたい時はあるよ。そういうのは嘘とは言わないと思うよ」
「二条さん、優しすぎます」
「そんなことないよ。前に理人君怒らせちゃったし」
「あれは、俺が悪いので⋯」
この前のことがあったから、今日はそっとしておいてくれようとしたんだろう。
「それに、最近優しいのは、下心があるからだし」
「最近だけじゃなくて、初めて会った時だって銀テ譲ってくれて、その次も話しかけてくれて、すごく嬉しかった。二条さんは最初からずっと優しい」
「褒め殺しだな」
「好きです」
時間が、止まったような気がした。
二条さんの瞳が一瞬大きく瞠られて、それからふっと緩む。
一気にしゃべってしまい、ちゃんと伝わったのか自信がなかったけど、ギュッと抱き締められて安堵した。
「――うん。ありがと」
熱い吐息が耳にかかる。思わず溜息が漏れると、そっと唇が重なった。
「ん⋯」
「キス、2回目なの、覚えてる?」
唇が触れそうな距離で囁く二条さんに、俺は小さく頷いた。
「やっぱり起きてたんだ。ずるいな」
「どっちが。覚えてなかったら困ります。ファーストキスだったのに」
「ふーん」
「⋯なんでそんな嬉しそうなんですか」
「嬉しいよ。当たり前だろ」
もう1度、軽く唇に触れた後、すぐ隣のベッドの上に抱え上げられた。
二条さんが覆い被さってくるのに、ドキッと心臓が跳ねる。顔を見ていられなくて視線を逸らすと、そっと顎を捉えられた。
「口開けて」
言われた通り僅かに口を開けると、深いキスをされた。
頭がボーっとして、唇が離れる時に聞こえた水音が、近いのに遠く感じる。
「んっ、ぁ⋯、に、じょうさ⋯」
「理人君、嫌だったら言って」
首筋を濡れた感触が走り、鎖骨に歯を立てられる。
ピリッとした微かな痛みが、感覚を鋭くしていくみたいだった。
耳許で切羽詰まったような声で何度も名前を呼ばれ、荒い呼吸が聞こえる。それが、なぜかひどく安心してしまった。
この人が、こんなにも激しい情欲を内に隠していたなんて。
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