俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 一 ヤンデレ進化未遂事件

1(なろう版)

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 『支配者』と名乗るテオドールが用意した洋館。その一室、ベッドの上で、ダリオはこの人外の青年と向き合っていた。
 ふたりは嬉し恥ずかしニューフェイスの恋人同士である。種族が違うし、なんなら敵同士と言っても差支えのない『支配者』とその『花』だ。
 『支配者』とは、異次元に棲むテオドールの種族を指す。彼ら自身が率先してそう名乗っているというより、彼らを観測した他種族から、そのようなニュアンスで呼ばれることが多いらしい。本人たちも的を射ていると感じ、便宜的に『支配者』という呼称を採用している。それが実情のようだ。
 邂逅した当初、自己紹介がてら『支配者』の性質について話を聞かされた。彼らの半身である『花』が得られない場合、愛しさ余って憎さ百倍なのか、蹂躙してしまうこともザラだという。ダリオは心からドン引きした。求愛を受け入れられないと、相手を打ちすえて殺すようなクソ野郎種族ではないか。あまりにもドメスティックバイオレンス体質過ぎる。しかし、テオドール個人は本人も言う通り割と穏健だった。
 最初は無感動な顔で押しの強さに警戒を強めたのも確かだ。その上、種族的倫理観の違いにへきえきしたものの、それも長く続かなかった。
 交流していく中で自然と理解したのだが、基本的にテオドールはダリオに対して紳士である。対話努力も怠らないし、ダリオがNOと言えば無理強いはしてこない。もちろんそれらは、人として最低限のことだろう。しかし、テオドールの出自を考えると異例のことではある。
 その上、テオドールはダリオのために動くことをあまり苦に思わないようだった。押しつけがましいこともせず、ダリオが少し寒いなと思ったら、必要か確認して、持っているコートをかけてくる。そうした優しさだ。そんなことが塵も積もれば山となり過ぎて、ダリオはかなり当初からテオドールを好きになってしまった。だって、俺こんな風にしてもらったことあんまりないし……しかも継続的に……好きになるそんなの無理……とダリオは最終的には認めて、好意表明機会を探っていたくらいである。
 ところが、ふたりが良い雰囲気になった翌日の朝、肝心のテオドールが姿を消してしまう。よくあることだったので、ダリオはすぐ帰ってくるだろうと最初は気楽に構えていた。しかし、失踪は一月近くに及び、音沙汰も一切ない。次第に『もしかして、もう帰って来ないのか?』とダリオは手足の先が冷たくなるようなショックを受けた。そして、ショックを受けている自分にショックを受けたのである。
 母親の蒸発もそうだったのだ。ある日突然消えて、戻って来なかった。
 それは仕方のないことだ。折り合いをつけて、諦める。表面上はいつも通りの生活を送った。しかし、突如の喪失を、ダリオは仕方のないことと割り切れなくなっていた。それから、ダリオは自ら動き、紆余曲折ハプニングもありつつ、2ヶ月半後にふたりはなんとか再会。めでたく両想いでくっついたのであった。
 で、その恋人たちは、寝台の上でメンテナンスをたびたび行っている。しかし、メンテナンスと称して、キスするのもどうなんだと。
 普通にキスしたい。言い訳とかいらん。キスしたい。
 というわけで、『脱皮事件』解決以降、ダリオは二人で公園を歩いていた時に、テオドールに「キスしていいか?」と尋ねたことがある。
 すぐに返事が返ってこなかった時点で、あ、とダリオも理解した。
 テオドールの返事はどこか硬い。表情の読みづらいテオドールだが、あまり歓迎されていないのはダリオにもわかった。困って、結局ダリオは頬を指し、そちらはOKだったらしいテオドールの頬に唇を軽く押し当てた。お返しに、テオドールもダリオの頬に、ちゅ、と羽でも触れるくらいの幼いキスをしてくる。
 馬鹿馬鹿しいくらい、ダリオは背骨から項をとおって頭に抜けるようなぞわぞわとした快感を覚えた。甘い痺れの余韻で、上擦った声が出そうなほどだ。好きな相手にキスされたら、どうしたってこうなる。
「……帰るか」
「はい」
 テオドールの拘束が解け、ダリオは背伸びをして、公園の石畳を歩き出した。『脱皮事件』の時、セックスもどきをしておいて、どういうわけかその後ふたりは文字通りセックスレスに陥っているのだった。
 そして今夜もメンテナンスして、そのまま寝た。ぐっすりと。ダリオは就寝し、朝を迎えた。快晴だ。
(朝だ。大学行かねえと)
 上半身を起こしたダリオは、ぼうっと窓の外を見る。テオドールはいなかった。ただ、脱皮事件の時と違って、呼べば来る。
 ダリオはとりあえず寝台を出た。


 イーストシティ大学を後にし、帰宅途中ダリオは難しい顔で考えていた。
(ムラムラする)
 しかも、尋常ではなくムラムラする。
 ダリオは性欲に悩まされていた。元々交際相手がいても淡白な方だと思っていたのだが、どういうわけか性欲大爆発しているダリオである。しかし、テオドールの『脱皮』事件以降、両想いになったのではと思わせて、何故かセックスレスに陥っている二人でもあった。
(テオには言いだしづらい……)
 『脱皮』事件の際、よくわからない謎空間でダリオと彼の本体でセックスもどきをしておきながら、その後はそういう雰囲気にならないように避けられている気がする。
 テオドールはメンテナンスと言って、ダリオの腰を引き寄せて口を合わせることはするのだが、深くしながら、結局そこでとどまってしまうのだ。
 それならそれで仕方ないことだ。セックスしたがっていない相手に強要するのは、恋人同士でも暴力になる。つき合うからセックスは当然というわけではないのだ。
 だが、腹の奥が変に疼いて、ダリオは日常生活に支障をきたしまくっていた。具体的に言うと、テオドールの指が欲しくて仕方ない。性器でなくてもいいから、中に彼の指がほしい。自分でしたいわけではなくて、テオドールの一部を咥え込みたくてたまらないのだ。依存症なのか、俺、とダリオは真剣に悩んでいた。メンタルクリニックに行くべきか。もう驚くほど、したくてしたくて性欲大爆発している。さすがにおかしいと思う。セックスは二人ですることだから、片方がその気ではないなら、一人で盛っているのもどうなんだ。
 自己申告して相談すればいいのだが、テオドールは異種族である。セーフラインが全然わからねえ……とダリオは眉間に皺を寄せて悩んでいた。言われたくなさそうな空気出している相手に言うのもどうなのか。俺はしたいけれど、あなたはどうか、と尋ねればいいとは思う。断りやすいように気分を聞くのだ。そうは思うが、もしかしたら、とダリオは懸念していた。
(『脱皮』前後は、テオドールも積極的になっていたんだけどな……あれから性欲消失したのか、あいつ)
 謎空間セックス以降、かなり距離を置かれている感じがする。
 しかしメンテナンス自体はしてくるから、ダリオとの接触そのものを嫌悪しているわけではないのだろう。
(メンテナンスって、結局キスされるからな)
 つまりそこだ。ダリオにしてみれば、性的接触である。テオドールが何も思ってなくても、されたらされたで、ダリオの方だけスイッチが入ってしまうのだ。
(好きな子から唇を重ねられて、何とも思わないわけじゃない)
 体も心も、好きな相手から触れられれば、悦んでしまう。ましてキスなんかされたら、理性がストップと言っても、ゴーサインで勝手に勘違いして先走る。あんな風にされたら、と思い出した。唇で唇を優しく愛撫されて、お伺いを立てるようノックする舌先で割り入れられ、口の中をトロトロになるまでゆっくりとまさぐられる。勃つものは勃つし、もっとくっつきたくもなる。
 しかし、少しでもダリオが色気を出すとそこで、す、とテオドールは引くのだ。メンテナンス終了を告げて、「では」とそっけなく姿を消してしまうことも多い。
 残されたダリオが点けるだけ点けられた官能の炎と熱を持て余し、一人で体を抱えて耐えているのがもはや定番行事になってしまった。
 そうして、のしのしと坂を上って行くと、テオドールと暮らす洋館に辿り着いてしまったのだった。

 ダリオが中に入ると、どこからともなくテオドールが空間から姿を現し、すい、と横に並んだ。まだ外気をまとう上着のボタンに指をかけたダリオの手元に、テオドールの視線が注がれ、思わず手を止める。
「よろしいですか」
 テオドールは上から身をかがめ、息のかかる距離で静かに尋ねて来た。相変わらずの真顔だが、視線が強い。
「おう」
 背後からテオドールがダリオの体の前に腕を回し、彼の美しい指が、ひとつひとつボタンを外していく。ダリオは自分の上で、テオドールの指が動くのに無言となった。この指で愛撫されたこともある。そういう場面ではないのに、記憶が連動しそうで、考えまいと目を逸らした。できるだけダリオは邪念を払おうと、合わせるように脇を締めて、テオドールが脱がせるのを手伝う。上着を両肩から背中の後ろへ滑らせて落とすと、皺のないようにテオドールが受け止めた。
(慣れねぇ)
 嫌ではないが、まだ少し体が硬い。テオドールを信頼していないわけではなく、ただただ他人にこうして世話されることに、ダリオは不慣れだった。その不慣れを押しても、テオドールに触れられるのは気持ちいい。
(まあ、多分これ、Win-winなんだろうな……)
 というのも、色々あって確認したことなのだが、テオドールにはどうも、自分の『花』の衣装の着脱を手伝うことに、種族本能的なフェティシズムがあるようだった。こうするのも、そのフェティシズムを満たす行為ではあるのだろう。
 テオドールは手慣れた所作でハンガーに上着をかけ、崩れや肩のずれのないよう整える。最後に皺などないかチェックすると、収納スペースに吊るした。他人にケア労働させているようで、とんでもないことやらせてるよな、とダリオはいまだに少しおさまりが悪い。しかし、異文化を自分の物差しではかるのもまた難しいところである。
 ダリオがぎこちないのを理解して、テオドールもこれ以上はしてこない。本当は着脱を全部管理したいフェティシズムがあるというのは聞いているから、お互いに無理のない範囲で折り合いをつけた境界が今ここなのだった。
「お待たせしました」
「いや、こっちこそ悪いな。ありがとう」
 礼を言いながら、ふたりで連れ立って共用スペースに戻る。食事をしないテオドールに断って、ダリオは夕食を済ませた。
 コーヒーを飲み干すと、カップを置き、それが合図だった。ダリオさん、とテオドールが静かに言い、ふたりはソファに移動した。歯を磨きたいところだが、メンテナンスで全部きれいにしてもらえる。『菌なら問題ありません、殲滅します』とかなんとか当初言われて、『怖ぇよ、ほどほどにしてくれ……よい菌もあるから……』という話をしたのを思い出した。
 二人分の体重で沈み、きし、とソファが鳴る。ダリオは大柄で体格のよい青年だが、テオドールは更に輪をかけて背が高い。ソファにふたりで座ると、上段から見下ろすテオドールの青い目と、ダリオはやや見上げる形となる。
互いの目を見て、よろしいですか、と再度聞かれ。
ダリオは返事し、わずかに顔を傾けると、陰がそのまま落ちて来た。



 真っ白な闇という矛盾するような視覚状態で、性器のつけ根から先っぽまで、快感が這い上る。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 舌を吸われて、遅れてがくがくと己の下半身が跳ねあがるように痙攣している感覚が追いついてきた。ちなみに挿入などしていない。
「ん……っ、ぅ」
 気づけば、テオドールの背中に手を回している。
「ダリオさん、お疲れさまでした」
 頭を抱えると、いたわるように、テオドールはこめかみにキスしてくる。
「ん、ん……」
 喘ぐような息が零れ、なだめるようなキスで、過ぎる快感の苦痛を吸い取られる心地がした。中イキすると、心地よい反面、空中に放り出されたようなこころもとなさを覚える。前での快感と違って、慣れない感覚だった。まして、ダリオの体は変容しつつある。ダリオ自身は受け入れようとしているが、追いつかない部分はどうしてもあった。そうした一切合切を察されて、ひとつひとつ不安を取り除くように、テオドールに慰められている。人外のくせに、ダリオに関して事細やかにケアをしてくるのだから、仔細漏らさず観察眼を発揮されているし、もう本当に敵わねえなと思わされる。
 ダリオはテオドールの濡れるような黒色の艶髪を撫で、五指の爪で頭皮を愛撫しながら、
「な、あ。俺ばっかり気持ちよくなってねえか? お前も気持ちよくなれてんのか?」
と切れ切れに尋ねた。
 テオドールの性欲はどうも人間とは違う次元のようで、ダリオがエクスタシーを感じると、テオドールも同調して気持ちがいいらしい。全然わからん……とダリオは思いながら、テオドールを見上げた。
「ええ。僕も気持ちがいいです。ダリオさんの強い感情が伝わってきました」
「……おう、そうかよ……」
 つよいかんじょう。
 ダリオは脳内で棒読みになった。テオドールには、ダリオの心を読む能力もあるが、邂逅当初に止めろと言って以来、勝手にのぞくことはしない。しかし、強い感情は意図せずとも伝達する場合がある。『脱皮事件』の時も、似たようなことは言っていた。別に恥ずかしくはないが、微妙な気持ちにはなる。
「ダリオさん、お風呂に入りませんか」
 察したように機先を制されてしまい、ダリオは「ああ」と頷くことになった。その後丁寧に体を洗われ、欲望のかけらもない手つきで世話されると、「では」とテオドールは姿を消してしまった。テオドールは終始淡々としていて、ダリオは結局切り出すことができずじまいだった。
 ひとり取り残され、はあ、と出た溜息の大きさにダリオは自分でもぎょっとする。喧嘩したわけでも、仲がぎくしゃくしているわけでもない。テオドールの対応は百点満点どころか、ダリオはしてもらいっぱなしなくらいだ。ただ、ダリオがセックスしたいと言いあぐねて、ひとりで困っているだけだった。テオドールからはその話をしないで欲しい、という言外の空気をやはり出されている気がする。口にしないと、本当のところはわからんが、とは思いつつも、多分俺これ言えないやつ……とダリオは思った。おそらく、テオドールはしたくないのだ。そしてダリオはしたい。あ~~~~~とソファの上でダリオはひとり頭を抱えた。
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