【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔

文字の大きさ
65 / 77

65話 生か死か

しおりを挟む
 エンディミオン様が、ネクロマンサーの身体から剣を引き抜いた。その直後、猛威を振るっていたネクロマンサーは、脱力しきった様子でその場に崩れ落ちた。

 すると、戦況は突如として一変した。

 なんと、私たちを取り囲み襲い掛かって来ていたアンデッドたちが、動きを止めたのだ。その姿は、まるで見えない何かに、身体の動きを封じられているかのようだった。

――動きが止まった……?

 アンデッドが攻撃を停止したことを認識した私は、咄嗟に他の騎士たちの様子を確認するべく辺りを見回した。

「何が起こったんだ?」
「どうなっているんだ!?」
「これは一体……」

 動揺を隠せないと言った様子で、騎士たちが戸惑いの声を漏らしている。正直私も、今起こっている出来事すべてに困惑が隠せなかった。

――何が起こっているの?
 やはり、ネクロマンサーの動きと連動して……?

 エンディミオン様がネクロマンサーを倒した瞬間を、私は確かにこの目で見た。

 だが、ネクロマンサーがあまりにもあっけなく倒れただけに、正直死んでいるのかどうか怪しい気持ちになる。

 先ほどまで苦戦を強いられていたからこそ、目の前で怒っている出来事に対する理解が追い付かないだけかもしれないのだが……。

 そう思っていた時だった。エンディミオン様のいる方角から、咆哮にも近い騎士の大きな声が耳に入ってきた。

「おい! エンディミオン団長が敵を倒したみたいだぞ!」

 そう伝える言葉が、戦場に響き渡った。すると、騎士たちはその言葉を確認するかのように、声の聞こえた方へと視線を移した。

 私も辺りを見回していたが、他の騎士たちと同様に声の方に視線を戻した。そして、再びエンディミオン様と、その足元に倒れているネクロマンサーが再び視界に映った瞬間、雄たけびにも似た騎士たちの歓喜の声が耳に刺さった。

――本当の本当に倒したの……?

 あまりにも非現実的な感覚に、思わずそのようなことを考えてしまう。

 しかし、そんな考えが脳内に過ぎる私の目には、ネクロマンサーを倒した証明とでも言うように、先ほどまで襲い掛かって来ていたアンデッドたちが倒れた姿が映っている。それも、一人残らずだ。

 こんな光景を見てしまえば、夢や幻ではなく現実だと受け止めざるを得なかった。

――ついに戦いが終わったんだわっ……。
 本当に、ネクロマンサーを倒したのね……!

 そう認識した途端、私の心には戦いが終わった解放感と、嬉しさや喜びが込み上げてきた。周りの騎士たちも、私と同じ心境というように、泣いたり笑ったりしている。

――これでやっと帰れる。
 早くエンディミオン様のところに行きましょう!

 そう思いながら一歩踏み出した時、私の背筋は凍り付いた。

 視界の枠の中にいる、少し離れた位置に倒れたアンデッドが動いて見えたのだ。そして、動いて見えたアンデッドを注視すると、見間違いのレベルかもしれないが、確かにピクリと動くその姿を捉えた。

 ネクロマンサーが死んでいるのだとしたら、アンデッドが動くなんてことは絶対にありえない。でも、今確かに動いた。

 そのことに気付いた瞬間、一気に嫌な予感が込み上げてきた。本能がヤバイと叫んだ。

――ネクロマンサーに一番近いのはエンディミオン様よ……。
 エンディミオン様が、危ないっ……!

 そう考えた時には、私の身体はその場からエンディミオン様のいる方角へと向かって駆け出していた。そして、私は走りながら彼に向かって大声で叫んだ。

「エンディミオン様!」

 一番危険な張本人がこの状況に気付かなければ話にならない。そのため、彼に気付いてもらうために名前を叫んだところ、エンディミオン様が私の方に視線を向けた。そして、何も気付いていない様子で、私に笑みを向けてきた。

――やっぱり気づいてないんだわ!

 彼はネクロマンサーを倒したと思っている。そう理解した途端、私の中で危機レベルが一気に上昇し、彼にその危機を伝えるべく、間髪入れずに言葉を放った。

「ネクロマンサーはまだ生きてる! 死んでいませんっ……」

 そう叫んだが、満身創痍の状態で走っているせいか、息が漏れてエンディミオン様に届くほどの声量が出せない。しかも、ネクロマンサーを倒したと思っている騎士たちの歓声渦巻くこの場では、私の微かな声など遠くにいるエンディミオン様には一ミリも届かない。

――どうしたら良いの!?
 このままじゃ、本当に死んでしまう……!
 どうしよう……どうしようっ……!

 必死に伝えたいのに、その危機が伝わらない。そのせいで、余計に焦りが生じ、私はパニック寸前と言った状態になってしまった。

 しかし、危機が差し迫っていることを何とか伝えようと、表情やジェスチャーを交えながら、エンディミオン様の元へと向かい走った。

 すると、エンディミオン様は微笑みながら私を見ていたが、唐突にその表情から笑顔が消え、彼が首をかしげながら私の方を見た。

――お願い! 気付いて……!

 そんな気持ちで、私はネクロマンサーの方を指差し、まだ生きていると必死に叫びながら伝えた。

 すると、エンディミオン様はとうとう私の言わんとすることに気付いたようで、ハッと驚いた顔をして血相を変えた。

 だが、それと同時にネクロマンサーが動き出した。

――しまった!
 反応が遅れたから、このままじゃエンディミオン様が黒魔法に巻き込まれる!

 ふと頭の中に、先ほど黒魔法の攻撃を受けぐったりと倒れ込んできたエンディミオン様が浮かんだ。もうそんな光景は二度と見たくない。

 それに、ペンダントの効力も無いため、今度こそ攻撃を受けたらエンディミオン様は確実に死んでしまう。それだけは絶対にあってはならない。

――絶対にエンディミオン様を死なせない。

 私は今、魔力が底を尽きそうなほど枯渇している。だが、そんなことを気にする余裕など一切無く、風魔法を使って一気にネクロマンサーとの距離を詰め、攻撃を庇うべくエンディミオン様の前に立ち塞がった。

「クリスタ様っ!!!!!」
「下がっていてくださいっ!」

 絶叫にも近い声で私を呼ぶエンディミオン様に、私は下がっていろと叫び返した。すると、それと同時にネクロマンサーが攻撃を放ってきた。

 そのため、私はその攻撃を跳ね返し、かつネクロマンサーに攻撃をすべく、残っている魔力をすべて詰め込んだ命がけのサンダーボルトを放った。

 その瞬間、私の身体には今まで感じたことが無いほどの衝撃と激痛が走った。恐らく、疲労した身体で、魔力消費の多い攻撃性に優れた魔法を使い、負荷をかけたことが原因だろう。

 しかし、私が今この攻撃を辞めると、黒魔法が降りかかってくることは明白だった。したがって、どれだけの激痛が走ろうと、もう攻撃を止めるわけにはいかなかった。

――確実に黒魔法は跳ね返せているはず。
 でも、ネクロマンサー自身が本当にしぶといわっ……。

 ネクロマンサーの表情を見ると、私の攻撃を食らい今にも倒れそうな状態になっている。だが、その状態がいつまでも続き、なかなか倒れるには至らない。

 一方で、威力の強い攻撃を続けている私は、自身の魔力が減っているのをもろに感じていた。そのうえ、急激な魔力を放出の影響のせいか、ついに意識が遠のき始めてしまった。

 倒れそうなのに倒れないネクロマンサー。もう少しで魔力が枯渇し、攻撃が出来なくなる。そんな状況に直面し、私の心の中は焦燥感に駆られていた。

――どちらが耐えられるのかに、私たちの命運がかかっているっ……。

 私とネクロマンサーのどちらが先に倒れてもおかしくない。そんな中、私は気合いだけでなんとか踏ん張り続け、ネクロマンサーに必死に攻撃を続けた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...