同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優

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なかなかいい部屋が見つからず、立夏との同居生活もそろそろ1ヵ月になろうという頃。

夜中、誰かが泣いてるような声がして、ふと目が覚めた。

「ぅ⋯、うぅ、ふ⋯、ひっく⋯」
「立夏?」

ベッドを見ると、立夏がうなされて苦しそうにしていた。

「立夏、おい、大丈夫か?」
「ぅ、⋯ぁ、昂、輝⋯?」

何度か肩を揺すると、立夏はゆっくりと目を開けた。自分が泣いていたことに気付いたのか、指の背で目元を拭う。

「具合悪いわけじゃないよな?」
「ん、大丈夫。起こしてくれたんだね⋯」
「うなされてるみたいだったから」

嫌な夢でも見たのだろうか。今までこんなことはなかったから、少し驚いた。

「う、ん⋯。ちょっと⋯」

立夏はギュッと枕の端を握り締める。その手はまだ震えていた。

俺はそっと、その手に自分の手を重ねた。

少しの間黙ってそうしていると、震えがおさまってきた頃に立夏がぼそっと呟いた。

「⋯カッコ悪」
「え?」
「大の大人がなに泣いてんだって、思ってない?」
「思ってないよ」

立夏は、重ねた俺の手に指先を絡めてくる。

「俺、さ⋯」
「うん」
「子どもの頃、誘拐されたことがあって⋯」
「――え⋯?」
「今でも時々、思い出して夢に見るの」
「――⋯」

なんて声をかけていいのか、わからなかった。

今でもこんな風に苦しめられているなんて、いったいどれだけ怖い思いをしたんだろう。

俺は立夏の手をギュッと握った。

「昂輝」
「うん?」
「ギュッてして」
「してるじゃん」
「手だけじゃなくて」

一瞬ためらったが、まだ不安そうな顔をしている立夏を見ると嫌だとは言えず、俺はベッドに上がるとそっと立夏の背中に腕を回した。立夏は目を閉じて胸元に顔を擦り寄せてくる。

「今まで、どうしてたの?」
「ん?」
「こういう時」

今は俺がいるから甘えてるだけなのかもしれないけど、こういう時夜に1人だと不安だろう。

心配した俺に、けれど立夏はいつもみたいにくすっと笑った。

「気になる?」

軽口を返す余裕が出て来たみたいだ。

「⋯気になる」
「!」

前に、気にしてと言われたことがあったのでそう言ってみると、立夏は大きく目を瞠り苦笑した。

「別に。テレビつけたり漫画読んだりして気を紛らわせたりとか。でも、たいていそんなんじゃ紛れないから、結局朝まで1人で震えてた」
「誰か、それこそ、恋人とか作れば良かったじゃん。立夏モテるだろ」
「好きでもない人と付き合っても、相手に悪いでしょ」

好きになれる人とは出会えなかったのだろうか。ちょっと思ったけれど、余計なお世話だろうからそれ以上は言わなかった。

しばらくすると、静かな寝息が聞こえてきたので、俺もそのまま眠りについた。


   ✦✦✦

「ん⋯」

カーテンの隙間から差し込む光で、眩しさに眉をひそめる。

もう朝か。

目を開けると、目の前に立夏のドアップがあった。

「っ、わあ!?」
「おはよ」

びっくりした。

一瞬混乱したが、すぐに夜中のことを思い出して腑に落ちた。そうだった、昨日は結局あのまま一緒に寝たんだった。

「お前な、悪趣味だぞ。人の寝顔ジロジロと」
「だって昂輝なかなか起きないんだもん」
「理由になってない」

離れようとすると、更に力を込めて抱きついてくる。

「なんだよ、離せって」
「なに照れてんの?」
「なんで俺が照れるんだよ」
「え~? だってほら、なんか硬いものが当たって⋯、イテッ」
「朝だからだ!」

軽く頭をはたくと、立夏はくすくす笑いながら手を離した。

俺はさっさとベッドを下りてトイレに向かう。

「昂輝」
「なんだよ!?」
「⋯ありがと」
「⋯⋯おう」

ったくもう。

まあ、元気になったなら良かった。

俺は立夏に見えないようにふっと笑みをこぼして、リビングのドアを閉めた。
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