オレの愛しい王子様

瑞原唯子

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プロローグ

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「まだそんなズボンはいて僕とか言ってんのかよ」
 創真がなかよしの翼をさそって園庭のすべり台に向かっていたところ、やんちゃな男子三人組がとおせんぼをするように立ちふさがり、いじわるな言葉をぶつけてきた。創真ではなくその後ろにいる翼に。
 彼らはいつもそうやって翼をいじめるのだ。
 しかしながら翼は何を言われても決して言い返そうとしない。いまも困ったような顔をしてただじっと下を向くだけである。代わりにというわけではないけれど創真がカッとして啖呵を切る。
「おまえらにはカンケーないだろっ!」
「気持ちわりーんだから関係あるぜ」
「なにぃ?!」
 思わずこぶしを握りしめて突っかかろうとしたが、翼に後ろから腕を掴まれた。その手は非力だったものの無理には振りほどけない。なすがまま園庭のすみっこのほうに連れていかれてしまう。
「逃げんのかよ、よわむしー!」
「タマついてねーもんな」
 背後からはそんな嘲笑の声が聞こえてきた。
 創真は耐えきれずに振り返ったものの、そのときには三人ともこちらのことなど見てもおらず、何事もなかったかのようにジャングルジムへ駆けていく。
「なんだよ……」
 消化不良のまま、創真は微妙な面持ちで翼に向きなおった。
「なあ、おまえもイヤならちゃんと言い返せよな」
 どんなに嫌なことを言われてもただじっと我慢しているだけなのが、創真にはもどかしい。しかしながら翼はまるで当然だとばかりにさらりと答える。
「ケンカは悪いことだからやっちゃダメなんだ」
「だけど、あいつらがさきに言ってきたんだぞ」
「それでもぼくは西園寺の後継者だから……」
「コウケイシャ?」
 聞き慣れない言葉に創真が首を傾げると、翼はふわっと笑う。
「うん、おとなになったら会社のいちばんえらいひとになるんだって。だからいい子でいないといけないんだ。勉強もいっぱいして、かしこい立派なおとなになれって母上にいつも言われてる」
「ふーん……」
 いじわるされても我慢するのがいい子だなんてなんだか納得できない。えらいひとになるためにいい子でいるというのも窮屈に感じる。それでも翼自身ががんばろうとしているのなら——。
「じゃあ、オレがそばについててやるよ」
「ついて……?」
 きょとんとした翼を見つめて、力強くうなずく。
「うん、さっきみたいにいじめられてたら助けるし、えらい人になれるように手伝う。勉強もいっしょにしよう。おとなになってもずっと翼のそばにいる」
 自分で言いながらとてもいい考えだと思った。
 翼といっしょにいられたらうれしいし、翼の力になれたらもっとうれしい。きっと翼もとなりで笑顔を見せてくれるはずだ。
「約束する、ほら」
 創真のよりもひとまわり小さな手を取り、小指と小指を絡める。
 大事な約束はこうやって指切りするのだと聞いた。ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら——軽く手を振りながらそう歌うと、翼はだんだんと顔をほころばせて幸せそうに笑ってくれた。
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