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12話 どうしよう
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メアリーさんが入り口に立つ仮面の人物を手招いたため、彼はこちらへと近付いてきた。そして、私とメアリーさんの目の前まで来ると、メアリーさんは笑いながら私に今のこの状況についての説明を始めた。
「シェリー、驚かせてごめんなさい。まだ紹介してなかったわね。あまり店内で会う機会はないと思うんだけど、彼もこの店の従業員なのよ。店の裏方の仕事は全部彼がしてくれているのよ! 本当に頼りになる子なの!」
仮面の人物の腕をポンポンと叩きながら、メアリーさんが説明をするが私は今この状況を飲み込むのに必死である。しかし、そこまで思いつめているとは知るはずもないメアリーさんは、嬉しそうな表情で話しを続けた。
「困ったことがあったら、もちろん私やジェイスにでもいいけど、この子にも頼っていいからね! 彼は若いし、細身に見えるけど力持ちなのよ!」
そう言うと、メアリーさんはグッと親指を立てた。メアリーさんのこの説明により、仮面の人物の変人疑惑は晴れた。しかし、私にとってこの人物は重大な問題の原因でしかなかった。
――口元が見えないから、何て言っているか分からないよ……。
本当にどうしよう……。
彼が喋っているかどうかすらまったく分からない。だからこそ、先手必勝とばかりに、私はメアリーさんの口の動きからタイミングを見計らって、自分から声をかけた。
「昨日から働き始めたシェリ―・スフィアです。よろしくお願いします!」
そう自己紹介をしながら、とりあえず頭を下げた。だが、怖くて顔を上げることができない。こうして頭を下げている間、どんどん精神的に追い詰められる。
こうして、恐怖心からそのまま俯いていると、目の前に手が差し出された。突然視界に入ったため驚き反射的に顔を上げると、その手は仮面の人物が差し出した手だということが分かった。まあ、それ以外の人物は有り得なかったのだが……。
その手の主を確認し、メアリーさんの方に顔を向けた。すると、メアリーさんは宥めるように笑いながら口を動かした。
「そんなに緊張しなくていいから、とりあえず握手よ握手! ほら!」
そう言われ、私は恐る恐るではあるが、仮面の男が差し出したその右手をそっと握った。そして、仮面の男も私が握った手をギュッとしっかり握り返してくれた。
そんな彼の手は温かく、人としての温もりを感じた。その温もりは、私の中の彼に対する恐怖心をほんの少しだけ溶かした。しかし、彼の手に関して少し気になることがあった。
――左手にだけ手袋を付けてるなんて変な人ね?
握手していない方の左手をチラッと見ると、変わった形の革製の手袋をしている。なぜ右手には手袋を付けていないのか不思議に思いながら、握り合っていた手を離した。その途端、突然仮面の男が慌てた様子になった。
何事だと思いながら彼の様子を見ていると、彼ほど焦ってはいないがメアリーさんも驚いた表情をして口を動かした。
「それはいけない! 早く行って安全管理は大事よ!」
そのメアリーさんの口の動きと合わせるように、彼は慌てた様子で店の外へと飛び出て行った。何事だろうと思いながらも、彼が出ていた店の入り口に目をやったが、すぐにパセリを持っていることを思い出した。
「メアリーさん、すみませんでした。ジェイスさんにパセリ渡してきますね」
そう伝え、ジェイスさんにパセリを渡し厨房を出たところでメアリーさんが話しかけてきた。
「もう今日はシェリ―はあがりの時間ね。お疲れ様。2日目だったけど、やっぱりまだまだ大変だったでしょう? 今日もゆっくり休んでね」
メアリーさんがあがりの時間と言ってくれているのだ。下手にもう1回仮面の男に会う前に帰ろう。話しかけられても困る。
「はい、ありがとうございます。お疲れ様です」
素直にそう言葉を返し、仮面の男に見つかる前にといそいそ帰るために店を出た。今日は疲れた。でも、メアリーさんはあまり店内で会う機会はないと言っていた。それを信じよう。
そう思い出勤したが、次の日も、その次の日も、またその次の日も、店内外問わず仮面の男に会った。
――さすがに一緒に働いているのに、挨拶しないってのはいけないわよね……。
そう思い、今日も仮面の男の後ろ姿を見かけたため挨拶をした。
「おはようございます!」
そう言うだけ言って、顔も見ずにすぐにその場を離れた。毎回こっちが先に見つけた時だけ、挨拶をするようにした。挨拶をしていないわけではないし、我ながら最低限の良い作戦だと思った。
一方で困るのは、あちらから話しかけられた時だ。そのため、常に周囲を警戒して彼がどこにいるのかを把握しておくよう心がけた。そして、話しかけられそうな雰囲気を何となく察知すれば、素早くその場から立ち去るようにした。
正直避けることは難しいだろうと思っていた。しかし大抵の場合、お客さんがすぐ近くにいるため、お客様対応をしている風を出すことによって、彼を避けていることを誤魔化すことに成功している……はずだ。
私はここ数日、ずっと仮面の男を見てきた。だからこそ、当たり前だが彼が不審者でないことは完全に分かっている。何なら不審者どころか、彼は非常によく働き、仕事も丁寧で誠実そうな人だと感じた。
だが、どうにも解せないことがある。仮面を付けているということだ。なぜこんな勤勉で誠実そうな人が仮面をつけているのだろうと、なおさら疑問が湧いてくる。単純に変だ。おかしいのである。
私が出勤している時間、彼がどんな話しをしているのかについて汲み取る方法は、彼が誰かと会話をしている時しかない。
しかし、メアリーさんと仮面の男が普段私の目の前で会話する機会はほぼなく、話していたとしても遠くから見る程度の距離である。
そのうえ、メアリーさんは仮面の男の話を私にする時、この子とかあの子という言い方をするから、いまだに名前も分からない。聞けば良い話だと思うだろうが、もし万が一聞いたことをきっかけに彼を呼び出されたら困るため、名前は聞かなかった。
――本当にどうしよう……。
そう真剣に悩み、メアリーさんが彼についての話しをしているときに、1度だけ賭けで彼について質問してみた。
「彼はいつから働いているんですか?」
「いつからって言われると難しいわね……。実は、あの子の家族が亡くなってね、それからあの子の母の妹である私が、いわゆる育ての親って感じで面倒見てて……。ただ、あの子は子どものころから手伝ってくれてるから、いつからってよりは、いつの間にかって感じなの」
――亡くなってるんだ……。
そんな事情があったのね。
彼は恐らく、育ての親であるメアリーさんのために働いているんだろう。そんな彼に対して、自分が取っている態度は褒められたものではないし最低だ。
事情を知っている人なら、私のこの対応を理解できなくはないと言ってくれるかもしれない。でも、彼はそんな事情は知らないし、もしかしたら避けていることに気付いていて、嫌な思いをさせてしまっているかもしれない。
そう思うと、彼に対する罪悪感がグッと心の中で倍増した。
――せめて、何らかの形でお詫びでも出来れば……。
そう考えた結果、私はクッキーなどのちょっとした差し入れを、『お疲れ様です』とだけ書いたメモを添えて、彼の荷物置き場にこっそり置くようにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読み下さりありがとうございます(*^^*)
新連載を始めますので、ご興味のある方は見てくださったら嬉しいです!
『裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!』
というタイトルです。異世界恋愛&ファンタジーの世界観です。よろしくお願いします♪
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「困ったことがあったら、もちろん私やジェイスにでもいいけど、この子にも頼っていいからね! 彼は若いし、細身に見えるけど力持ちなのよ!」
そう言うと、メアリーさんはグッと親指を立てた。メアリーさんのこの説明により、仮面の人物の変人疑惑は晴れた。しかし、私にとってこの人物は重大な問題の原因でしかなかった。
――口元が見えないから、何て言っているか分からないよ……。
本当にどうしよう……。
彼が喋っているかどうかすらまったく分からない。だからこそ、先手必勝とばかりに、私はメアリーさんの口の動きからタイミングを見計らって、自分から声をかけた。
「昨日から働き始めたシェリ―・スフィアです。よろしくお願いします!」
そう自己紹介をしながら、とりあえず頭を下げた。だが、怖くて顔を上げることができない。こうして頭を下げている間、どんどん精神的に追い詰められる。
こうして、恐怖心からそのまま俯いていると、目の前に手が差し出された。突然視界に入ったため驚き反射的に顔を上げると、その手は仮面の人物が差し出した手だということが分かった。まあ、それ以外の人物は有り得なかったのだが……。
その手の主を確認し、メアリーさんの方に顔を向けた。すると、メアリーさんは宥めるように笑いながら口を動かした。
「そんなに緊張しなくていいから、とりあえず握手よ握手! ほら!」
そう言われ、私は恐る恐るではあるが、仮面の男が差し出したその右手をそっと握った。そして、仮面の男も私が握った手をギュッとしっかり握り返してくれた。
そんな彼の手は温かく、人としての温もりを感じた。その温もりは、私の中の彼に対する恐怖心をほんの少しだけ溶かした。しかし、彼の手に関して少し気になることがあった。
――左手にだけ手袋を付けてるなんて変な人ね?
握手していない方の左手をチラッと見ると、変わった形の革製の手袋をしている。なぜ右手には手袋を付けていないのか不思議に思いながら、握り合っていた手を離した。その途端、突然仮面の男が慌てた様子になった。
何事だと思いながら彼の様子を見ていると、彼ほど焦ってはいないがメアリーさんも驚いた表情をして口を動かした。
「それはいけない! 早く行って安全管理は大事よ!」
そのメアリーさんの口の動きと合わせるように、彼は慌てた様子で店の外へと飛び出て行った。何事だろうと思いながらも、彼が出ていた店の入り口に目をやったが、すぐにパセリを持っていることを思い出した。
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メアリーさんがあがりの時間と言ってくれているのだ。下手にもう1回仮面の男に会う前に帰ろう。話しかけられても困る。
「はい、ありがとうございます。お疲れ様です」
素直にそう言葉を返し、仮面の男に見つかる前にといそいそ帰るために店を出た。今日は疲れた。でも、メアリーさんはあまり店内で会う機会はないと言っていた。それを信じよう。
そう思い出勤したが、次の日も、その次の日も、またその次の日も、店内外問わず仮面の男に会った。
――さすがに一緒に働いているのに、挨拶しないってのはいけないわよね……。
そう思い、今日も仮面の男の後ろ姿を見かけたため挨拶をした。
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――亡くなってるんだ……。
そんな事情があったのね。
彼は恐らく、育ての親であるメアリーさんのために働いているんだろう。そんな彼に対して、自分が取っている態度は褒められたものではないし最低だ。
事情を知っている人なら、私のこの対応を理解できなくはないと言ってくれるかもしれない。でも、彼はそんな事情は知らないし、もしかしたら避けていることに気付いていて、嫌な思いをさせてしまっているかもしれない。
そう思うと、彼に対する罪悪感がグッと心の中で倍増した。
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