メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

文字の大きさ
192 / 276
5部 よみがえる月神編

神馬と月の腕輪3

しおりを挟む
 父親ならなにか知っているのかもしれないが、少なくともクオンは聞かされていない。

「まぁ、まだ家を継ぐわけでもないし、教える必要はないと思っていたのかもしれないな。騎士団の職務に慣れてからと、思っていたかもしれないだろ」

 家同士の交流はもちろん、幼い頃からクオンといたことでクロエは父親と面識がある。判断力に関しては間違いないと思っていたのだ。

 騎士として現役だった頃のことも、当然ながら知っている。一時期、クオンの父親がいた月光騎士団に所属していたのだ。

「そりゃそうだな。今から家も継げ、なんてことはないよなぁ。継がないなら、教えられないことか」

「そうよ。私だって家のことはそこまで知らないもの」

 クロエは知ってそうだけど、と二人とも見れば、一応と視線を逸らされた。

「クロエは後継ぎだしな…」

 どことなく寂しげに言われた言葉に、気付いた者はいたのだろうか。フィーリオナがすぐさま切り替えれば、クロエだけが視線を向け、そのまま戻す。

「……とりあえず、初代の奥さんが姫さんだったから、そのままうちの家系がってことでいいのか?」

『そうだ。月神の家系であったのも、大きい』

 神馬の言葉に、そういえばとクオンは思う。家のことを詳しくは知らないと。

「俺、そこまで詳しく知らないんだよな。たぶん、世間一般的なことしか知らない」

 呟くように言われた言葉に、リーナもそういえばと頷く。シリウス家という家名は有名だが、その成り立ちはあまり知られていない。

 リーナやクロエは家柄の問題もあって知っているのだが、シリウス家の初代当主が姫を嫁にしたことぐらいしか知らなかった。

「シリウス家とは、スレイ・メイ・シリウスが騎士として功績を上げた結果だ。詳しく知られていないのは、彼の本来の名が、スレイ・アルヴァースだからだな。七英雄にして月神リオン・アルヴァースの息子だ。クロエはセルティから聞いたのだろ」

「えぇ。アルヴァースなのは聞きました」

 もう少し詳しく聞きたいところだったが、あれ以上は無理だともわかっていた。

『女神の血を受け継ぐ者だ。そちらもだな』

 リーナを見て言うが、本人はなにを言われているのかわからない。困ったようにクオンを見るから、クオンもわからないと首を振る。

 あまり話すと怒られる、と神馬が言えば、フィーリオナも理解したのか黙ることにした。

 おそらく、クオンの中にいるリオン・アルヴァースを言っているのだ。話しすぎたら、彼のことだから表に出てくるかもしれない。

 それはそれで試してみたいところだが、神の怒りに触れたくないとフィーリオナは思う。

『すべてを知りたいならば、受け入れるしかない。私は、これを渡すために来たのだ』

 淡い光が浮かび上がると、銀色に輝く腕輪が現れる。どことなく懐かしく感じる腕輪に、クオンは不思議な気持ちになった。

『これは、スレイ・アルヴァースより預かった物。いつの日か、戻ってきた月神へ渡すようにと。太陽神が持つ腕輪と対になる物だ』

 思わぬ言葉に、思わず手を伸ばしていたクオン。慌てたように止めたのはクロエだ。

「バカか。こんなものに触れたら、なにがあるかわからないぞ」

 リオン・アルヴァース本人の持ち物となれば、記憶が一気に押し寄せてくるかもしれない。それこそ、今までの比ではないほどに。

 言われてから、ハッとしたように手を引っ込める。言われている通りだと思ったのだ。

 これを手にすれば、間違いなくすべてがわかるかもしれない。けれど、今までと違い一気に押し寄せてくることにもなるだろう。

 耐えられるのかと視線だけで問われれば、さすがに即答できるものではない。

 見るだけなら大丈夫だったかもしれないが、感情も流れ込んでくるのだ。あれをどれだけ耐えればいいのかと考えたとき、無理かもしれないと思う。

「しかし、受け取るだろ。月神の腕輪だぞ」

 当たり前のようにフィーリオナが言えば、それはそうなのだが、とクロエも渋い表情を浮かべる。

 これは受け取るべき物だろう。わかっているが、簡単に受け取れる物ではない。どうしたものかと悩むと、リーナを見たまま思考が止まる。

(夢も抑えたリーナだ。これをリーナに持たせておくというのも、ひとつの手か)

 どちらにしても、この腕輪をどうするのか決めるのはクオンだ。覚悟があるなら、彼が受け取るのも構わない。

 どうするかと、視線だけで問いかける。決めろと催促するように。

 クオンもどうしたものかと、目の前に浮く腕輪を見る。これを受け取るべきだろうと思うのだが、今すぐになにか起きた場合は困るとも思う。

 せめて心構えをしてからだ。そうでないと、情報量としても受け入れきれないとわかっていた。

 なにせ、リオン・アルヴァースが生きていた年月はとてつもなく長い。

「受け取るなら、リーナがしばらく預かってるのがいいと思うが」

 受け取りたいのだと察したクロエが言えば、一瞬なにを言っているのかと怪訝そうに見る。

「……あー、そういうことか」

 少しばかり考えた彼は、クロエが言う意味を理解した。夢を抑えたリーナが持っていれば、とりあえず大丈夫ではないかということだ。

 確かにそうかもしれないと思う。自分が手にしたら反応してしまうだろうが、彼女なら反応しないかもしれない。

 あくまでも可能性でしかないが、彼女なら安心していられるという気持ちもある。信頼していないわけではないが、クロエに渡すと簡単に戻ってこない気もした。

 フィーリオナは問題外だ。彼女に渡したら、戻ってこないとなぜか思えたから。

「どうだ?」

「別に、いいけど」

 問いかけてみれば、よくわかっていないリーナが不思議そうに構わないと答える。なら託すかと、決断は早かった。

 会話を聞いていた神馬がリーナを見ると、腕輪は自然と彼女の元へ移動する。

『受け取るといい、星の女神となりえる者よ』

「星の女神……」

 またその言葉か、と思う反面、星の女神となればどうなるのかという気持ちにもなった。

『月の輝きに寄り添う星。でも、違う』

 最後にそのような言葉を残し、神馬は光となって消えていく。

 どことなく笑みを浮かべていたような気がして、リーナも自然と笑顔になる。言葉の意味が、なんとなく理解できたのだ。

「なに笑ってんだよ」

「なんでもない。それより、これからどうするの」

「……とりあえず、寝る」

 寝ていたところを起こされたのだ。もう一度寝直したいと言えば、家へ戻っていく。

「私も寝るかな。書類はこのまま返しても構わないだろう」

 どうせ嫌がらせだとぼやきながら戻るフィーリオナに、クロエがため息を漏らしながら戻っていく。困った女王だ、とでも思っているのかもしれない。

(月の輝きに寄り添う星、か。最後のあれは、星の女神って意味じゃなかったな)

 受け取った腕輪を見ながらリーナは笑った。違うと言われたのは、リーナが隣に立ちたいと願う気持ちを察してなのではないか、と思えたのだ。

 もしもそうなら、遥か昔にいた星の女神とはまったく違うのかもしれない。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

記録少女狂想曲

食べられたウニの怨念(ウニおん)
ファンタジー
時は2026年。 人類は『魔人』と呼ばれる「新たな人類」によって滅亡の未来を強いられていた。 異形、機械、様々な形の新たな人類「魔人」 そしてその魔人を生み出す紛い物の神「偽神」。 人類は衰退し滅亡すると考えられていた… しかし、世界には希望が存在した。 世界の全てを記録した概念[全記録]。 偽神を産むものであり、人類を記録するもの。 そしてその[全記録]から能力を引き出し、人に与えることのできる謎多き装置[A.I.S]。 希望とは、[全記録]から力を得し少年少女達。 少女達はイザード財閥の支援の下で、魔人達との戦いに身を投じるのであった…。 そしてこれは、そんな世界に生まれた、 とある少女のお話。 記憶を失い、自身の名前すらも分からない少女と、魔法少女・魔法戦士達が出会い、別れ、戦う物語。 少女の正体は何者なのか、[全記録]とはなんなのか。 これは 人類の存亡をかけた 謎多き戦いの物語。 『世界の真実に君たちが辿り着くのが先か、魔人たちによって滅ぶのが先か。僕にとってはとても興味深い話だよ。』 ________________________________________ ※こちらはTwitterで行なっている参加型創作を、 参加者様とキャラや展開について話し合って進めている小説となっています。 もし興味がある場合はTwitterのメインアカウント(@theUni_1024 )のDMにて相談・世界観についての質問などを受け付けています。 ________________________________________ 初心者投稿故に誤字脱字などが多くある可能性があるため、コメントなどで報告してくださるとありがたいです。 また、執筆状況が停滞したり自身の体調に問題がない限りは2週間に一話ずつ更新する予定です。気長にお待ちくださると幸いです。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

腐れ外道の城

詠野ごりら
歴史・時代
戦国時代初期、険しい山脈に囲まれた国。樋野(ひの)でも狭い土地をめぐって争いがはじまっていた。 黒田三郎兵衛は反乱者、井藤十兵衛の鎮圧に向かっていた。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...