89 / 150
番外 二十一 友達と彼氏の話してたら彼氏が迎えに来て周りがシーンてなる話
2
しおりを挟むつらつらとテオドールにこうされて嬉しかった……やさしい……好き……といったことを、ふわふわと口にしていると、皆の視線がそれこそ「うんうん」と温かいのに気づいた。
「ごめん……俺なんか……喋りすぎた?」
ダグラスが手と首を同時に大きく横へ振る。
「そんなに話してないよ?! 俺が喋るより全然少ないし?!」
「それはそう」
アリスが相槌を打つ。
クリスも、そうだよ、とダリオに笑いかけた。
「僕は話が聞けて嬉しかったな。気になってたけど、ダリオくん、あんまりそういうの言わないから」
「うー……ん……おれの……テオのどこが好きとか……聞かれなかったし、話すことでもないかと思って……」
「そう? ダリオくんがいいと思ったらまた聞かせてよ」
「……いいの?」
ダリオは不思議な気持ちでクリスを見つめた。
「ダリオくんが嬉しそうだと僕も嬉しいからね、たまに近況報告したい時は聞かせてよ」
「うん……わかった」
頷くと、フライドポテトをつまんでいたチェンがクリスに尋ねている。
「クリス、これダリオ酔ってないか?」
「そうかも。珍しいねダリオくん、一人で帰れるかなぁ。テオドールくんに、連絡だけ入れとこうか」
「えっ、クリス、連絡先知ってんのか……」
「はは、まあ色々あったからね」
テオドールの名前が出てきて、ダリオはふと、どうしても言いたくなった。
「あの、クリスくん……」
皆の顔もぐるりと見る。
「俺、ほんとうは、誰かに言いたいことがあって」
「うんうん、聞くよ」
「ありがとう……あのさ、テオが、このくらいで……この間、鏡の前で、ポーズしてて……」
「このくらい……?」
「うん。研究してて……とってもかわいくて、俺、あの、テオ、ぽよぽよしてる……」
がくっ、とダリオは頭が落ちそうになり、なんとか平静を装った。しかし、周囲は笑顔のまま、疑問符を飛ばしている。
「……?」
「……?」
ダリオは、うん、と頷いた。万感の思いで呟く。
「とってもかわいい……」
ほんとうは、すごく、誰かに言いたかった……と目を伏せる。言語化能力が低下しているのに、ダリオはうまく説明したつもりだ。客観視能力も失われている。
クリスが優しい声で言う。
「そっか、とってもかわいくて、ダリオくんは誰かに言いたかったんだね」
「うん……」
「言えて良かったね」
「……うん、聞いてくれて、ありがとう……」
ぼそぼそと声が聞こえてきた。当惑気味なチェンの声だ。
「このくらいって、明らかに手のひらサイズで説明されてなかったか?」
「うーん、まあ、テオドールくんだからね!」
「ねえ、ぽよぽよしてるって何? どっちかって言うと、シュッとしてない? テオドールさんて、キャンパスを失神者で埋めたあの人、人間離れした美人の人だろ? ダリオにめっちゃ執着してるあの美形の人のことだよね?」
「ダグラスは、そのままでいてほしいのだ」
「えっ、何?! なんで、みんなそういう目で見るの?! なに?!」
俺を仲間外れにするなよ、エーン! とダグラスが喚いている。
「仲間はずれではないのだ、ダグラスには健やかでいてほしいのだ」
「意味わかんないですけど?! お前ら健やかじゃないの?!」
「テオドールくんに、ニャインで連絡しといたよ」
ん? とダリオは顔を上げた途端、
「お待たせしました」
ぬ、と後ろ上段から、当のテオドールが190センチ超の長身で、腰をかがめるようにして顔を出してきた。
「秒で来た……」とクリスがあっけにとられるようにして、苦笑いしている。テオドールは「クリスさん、ご連絡ありがとうございます」と涼しい顔だ。
「ダリオさん、大丈夫ですか? アルコールを抜きましょうか?」
人外ムーブを息を吸うようにかましているテオドールをよそに、周囲の卓が、シーン、と水を打ったように静まり返り、音楽まで息を潜めるようだった。
しばらしくして、ヒッ、と引きつけを起こすような声をして、ドガシャ、とテーブルに突っ伏す者などが出る。
幸い失神してはいないようだ。起き上がると、浴びるようにアルコール摂取しだして、周囲の正気の者に止められていた。
最近、イーストシティ大学生たちも、耐性がついてきている。
青ざめていたチェンも、「後方に前進!」とダンスフロアーに向かった。チェンの保身能力には目を見張るものがある。
クリスが心配そうに、「ダリオくん、もう帰る?」と確認してくるので、ダリオはチェンがぎゅるぎゅる回っているのを見て、俺も踊りたいな……と思った。
思っただけでなく、口にしていたらしい。
「アルコール抜いてもらって、テオドールくんと踊っておいでよ」
「しかし……」
「最近、みんな耐性ついてきてるしね。さっき顔面卓キスして、アルコール飲んでる子は、君たちがダンスしてるの見たら喜ぶから、問題ないよ」
後方で、顔面卓キスの人が、ぶんぶん頷いている。
「……?」
テオと踊ったら、迷惑かけないか? と思ったが、顔面卓キスの人が、親指を立ててウィンクしてきた。とてもいい笑顔だが、周りの人は彼女に、「自重しなよ」という感じで嘆息している。
コアタイム来たーとダンスフロアーに移動する知り合いも、ダリオの肩を叩いて、「お、ダリオじゃん。踊らんの? 夜は短いぞー」「楽しめ楽しめ」とへらへら笑いながら言う。おそらく、アルコールで認知能力が下がっているようだ。テオドールに気づいて、変な声を上げていた。それはそれとして、彼らは踊るらしい。イーストシティっ子だなぁ、とクリスは笑っている。
ダリオは少し考え、テオドールに「踊ってもいいくらいにアルコールを分解ってできるか?」と尋ねた。お任せ下さい、とテオドールは容易く請け負う。
すぐに、頭がスッキリして、ただ、いい具合に気持ちもいい。
ダリオは礼を言って、テオドールに踊らないかと誘いをかけた。
「喜んで」
他の大学生知人の言うように、夜は短い。わからないけど、みんな自分の人生で忙しい。他人のことなんて見てない。たぶん。
ダリオはテオドールの手を握った。
ダンスフロアーが光の洪水のように見える。目の錯覚だろうが、ワクワクしてきた。
みんな楽しそうだ。
ダリオも楽しい。
テオドールとどこに辿り着くのか、今のダリオにはまだ分からない。
ただ、踊りながら、笑いながら、いつまでも音楽を聞いていたかった。
80
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる