遠くの光に踵を上げて

瑞原唯子

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4. セカンド・インプレッション

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 ジークは合格発表の日以来ずっと落ち込んでいた。小さな女の子に負けたことがよほどショックだったらしい。遠くを見て溜め息をつく日々が続いた。両親もリックも、こんなジークを見るのは初めてで、どう対処してよいものやらわからなかった。下手に慰めの言葉を掛けてもよけい傷つけるだけだろうということは想像がついた。

 そうこうしているうちに王立アカデミーの入学式の日がやってきた。
「ジーク、急がないと遅れるよ!」
 リックが玄関口でジークを急かす。しかし出てくる気配はない。
「ジーク!」
 もう一度呼んでみるが返事が返ってこない。リックに不安がよぎる。しばらく待っていたが一向に出てくる気配がないので勝手に上がり、ジークの部屋のある二階に向かう。部屋の戸は開け放たれていて、ジークはその部屋のまん中に座っているのが見えた。リックからは背中しか見えないので、その表情までは察することはできない。しかしリックには、ジークの背中に暗い影のようなものを感じた。
「ジーク、まさか行かないなんて、言わないよね?」
「……」
「ジーク?」
「……ばーか。なにいってんだよ。せっかく合格したのになんでフイにしなくちゃいけないんだよ。それに、いつかあのガキにギャフンと言わせなきゃな」
 そう言うとリックの方を振り返り、ニヤリと勝ち気な笑みを浮かべた。それを見てリックは安堵するとともに、怒りが込み上げてきた。
「だったら、そんなにゆっくりしてる場合じゃないよ!! ホントに遅れるよ!!」

 ジークとリックは全力疾走でなんとか間に合った。
「せっかくの入学式にこんなヘトヘトになるなんて、もう……」
 ぐったりした様子のリック。それとは対照的に息の乱れていないジーク。
「おまえ、体の鍛え方が足りないんだよ」
 自分のせいでこうなったことをわかっているのかわかっていないのか、平然と言い放つ。リックは、はいはいといった感じで聞き流す。こんなことにいちいち腹を立てていてはジークの親友はつとまらない。

 全員揃ったところで、入学者は並ばされることになった。その並び順は、入学試験の成績順であった。ジークにとっては再びの屈辱であるはずだが、ふっきれたのかふっきろうとしているのか、表情には出さなかった。魔導全科の20名がいちばん前、横一列に並ぶ。その後ろに他の学科の生徒たちが並ぶ。ジークの右隣には、アンジェリカがまっすぐ前を見て立っている。ジークは横目でその様子をじっと見ていた。なにか決意を秘めた強い瞳、しゃきっと伸ばした背筋。この小さな女の子が、なぜか大きく見えた。ジークは視線を前に移した。
「なぁ、おまえ」
 小さな声で呼び掛けた。アンジェリカは自分のことだと気付いたのか横のジークを見上げる。ジークは前を向いたままで続けた。
「小さく見えるけど、何歳なんだ?」
 アンジェリカも前を向き答えた。
「10歳」
 実はこう見えても18くらいだったりして、とちょっと期待を込めて尋ねたが、やはりというかあてが外れた。
「そうだよな」
 ジークは自分の悪あがきに苦笑いした。アンジェリカはそんなジークをいぶかしげに見上げた。そして思い出したようにはっとして言った。
「私、アンジェリカって名前があるの。おまえなんて言わないで!」
 一生懸命そう言うアンジェリカを見ていると、ジークはなぜだか笑えてきた。そんなジークに不満たっぷりのアンジェリカは頬をふくらませる。
「わかった、わかった。アンジェリカ、だな」
 そして、一息おいてさらに言った。
「よろしくな」
 その言葉は、自分でも驚くくらいあっさりと口をついて出た。煮え湯を飲まされた相手にこんな言葉を掛けるとは、自分でも意外としかいいようがなかった。
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