48 / 77
48話 顔合わせ
しおりを挟む
馬車に乗りギル様を見ると、エンディミオン様に会えるんだとウキウキした様子になっている。そんな彼に、私はある頼みごとをした。
「ギル様、医務室までは子どもの姿になってもらっても良いですか?」
「なぜだ? この姿ではダメなのか?」
そう言うギル様は、不思議そうな顔をしている。
「大人の姿をしていると、子どもの姿の時よりもギル様のことが気になる人が多いんです」
「そうなのか……? では、その方がクリスタにとって好都合なら、医務室まで子どもの姿になろう」
そう言うと、ギル様はまだ馬車の中だが、なぜか子どもの姿に戻った。そして、とても残念そうな顔をして呟いた。
「子どもの姿になったら、座ったままでは外が見えんのう……」
――何で馬車に乗った瞬間大人の姿になったのかと思っていたけれど、景色が見たかったのね。
それだったら、なおさら騎士団に着くまでは大人の姿のままでいいのに……。
何で今、子どもの姿になったのかしら……?
「ギル様、騎士団に着くまでは――」
「大人の姿のままでいいですよ」そう声をかけようとしたが、その言葉はギル様によってかき消された。
「そうだ! クリスタ! 我を膝に乗せてくれっ」
ええっ! と戸惑ってしまう。しかし、そんな私をよそに、名案が浮かんだ! という表情をしたギル様は、返事を聞く前に勝手に膝の上に座ってきた。
――どちらが甘えんぼうなのかしらね?
あまりにも子どもらしい様子に、思わずクスっと笑みが零れる。そして、私は窓に手を張り付け、外の景色を眺めるギル様を膝に乗せ、馬車に揺られた。
◇ ◇ ◇
それからすぐ、馬車は騎士団に到着した。そのため、私たちは馬車から降り医務室へと足を進め始めた。
すると、色々と気になるものがあったのだろう。
「クリスタ、あれは何だ!?」
そう言いながら、ギル様は勝手にどこかに走って行こうとした。そして、それが3回繰り返されたあたりで、私はギル様と強制的に手を繋ぎ、そのままの状態で医務室へと辿り着いた。
「おはようございます」
そう声をかけながら医務室の中に足を踏み入れると、楽しそうな顔をした先生と、笑顔のエンディミオン卿が既にいることが確認できた。
――良かった。ちゃんと来てくれてたのね。
先生もギル様を見て嬉しそうだわ。
ギル様もきっと嬉しいでしょうね。
そう思いながら、喜んでいるであろうギル様を見ようとしたところ、突然ギル様が子どもから大人へと姿を変えた。
「ギル様、どうしてその姿に?」
「恩人に会うのだ。完全体でないと失礼であろう」
そう言いながら、ギル様は自信たっぷり表情で口角を上げ、先生とエンディミオン様のいる方へと視線を向けた。そのため、私もつられるように2人がいる方へと視線を向けた。
すると、手を繋いだままギル様が大人になったからだろう。私たちが手を繋いでいる部分を、何とも言えない顔で凝視し、立ち尽くしているエンディミオン様が視界に入った。
そのことに気付いた瞬間、なぜか猛烈な罪悪感が襲ってきた。そのため、身体が勝手に動き私はギル様と繋いでいた手をバッと離した。そして、この空気を切り替えるべく、私はギル様に声をかけた。
「ギル様! あちらにいる男性が、あのハンカチを下さったエンディミオン様ですよ」
そう声をかけた瞬間、エンディミオン様は我にかえったかのように、光の速さで距離を詰めてきた。
そうかと思うと、ギル様に向かって先ほどの表情は幻だったかのように、それは上品な笑みを携え挨拶を始めた。
「初めまして。第3騎士団長を務めております、エンディミオン・ルアンと申します。今日はお会い下さり誠にありがとうございます」
「ほう、そなたがクリスタと我を結び付けた人の子だな!」
このギル様の言葉を聞いた瞬間、エンディミオン様は笑顔のままピシリと固まってしまった。だが、そんなエンディミオン様の様子を気にすることは無く、ギル様は言葉を続けた。
「我の名はギルバートだ。ギルと呼んでくれ。そなたにはずっと礼を言いたかったのだ。
あのハンカチをクリスタに持たせてくれたこと、かたじけない。ありがとう」
この言葉はエンディミオン様の心に響いたのだろう。金縛りが解けたように、エンディミオン様は緩く微笑んだ。すると、そのタイミングで気を遣った先生が声をかけてきた。
「まあまあ、皆さん。立ち話はなんですから、お話はあちらでどうぞ」
この先生の鶴の一声により、私たちは医務室内の奥にあるソファへと移動した。私の隣にはギル様が座っており、対面にはエンディミオン様が1人で座った。そして、早速エンディミオン様がギル様に口を開いた。
「私のハンカチがどのようにして、クリスタ様とギル様を結びつけたのでしょうか? 一応クリスタ様から、軽く聞いたことはありますが……」
「――っ!」
この質問を聞いた瞬間、私はヤバいと思った。なぜなら、エンディミオン様に以前ハンカチの話しをしたとき、かなりオブラートに包んでぼやかした説明しかしていなかったからだ。
一方で、ギル様はオブラートなんて知らないから、すべてそのままダイレクトに伝えてしまう。きっと、今回も容赦ない答えをするんだろうと瞬時に悟った。そして、それは予想通りだった。
「実は我がクリスタが敵だと思って攻撃をしようとしたら、クリスタはそのハンカチを我に見えるように掲げたんだ。それで、あの信じられないほど下手な刺繍を見たら、クリスタに戦意が無いことが明白だと分かり、それを機に仲良くなったんだ」
そう言うと、ギル様は懐かしむように目を細め、フッと笑みを零した。
――悪気も容赦もない言葉だったけれど、エンディミオン様は大丈夫かしら……?
そう思い、ギル様を見ていた私は、視線を前にいるエンディミオン様に戻した。すると、エンディミオン様は何故か頬を少し紅潮させながら、私の方を向いてはにかんできた。
――何で!?
このタイミングでそんな顔をして私を見る意味が分からないっ……!
意味が分からず困惑してしまう。しかし、エンディミオン様は再び視線をギル様に戻し質問を再開した。
「そういうことでしたか……。それなら下手で良かったです! ところで、ギル様はクリスタ様の結婚相手が見つかるまで、こちらにおられるのですよね?」
「ああ、そうだぞっ」
そう力強い返事をすると、ギル様の右側に座っている私の頭の右側をギル様が撫で始めた。
「もう傷付いてほしくないのだ。それに、こう見えてクリスタは甘えたなところもあるから、気を張っている分ちゃんと甘やかしてやらないとな」
――よりにもよってエンディミオン様の前でなんてことを!
そう思いながらエンディミオン様の顔をチラッと見ると、いつもは余裕があるはずの彼の笑顔が引き攣っていた。だがそんなことを気にするはずのないギル様は、先生に話しを振った。
「なあ、アルバートもそのように思うだろう?」
「ふふっ、以前もそのように仰っていましたね」
そう言いながら否定も肯定もせずに、アルバート先生はこの状況を楽しんでいるかのように微笑んだ。
――こういう時に意外と助けてくれないところは、カイルそっくりなんだから!
というより、この状況が続くのは良くないわ。
何といっても恥ずかしすぎる!
取り敢えず、ギル様のこの手を止めないとっ……。
「ギル様、恥ずかしいですから……」
そう素直に伝え、ギル様の手をそっと掴み頭を撫でるその手を下ろさせた。すると、エンディミオン様は葛藤から抜け出したようで、ギル様に真剣な眼差しで話しかけた。
「ギル様、私はクリスタ様のことを、好きなだけ甘やかす自信があります!」
――そんな真剣な表情でなんてことを言っているの……!?
甘やかすとかそう言う問題じゃないでしょう!?
恥ずかしさと混乱でどうにかなりそうだ。そんななか、ギル様にはなぜかエンディミオン様の言葉が響いたようで、早速反応を示した。
「ほう……。クリスタの相手に志願するというのだな……。では、他には?」
「他の誰よりもクリスタ様を愛しております。この想いは誰にも負けません!」
この言葉に、勝手に顔が赤くなってしまうのを自分でも感じる。羞恥心で爆発してしまいそうだ。
すると、そんな私を見て不思議そうな顔をしながら、ギル様が私にとんでもない質問をしてきた。
「のう、クリスタ。アルバートがダメな理由は分かったが、エンディはダメなのか? ハンカチもくれたんだ。それに何より、エンディがクリスタを想う気持ちに濁りは無いぞ?」
ギル様は何の気なしにした発言だろうが、私にとってはある意味人生が賭かった質問だ。そのため、何とか気を落ち着かせようとしながら、ギル様の質問に答えを返そうと必死に頭を巡らせた。
初対面の時は、本当にヤバイ人だと思った。それにもちろん、今も変な人だと思うことはたくさんある。
――でも……正直好感度はだいぶ高い気がするのよね。
エンディミオン様といて楽しいと思うことが、最近はずっと増えたし……。
ただ、この彼への気持ちが恋愛感情なのかと聞かれると……分からない。
今までのエンディミオンの行動を思い出すと、相手としてダメとは言えない。だけど何かこれといった決定打に欠けるのだ。
そう思ってしまう理由……それは、エンディミオン様に対しレアードほど骨抜き状態になってないからかもしれない。
それに公爵令息なんだから、私よりももっと良い相手がいるだろうと思ってしまう。
それらを踏まえ、緊張を何とか抑えながら、ギル様にだけ聞こえるくらいの小声で伝えた。
「ダっ、ダメという訳ではない、ですが……まだ、ちょっと分かりません……」
今まではお断りしますと一刀両断にしていた。だが、相手としてダメかと聞かれると決してダメではない。そのため、今日初めて断り以外の思いを、本人相手にではないが口にした。
もうそれだけで、心臓が破裂しそうなほどドキドキしているのが分かる。それだけ勇気を出して、こっそりギル様だけに伝えたのだ。
すると、ギル様はそんな私の答えを聞き、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んだ。そしてあろうことか、ギル様はその笑顔のままエンディミオン様に口を開いた。
「どうやらダメでは無いらしいぞ!」
――ギル様何で言っちゃうの!
2人だけの秘密じゃなかったの!?
そう思いながら、あらゆる感情を押し殺しギル様を見た。すると予想外なことに、ギル様はさらに言葉を続けた。
「だが……まだ我と一緒に過ごす時間がほしいみたいだな」
そう言いながら、ギル様は私の肩をポンポンと叩いてきた。そしてすぐに、ギル様はエンディミオン様に諭すように語りかけた。
「一方でなく双方の想いが通じなければ、どれだけ想いが強かろうと無意味だ。エンディ……本気でクリスタを想うのであれば、もっと努力することだ」
「はい! ギル様!」
そう発する彼は、希望に満ちたようなキラキラと輝く目でギル様を見つめている。すると、そんな彼を見てギル様は嬉しそうに微笑み口を開いた。
「その心意気、気に入った。エンディ……あとはクリスタの気持ち次第だぞ」
「ギル様ったら、何言っているんですかっ……。エンディミオン様も――」
そう言いかけたが、私はその先の言葉を言えなかった。エンディミオン様の凛々しく微笑んだその顔が、あまりにも眩しく感じたからだ。
最近は特に、彼の様々な表情に調子を崩されているような気がする。そのため、現実逃避するように視線を逸らしたところ、その視線の先にいた先生がぼそっと呟いた。
「ははっ、十分以上に努力してるとは思うんですがね……」
その言葉を聞いて、以前カイルに言われた言葉が蘇り、私は再び胸が締め付けられた。
「ギル様、医務室までは子どもの姿になってもらっても良いですか?」
「なぜだ? この姿ではダメなのか?」
そう言うギル様は、不思議そうな顔をしている。
「大人の姿をしていると、子どもの姿の時よりもギル様のことが気になる人が多いんです」
「そうなのか……? では、その方がクリスタにとって好都合なら、医務室まで子どもの姿になろう」
そう言うと、ギル様はまだ馬車の中だが、なぜか子どもの姿に戻った。そして、とても残念そうな顔をして呟いた。
「子どもの姿になったら、座ったままでは外が見えんのう……」
――何で馬車に乗った瞬間大人の姿になったのかと思っていたけれど、景色が見たかったのね。
それだったら、なおさら騎士団に着くまでは大人の姿のままでいいのに……。
何で今、子どもの姿になったのかしら……?
「ギル様、騎士団に着くまでは――」
「大人の姿のままでいいですよ」そう声をかけようとしたが、その言葉はギル様によってかき消された。
「そうだ! クリスタ! 我を膝に乗せてくれっ」
ええっ! と戸惑ってしまう。しかし、そんな私をよそに、名案が浮かんだ! という表情をしたギル様は、返事を聞く前に勝手に膝の上に座ってきた。
――どちらが甘えんぼうなのかしらね?
あまりにも子どもらしい様子に、思わずクスっと笑みが零れる。そして、私は窓に手を張り付け、外の景色を眺めるギル様を膝に乗せ、馬車に揺られた。
◇ ◇ ◇
それからすぐ、馬車は騎士団に到着した。そのため、私たちは馬車から降り医務室へと足を進め始めた。
すると、色々と気になるものがあったのだろう。
「クリスタ、あれは何だ!?」
そう言いながら、ギル様は勝手にどこかに走って行こうとした。そして、それが3回繰り返されたあたりで、私はギル様と強制的に手を繋ぎ、そのままの状態で医務室へと辿り着いた。
「おはようございます」
そう声をかけながら医務室の中に足を踏み入れると、楽しそうな顔をした先生と、笑顔のエンディミオン卿が既にいることが確認できた。
――良かった。ちゃんと来てくれてたのね。
先生もギル様を見て嬉しそうだわ。
ギル様もきっと嬉しいでしょうね。
そう思いながら、喜んでいるであろうギル様を見ようとしたところ、突然ギル様が子どもから大人へと姿を変えた。
「ギル様、どうしてその姿に?」
「恩人に会うのだ。完全体でないと失礼であろう」
そう言いながら、ギル様は自信たっぷり表情で口角を上げ、先生とエンディミオン様のいる方へと視線を向けた。そのため、私もつられるように2人がいる方へと視線を向けた。
すると、手を繋いだままギル様が大人になったからだろう。私たちが手を繋いでいる部分を、何とも言えない顔で凝視し、立ち尽くしているエンディミオン様が視界に入った。
そのことに気付いた瞬間、なぜか猛烈な罪悪感が襲ってきた。そのため、身体が勝手に動き私はギル様と繋いでいた手をバッと離した。そして、この空気を切り替えるべく、私はギル様に声をかけた。
「ギル様! あちらにいる男性が、あのハンカチを下さったエンディミオン様ですよ」
そう声をかけた瞬間、エンディミオン様は我にかえったかのように、光の速さで距離を詰めてきた。
そうかと思うと、ギル様に向かって先ほどの表情は幻だったかのように、それは上品な笑みを携え挨拶を始めた。
「初めまして。第3騎士団長を務めております、エンディミオン・ルアンと申します。今日はお会い下さり誠にありがとうございます」
「ほう、そなたがクリスタと我を結び付けた人の子だな!」
このギル様の言葉を聞いた瞬間、エンディミオン様は笑顔のままピシリと固まってしまった。だが、そんなエンディミオン様の様子を気にすることは無く、ギル様は言葉を続けた。
「我の名はギルバートだ。ギルと呼んでくれ。そなたにはずっと礼を言いたかったのだ。
あのハンカチをクリスタに持たせてくれたこと、かたじけない。ありがとう」
この言葉はエンディミオン様の心に響いたのだろう。金縛りが解けたように、エンディミオン様は緩く微笑んだ。すると、そのタイミングで気を遣った先生が声をかけてきた。
「まあまあ、皆さん。立ち話はなんですから、お話はあちらでどうぞ」
この先生の鶴の一声により、私たちは医務室内の奥にあるソファへと移動した。私の隣にはギル様が座っており、対面にはエンディミオン様が1人で座った。そして、早速エンディミオン様がギル様に口を開いた。
「私のハンカチがどのようにして、クリスタ様とギル様を結びつけたのでしょうか? 一応クリスタ様から、軽く聞いたことはありますが……」
「――っ!」
この質問を聞いた瞬間、私はヤバいと思った。なぜなら、エンディミオン様に以前ハンカチの話しをしたとき、かなりオブラートに包んでぼやかした説明しかしていなかったからだ。
一方で、ギル様はオブラートなんて知らないから、すべてそのままダイレクトに伝えてしまう。きっと、今回も容赦ない答えをするんだろうと瞬時に悟った。そして、それは予想通りだった。
「実は我がクリスタが敵だと思って攻撃をしようとしたら、クリスタはそのハンカチを我に見えるように掲げたんだ。それで、あの信じられないほど下手な刺繍を見たら、クリスタに戦意が無いことが明白だと分かり、それを機に仲良くなったんだ」
そう言うと、ギル様は懐かしむように目を細め、フッと笑みを零した。
――悪気も容赦もない言葉だったけれど、エンディミオン様は大丈夫かしら……?
そう思い、ギル様を見ていた私は、視線を前にいるエンディミオン様に戻した。すると、エンディミオン様は何故か頬を少し紅潮させながら、私の方を向いてはにかんできた。
――何で!?
このタイミングでそんな顔をして私を見る意味が分からないっ……!
意味が分からず困惑してしまう。しかし、エンディミオン様は再び視線をギル様に戻し質問を再開した。
「そういうことでしたか……。それなら下手で良かったです! ところで、ギル様はクリスタ様の結婚相手が見つかるまで、こちらにおられるのですよね?」
「ああ、そうだぞっ」
そう力強い返事をすると、ギル様の右側に座っている私の頭の右側をギル様が撫で始めた。
「もう傷付いてほしくないのだ。それに、こう見えてクリスタは甘えたなところもあるから、気を張っている分ちゃんと甘やかしてやらないとな」
――よりにもよってエンディミオン様の前でなんてことを!
そう思いながらエンディミオン様の顔をチラッと見ると、いつもは余裕があるはずの彼の笑顔が引き攣っていた。だがそんなことを気にするはずのないギル様は、先生に話しを振った。
「なあ、アルバートもそのように思うだろう?」
「ふふっ、以前もそのように仰っていましたね」
そう言いながら否定も肯定もせずに、アルバート先生はこの状況を楽しんでいるかのように微笑んだ。
――こういう時に意外と助けてくれないところは、カイルそっくりなんだから!
というより、この状況が続くのは良くないわ。
何といっても恥ずかしすぎる!
取り敢えず、ギル様のこの手を止めないとっ……。
「ギル様、恥ずかしいですから……」
そう素直に伝え、ギル様の手をそっと掴み頭を撫でるその手を下ろさせた。すると、エンディミオン様は葛藤から抜け出したようで、ギル様に真剣な眼差しで話しかけた。
「ギル様、私はクリスタ様のことを、好きなだけ甘やかす自信があります!」
――そんな真剣な表情でなんてことを言っているの……!?
甘やかすとかそう言う問題じゃないでしょう!?
恥ずかしさと混乱でどうにかなりそうだ。そんななか、ギル様にはなぜかエンディミオン様の言葉が響いたようで、早速反応を示した。
「ほう……。クリスタの相手に志願するというのだな……。では、他には?」
「他の誰よりもクリスタ様を愛しております。この想いは誰にも負けません!」
この言葉に、勝手に顔が赤くなってしまうのを自分でも感じる。羞恥心で爆発してしまいそうだ。
すると、そんな私を見て不思議そうな顔をしながら、ギル様が私にとんでもない質問をしてきた。
「のう、クリスタ。アルバートがダメな理由は分かったが、エンディはダメなのか? ハンカチもくれたんだ。それに何より、エンディがクリスタを想う気持ちに濁りは無いぞ?」
ギル様は何の気なしにした発言だろうが、私にとってはある意味人生が賭かった質問だ。そのため、何とか気を落ち着かせようとしながら、ギル様の質問に答えを返そうと必死に頭を巡らせた。
初対面の時は、本当にヤバイ人だと思った。それにもちろん、今も変な人だと思うことはたくさんある。
――でも……正直好感度はだいぶ高い気がするのよね。
エンディミオン様といて楽しいと思うことが、最近はずっと増えたし……。
ただ、この彼への気持ちが恋愛感情なのかと聞かれると……分からない。
今までのエンディミオンの行動を思い出すと、相手としてダメとは言えない。だけど何かこれといった決定打に欠けるのだ。
そう思ってしまう理由……それは、エンディミオン様に対しレアードほど骨抜き状態になってないからかもしれない。
それに公爵令息なんだから、私よりももっと良い相手がいるだろうと思ってしまう。
それらを踏まえ、緊張を何とか抑えながら、ギル様にだけ聞こえるくらいの小声で伝えた。
「ダっ、ダメという訳ではない、ですが……まだ、ちょっと分かりません……」
今まではお断りしますと一刀両断にしていた。だが、相手としてダメかと聞かれると決してダメではない。そのため、今日初めて断り以外の思いを、本人相手にではないが口にした。
もうそれだけで、心臓が破裂しそうなほどドキドキしているのが分かる。それだけ勇気を出して、こっそりギル様だけに伝えたのだ。
すると、ギル様はそんな私の答えを聞き、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んだ。そしてあろうことか、ギル様はその笑顔のままエンディミオン様に口を開いた。
「どうやらダメでは無いらしいぞ!」
――ギル様何で言っちゃうの!
2人だけの秘密じゃなかったの!?
そう思いながら、あらゆる感情を押し殺しギル様を見た。すると予想外なことに、ギル様はさらに言葉を続けた。
「だが……まだ我と一緒に過ごす時間がほしいみたいだな」
そう言いながら、ギル様は私の肩をポンポンと叩いてきた。そしてすぐに、ギル様はエンディミオン様に諭すように語りかけた。
「一方でなく双方の想いが通じなければ、どれだけ想いが強かろうと無意味だ。エンディ……本気でクリスタを想うのであれば、もっと努力することだ」
「はい! ギル様!」
そう発する彼は、希望に満ちたようなキラキラと輝く目でギル様を見つめている。すると、そんな彼を見てギル様は嬉しそうに微笑み口を開いた。
「その心意気、気に入った。エンディ……あとはクリスタの気持ち次第だぞ」
「ギル様ったら、何言っているんですかっ……。エンディミオン様も――」
そう言いかけたが、私はその先の言葉を言えなかった。エンディミオン様の凛々しく微笑んだその顔が、あまりにも眩しく感じたからだ。
最近は特に、彼の様々な表情に調子を崩されているような気がする。そのため、現実逃避するように視線を逸らしたところ、その視線の先にいた先生がぼそっと呟いた。
「ははっ、十分以上に努力してるとは思うんですがね……」
その言葉を聞いて、以前カイルに言われた言葉が蘇り、私は再び胸が締め付けられた。
54
あなたにおすすめの小説
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」
氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」
こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!
そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。
うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」
これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!
18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。
小説家になろうにも掲載しています。
「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。
絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる