俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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九 異次元の門

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 ん、あ、あ、ん、と聞くに堪えないような、なんか甘ったるい声が聞こえるが、まあ餌だし、おさえんとこう、と頭の隅で割と冷静に計算している自分がいる。一方で、現状をうまく認識できないまま、流されて行こうとする自分もいて、心と肉体がうまく連動しない。
「え、凄い。本当に濡れるんだ」
 お前がそう言ったんじゃないか。俺が受け入れたいと思ったら、濡れるかもしれないって。しかしあいつこんな喋り方したか? ふと違和感があぶくのように浮上した。しねーだろ、おかしい。ダリオは心身が乖離していくような気持ち悪さを覚えた。
「ねー、もう入れちゃおっか。いいのかなあ、お初もらっちゃって。はは、俺殺されそー」
 なんかやっぱりちがう気がする、というか、明らかに違う。
「『支配者』はこういう時、なんて言うと思う?」
「テオドールは……ダリオさん、て、いう……あと丁寧にしゃべる……」
「うんうん、分かったあ」
 何か了解された。しばらく記憶が飛んでいる。
「ダリオさん……痛くないですか?」
 ふわっと体が浮くような心地がした。
「ておどーる……」
「はい。ダリオさん」
「どこ行ってたんだよ」
 俺、探したんだぞ。
「すみません、ダリオさん。寂しい思いをさせてしまいましたね」
「うん……」
 頭を撫でられ、ぞわり、と甘い痺れが首筋を走った。思わず仰け反り、鼻にかかるような甘えたな声が出てしまう。撫でられる。中から気持ちいいのが這い上って来て、溜まって行く。たまらず、ダリオは腰を上げ、細く長い悲鳴を漏らしながら恍惚に浮き上がった。
 その時、まるでいきなりブレーカーを落としたみたいに。
 世界という電球が、ばちん、と音を立てて真っ暗になった。バリバリバリバリッ、と凄まじい音がして、舞台の背景を無理やり引き裂くように、何かが現れる。
 ダリオは多分、見たのだろう。目視したら、正気が保てないだろうと言われたそれを。
「v8ブオンピオk@pl;。。;d宇井尾pんm@l、;」。:;」:m@^k、おp^lmンjbdt@所k」
 それが口を開いた。無数の口を。
 何かを言っているが、全然分からなかった。でも、ダリオは、それがテオドールだと思った。
 電球を落とした世界は、真っ暗で、ヘルムートのけはいも消えている。ただ、それと、ダリオだけが存在した。上下左右、床の感覚さえよくわからない状態で、ダリオはとりあえずそれがずるずる浸食してくるのに、自ら身を寄せて、ぎゅっと抱きついた。
「百年も『脱皮』するとかないだろ、お前……死に際に会いに来たって、俺は嫌だぞ」
 全体像が分からないまま、とりあえず巨大なそれを見上げてみる。
「会いたいから、荒療治してもらったんだけど、本当に来たな、テオ。それどうかと思うぞ、俺が会いたいのに来てくれなくて、浮気したら怒って来たのか?」
 ぴたり、とそれの動きが止まる。いつも無感動な顔のテオドールだったが、次第に彼の表情が読めてきたのと同じで、気まずそうな雰囲気をダリオは感じ取った。
 すり、と頬を寄せ、頭を押し付けて目をつぶる。
「ヘルムートさんは生きて帰せよ。ふりだけで、別に浮気してないからな。中を少し、道具で触られただけだ。俺もあの人も別に気なんか進まねーよ。おい、怒るな」
 先を越されたのを怒ってるなら、お門違いだぞ、とダリオは叩く。
「もう『脱皮』はいいのか? ふーん、いいのか。今度もし『脱皮』するなら、いつ帰りますって、ちゃんと言っておけよ。でないと、」
 次は浮気ではすまないとか、どうとか、言えなかった。ぽた、ぽた、とダリオはテオドールが消えて以来、初めて涙が出て来た。
「でないと、俺、怖えよ……もう、お前と会えないのかと思って、怖かった」
 うなだれる。それを現実に覚悟せねばならぬと突き付けられた時、芯から体が凍えた。深く考えるのが怖くて、ダリオは目を逸らすために、泣くことを放棄していたのだ。
 ダリオは、ぶよぶよとしたよく分からないゼリー状の巨大な闇に、唇を寄せた。
「すき。テオドール、すきだ。すき。だいすきだ」
 もう置いて行くな。
 そう言いたかったのに。闇がざわりと縮んで、次の瞬間には捕食するように大きく広がる。ダリオの足首をつかんで、それは、恐ろしい勢いで巨大な闇の中へと引きずり込んだ。
 勢いとは裏腹に、優しく背中や腰、太腿、頭部を支えられ、強く強く抱擁される。しかしそれは、決してダリオを傷つけないように、酷く繊細なコントロールを伴っている。痛みはない。自分の肉体の境がわからないほど、何か大いなるものに包まれ、入ってもよいかと心の扉をノックされる。ダリオは「いいぞ」と自ら閂を抜いて、扉を開いたのだ。泥のような濁流のような何かがそろそろと遠慮がちに、やがてこらえきれぬように流れ込んでくる。まるで、中に押し入られるような感覚があった。それは人間の性交とは違う。情報だ。ただただ、膨大で、労りに満ちた感情が、ダリオを破壊しないように侵入してくる。ああ、これが自分の好きと違うなどと、どうして傲慢にも決めつけられたのだろう。こんなの、こんなの、ただの……愛ではないか。疑ってごめん、とダリオは泣いた。傷つきたくなかったから疑ったのだ。ただの保身だった。それから、苦痛なほどに快感だけがダリオに与えられた。
「あ、あ、あ、あっ、んんっ、んんんっ」
 奥までいっぱいにされる。
 ぎゅううっ、と奥が収縮し、また開いて、押し入って来るものを歓迎した。
「……ダリオさん」
 いつの間にか、闇は白く凝集し、テオドールの上半身がダリオを抱きしめていた。この美の化身のような青年の背に、ダリオは両腕を回して、しがみついた。
「あ、あ、あ、あっ、てお、ておっ」
「ダリオさん……僕のダリオさん……!」
「は、ああっ、あ、てお、すき、だ、すき……」
「好きです、僕も好き……んんっ」
 こころのひだの奥の奥、最奥までくぐられ、ダリオが通電するようにおののく。テオドールもこらえきれぬように呻いた。
「あ、ん、ん、ん、きもち、ぃい」
 どぷ、どぷ、と『支配者』の精を受け入れながら、ダリオはふるふると震えた。逆流してくるのを防ぐように、テオドールがダリオを抱きしめる。
 なんかわからんが、初回から人外の超高度なプレイになった……とダリオは頭のどこかでツッコミを入れた。たぶんそう、支配者流交尾で、俺の現実の後孔は未通……と冷静に思うあたりがダリオがダリオたるゆえんである。


 ■エピローグ

 闇が晴れ渡り、イーストシティ・ホテルのスイートルームに、ダリオ、テオドール、ヘルムートの三人は姿を現した。身体に特に不調もなく、やっぱりさっきの真っ黒空間は、なんか精神世界か異次元か知らんが、現実じゃなかったぽいなとダリオは冷静に考える。
 なお、あの空間にいなかったヘルムートは、テオドール本体が現れたような異音の後、先に現実にちゃんと戻っていたらしい。
「お帰り~」
と片手をあげ、へらへらゆるい感じで挨拶される。テオドールは無感動な顔で初対面のヘルムートを凝視すると、
「ダリオさんがお世話になりました」
 まともに挨拶するので、ダリオは内心ほっとしたが、
「ダリオさん、事前確認いたしますが、これを完全排除してもよろしいですか」
 美しさと色香をいやなお増した美声で、殺意百パーセントをかましてきた。ダリオは「……」と固まり、どうしてこう返す刀で切りつけてくるんだこいつと思う。
「よろしくない。止めろ止めろ止めろ。いいか、止めろ。わかったな?」
 怖いので、念入りに止めておいた。ヘルムート氏をこれ呼ばわりも止めろと付け加えておく。
「え~、なんかごめーんね?」
 一方、支配者から排除されそうになったヘルムートはどこまでも軽い。
「命乞いしてえから、このスイートルーム譲ったげるよ。もっとしたいでしょ?」
「あ、けっこうです」
 ダリオは真顔で辞退した。しかし相手はまったく聞いていない。
「あとで感想教えてね。これルームキー」
 ぽんと手渡されて、投げ捨てるわけにもいかず受け取る羽目になる。
「請求は俺だから、安心して、明日までヤリまくっていーよ」
「そういうのけっこうですので」
「それから、俺挿入してねえんで、殺さないでくださーい。じゃあまたあ」
 ヘルムートは文字通りその場から姿を消した。ダリオはわずかに目を見開き、驚く。
「え、あの人も、もしかして人外か……? 全然分からなかった」
 ダリオは大概、人間に近い怪異も接していれば感じるが、ヘルムートは消えるまで微塵もそれを感じさせなかった。
「ダリオさん」
 テオドールが、抑揚もないのに、どこか拗ねたような声でダリオの顔に触れる。
「あれのことはいいです。今は僕を見て」
「ああ?」
 テオドールはなんだか困っているようだった。
「……もっと、しましょうか」
「あ、いや。駄目だ」
 ダリオはあっさりきっぱり断った。
「……やはりあの男ですか」
 何か勘違いして、テオドールの目からハイライトが消えている気がした。
「『脱皮』の話がうやむやになってただろ。またいきなり失踪とか二度目はねえぞ、マジで」
「そうでしたね……不安にさせて申し訳ありませんでした」
 二人は揃って横並びにソファに座ると、かえってどう話したものか分からず、ぽつぽつと状況確認の会話が始まる。ぎこちなくお互いに身を寄せ合い、また会話して。
 しばらくすると、離れていた時間と空間を埋めるように、ちゅ、ちゅ、と合間にキスしたり、撫でたりしながらとつとつと話した。
 テオドールは急に『脱皮』が始まったので、言付けもできずに失踪した事情を説明し、ようやくダリオは「そうか」と吐き出した。
「あと、なんかよく分かんねえ謎空間で、二日酔いみたいに言っちまったから、もっかい言っとくわ」
 少し驚いたようにも幼く見えるテオドールに、ダリオはできるだけ真剣な顔で告げた。
「テオ、お前のこと好きだ。好きだから俺の中に入れた。まだお前の種族のことよく分かってねえことも多いから、今回みたいなこともあるかもしれねえけど、お前がいいならずっとお前の『花』でいたい。返事は今すぐとは言わねえから、おいおい考えてくれると嬉しい」
「……ダリオさん、僕のことは嫌ではありませんか?」
「本体見られたの気にしてんなら、別に……けっこうかわいかったぞ。まあデカいなとは思った」
「……ダリオさん、僕の『花』でいてください。あなたがいいと仰るなら、どうかずっと永遠に」
「永遠はなげーな。そこは文化確認しとくか!」
「はい。その都度どうかお尋ねください。能う限り、あなたに誠実でいたい。僕のすべてで努力いたします」
 心労がたまっていたのだろう。その後ダリオは「無理、眠い」と安堵のまま眠ってしまったが、この『支配者』の青年は、優しく彼を抱き上げて寝室に連れて行き、ぱたんと扉が閉められる。
 『支配者』と『花』は、もはやただの若い恋人たちなのだった。 
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