同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優

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「お、いい感じ~」

何回か不動産屋に通って、俺はようやく条件に見合う部屋を見つけた。

ここなら会社も近いし家賃も安い。ちょっと狭いが、どうせ家にはほぼ寝に帰るだけなので、最低限のものが置ければ問題ない。

「どうですか? 日当たりもいいですし、ちょうど昨日空いたばかりなんですよ」
「そうですね」

ここにします、と言いかけて、ふと立夏の顔が浮かんだ。あの夜、震えながら抱きついてきた立夏。俺がいなくなったら、あいつはまた1人で⋯

何考えてるんだ、と軽く頭を振ってみても、強がってみせる笑顔が頭から離れない。

「お客様?」
「⋯すみません、やっぱり、ちょっと考えてもいいですか?」
「ええ? すぐにも別の方に決まっちゃうかもしれませんよ?」
「そしたら諦めます。すみません」

結局、契約をしないまま不動産屋を後にした俺は、そのまま家に向かった。

なんかもう、すっかり「家」と考えるのに抵抗がない。「立夏の家」ではなく。

「ただいま」
「あ、おかえり~」

立夏は意外とインドアなようで、土日に俺が出かけて帰ってくると、家にいることが多い。

「どうだった?」
「うん⋯。良さそうな部屋見つけた」
「そっかあ。じゃあそこにするの?」

立夏は見ていた映画を一時停止して訊いてくる。

俺は立夏の隣に腰掛けた。

「いや、結局契約しなかった」
「そうなの? やっぱり家賃高い?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ何? あ、もしかして、俺と離れるのが寂しくなった?」

ニヤニヤしながら顔を寄せてくる。いつもの調子で俺をからかっているつもりなんだろう。
それなら、

「そうだよ」
「え? わっ、ちょ⋯!?」

俺は立夏の肩を掴んで、ベッドに押し倒した。至近距離でじっと見つめると、立夏はパチパチと瞬きをする。

「⋯昂輝?」
「⋯⋯」

無言で掴んだ手に力を込めると、立夏は途端に焦り始める。

「えっ、ちょ、やめ⋯っ」
「なんだよ、いつもさんざん煽ってきたくせに」
「っ!」

そんなつもりはなかったとは言わせない。どう考えても意図的だった。

俺は立夏の唇にそっと手を伸ばす。しかし、

「離して」

触れる直前で、そこから今まで聞いたことがないような冷たい声が響いた。反射的に手を引っ込める。声と同じく、冷たい瞳が俺を見据える。

「ご、めん⋯」

俺は身体を起こした。立夏もすぐに起き上がる。

怒ってる、よな。

当然だ。いつも立夏がするような、ふざけた雰囲気ならまだしも。やっていいことと悪いことの区別もつかないなんて。

きちんと謝ろうと思ったところで、立夏の手が伸ばされるのが目に入った。

「え?」

さっき俺がしたみたいに肩を掴まれ、あっと思った時には、今度は俺の方が押し倒されていた。

「えっ、ちょ、なに⋯!?」
「うん。やっぱりこっちの方がしっくりくる」
「は?」

立夏はさっきみたいな怒った様子は一切なく、ニヤッと口元に笑みを浮かべた。

「え? や、離せよ」
「やだ」
「お前な」

なんとか抜け出そうともがいてみるが、その細い腕のどこにそんな力があるのか、全然抜け出せない。
俺もジムで鍛えておけば良かった。

「ねえ昂輝、やっぱりこのままうちで一緒に住もうよ」

立夏は微笑んだままそう言うが、どことなく目の奥が不安そうに見えた。

「⋯なんで?」
「⋯⋯」
「なんでそこで黙るかなあ」

はっきり一緒にいたいとか、好きだからとか言えばいいのに。

言ったら俺が引くとか思ってるんだろうか。嫌われたら友達としてもいれなくなるとか? そんなことないのに。俺だって――

「俺から言うのは負けた気がして嫌」
「そこかよ!」

俺は腕で目元を覆って溜息を吐いた。

ああもうしょうがない。ここは俺が折れるしかないんだろう。

「わかった。じゃあ、⋯一緒に住むか?」
「ほんと?」

なんでそんな可愛い顔するかなもう。

苦笑して頷くと、ギュッと抱きついてくる。

「その代わり、覚悟しとけよ」
「え~? なにを?」
「内緒」

そのうち必ず、立夏から好きって言わせてやる。

意味深に微笑むと、立夏もくすくす楽しそうに笑う。

ゆっくりと、互いの吐息がかかるくらいの距離に近付いた。

――好きだよ、立夏。

唇が触れ合う直前に囁くと、立夏は一瞬泣きそうな顔で微笑んで、静かに目を閉じた。

END.
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