1 / 17
1話 悩めるエリーゼ
しおりを挟む
「今、何と言ったの……?」
彼の言葉が理解できず、茫然と震える声で訊ねる。そんな私に、彼はさきほどの発言と同様の言葉を告げた。
「君が俺を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は俺のことを好きじゃない」
何度聞いても分からない。理解が追いつかない。
こんなにも彼のことを好きだし愛しているのに、よりにもよってその対象である本人に、この感情を否定されるだなんて……。
離婚したい――きっとそう言われるのだろうと思っていた。
だからこそ、ある意味で予想外な彼の言葉に、私は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
しかし、彼はその衝撃にさらなる追い打ちをかける言葉を続けた。
「今から君にかかった魅了魔法を解除する」
「…………えっ?」
ちょっと待ってほしい。
あまりにも展開が早すぎでは無いだろうか。
彼の言葉にとても心が追いつかない。
そんな私の脳内には、これまで彼とともに過ごした記憶がまるで走馬灯のように駆け巡った。
◇◇◇
ロオネル王国のベルガー公爵家に生まれた私、エリーゼが結婚したのは今から約二年前のこと……。
柔らかい白茶の髪に、凛々しいピンクブラウンの目。
適度に高く整った鼻に、形の良い口唇。
鍛えられた程よい筋肉を持ちながらも、細身かつ長身の青年。
まるで絵物語から抜け出た王子様のよう。そんな彼は、その麗しい見目だけで数多のご令嬢の恋心を攫うことから“初恋”と呼ばれている。
そう、この人こそが私の結婚相手――ラディリアス・ヴィルナーだ。
ヴィルナー公爵家に生まれた一人息子の彼は、両親を早くに亡くしており、私と出会ったときはすでに公爵になっていた。
“初恋”という通り名を持つ見目麗しい若き公爵、そんな彼の結婚には、当時社交界中の誰もが注目していた。
その最中、私とリアスは恋に落ちてから約二カ月という電撃的な速さで結婚したのだ。
リアスと私は交際以前から知り合いではあった。
しかし、特別かかわりが多い方でもない彼は私にとって、たまに社交界で交流をする程度の縁遠い人、そんな印象だった。
だがある夜の舞踏会でふとリアスと目が合った時、恋することは運命だと決められていたかのように私は彼に強く心惹かれた。
あのときの体験を一言で表すなら『鮮烈』――この言葉に尽きるだろう。
こうして互いに心惹かれ合い、私たちは二ヵ月という短い交際期間を経て、今日も続く夫婦になったというわけだ。
当然、社交界中は私たちの結婚に大騒ぎした。
寝耳に水とでもいうように、皆が私たちの結婚など予想もしていなかったという反応を示した。
だが結婚した日から今日まで、私たちの関係は交際期間の短さを感じさせないほど極めて順風満帆だった。
夫婦円満、おしどり夫婦とは、私たちを表す言葉と自称できるほどだ。
だけど最近、そんな私たちの関係に妙な違和感が生じていた。その原因は、夫のラディリアスことリアスの言動にあった。
◇◇◇
「ねえ、リアス」
「ん? どうした、エリーゼ?」
「少し元気がないように見えたから、どこか優れないところがあるんじゃないかと思って」
彼の顔はどことなく疲れており、顔色もあまり良くない。その姿に、思わず心配になる。
でも、張本人のリアスは私の言葉を聞くと、困ったように笑うのだった。
「エリーゼは心配症だな。大丈夫だよ、俺はいたって健康そのものだよ」
「だけど――」
無理しているように見える。そう言いかけたが、笑いながらも気まずげに目を逸らす彼の反応を見て、私はハッと口をつぐんだ。
これ以上問い詰めたら、本当に何も話してくれなくなると思ったのだ。
そしたら、もっとリアスがつらくなるかもしれない。
でも、妻として彼を支えたい気持ちは消えなくて。だから一言だけ、彼に伝えることにした。
「……ねえ、リアス」
「うん……」
「一人で抱えきれないとき、いつでも私がいるって忘れないでちょうだい」
そっと彼の手を握る。すると、リアスは息を呑み顔を上げた。
「エリーゼ……」
私の名を呟く彼の目は、涙が滲んでいるようだった。しかし、それは一瞬のことで。
「うーん、確かにちょっと疲れているかも。でも問題ないよ。エリーゼは優しいな、ありがとう」
そう言って、彼は笑って見せた。
でも、その笑顔は以前のような心からの笑顔とは感じられない。
まるで、抱えたジレンマを誤魔化すための、偽りの笑みのようだった。
彼の言葉が理解できず、茫然と震える声で訊ねる。そんな私に、彼はさきほどの発言と同様の言葉を告げた。
「君が俺を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は俺のことを好きじゃない」
何度聞いても分からない。理解が追いつかない。
こんなにも彼のことを好きだし愛しているのに、よりにもよってその対象である本人に、この感情を否定されるだなんて……。
離婚したい――きっとそう言われるのだろうと思っていた。
だからこそ、ある意味で予想外な彼の言葉に、私は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
しかし、彼はその衝撃にさらなる追い打ちをかける言葉を続けた。
「今から君にかかった魅了魔法を解除する」
「…………えっ?」
ちょっと待ってほしい。
あまりにも展開が早すぎでは無いだろうか。
彼の言葉にとても心が追いつかない。
そんな私の脳内には、これまで彼とともに過ごした記憶がまるで走馬灯のように駆け巡った。
◇◇◇
ロオネル王国のベルガー公爵家に生まれた私、エリーゼが結婚したのは今から約二年前のこと……。
柔らかい白茶の髪に、凛々しいピンクブラウンの目。
適度に高く整った鼻に、形の良い口唇。
鍛えられた程よい筋肉を持ちながらも、細身かつ長身の青年。
まるで絵物語から抜け出た王子様のよう。そんな彼は、その麗しい見目だけで数多のご令嬢の恋心を攫うことから“初恋”と呼ばれている。
そう、この人こそが私の結婚相手――ラディリアス・ヴィルナーだ。
ヴィルナー公爵家に生まれた一人息子の彼は、両親を早くに亡くしており、私と出会ったときはすでに公爵になっていた。
“初恋”という通り名を持つ見目麗しい若き公爵、そんな彼の結婚には、当時社交界中の誰もが注目していた。
その最中、私とリアスは恋に落ちてから約二カ月という電撃的な速さで結婚したのだ。
リアスと私は交際以前から知り合いではあった。
しかし、特別かかわりが多い方でもない彼は私にとって、たまに社交界で交流をする程度の縁遠い人、そんな印象だった。
だがある夜の舞踏会でふとリアスと目が合った時、恋することは運命だと決められていたかのように私は彼に強く心惹かれた。
あのときの体験を一言で表すなら『鮮烈』――この言葉に尽きるだろう。
こうして互いに心惹かれ合い、私たちは二ヵ月という短い交際期間を経て、今日も続く夫婦になったというわけだ。
当然、社交界中は私たちの結婚に大騒ぎした。
寝耳に水とでもいうように、皆が私たちの結婚など予想もしていなかったという反応を示した。
だが結婚した日から今日まで、私たちの関係は交際期間の短さを感じさせないほど極めて順風満帆だった。
夫婦円満、おしどり夫婦とは、私たちを表す言葉と自称できるほどだ。
だけど最近、そんな私たちの関係に妙な違和感が生じていた。その原因は、夫のラディリアスことリアスの言動にあった。
◇◇◇
「ねえ、リアス」
「ん? どうした、エリーゼ?」
「少し元気がないように見えたから、どこか優れないところがあるんじゃないかと思って」
彼の顔はどことなく疲れており、顔色もあまり良くない。その姿に、思わず心配になる。
でも、張本人のリアスは私の言葉を聞くと、困ったように笑うのだった。
「エリーゼは心配症だな。大丈夫だよ、俺はいたって健康そのものだよ」
「だけど――」
無理しているように見える。そう言いかけたが、笑いながらも気まずげに目を逸らす彼の反応を見て、私はハッと口をつぐんだ。
これ以上問い詰めたら、本当に何も話してくれなくなると思ったのだ。
そしたら、もっとリアスがつらくなるかもしれない。
でも、妻として彼を支えたい気持ちは消えなくて。だから一言だけ、彼に伝えることにした。
「……ねえ、リアス」
「うん……」
「一人で抱えきれないとき、いつでも私がいるって忘れないでちょうだい」
そっと彼の手を握る。すると、リアスは息を呑み顔を上げた。
「エリーゼ……」
私の名を呟く彼の目は、涙が滲んでいるようだった。しかし、それは一瞬のことで。
「うーん、確かにちょっと疲れているかも。でも問題ないよ。エリーゼは優しいな、ありがとう」
そう言って、彼は笑って見せた。
でも、その笑顔は以前のような心からの笑顔とは感じられない。
まるで、抱えたジレンマを誤魔化すための、偽りの笑みのようだった。
386
あなたにおすすめの小説
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
裏切りの街 ~すれ違う心~
緑谷めい
恋愛
エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定
夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜
出 万璃玲
恋愛
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
「あのね、僕、弟か妹が欲しい!」
四歳の息子の純真無垢な願いを聞いて、アマーリアは固まった。愛のない結婚をした夫と関係を持ったのは、初夜の一度きり。弟か妹が生まれる可能性は皆無。だが、彼女は息子を何よりも愛していた。
「愛するエーミルの願いを無下にするなんてできない」。そう決意したアマーリアは、サンタ……もとい、夫ヴィンフリートに直談判する。
仕事人間でほとんど家にいない無愛想な夫ヴィンフリート、はじめから結婚に期待のなかった妻アマーリア。
不器用な夫婦それぞれの想いの行方は、果たして……?
――政略結婚からすれ違い続けた夫婦の、静かな「恋のやり直し」。
しっとりとした大人の恋愛と、あたたかな家族愛の物語です。
(おまけSS含め、約10000字の短編です。他サイト掲載あり。表紙はcanvaを使用。)
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる