32 / 74
第二章
29.けものたちの声
しおりを挟む
「露店街もいいが、商店街にも行ってみるか」
屋台を次々冷やかしていた二匹は、アルシャウの提案に立ち止まった。
この町はメインストリート沿いの露店街と、石組みの店が軒を連ねる商店街がある。
露店の屋台より高価なものや大きいものが売られていて、タビトたち子どもには縁遠い場所かと思っていたのだが。
「商店街に動物の店がある。タビトが世話してるっていうネコに首輪を買っていったらどうだ」
「メイサに……」
アルシャウがメイサのことを知っていることにまず驚いた。
メイサは、タビト以外の獣人にはあまり懐かないが、特にアルシャウのことを完全に避けている。
本猫曰く「おっきくてこわい」とのことで、オトナの大型肉食獣に怯えているのだろうとタビトも無理に引き合わせることはしなかった。
だが目端の効くアルシャウは、屋敷の庭をうろつく子ネコのことも把握していたようだ。
タビトは今日、お金を持参していた。
日々の仕事のお給金をムルジムから受け取ったものだ。
正直、いくつか渡された金属の薄い板で何が買えるのかまだよくわからないが、それを学んでくるのも町の醍醐味だと聞かされている。
メイサにおみやげを買うことで、お金の使い方を学べるかもしれない。
動物の店へ向かうアルシャウの後ろをついていきながら、ポケットの金属片をぎゅっと握りしめた。
「ここだな」
アルシャウの案内で商店街を進み、いくつもの店を通り過ぎた。
屋敷に置いてあるような家具がたくさん飾ってあったり、フェルカドが手入れをしているような庭木が鉢植えで売られていたり。木彫りの小さな品々が並べられた小ぶりな店から、大きな石や切り株が置いてある店なのか庭なのかわからない構えのものまで、様々な景色が流れていく。
連なりの途中でアルシャウが足を止め、気負うことなく入っていく。
その店は雑貨屋のように見えた。
軒先に様々な色合いの紐がたくさんぶら下げられている。鈴や木片、鳥の羽などの展示もある。手触りの良さそうなクッションが重ねて置かれて、その横には食器が積み重なっている。
雑多な品揃えも、動物向けと言われれば納得だ。
「動物用の店ってはじめて来たなぁ。タビト、これネコ用の首輪じゃない?」
「そうみたい。メイサには何色がいいのかなぁ」
小さな子ネコの好きな色を聞いておけば良かったと思う。
動物用の首輪は多種多様で、色も太さも長さも様々あり、眺めているだけでも楽しかった。
一通り見終わったものの、やはりメイサの希望を聞いてから買おうと決める。アルシャウに断りを入れるため、二匹は店内に足を踏み入れた。
妙に静かだと思ったその瞬間、タビトの足が止まる。
「……ぁ」
店の中にあったのは、檻だった。
太い格子がタビトたちと向こう側の生き物とを隔てている。
格子の隙間から覗く二つの瞳は、濁っていた。
「タビト? どうしたの」
心配そうなレグルスの声は今のタビトに届かない。
檻の中にいたのは小さなイヌだった。ネコもいる。それよりもっと大きく育ちそうな生き物も、ネズミやイタチのようなものもいた。
ただ、どの動物も暗く沈んだ顔をしている。不思議とそう思えた。
かつての自分のように閉じ込められた生き物を見て、タビトの背に冷たい汗が流れ伝う。
怒り、悲しみ、飢え、その果てにあった痛みと別れ。
あのときの感情があふれてきてタビトの手足の自由を奪う。思考すら固まって溶け崩れ、現実の区別がつかなくなりつつある。
<……たすけて……>
「え……」
そんなタビトの耳に、小さな声が聞こえた。
怪訝に覗き込むレグルスの向こう、奥まった檻に入っていた、少し大きめのネコ科だった。後から考えればトラだったかもしれないと思う。
声は、レグルスやアルシャウと話すのとは違う聞こえ方だった。
それは────メイサと話すときの感覚。
<ここからだして……かえりたいよぅ>
<だせ! だせぇ!>
<おなかがすいたよー……>
<ママ、どこにいるの? ママぁ>
一つ聞こえるようになってからは、音の洪水だった。
店の中が静かだと思った印象が不可解なほど、そこは騒々しい場所だった。
格子の向こうで囚われた生き物たちが口々に声を出している。
怒り、悲しみ、飢え、不満のなにもかも。
その間に言葉のない鳴き声が混ざって、渦のようにタビトを襲った。
「あ、ぁ……ぁああ」
「タビト? タビトっ」
耳をふさいでも聞こえる怨嗟の慟哭。
湧き上がってきた涙に滲んだ視界に、一匹のネコが映った。
白くて、痩せていて、哀しい目をしている。
<かあさん>
「────っ!!」
タビトは走った。
伸ばされた手を振り切って店を出て、首輪の前を過ぎ、通りの石畳に蹲る。胃からせり上がってくるものを堪えきれなかった。
苦しげに咳き込む背中にあたたかい手が添えられ、擦られる。
大きな手が体を起こすのを手伝ってくれて、汚れた道の片付けをしてくれた。
「タビト、今全部吐いてしまえ。坊っちゃん水を」
「うん。タビト、口の中きもちわるいでしょ。お水でがらがらぺっして」
涙を拭って、荒い息が整う頃にタビトはやっと現状を把握した。
レグルスとアルシャウが心配そうについていてくれる。
ゆっくりと背中を擦られるごとに、気分も落ち着いていく。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫だ、心配するな。しばらくここで休んでいこう」
通りの端に設置された長椅子に座り込み、息を整える。
近くの店の従業員だろう、オトナの獣人が差し出してくれた水をレグルス経由で受け取り口をゆすぐ。
「タビト、なにがあったの? あのお店、いやだった?」
おずおずと尋ねられたレグルスの言葉に、タビトはつっかえながら返事をした。
店にいた、檻の中の動物たちの叫びが体の中に染み込んでくるように思えて、気分が悪くなってしまったこと。
檻そのものがタビトの過去を想起させたことも、レグルスはきっと気づいている。
話し終えてから、アルシャウも聞いていたことに気づいた。
メイサと────動物と話せることはレグルスにしか教えていない。
恐る恐る見上げたアルシャウは、好奇や嫌悪ではない感情で眉をしかめていた。
「タビト。おまえ動物の声が聞こえるのか」
「……うん……」
「さっきの店、全部の動物の声がわかったか?」
「……え?」
それは思わぬ質問だった。レグルスも意図がわからないようだ。
店内の動物の声のことを思い出す。
いくつもの意味のある叫び声の合間に、言葉ではない鳴き声も聞こえた。それらに感情は込められていなかったように思う。
ただ鳴いていただけ。
タビトが言葉を聞き取れない獣舎の動物たちのように。
「……そうか」
その答えを聞いてひとつ頷き、アルシャウは動物の店へ戻っていった。
店の前には心配そうに立ち尽くす獣人の店員がいた。アルシャウは店員と何事か話し、すぐに戻ってきた。
「タビトおまえ、お手柄かもしれないぞ」
「え?」
「あの店には『変化不全型獣人』が複数いる可能性がある」
初めて聞く言葉にレグルスと揃って首を傾げると、詳しい説明がなされる。
「変化不全型」。
それは「人間」でも「獣人」でもなく、厳密には「非変化型動物」でもない生き物。
「獣人が産んだ動物のことだ」
アルシャウの言葉には苦味が混じっていた。
獣人は「獣型」と「人型」をどちらも持っていなければ、獣人と認められない。人型になれなかった頃のタビトが獣人と認められなかったように。
タビトはのちに人型になることができて、獣人だと認識されたが、一方で獣人の子なのにどうしても人型になれない、獣人と話すこともできないものがいる。
極めて動物に近いが、厳密には動物ではない……それが「変化不全型獣人」。
「変化不全型の扱いは難しい問題ではあるが、動物として売買することは明確に禁じられている。だが人化せず、意思疎通も図れない以上、売買を取り締まることすら難しいのが現状だ」
「じゃあさっきのお店には、ヘンカフゼンの獣人の子どもがいっぱいいたってこと?」
「その可能性が高い」
アルシャウは長椅子にぐったりと座るタビトの前に膝をついた。
いつも余裕があって、飄々とした彼には珍しい、真摯な目をしている。
「タビト、店の動物たちは苦しんでいたのか」
「……うん。帰りたいって、いってた。おなかがすいたとか、母さんに……会いたいって」
「そうか。知らなかったとはいえ、あんな場所に連れて行って悪かった」
「えっ、アルシャウのせいじゃないよ」
「それでもだ。俺はおまえたちの保護者としてここへ来たからな。すまなかった……それと、ありがとう」
大きな手がタビトの髪を耳ごとわしわし撫でる。
「俺の弟は『変化不全型』だった。幸いひどい扱いはされなかったが、俺は最後まで弟と話すことができなかった。兄弟なのに、それらしいことも何も……だからというわけじゃないが、俺は『変化不全型』の保護と地位向上に力を尽くしている。タビト、おまえはもしかしたら、俺たちにとって救世主となるかもしれない」
アルシャウの声は寂しそうだった。
獣人と動物とに分かれてしまった兄弟には、きっとタビトには想像できない悲しみがあるのだろう。
母と離ればなれになったタビトに悲しみがあったように。
「アルシャウ、かなしい?」
「今は平気だ」
「そう」
ふと、目の前のオレンジ毛に触れてみたくなった。
頭のてっぺんに手を置いて、さらさらと撫でてみる。
アルシャウの髪は思いのほか硬かった。レグルスの髪とも、自身の体毛とも違う手触り。
無心で撫でていたら、ぽかんと見開かれた目が合った。
「……あ、ごめんなさい」
「いや……なるほど、これは坊っちゃんがオチるわけだ」
小声でなにかつぶやくアルシャウは怒っていないようで、タビトはほっとした。
繊細な耳には触れないようにしたが、他者の頭に触るのは意外と勇気がいるのだと知る。
アルシャウから手を離した途端、タビトの手は横合いに奪われた。
「わっ、なにレグルス」
「ん!」
レグルスは自らの頭にタビトの手を載せた。
なぜか得意そうな顔で撫でろとねだる。タビトは大人しく手のひらを上下左右に動かして、わがままな主の要望に応えた。
屋台を次々冷やかしていた二匹は、アルシャウの提案に立ち止まった。
この町はメインストリート沿いの露店街と、石組みの店が軒を連ねる商店街がある。
露店の屋台より高価なものや大きいものが売られていて、タビトたち子どもには縁遠い場所かと思っていたのだが。
「商店街に動物の店がある。タビトが世話してるっていうネコに首輪を買っていったらどうだ」
「メイサに……」
アルシャウがメイサのことを知っていることにまず驚いた。
メイサは、タビト以外の獣人にはあまり懐かないが、特にアルシャウのことを完全に避けている。
本猫曰く「おっきくてこわい」とのことで、オトナの大型肉食獣に怯えているのだろうとタビトも無理に引き合わせることはしなかった。
だが目端の効くアルシャウは、屋敷の庭をうろつく子ネコのことも把握していたようだ。
タビトは今日、お金を持参していた。
日々の仕事のお給金をムルジムから受け取ったものだ。
正直、いくつか渡された金属の薄い板で何が買えるのかまだよくわからないが、それを学んでくるのも町の醍醐味だと聞かされている。
メイサにおみやげを買うことで、お金の使い方を学べるかもしれない。
動物の店へ向かうアルシャウの後ろをついていきながら、ポケットの金属片をぎゅっと握りしめた。
「ここだな」
アルシャウの案内で商店街を進み、いくつもの店を通り過ぎた。
屋敷に置いてあるような家具がたくさん飾ってあったり、フェルカドが手入れをしているような庭木が鉢植えで売られていたり。木彫りの小さな品々が並べられた小ぶりな店から、大きな石や切り株が置いてある店なのか庭なのかわからない構えのものまで、様々な景色が流れていく。
連なりの途中でアルシャウが足を止め、気負うことなく入っていく。
その店は雑貨屋のように見えた。
軒先に様々な色合いの紐がたくさんぶら下げられている。鈴や木片、鳥の羽などの展示もある。手触りの良さそうなクッションが重ねて置かれて、その横には食器が積み重なっている。
雑多な品揃えも、動物向けと言われれば納得だ。
「動物用の店ってはじめて来たなぁ。タビト、これネコ用の首輪じゃない?」
「そうみたい。メイサには何色がいいのかなぁ」
小さな子ネコの好きな色を聞いておけば良かったと思う。
動物用の首輪は多種多様で、色も太さも長さも様々あり、眺めているだけでも楽しかった。
一通り見終わったものの、やはりメイサの希望を聞いてから買おうと決める。アルシャウに断りを入れるため、二匹は店内に足を踏み入れた。
妙に静かだと思ったその瞬間、タビトの足が止まる。
「……ぁ」
店の中にあったのは、檻だった。
太い格子がタビトたちと向こう側の生き物とを隔てている。
格子の隙間から覗く二つの瞳は、濁っていた。
「タビト? どうしたの」
心配そうなレグルスの声は今のタビトに届かない。
檻の中にいたのは小さなイヌだった。ネコもいる。それよりもっと大きく育ちそうな生き物も、ネズミやイタチのようなものもいた。
ただ、どの動物も暗く沈んだ顔をしている。不思議とそう思えた。
かつての自分のように閉じ込められた生き物を見て、タビトの背に冷たい汗が流れ伝う。
怒り、悲しみ、飢え、その果てにあった痛みと別れ。
あのときの感情があふれてきてタビトの手足の自由を奪う。思考すら固まって溶け崩れ、現実の区別がつかなくなりつつある。
<……たすけて……>
「え……」
そんなタビトの耳に、小さな声が聞こえた。
怪訝に覗き込むレグルスの向こう、奥まった檻に入っていた、少し大きめのネコ科だった。後から考えればトラだったかもしれないと思う。
声は、レグルスやアルシャウと話すのとは違う聞こえ方だった。
それは────メイサと話すときの感覚。
<ここからだして……かえりたいよぅ>
<だせ! だせぇ!>
<おなかがすいたよー……>
<ママ、どこにいるの? ママぁ>
一つ聞こえるようになってからは、音の洪水だった。
店の中が静かだと思った印象が不可解なほど、そこは騒々しい場所だった。
格子の向こうで囚われた生き物たちが口々に声を出している。
怒り、悲しみ、飢え、不満のなにもかも。
その間に言葉のない鳴き声が混ざって、渦のようにタビトを襲った。
「あ、ぁ……ぁああ」
「タビト? タビトっ」
耳をふさいでも聞こえる怨嗟の慟哭。
湧き上がってきた涙に滲んだ視界に、一匹のネコが映った。
白くて、痩せていて、哀しい目をしている。
<かあさん>
「────っ!!」
タビトは走った。
伸ばされた手を振り切って店を出て、首輪の前を過ぎ、通りの石畳に蹲る。胃からせり上がってくるものを堪えきれなかった。
苦しげに咳き込む背中にあたたかい手が添えられ、擦られる。
大きな手が体を起こすのを手伝ってくれて、汚れた道の片付けをしてくれた。
「タビト、今全部吐いてしまえ。坊っちゃん水を」
「うん。タビト、口の中きもちわるいでしょ。お水でがらがらぺっして」
涙を拭って、荒い息が整う頃にタビトはやっと現状を把握した。
レグルスとアルシャウが心配そうについていてくれる。
ゆっくりと背中を擦られるごとに、気分も落ち着いていく。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫だ、心配するな。しばらくここで休んでいこう」
通りの端に設置された長椅子に座り込み、息を整える。
近くの店の従業員だろう、オトナの獣人が差し出してくれた水をレグルス経由で受け取り口をゆすぐ。
「タビト、なにがあったの? あのお店、いやだった?」
おずおずと尋ねられたレグルスの言葉に、タビトはつっかえながら返事をした。
店にいた、檻の中の動物たちの叫びが体の中に染み込んでくるように思えて、気分が悪くなってしまったこと。
檻そのものがタビトの過去を想起させたことも、レグルスはきっと気づいている。
話し終えてから、アルシャウも聞いていたことに気づいた。
メイサと────動物と話せることはレグルスにしか教えていない。
恐る恐る見上げたアルシャウは、好奇や嫌悪ではない感情で眉をしかめていた。
「タビト。おまえ動物の声が聞こえるのか」
「……うん……」
「さっきの店、全部の動物の声がわかったか?」
「……え?」
それは思わぬ質問だった。レグルスも意図がわからないようだ。
店内の動物の声のことを思い出す。
いくつもの意味のある叫び声の合間に、言葉ではない鳴き声も聞こえた。それらに感情は込められていなかったように思う。
ただ鳴いていただけ。
タビトが言葉を聞き取れない獣舎の動物たちのように。
「……そうか」
その答えを聞いてひとつ頷き、アルシャウは動物の店へ戻っていった。
店の前には心配そうに立ち尽くす獣人の店員がいた。アルシャウは店員と何事か話し、すぐに戻ってきた。
「タビトおまえ、お手柄かもしれないぞ」
「え?」
「あの店には『変化不全型獣人』が複数いる可能性がある」
初めて聞く言葉にレグルスと揃って首を傾げると、詳しい説明がなされる。
「変化不全型」。
それは「人間」でも「獣人」でもなく、厳密には「非変化型動物」でもない生き物。
「獣人が産んだ動物のことだ」
アルシャウの言葉には苦味が混じっていた。
獣人は「獣型」と「人型」をどちらも持っていなければ、獣人と認められない。人型になれなかった頃のタビトが獣人と認められなかったように。
タビトはのちに人型になることができて、獣人だと認識されたが、一方で獣人の子なのにどうしても人型になれない、獣人と話すこともできないものがいる。
極めて動物に近いが、厳密には動物ではない……それが「変化不全型獣人」。
「変化不全型の扱いは難しい問題ではあるが、動物として売買することは明確に禁じられている。だが人化せず、意思疎通も図れない以上、売買を取り締まることすら難しいのが現状だ」
「じゃあさっきのお店には、ヘンカフゼンの獣人の子どもがいっぱいいたってこと?」
「その可能性が高い」
アルシャウは長椅子にぐったりと座るタビトの前に膝をついた。
いつも余裕があって、飄々とした彼には珍しい、真摯な目をしている。
「タビト、店の動物たちは苦しんでいたのか」
「……うん。帰りたいって、いってた。おなかがすいたとか、母さんに……会いたいって」
「そうか。知らなかったとはいえ、あんな場所に連れて行って悪かった」
「えっ、アルシャウのせいじゃないよ」
「それでもだ。俺はおまえたちの保護者としてここへ来たからな。すまなかった……それと、ありがとう」
大きな手がタビトの髪を耳ごとわしわし撫でる。
「俺の弟は『変化不全型』だった。幸いひどい扱いはされなかったが、俺は最後まで弟と話すことができなかった。兄弟なのに、それらしいことも何も……だからというわけじゃないが、俺は『変化不全型』の保護と地位向上に力を尽くしている。タビト、おまえはもしかしたら、俺たちにとって救世主となるかもしれない」
アルシャウの声は寂しそうだった。
獣人と動物とに分かれてしまった兄弟には、きっとタビトには想像できない悲しみがあるのだろう。
母と離ればなれになったタビトに悲しみがあったように。
「アルシャウ、かなしい?」
「今は平気だ」
「そう」
ふと、目の前のオレンジ毛に触れてみたくなった。
頭のてっぺんに手を置いて、さらさらと撫でてみる。
アルシャウの髪は思いのほか硬かった。レグルスの髪とも、自身の体毛とも違う手触り。
無心で撫でていたら、ぽかんと見開かれた目が合った。
「……あ、ごめんなさい」
「いや……なるほど、これは坊っちゃんがオチるわけだ」
小声でなにかつぶやくアルシャウは怒っていないようで、タビトはほっとした。
繊細な耳には触れないようにしたが、他者の頭に触るのは意外と勇気がいるのだと知る。
アルシャウから手を離した途端、タビトの手は横合いに奪われた。
「わっ、なにレグルス」
「ん!」
レグルスは自らの頭にタビトの手を載せた。
なぜか得意そうな顔で撫でろとねだる。タビトは大人しく手のひらを上下左右に動かして、わがままな主の要望に応えた。
3
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした
たがわリウ
BL
年下騎士×賢者
異世界転移/両片想い
6年前に突然異世界にやってきたヒロナは、最初こそ戸惑ったものの、今では以前とは違う暮らしを楽しんでいた。
この世界を知るために旅をし様々な知識を蓄えた結果、ある国に賢者として仕えることに。
魔法の指導等で王子と関わるうちに、王子の警衛担当騎士、ルーフスにいつの間にか憧れを抱く。
ルーフスも不器用ながらもヒロナに同じような思いを向け、2人は少しずつ距離を縮めていく。
そんなある時、ヒロナが人攫いに巻き込まれてしまい――。
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
海野ことり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる