メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

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5部 よみがえる月神編

ティンフスへ2

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 この反応を見て、なるほどとクロエは納得する。自分に貸したのも、これは人に見せていい用なのだと理解したのだ。

(やってくれるな)

 このまま手のひらで転がされているのは癪に障るとすら思ったが、今はどうにもできない。

「リオン・アルヴァースと関わりのある場、という意味なら、今から向かうティンフスもだぞ」

 なにか役立つかと言う女王に驚く三人。さすがにクロエも想定外なことで、このまま向かっていいのかとすら思ったほどだ。

 関わりがある場所へ行くのは、クオンがリオン・アルヴァースの記憶を得るため。半日後に着いてしまうということは、なにか調べることはできない。

 クロエはその場がどのようなところで、どのような記憶を得るかという下調べがしたかったのだ。

「陛下、それはどのような関わりがある場ですか」

「ふむ……ティンフスは、太陽神と月神が戦った地だ。つまり」

「リオン・アルヴァースの死んだ場所、か……」

 さすがにやばいと思えた。そんなところへ行ってしまえば、なにが起きるかわからない。

 不思議そうに見てくるフィーリオナに、彼女はわかっていないということだけはわかる。だからといって、セルティ達がわかっていない、ということにはならない。

 わかっていてやっている可能性があると思えば、思いだしたと手紙を取り出すフィーリオナ。

「クロエに渡すよう頼まれたのを忘れていた」

「なー、早く行こうぜ。このままじゃ、ティンフスへ着くのが遅くなっちまう」

 手紙を受け取るのと、クオンが催促してくるのが同時。どちらにしても行くしかない状況に、ため息を一回。

 ここまできて引き返すこともできなければ、この距離で野営するわけにもいかない。フィーリオナを連れている現状、尚更にできないと思う。

(完全に謀られたな)

 前に進むしかない。ティンフスへ行くしかないのだ。

「行こう」

 これから先は、走りながら考えればいいだろう。クオンもある程度は覚悟の上で、リオン・アルヴァースの記憶を得ようとしている。

 ならば、見守るしかないと思い直す。

 手紙を懐へ仕舞えば、再び馬を走らせた。

 ひたすらに馬を走らせ、目的の地へ着いたのは昼を過ぎた頃のこと。さすがに疲れたな、と馬を労いながら降りる。

「馬には悪いことしたな」

 ティンフスまで半日で行けるとはいえ、それは強行して行くからだ。本来ならどこかで休息して一日半かけて行く村だ。

「すぐに休ませてあげるね」

 リーナも優しく撫でながら言えば、村の入り口を見る。ここで少し休息がとれるだろうかと。

 疲れたというほどではないのだが、気疲れは少しばかりあった。女王がついてくるとは思わなかったことから、気になって仕方なかったのだ。

(陛下……クオンを狙ってついてきたのかな)

 フィーリオナがクオンの周りをつきまとうようになったのは、一体いつからだったかと思い返す。気付いたときにはいたのだが、本気なのかがどうにも読めない。

(クロエも、なんかピリついてるんだよね)

 行く途中でフィーリオナと話してから、どうにも近寄りがたいと思っていた。ここまでわかりやすく出すのは、クロエにしては珍しい。

 彼は基本的に表へ出すことはないから。

 とにかく一休みしたいとリーナが一歩を踏み出すと、クオンの隣へ向かう。行こうと言うように見上げ、クオンもフッと笑う。

「門番になんて言えばいいんですか?」

 そのままフィーリオナの方へ振り向けば、女王は笑った。すでに知らせは出してあると。

 ティンフスは騎士領となっている。王家が管理しているため、当然ながら配属されている騎士も王家の信頼が厚い者達だけ。

 セルティやイクティスが選んでいるのかもしれないが、それならば女王が来ることも知っていて当たり前だろう。

「これは陛下、お待ちしておりました」

「あぁ、道を使いに来た。セルティから連絡は来ているだろうが」

 フィーリオナが近づけば、門番のハーフエルフが騎士の礼をして声をかけてきた。

 連絡のあった通りだと言えば、特になにか言うわけでもなく中へ通してくれる。配属された騎士は、この村がどのようなところか教えられているのかもしれない。

「特に詮索はされないから、安心しろ」

 どのような連絡をしているかは知らないが、と言えば、わかったと頷く三人。詮索されるのは面倒なだけに、これはありがたいことだった。

 フィーリオナを先頭に村へ踏み込めば、そこは村と呼べるのかわからないほど建物がない。最低限の家と騎士のみなのだろう。

「……変わった気配がする村ね」

 不思議な気配がするとリーナが言えば、わかるのかとフィーリオナが驚く。

 さすがオーヴァチュア家、と思ったほどだった。これに気付けるとは思わなかったのだ。

「クロエはどうだ?」

「感じませんね。人間ではわからないものなのか、リーナだから感じ取れるものなのか。そのどちらかだと思いますが」

 どれだけ探っても、クロエには変わった気配など感じない。

「なら、クオンはどうだ?」

 お前なら感じ取れるのではないか、とフィーリオナは言う。彼の能力は月神へと変化を始めているのだから。

「クオン?」

 問いかけたものの答えがないことから視線を向ければ、クオンはどこか遠くを見ている。そこからなにかを感じ取っているかのように。

「問いかけるまでもなく、感じてるみたいだな。あの井戸が目的地へ行くための入り口だ」

 視線の先にある古い井戸。どこもおかしなところはないが、それが見せかけだけだとは聞いただけの情報。

 さすがに、フィーリオナでも井戸からなにかを感じたりはしない。つまり人間かそうではないかは関係ないのだ。

「クロエも気にしなくていいぞ。これは私でもわからないものだからな」

「どなたならわかるものなのですか」

 逆に言えば、誰ならわかるのだろうか。城内にいるのだろうとクロエは思っていた。

 その人物もある程度は推測できている。問いかけたのはわざとだ。

「セルティはわかるな。ここはあいつの管轄だ。たぶん、イクティスもわかるんじゃないか。試したことはないから、よくわからないが」

 セレンへ行ったこともあるはずだから、と言われれば予測通りかと頷く。同時に、彼女が誤魔化す気はないのだと少し信じる。

 ここはなにか意味のある場。そして気配を感じ取れるということも、特殊だということに繋がるはずだ。

 それを言ってしまったということは、隠す必要がないのか、彼女に誤魔化す気がないのかのどちらかということになる。

(誤魔化す気がないんだろうな。嘘が苦手な奴だから)

 変わらないな、と小さく呟くと、どうしたと言うようにフィーリオナは視線を向けた。

「なんでもありません」




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