4 / 94
4. セカンド・インプレッション
しおりを挟む
ジークは合格発表の日以来ずっと落ち込んでいた。小さな女の子に負けたことがよほどショックだったらしい。遠くを見て溜め息をつく日々が続いた。両親もリックも、こんなジークを見るのは初めてで、どう対処してよいものやらわからなかった。下手に慰めの言葉を掛けてもよけい傷つけるだけだろうということは想像がついた。
そうこうしているうちに王立アカデミーの入学式の日がやってきた。
「ジーク、急がないと遅れるよ!」
リックが玄関口でジークを急かす。しかし出てくる気配はない。
「ジーク!」
もう一度呼んでみるが返事が返ってこない。リックに不安がよぎる。しばらく待っていたが一向に出てくる気配がないので勝手に上がり、ジークの部屋のある二階に向かう。部屋の戸は開け放たれていて、ジークはその部屋のまん中に座っているのが見えた。リックからは背中しか見えないので、その表情までは察することはできない。しかしリックには、ジークの背中に暗い影のようなものを感じた。
「ジーク、まさか行かないなんて、言わないよね?」
「……」
「ジーク?」
「……ばーか。なにいってんだよ。せっかく合格したのになんでフイにしなくちゃいけないんだよ。それに、いつかあのガキにギャフンと言わせなきゃな」
そう言うとリックの方を振り返り、ニヤリと勝ち気な笑みを浮かべた。それを見てリックは安堵するとともに、怒りが込み上げてきた。
「だったら、そんなにゆっくりしてる場合じゃないよ!! ホントに遅れるよ!!」
ジークとリックは全力疾走でなんとか間に合った。
「せっかくの入学式にこんなヘトヘトになるなんて、もう……」
ぐったりした様子のリック。それとは対照的に息の乱れていないジーク。
「おまえ、体の鍛え方が足りないんだよ」
自分のせいでこうなったことをわかっているのかわかっていないのか、平然と言い放つ。リックは、はいはいといった感じで聞き流す。こんなことにいちいち腹を立てていてはジークの親友はつとまらない。
全員揃ったところで、入学者は並ばされることになった。その並び順は、入学試験の成績順であった。ジークにとっては再びの屈辱であるはずだが、ふっきれたのかふっきろうとしているのか、表情には出さなかった。魔導全科の20名がいちばん前、横一列に並ぶ。その後ろに他の学科の生徒たちが並ぶ。ジークの右隣には、アンジェリカがまっすぐ前を見て立っている。ジークは横目でその様子をじっと見ていた。なにか決意を秘めた強い瞳、しゃきっと伸ばした背筋。この小さな女の子が、なぜか大きく見えた。ジークは視線を前に移した。
「なぁ、おまえ」
小さな声で呼び掛けた。アンジェリカは自分のことだと気付いたのか横のジークを見上げる。ジークは前を向いたままで続けた。
「小さく見えるけど、何歳なんだ?」
アンジェリカも前を向き答えた。
「10歳」
実はこう見えても18くらいだったりして、とちょっと期待を込めて尋ねたが、やはりというかあてが外れた。
「そうだよな」
ジークは自分の悪あがきに苦笑いした。アンジェリカはそんなジークをいぶかしげに見上げた。そして思い出したようにはっとして言った。
「私、アンジェリカって名前があるの。おまえなんて言わないで!」
一生懸命そう言うアンジェリカを見ていると、ジークはなぜだか笑えてきた。そんなジークに不満たっぷりのアンジェリカは頬をふくらませる。
「わかった、わかった。アンジェリカ、だな」
そして、一息おいてさらに言った。
「よろしくな」
その言葉は、自分でも驚くくらいあっさりと口をついて出た。煮え湯を飲まされた相手にこんな言葉を掛けるとは、自分でも意外としかいいようがなかった。
そうこうしているうちに王立アカデミーの入学式の日がやってきた。
「ジーク、急がないと遅れるよ!」
リックが玄関口でジークを急かす。しかし出てくる気配はない。
「ジーク!」
もう一度呼んでみるが返事が返ってこない。リックに不安がよぎる。しばらく待っていたが一向に出てくる気配がないので勝手に上がり、ジークの部屋のある二階に向かう。部屋の戸は開け放たれていて、ジークはその部屋のまん中に座っているのが見えた。リックからは背中しか見えないので、その表情までは察することはできない。しかしリックには、ジークの背中に暗い影のようなものを感じた。
「ジーク、まさか行かないなんて、言わないよね?」
「……」
「ジーク?」
「……ばーか。なにいってんだよ。せっかく合格したのになんでフイにしなくちゃいけないんだよ。それに、いつかあのガキにギャフンと言わせなきゃな」
そう言うとリックの方を振り返り、ニヤリと勝ち気な笑みを浮かべた。それを見てリックは安堵するとともに、怒りが込み上げてきた。
「だったら、そんなにゆっくりしてる場合じゃないよ!! ホントに遅れるよ!!」
ジークとリックは全力疾走でなんとか間に合った。
「せっかくの入学式にこんなヘトヘトになるなんて、もう……」
ぐったりした様子のリック。それとは対照的に息の乱れていないジーク。
「おまえ、体の鍛え方が足りないんだよ」
自分のせいでこうなったことをわかっているのかわかっていないのか、平然と言い放つ。リックは、はいはいといった感じで聞き流す。こんなことにいちいち腹を立てていてはジークの親友はつとまらない。
全員揃ったところで、入学者は並ばされることになった。その並び順は、入学試験の成績順であった。ジークにとっては再びの屈辱であるはずだが、ふっきれたのかふっきろうとしているのか、表情には出さなかった。魔導全科の20名がいちばん前、横一列に並ぶ。その後ろに他の学科の生徒たちが並ぶ。ジークの右隣には、アンジェリカがまっすぐ前を見て立っている。ジークは横目でその様子をじっと見ていた。なにか決意を秘めた強い瞳、しゃきっと伸ばした背筋。この小さな女の子が、なぜか大きく見えた。ジークは視線を前に移した。
「なぁ、おまえ」
小さな声で呼び掛けた。アンジェリカは自分のことだと気付いたのか横のジークを見上げる。ジークは前を向いたままで続けた。
「小さく見えるけど、何歳なんだ?」
アンジェリカも前を向き答えた。
「10歳」
実はこう見えても18くらいだったりして、とちょっと期待を込めて尋ねたが、やはりというかあてが外れた。
「そうだよな」
ジークは自分の悪あがきに苦笑いした。アンジェリカはそんなジークをいぶかしげに見上げた。そして思い出したようにはっとして言った。
「私、アンジェリカって名前があるの。おまえなんて言わないで!」
一生懸命そう言うアンジェリカを見ていると、ジークはなぜだか笑えてきた。そんなジークに不満たっぷりのアンジェリカは頬をふくらませる。
「わかった、わかった。アンジェリカ、だな」
そして、一息おいてさらに言った。
「よろしくな」
その言葉は、自分でも驚くくらいあっさりと口をついて出た。煮え湯を飲まされた相手にこんな言葉を掛けるとは、自分でも意外としかいいようがなかった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる