【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔

文字の大きさ
38 / 77

38話 高鳴り

しおりを挟む
 ルークが小走りを始めたことにより、先ほどの速度では感じることの無かった風を感じ始めた。疾風ではなく、ちょうど快い程度のこの風に、私の気分は一気に上昇した。

 天気も良くちょうどいい気温の中、青々とした緑が一面に広がった美しい草原を心地よい風を浴びながら馬に乗って走る。これだけで、私はとても開放的な気分になっていた。

 ――こんなに楽しいのはいつぶりかしら……!?

 そう思うほど、私は心の底からはしゃいで乗馬を楽しんでいた。そんなハイテンションな私はエンディミオン卿とルークに声をかけた。

「エンディミオン卿! もう本っ当に最高です! ルーク、あなたも最高よ! ありがとう!」

 そう言い、私はお礼代わりにルークに祝福をかけた。効果があったのかは分からないが、何となくルークが楽しそうに走り始めたような気がした。

 そんなルークを見てふふっと笑っていると、耳元から優しい声が聞こえてきた。

「クリスタ様、最後にもう少ししっかりと走ってみますか?」
「騎士の方が走らせるときくらいの早さですか?」
「はい……どうしましょう?」

 もうここで私の選択肢は1つしかなかった。

「ぜひ! お願いします!」

 その私の答えを聞くと、エンディミオン卿は分かりましたと楽しそうに声を零した。

 そして、彼は先程より私の耳に口を近付けると、色気を孕んだ愉しげな声で囁いてきた。

「舌を噛まないように気を付けてくださいね。では……いきますよっ」

 そう言うと、急速的にルークのスピードが上がった。先ほどとは比べものにならないほどの疾走感だ。

 恐怖を感じつい保護魔法をかけた。エンディミオン卿の分も勝手にかけた。

 格段にスピードが上がり、最初のうちは怖かった。だが、慣れてくると徐々にその恐怖は爽快感へと変わった。今日1番の爽快感だ。

 こうして、私は全力で疾走感と爽快感を最大限に楽しんだ。もうときめきで胸がいっぱいだ。

 だが、2人を乗せた馬をずっと走らせ続ける訳にはいかない。そのため、私たちはルークに乗った地点に戻ることになった。

 そして、出発地点に帰るとエンディミオン卿は無駄のない美しい動きでルークから降り、下から私が降りるための補助をしてくれた。

「先ほどの台を補助にして降りてくださいね」

 そう声を掛けてくれたため、私はきちんと台に着地することが出来た。ただ、私はここで完全に油断してしまった。

 台から地面に降りるタイミングでよろけてしまい、あろうことかエンディミオン卿の胸に飛び込んでしまったのだ。

 その拍子に私の耳はエンディミオン卿の胸に密着した。その瞬間、ドッドッドッドッというエンディミオン卿の鼓動がはっきりと聞こえた。とんでもない速さの心拍だった。

「す、すみません……!」

 慌てて飛び退きエンディミオン卿に謝った。そんな私にエンディミオン卿は少し頬を赤らめながらも、何てことないような顔をしながら「大丈夫ですよ」と言って笑いかけてくれた。

 けれど、私はエンディミオン卿の鼓動を知ってしまっている。

 ――何でエンディミオン卿よりも私の方が照れてるのよ……!
 本当に調子が狂っちゃう……。

 何だか私だけが翻弄されているような気分になり、むず痒い気持ちになった。だが、私は気を取り直し、改めてエンディミオン卿に話しかけた。

「エンディミオン卿ありがとうございました! すっごくすっごく楽しかったです! ルークもありがとう!」

 そう言ってルークを撫でると、ルークは目を細めて喜んでいるような表情をしてくれた。

「ルーク、クリスタ様にかわいがってもらって良かったな。はあ、羨ましい……」
「ルーク相手に何言ってるんですか! もう! ふふっ」

 馬相手に嫉妬している彼に突っ込みながらも、冷静になりつい笑ってしまった。すると、そんな私を見てエンディミオン卿も笑い出した。

「そうだ。クリスタ様、今からちょっとルークに餌をあげても良いですか?」
「ええ、もちろんいいですよ!」

 ――ルークの食事シーン、ほのぼのする光景でしょうね……。

 そう思いながら、食用の牧草地へと移動した。しかし、その牧草地は厩舎にいる馬がちゃんと食べられるのか心配になるほど狭く感じた。

 ――馬ってあまり食べないのかしら……?
 って、そんなわけないわよね。
 こんなに大きな身体をしているんだもの。

「エンディミオン卿、かなり牧草地が狭いと思うんですけど、これで本当に足りるのでしょうか?」

 そう尋ねると、エンディミオン卿は顔を曇らせた。

「実は、この柵より向こうも食べていい牧草だったんですが、どうやら病気らしく、今は馬が食べられないようになっているんです」

 その話を聞いて、私はピコーンと来た。

 ――今こそ私の力を使う時じゃない!

 そう思い、私はエンディミオン卿に宣言した。

「任せてください。今日のお礼です!」

 そう伝え、私は病気の牧草地に近付き治癒魔法をかけた。

「ヒール」

 そう呟き神聖力を一気に注ぐと、病気の草が黄金の光を放った。そして、しばらくするとその光は収まった。

「検査してみてください。きっと食べられる状態になっていると思います」

 そうエンディミオン卿に声をかけると、彼は目を真ん丸にしながら声を漏らした。

「す、すごいどうして……」
「普段は隠していますが、私、こう見えて聖女なんですよ? 忘れましたか?」

 そう言うと、エンディミオン卿は意外なほどに驚いたまま声を漏らすように質問に答えた。

「忘れてはおりません。ですが、私にとってクリスタ様は聖女というより、クリスタ様という感覚でして、植物に対してこういった魔法を使う場面を見たのも初めてでつい……」

 そこまで言うと、彼はハッと我に返ったように言葉を続けた。

「ありがとうございます! ほかの馬たちも喜びます……!」
「それなら良かったです」

 心の奥で確かに鼓動が高鳴っている。それは、乗馬をした高揚感によるものなのか、はたまた別のことが理由なのかは定かでない。

 ただ、まだこの高鳴りの正体に気付かないほうが良い。そう本能が訴えかけてくるような気がして、私はその鼓動に気付かないふりをすることにした。

 その後、食事を終えたルークと厩舎で別れ、私たちは帰るために馬車へと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

処理中です...