メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

文字の大きさ
24 / 276
1部 転生する月神編

変化始まる2

しおりを挟む
 化け物と罵る声がする。誰かが石を投げつけ、頬をかすった。

 触れてみれば、微かだが手には赤い血がつく。軽く切れたらしいと思う。

「傷が治ったぞ!」

「とんでもない化け物だ!」

「いや、これは人じゃない!」

「そうだ! こいつらは、人の姿をした魔物に違いない!」

 殺せと叫ぶ人々と、投げつけられる石から守るように立つ少年。

 燃えるように真っ赤な髪は、少年の背中を彩っている。いつも見ていた背中だった。

「逃げるよ…」

 小さく言われた言葉に頷けば、赤髪の少年は手を引っ張って駆け抜ける。

 これで何度目だろう。こんな風に逃げ出すのはと思って歯を食い縛る。もう数えきれないほど、こうやって集落を追い出された。

 正直、数えるのも馬鹿馬鹿しいとすら思う。

 荒い呼吸を繰り返し、原っぱに寝転ぶ。見上げた先に見える青空が彼には憎たらしい。

「リオン、怪我は?」

「治った…」

 心配するように見てくる金色の瞳。そんな彼の方は、腕に傷が残っている。

 守るように立っていたから、ほとんどの石は赤髪の少年にぶつかっていた。それだけではないと彼だからわかる。

「よかった」

 双子なのだから、兄とか思うのは嫌だ。少し早く生まれただけの話。

 それでも、こんなときは兄だと思う。自分を守ろうとしてくれる、こんなときだけだが。

「今日も野宿かなぁ」

「仕方ねぇだろ。バレちまったんだから」

「そうだよな」

 仕方ないと笑う兄。

 彼がいればどんなことがあってもやっていける。彼さえいてくれれば、それだけでよかった。

 それでも時折思うことがある。なんで、こんな目に遭わなきゃいけないのかと。

「この辺り、もう使える集落はないみたいだ」

 考えていれば兄の言葉で我に返る。精霊に調べてもらったのだと気付き、思考を振り払う。

「じゃあ、どうやって探すんだよ」

 人と接触がとれなきゃ、目的のものは探せない。精霊だけじゃどうにもできないだけに、困ったものだと思う。

「南の森に行こうか。森の中も、集落があるかもしれないじゃん」

「精霊が探れないとこか。仕方ねぇ」

 身体を起こすと、空腹を訴えるようにお腹が鳴った。

「飢え死にしないなら、空腹も感じなきゃいいのになぁ」

「しょうがない。ほら」

 渡された包みに兄を見れば、笑いながら食べていいと言う。

「……半分だ」

 固いパンだった。ないよりはマシだと残していたのだろう。おそらく、自分のために。

 ぶっきらぼうに半分返せば、兄は笑いながら受け取った。

 味なんて感じない。固くてパサパサしていて、空腹を誤魔化すだけの食事。それでも、兄と半分にして食べるのが細やかな幸せだ。

「森に行けば、食べ物あるんじゃね」

「そうだなぁ。じゃあ、行くか」

 いつまでもここにいるわけにはいかない。魔物が襲ってくるだろうし、自分達の噂が流れている。力自慢が殺そうとやってくる可能性もある。

「お前らも、行くぞ」

『おぅ』

 肩に乗ってきた水色の小さな獣。頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細める。

『ティアも撫でて』

「わかったよ」

 兄の肩にはピンク色の小さな獣。甘え上手だとよく思っていた。それに比べ、こいつはと思うが言わない。

 実に自分らしい相棒だと彼はわかっていたからだ。どこか自分に似ている奴だと。



 薄暗い室内。目を覚まして早すぎだと思う。あれだけ身体を動かして、それでも夢を見てこの時間に起きてしまったのかと。

 寝直そうかと思ったが、目は冴えてしまった。

(寝れないな…)

 仕方ないから支度をして早めに行けばいい。

 身体を起こすとすぐに着替えた。騎士団の制服に身を包むと、自然と気が引き締まる。

 自分が月光騎士団の団長だ、という気持ちが強くなるからかもしれない。部下の命を背負っている重責が、彼を常に引き締めるのだ。

(休み明けだ、やることは多いはず)

 魔物討伐の遠征を得て、実力が変わった騎士もでているはず。それに合わせ、小隊の編成も考え直すのだ。

 遠征はなくとも、近隣の魔物討伐はあるかもしれない。出動命令がいつでてもいいよう準備は必要だ。

 やることはたくさんある。夢のことなど気にしている場合ではない。

 考えながら歩いていたクオンは、目の前に広がる光景に驚いた。

(俺は…歩きながら寝てるのか?)

 見慣れた街並みから、薄暗い室内に変わった風景。少し肌寒いそこは、知らないけど知っている。

 まるでなにかに惹かれるよう、真っ直ぐに歩いていく。そこには巨大な氷の塊があり、夢で見た赤髪の少年とピンク色の獣がいた。

「これ…」

 知っている。何度も通った場所だとクオンは感じていた。

 そんなはずはない。行ったことなどないはず。首を振り、自分に言い聞かせた。

「じゃあ、なんなんだ…」

 なぜ知ってるなんて思ったのか。通ったことがあると感じ、けれど行ったことがないと言い切れた。

 困惑したようにもう一度見たとき、風景は街並みに戻っていたのだ。





.
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...