俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外四十二(抜け番外は非公開ですが読むのに問題なし)悪魔メイドダリオと赤い靴の少女焼殺事件

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 バーンズ准教授とのやり取りの後、アルバイトも終わってクラブの扉を押し開けると、夜の冷気が肌を刺した。
 雑踏の流れから、すっと人間離れした美貌の青年が並んで歩き出す。

「うわ……気配もなくてびっくりした」

 いきなり横に並ばれて、さすがにダリオも息をのむ。
 一方、コート姿の青年は悪びれない。

「帰り道が同じでしたので」
「同じも何も一緒に暮らしてるだろ」
「人外ジョークです」

 ここ、笑うところか?
 ダリオはテオドールと並び、秋の肌寒いイーストシティを歩く。

「今日は寄り道するつもりなんだが」
「古物商ですね」
「……滑らかに通じるのが怖い。どこから話を把握してるんだ……?」

「おおよそは」
「“おおよそ”で済ませる範囲じゃないだろ……」

 あまりダリオの私生活に監視などの露骨な介入はしてこないテオドールだが、怪異の相談事や仕事関連だと違う。
 どういうわけか聞きつけて、内容を把握されていることが多い。
 話の手間が省けて、便利といえば便利だが、それもどうなんだ。

 並んで歩く二人の背に、街の光が滲んでいた。

 通りのネオンが切れかけた頃、一軒だけ、暖かい橙の光を漏らす店があった。
「Ashcroft & Sons Curiosities」──古物商。アートギャラリー系の店だ。

 “By appointment only(要予約)”とガラスに印字されており、実質24時間対応のようだ。

「ここか。まだ明かりが漏れているな」

 携帯フォンを片手に、ダリオは場所を確かめる。

「聞いた話じゃ、夜間営業もやってるみたいが」

 扉を押した瞬間、鈴の音とともに、中の空気だけが、別の時代のものに変わる。
 ジャズピアノのギャラリーBGMが流れ、静けさと香木の匂いが漂った。
 ざっと見たところ、民俗靴や婚礼布、祭礼具、アクセサリーなどを「アート」として展示販売しているらしい。

 照明も美術館のように落とし、展示棚はガラスと木で統一されている。

 ガラス棚に収納されている婚礼靴になにげなく顔を寄せた。手書きのラベルが書かれている。

 “Ordia Region / Bridal Shoes / Silk Embroidery / 19th century”
“Unknown Origin / Burn marks visible / Not for sale”

 原産地に推定年代と状態。

「売り物じゃないやつもあるみたいだな」

 壁には、民族衣装の布や銀の飾り紐が掛けられ、壁際には旅の地図と古い写真。
 写真のなかの女性たちは、どれも民族衣装だ。
 奥から、移民系らしいアートディーラーの中年の男が出てくる。バーンズ准教授によれば、アートギャラリー系の古物商だと、店主は学芸員や元研究者が多く、民俗学・人類学の話を延々してくれるらしい。

 価格帯は高め。本来、ダリオには縁のない場所なので、少し好奇心も疼く。

「バーンズ准教授から紹介いただいた、ダリオ・ロータスです」

 ダリオは名乗ったが、ディーラーの男の目は、背後に半歩下がって控えるテオドールの美貌に釘付けである。すっかりと見惚れて、見る間にがくがくと足が震えだした。

(あー、このパターンね⋯⋯)

 ダリオは、よくある既視感に、自分の方が道を開ける。

「ほぁ、ほぁいぃあぁああ……」

 腹の立派なディーラーは、フニャフニャと意味不明な声を漏らしながら、その場にへたり込んだ。さすがにアートを取り扱うような人種だけあって、テオドールの暴力的な美に、ありあまる感受性で反応してしまったらしい。

 大学構内では慣れすぎて忘れていたが、テオドール初見の人間は、大体こうなる。
 道を歩くときはなんらかテオドールも最近気配を薄くするなどの対処しているようなのだが、店に入ってその気遣いも止めたらしい。

 止めた途端に、いい年齢と社会的肩書きもある男が、一瞬で骨抜きになる。

「にゃ、にゃんでも、にゃんでもおたずねくだはい!! 身命をとして必ずやおこたえしましゆうううう!!!」

 いきなり足元に身を投げ出すよう五体投地され、テオドールは興味なさげにガラスケースを見ている。

 ディーラーの男は足元に取りすがった。

「おい、テオ。お前、今回わざとだろ」

 すました顔をしていたテオドールは、ダリオの言葉に振り返り、その月のような美貌に、いたずらげに妖しく、艶を帯びた静かな笑みを刷いた。

 テオドールの珍しくも艶然とした微笑を見上げたディーラーの中年男はたまらない。

「あっ⋯⋯が⋯⋯っ!」

 声もなく悲鳴を上げ、海老反りして白目をむいている。ぶくぶく口から泡を吹きかねない様子で、痙攣しているではないか。ダリオは慌てて膝をつき、「しっかりしてください!」と救護した。
 
 地獄だ。

 始まる前から、もうどっと疲れていた。
 ダリオは倒れた男の肩を軽く叩きながら、必死で励ます。
 こういうのに、もう慣れた気がするのが、微妙に嫌だった。

 
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