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5部 よみがえる月神編
虹の記憶
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日が昇りきった頃、目を覚ましたクオンはベッドに寝かされていると知り驚く。自力で横になった記憶がなかったのだ。
一体誰がと思い、これはクロエしかいないとため息を一回。貸しを作ってしまった。
起き上がろうとしてみたが、動かすと身体が痛みを発する。記憶の影響が残っているのだ。今の自分には、すぐに治る治癒力などないのだから当然のこと。
「んー」
痛みが焼かれたときの記憶を掘り返す。そのときの感情がクオンの中を占めていく。
気分が重くなる中、寝返りを打つ幼馴染みに心が軽くなる。隣で寝ているのがクロエのせいなのか、それともリーナがそのまま寝てしまっただけなのかはわからない。
けれど、これに救われているのは事実だ。それだけは間違いがない。
「クッ…」
痛む身体を動かすと、無防備に眠る幼馴染みの身体を抱きしめる。これぐらいは許容範囲だろうと、自分に言い訳をして。
クロエに見つかってなにか言われたら、寝て誤魔化そうとすら思ったほどだ。もちろん、通じないことはわかっている。
彼を誤魔化せる自信など、欠片もないのだ。
隣に彼女がいるだけで、気持ちは自然と落ち着いていく。これほどまでに大切だったのかと、再確認させられたほどだった。
(けど、な……)
自分が月神となってしまったとき、彼女を選んでいいのかは悩ましいところだ。星の女神となれば、彼女はどうなってしまうのか。
むしろ、自分が月神になってしまったらどうなるのかも、まったくわからないのだ。
(不死に、なるのか? 死なない……)
まだ実感がない。死なないということがどういうことなのか、想像ができないというのが正解だろう。
この先を見れば、わかるのかもしれない。
今までと違い、記憶の見え方は鮮明で情報量も多くなっている。聖獣との出会い、聖剣の入手、以降の旅の様子を明確に見た。
それでもあれは一部でしかない。まだほんの始まりなのだ。
七英雄は出てきていないし、その後も残っている。兄との戦い。クオンが一番気になっているところだ。
なにせ、リオン・アルヴァースが死んだ戦いなのだから。気にならないわけがない。仲のいい双子がどうしてこうなってしまったのか、最初から最後まで見たいのだ。
知りたいと思う部分が、一番しんどいのかもしれない。わかっているからこそ、腕輪を手にすることを躊躇ったのだ。
そのときの感情は、激しいと思っていたから。少し垣間見ただけでもきつかったのだから、全部となれば計り知れない。
(だから傍にいて欲しいっていうのは、俺のエゴだよな)
一人でどうにかしようと思っていたが、結局は二人に頼っている。リーナにも、クロエにも大きな貸しを作ってしまった状態だ。
「ん? クオン…」
「起きたのか…」
見上げてくるリーナに、身体を離さなければと思ったのは一瞬のこと。すぐさま考えることをやめた。動くと痛みを発するのだから、このままでいいかと思ったのだ。
嫌なら自分から抜け出すだろう、とも思っている。彼女はそういう女性だ。
「勝手に動けよ」
別にじっとしていなきゃいけないわけではない。とはいえ、抱き締めてしまったのは自分なだけに、少しばかり気まずかったりもした。
「説得力のない言葉ね」
「ん?」
呆れたように言われ、一体なにをと思ったのはクオンの方だ。
数秒ほど考えてから、ハッとしたように動きが止まる。しっかりと抱き締めておいて、動いていいは我ながら説得力がないと気付いてしまったのだ。
慌てて手を離すと、リーナはゆっくりと起き上がる。
あっさりと起き上がる彼女に、残念に思っているとわかればどうしたものかと思う。感情の抑えが利かなくなってきているのだ。
「まだ寝てる?」
「……動けねぇんだよ」
相手をしてくれ、という表情を浮かべていたリーナに、どことなく子供っぽい表情で拗ねているクオン。
こんな表情は滅多に見られないと知っているだけに、リーナは思わず笑ってしまう。
「調子が悪いわけじゃないんだよね」
普通に話せているのだから、別に問題があるのだろうと問いかけられれば、誤魔化すだけ無駄と素直に痛むと答えた。
記憶で見たままの痛みが残っているのだと。
「……そう。朝食、なにかもらってくるね」
「もう昼だろ」
「そんな寝てた?」
寝すぎたと慌てて部屋を出て行く姿に、今度はクオンが笑う番だ。やっぱり彼女が好きだな、と内心思うと、腕輪に手を伸ばした。
気付けば深い森の中へ入り込んでいた二人。精霊達が多くいる森で、木漏れ日が気持ちいいと思う。
そう思えるということは、リオン・アルヴァースがそう感じているということ。これほどゆったりしているのは珍しいな、とすら思ったほどだ。
クオンが知る限り、リオン・アルヴァースの感情はとにかく憎しみへ傾きだしていた。
「シオン、どこ行ったんだ?」
『まったく、迷子かよ……。お前の兄貴はどうなってんだ』
肩に乗っている水色の獣は、呆れたように見上げている。森に入ってしばらくすると、方向感覚を失って迷ったのだ。
そのまま、今度は兄とはぐれるという事態になってしまった。目立つ髪色なだけに、すぐみつかると思っていることから、リオン・アルヴァースは気楽に歩いている。
ここに人間がいないと確信していることから、警戒心が薄れているのだ。
「精霊が多すぎるのも問題なんだな」
『うるさいってか』
「いや、精霊はうるさくねぇ」
女神の力を手にしたことで、唐突に聞こえるようになった精霊の声。こちらから話すこともでき、うっとおしいと思うかと思っていた。
けれど、意外と楽しいと思っているリオン・アルヴァース。
集落にいたときは、人間の話し声がうっとおしいと思っていた。耳障りで、聞いていたくない。
おそらくそう思っていたのも、人間嫌いになってしまったからなのだろう。わかっていても集落に行かなくては、捜し物は見つからない。
「女神様の力なんて、簡単には見つからないとは思ってたけどよ。いつまで続くんだろうな、この生活」
『俺が知るかよ』
それよりも、さっさと見つけろと言う聖獣に、わかったと足早に捜し出すリオン・アルヴァース。
ようやく見つけた目立つ赤髪に、他にも誰かいると気付けば駆け寄る。これで森の中で迷子からおさらばだ、と思ったのだ。
「なにやってるんだよ、シオン! 道わかったか?」
「クスッ。迷子みたいね」
呼びかければ、女性の笑う声に視線が向く。エルフなど初めて会ったのだが、それでもわかることはある。
目の前にいる女性はとてもきれいだと。エルフの中でも、格段に美しい女性だろう。リオン・アルヴァースでも、そう思えたのだ。
思うだけで興味はなかった。彼の中では、兄がすべてだったから。
・
一体誰がと思い、これはクロエしかいないとため息を一回。貸しを作ってしまった。
起き上がろうとしてみたが、動かすと身体が痛みを発する。記憶の影響が残っているのだ。今の自分には、すぐに治る治癒力などないのだから当然のこと。
「んー」
痛みが焼かれたときの記憶を掘り返す。そのときの感情がクオンの中を占めていく。
気分が重くなる中、寝返りを打つ幼馴染みに心が軽くなる。隣で寝ているのがクロエのせいなのか、それともリーナがそのまま寝てしまっただけなのかはわからない。
けれど、これに救われているのは事実だ。それだけは間違いがない。
「クッ…」
痛む身体を動かすと、無防備に眠る幼馴染みの身体を抱きしめる。これぐらいは許容範囲だろうと、自分に言い訳をして。
クロエに見つかってなにか言われたら、寝て誤魔化そうとすら思ったほどだ。もちろん、通じないことはわかっている。
彼を誤魔化せる自信など、欠片もないのだ。
隣に彼女がいるだけで、気持ちは自然と落ち着いていく。これほどまでに大切だったのかと、再確認させられたほどだった。
(けど、な……)
自分が月神となってしまったとき、彼女を選んでいいのかは悩ましいところだ。星の女神となれば、彼女はどうなってしまうのか。
むしろ、自分が月神になってしまったらどうなるのかも、まったくわからないのだ。
(不死に、なるのか? 死なない……)
まだ実感がない。死なないということがどういうことなのか、想像ができないというのが正解だろう。
この先を見れば、わかるのかもしれない。
今までと違い、記憶の見え方は鮮明で情報量も多くなっている。聖獣との出会い、聖剣の入手、以降の旅の様子を明確に見た。
それでもあれは一部でしかない。まだほんの始まりなのだ。
七英雄は出てきていないし、その後も残っている。兄との戦い。クオンが一番気になっているところだ。
なにせ、リオン・アルヴァースが死んだ戦いなのだから。気にならないわけがない。仲のいい双子がどうしてこうなってしまったのか、最初から最後まで見たいのだ。
知りたいと思う部分が、一番しんどいのかもしれない。わかっているからこそ、腕輪を手にすることを躊躇ったのだ。
そのときの感情は、激しいと思っていたから。少し垣間見ただけでもきつかったのだから、全部となれば計り知れない。
(だから傍にいて欲しいっていうのは、俺のエゴだよな)
一人でどうにかしようと思っていたが、結局は二人に頼っている。リーナにも、クロエにも大きな貸しを作ってしまった状態だ。
「ん? クオン…」
「起きたのか…」
見上げてくるリーナに、身体を離さなければと思ったのは一瞬のこと。すぐさま考えることをやめた。動くと痛みを発するのだから、このままでいいかと思ったのだ。
嫌なら自分から抜け出すだろう、とも思っている。彼女はそういう女性だ。
「勝手に動けよ」
別にじっとしていなきゃいけないわけではない。とはいえ、抱き締めてしまったのは自分なだけに、少しばかり気まずかったりもした。
「説得力のない言葉ね」
「ん?」
呆れたように言われ、一体なにをと思ったのはクオンの方だ。
数秒ほど考えてから、ハッとしたように動きが止まる。しっかりと抱き締めておいて、動いていいは我ながら説得力がないと気付いてしまったのだ。
慌てて手を離すと、リーナはゆっくりと起き上がる。
あっさりと起き上がる彼女に、残念に思っているとわかればどうしたものかと思う。感情の抑えが利かなくなってきているのだ。
「まだ寝てる?」
「……動けねぇんだよ」
相手をしてくれ、という表情を浮かべていたリーナに、どことなく子供っぽい表情で拗ねているクオン。
こんな表情は滅多に見られないと知っているだけに、リーナは思わず笑ってしまう。
「調子が悪いわけじゃないんだよね」
普通に話せているのだから、別に問題があるのだろうと問いかけられれば、誤魔化すだけ無駄と素直に痛むと答えた。
記憶で見たままの痛みが残っているのだと。
「……そう。朝食、なにかもらってくるね」
「もう昼だろ」
「そんな寝てた?」
寝すぎたと慌てて部屋を出て行く姿に、今度はクオンが笑う番だ。やっぱり彼女が好きだな、と内心思うと、腕輪に手を伸ばした。
気付けば深い森の中へ入り込んでいた二人。精霊達が多くいる森で、木漏れ日が気持ちいいと思う。
そう思えるということは、リオン・アルヴァースがそう感じているということ。これほどゆったりしているのは珍しいな、とすら思ったほどだ。
クオンが知る限り、リオン・アルヴァースの感情はとにかく憎しみへ傾きだしていた。
「シオン、どこ行ったんだ?」
『まったく、迷子かよ……。お前の兄貴はどうなってんだ』
肩に乗っている水色の獣は、呆れたように見上げている。森に入ってしばらくすると、方向感覚を失って迷ったのだ。
そのまま、今度は兄とはぐれるという事態になってしまった。目立つ髪色なだけに、すぐみつかると思っていることから、リオン・アルヴァースは気楽に歩いている。
ここに人間がいないと確信していることから、警戒心が薄れているのだ。
「精霊が多すぎるのも問題なんだな」
『うるさいってか』
「いや、精霊はうるさくねぇ」
女神の力を手にしたことで、唐突に聞こえるようになった精霊の声。こちらから話すこともでき、うっとおしいと思うかと思っていた。
けれど、意外と楽しいと思っているリオン・アルヴァース。
集落にいたときは、人間の話し声がうっとおしいと思っていた。耳障りで、聞いていたくない。
おそらくそう思っていたのも、人間嫌いになってしまったからなのだろう。わかっていても集落に行かなくては、捜し物は見つからない。
「女神様の力なんて、簡単には見つからないとは思ってたけどよ。いつまで続くんだろうな、この生活」
『俺が知るかよ』
それよりも、さっさと見つけろと言う聖獣に、わかったと足早に捜し出すリオン・アルヴァース。
ようやく見つけた目立つ赤髪に、他にも誰かいると気付けば駆け寄る。これで森の中で迷子からおさらばだ、と思ったのだ。
「なにやってるんだよ、シオン! 道わかったか?」
「クスッ。迷子みたいね」
呼びかければ、女性の笑う声に視線が向く。エルフなど初めて会ったのだが、それでもわかることはある。
目の前にいる女性はとてもきれいだと。エルフの中でも、格段に美しい女性だろう。リオン・アルヴァースでも、そう思えたのだ。
思うだけで興味はなかった。彼の中では、兄がすべてだったから。
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