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本編
05.好奇心はアルファを殺す
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時間って止まるんだ、と思った。
どこの時間が止まったかというと、俺の周囲の。というか俺の。
オメガは尻が濡れる、それはいい。ネットにも教科書にも載ってる事実だ。
でもそれを確かめるって、何?
時間が止まっているので頭が働かず、ふわっと真っ白になった。理解の範疇を越えた言葉を突如ぶっ込まれて思考停止した。
「……それ、は…………なんで?」
「なんでっていうか、ユキもわかったほうがいいだろ? 病院に行かないならさ」
「まぁ、そうかも、だけど……え、濡れるかどうか確かめるってこと?」
「うん」
「今?」
「うん、今」
「え?」
思考が停止したまま再起動しない。
颯真は特に感情を出すこともなく当然のことのように、「授業終わったから帰ろうぜ」って言うのと同じテンションで喋ってくる。
「オメガのそういう性衝動ってアルファがいたほうが顕著らしい。中学んとき保健体育で習わなかった?」
真っ白な頭に中学時代の体育教師の顔が浮かんだ。
性に関する授業なんて気恥ずかしくて男子は誰も聞いてないか、友達同士で下ネタを言い合ってたことくらいしか覚えてないだろ普通。
でも目の前の優等生は教科書の知識をしっかり我が物としているらしい。
あれ、こいつ優等生だよな。今なぜか颯真のことがものすごくバカに見える。
「ほら、こっち」
ぽかんとしたままの俺を持ち上げるようにして、颯真が立ち上がった。
俺の体はゆっくりベッドに横たえられる。
その上に颯真が覆い被さってくる。
え? 何?
「オメガかどうか確かめるだけだから」
それが今大問題すぎて俺の思考が停止してるんじゃないのか?
颯真はなぜか決定事項のように行動を開始している。
まずは俺のパンツが脱がされた。っておい!
「何すんだ!」
「えっ。このままだとパンツ濡れるし」
「そうだけど! いやそうじゃなくて!」
「ほら、タオル敷くからシーツは濡れないし」
どこからか清潔そうなタオルケットが取り出され、シーツに敷かれ、俺の体がころりと半回転してタオルの上にうつ伏せで設置される。
なんだこの流れるような手際。
「え、ま、マジでやんの?」
「大丈夫、痛いこととかは絶対しないから。濡れないと思ったらすぐやめよう」
「……」
なんかもう一周回ってそれでいいような気がしてきた。
確かに、自分の体が本当に非科学的な変化を遂げているのかどうか気にはなる。
体臭の変化、駅で追いかけられたこと、それ以外に変化がないこと。この辺の疑問の答えが少しは絞れる。
一週間モヤモヤしながら、効いているのかわからない市販抑制剤を飲み続けるより、白黒ハッキリつけた方がより良いことも理解してる。
でもなぁ……颯真に見られるのは、なんかちょっと……。
「男同士ならAV鑑賞会で抜き合いとかもあるらしいし」
あぁ、それは聞いたことある。
えっ、もしかして颯真そういうのやったことあるの?
友人の意外な一面を知ってしまった。
まぁ問題があるとすれば、今この場所にAVは流れていないということなんですが。
「触るよ」
うつ伏せのままなんとか上半身を捻って颯真を見上げる。しかし頭が少しだけ見える程度だ。
何をされるかわからない不安の中で、颯真の手が俺の尻を掴んだ。
肉を左右に割られて、奥の窄まりを見られている。
うわ……これめちゃくちゃ恥ずかしくないか?
尻の穴なんてもう何年も誰にも、それこそ親にすら見られてない。それを颯真に見られてるなんて。
「あ、よ、汚れてるかも。くさいかも……」
「大丈夫そうだ」
「え、そ、そう……」
日頃風呂でお尻までしっかり洗ってて良かった。
いやこんな異常事態を想定して毎日体洗ってるわけじゃないけど。
強烈な羞恥心に耐えながらじっとしていたが、俺の尻穴に変化はなさそうだ。
「ユキ、ちょっと腰上げてくれる?」
促されて、そろりと腰を持ち上げた。
より颯真に尻を見せつけるような姿勢になっている気がしてならない。めちゃくちゃ恥ずかしい。
少し足を開いているせいで、俺の秘すべき場所は颯真から全部丸見えだ。
マジで何してんだろ俺たち。
冷静になりかけた時、何かが俺の腰のモノを握った。
「え!?」
当然犯人は颯真だ。
颯真が俺のちんちんを握っている。本当になんで?
「オメガだとしても何もしないで濡れるはずないし、気持ち良くならないとダメかなと」
「だ、だからって……ぅ……」
問いかける前に説明してくれる有能な友人……じゃなくて、せめて事前に許可取ってくれ。
持ち主は違うが、俺も颯真もついてるものは同じだ。
気持ち良くなるためにしていることも大差ないらしい。的確な動きで、俺のムスコは確実に硬さを持ち始めている。
「ん、んっ……ちょっと、颯真……っ」
友人の前で二度目の勃起はシャレにならない。
なのに颯真は動きを止めず、やめさせようと手を伸ばした俺の腕を押さえてまで続行している。何が彼をここまで駆り立てるのか。
「ちょ、イきそうだから、離して」
「早いな。溜まってた?」
「そういうのいいから……ッ」
このままじゃ颯真の手を汚してしまう。
もうすでに先走りでぐちゅぐちゅ言ってる気がするけど、友人の手でイっちゃうのはもっとまずい気がする。
押さえつけられてない方の腕を伸ばして颯真の手を掴もうとして────彼の手が離れた。
「あ……」
良かった。なんとか出してしまう前にやめてもらえた。
そんな安堵が、体の緊張をほぐしてしまったのかもしれない。
颯真の手のひらは俺の尻に移動しただけだった。指先が窄まりに触れ、僅かに押し開かれた。
「ひっ! ぁ、あ!?」
手のひら全体で尻たぶが左右に開かれている。だから多分、そこへ触れたのは親指だ。
きつく閉じている襞を撫でるような動きをされて腰が逃げを打つ。
しかししっかり掴まれているので逃げられない。
「……濡れてる」
あり得ない場所から微かに水音がして、俺は目を見開いた。
そんな、じゃあ俺は本当に。
「あ、あぁっ!」
俺の後孔は、アルファによって性的に高められたことにより濡れてきているらしい。
混乱の極みにある俺は、腰だけを上げた状態で固まってしまった。
そこに指を差し込まれるなんて思わずに。
「うそ、なんか入って……颯真、そうまっ」
「わ。指、根本まで入った。オメガって本当にここでできるんだ……」
俺のケツ穴に根本まで指挿れちゃったんですか!?
さっきから全然頭が働かないけど、それがまずいことははっきりわかる。
俺は必死に上半身をひねり、体を横向きにして颯真から逃げようとした。
でも腰を掴まれているし、何より後孔に感じる違和感のせいで大きな動きを取れない。
「だめ、それはだめ、そうま、抜いて」
「……」
「ひぁ! やめ、中で動かさないで……」
颯真はなぜか無言で、あろうことか挿入した指を動かしてきた。
少し抜いて、押し込んで。ぐるりと中で回して、指先を曲げて。そんな刺激がダイレクトに中から伝わってくる。
俺は半泣きなんてもんじゃない、ほぼ号泣状態だ。勝手に目から汗が大量に出る。
でも颯真はやめてくれない。なんで。俺が嫌がることをするようなやつじゃないのに。
「また勃ってきてる。気持ちいいんだ……?」
「ちが、やだ、嘘だぁっ」
「今のユキ、すごくいい匂い。匂いが強くなった……」
恍惚とした颯真の声で、彼がオメガのフェロモンに当てられて正気を失っている可能性にやっと気がついた。
俺は自分のフェロモンがわからない。
もしかしたらエロ行為のせいで、今までより強くフェロモンが出ているのかもしれない。
アルファ用抑制剤は飲んでいると言っても、オメガと接する機会が少ないのは颯真だって同じだ。
効果の弱い市販薬で抑えているだけの俺のオメガフェロモンに、耐性がないのだろう。
これ以上は颯真のためにもいけない。
「やめろっつってんだろ!」
俺の匂いを嗅ぐためにだろう、上半身をこちらへ倒してきた颯真の頭を捕まえて、遠慮なく頭突きをかました。
痛い。しかし俺より颯真のほうがずっと痛かっただろう。
モロに頭突きを食らった頭がふらりと傾いで、横倒しになる。その拍子に指が抜けた。その刺激にすら甲高い声が出てしまったが、今はそれどころじゃない。
脳震盪まではいかなかったようで、颯真はすぐに身を起こした。
さっきまでの、酔ったような浮ついた様子は消え失せている。
「正気に戻ったか……?」
颯真はこくりと頷いて、ベッドの上に正座した。
「ごめんユキ……俺、ひどいことを」
「いや俺の方こそごめん、とんでもないことさせちまった」
「……いや、それは……」
沈黙が降りる。できれば「とんでもないこと」について深く考えない方向でお願いしたい。
俺は素早く尻をタオルで拭いた。うわ、ぐちゃっとした。
そして汚れていない場所で颯真の指も拭いた。それはもう念入りに。
「手、洗ってこい」
尻の穴に突っ込まれた指そのままでこれ以上会話するつもりはない。
俺の強固な意思が伝わったのだろう、颯真はのろのろとベッドから降りて部屋を出ていった。その間に俺は身支度する。
パンツを穿いて、放り出されていたスウェットのズボンもしっかりと引き上げる。念のため窓を全開にした。
戻ってきた颯真と入れ替わりに部屋を出て、廊下に投げてあったシャツと一緒にタオルを脱衣所に持っていった。シャツは脱衣カゴに入れ、タオルは念入りに洗っておく。
「タオルは乾いたら返す。学校でいいか?」
「あ、うん。いつでもいいよ」
部屋に戻ると、颯真はラグの上に正座して、肩をすくめ小さくなっていた。
その横にあぐらをかいて座る。
「ユキ、本当にごめん。俺……」
「わかってるからいい。オメガのフェロモンのせいで頭ぶっ飛んでたんだよな?」
「多分……」
「いいよ、怒ってないし。ちょっと怖かったけど、それだけだから」
膝の上で握られた颯真の手がぎゅっと音を立てた。後悔してるんだろう、こればかりはどうしようもない。
それより、俺にとってはもっと重大なことがある。
「俺、ホントにオメガになってるんだ」
「……みたいだね」
アルファの理性を失わせる匂いと、勝手に濡れる後孔。
性について素人の俺たちですらわかる結果だ。
極めて非現実的、非科学的ではあるが、俺は間違いなく、たった数日のことだったとしても────オメガに変化してしまった。
「マジか……はーー……」
重苦しい溜め息も出ますとも。
あの空き地での出来事は夢じゃなくて、あの少年も本当に神様的な存在だった。
現状病院にかかる選択肢はなく、あと数日で約束の一週間ではあるがもとに戻れる保証も、ない。
天罰みたいなものを無関係の人間に与え、効果はランダム、元に戻せるのは一週間後だなんていう神様、明らかに信用できないし。
けど後ろ向きに考えたって破滅的な思考になるだけだ。
それなら、今の俺にできることは。
「よし。俺は今日からオメガとして生きる」
「え?」
「颯真も俺をオメガだと思って接して」
「お、おう……?」
たった一週間(正確にはあと4日くらい)のオメガ生活。
こうなったら楽しまなきゃ絶対損だ。
どこの時間が止まったかというと、俺の周囲の。というか俺の。
オメガは尻が濡れる、それはいい。ネットにも教科書にも載ってる事実だ。
でもそれを確かめるって、何?
時間が止まっているので頭が働かず、ふわっと真っ白になった。理解の範疇を越えた言葉を突如ぶっ込まれて思考停止した。
「……それ、は…………なんで?」
「なんでっていうか、ユキもわかったほうがいいだろ? 病院に行かないならさ」
「まぁ、そうかも、だけど……え、濡れるかどうか確かめるってこと?」
「うん」
「今?」
「うん、今」
「え?」
思考が停止したまま再起動しない。
颯真は特に感情を出すこともなく当然のことのように、「授業終わったから帰ろうぜ」って言うのと同じテンションで喋ってくる。
「オメガのそういう性衝動ってアルファがいたほうが顕著らしい。中学んとき保健体育で習わなかった?」
真っ白な頭に中学時代の体育教師の顔が浮かんだ。
性に関する授業なんて気恥ずかしくて男子は誰も聞いてないか、友達同士で下ネタを言い合ってたことくらいしか覚えてないだろ普通。
でも目の前の優等生は教科書の知識をしっかり我が物としているらしい。
あれ、こいつ優等生だよな。今なぜか颯真のことがものすごくバカに見える。
「ほら、こっち」
ぽかんとしたままの俺を持ち上げるようにして、颯真が立ち上がった。
俺の体はゆっくりベッドに横たえられる。
その上に颯真が覆い被さってくる。
え? 何?
「オメガかどうか確かめるだけだから」
それが今大問題すぎて俺の思考が停止してるんじゃないのか?
颯真はなぜか決定事項のように行動を開始している。
まずは俺のパンツが脱がされた。っておい!
「何すんだ!」
「えっ。このままだとパンツ濡れるし」
「そうだけど! いやそうじゃなくて!」
「ほら、タオル敷くからシーツは濡れないし」
どこからか清潔そうなタオルケットが取り出され、シーツに敷かれ、俺の体がころりと半回転してタオルの上にうつ伏せで設置される。
なんだこの流れるような手際。
「え、ま、マジでやんの?」
「大丈夫、痛いこととかは絶対しないから。濡れないと思ったらすぐやめよう」
「……」
なんかもう一周回ってそれでいいような気がしてきた。
確かに、自分の体が本当に非科学的な変化を遂げているのかどうか気にはなる。
体臭の変化、駅で追いかけられたこと、それ以外に変化がないこと。この辺の疑問の答えが少しは絞れる。
一週間モヤモヤしながら、効いているのかわからない市販抑制剤を飲み続けるより、白黒ハッキリつけた方がより良いことも理解してる。
でもなぁ……颯真に見られるのは、なんかちょっと……。
「男同士ならAV鑑賞会で抜き合いとかもあるらしいし」
あぁ、それは聞いたことある。
えっ、もしかして颯真そういうのやったことあるの?
友人の意外な一面を知ってしまった。
まぁ問題があるとすれば、今この場所にAVは流れていないということなんですが。
「触るよ」
うつ伏せのままなんとか上半身を捻って颯真を見上げる。しかし頭が少しだけ見える程度だ。
何をされるかわからない不安の中で、颯真の手が俺の尻を掴んだ。
肉を左右に割られて、奥の窄まりを見られている。
うわ……これめちゃくちゃ恥ずかしくないか?
尻の穴なんてもう何年も誰にも、それこそ親にすら見られてない。それを颯真に見られてるなんて。
「あ、よ、汚れてるかも。くさいかも……」
「大丈夫そうだ」
「え、そ、そう……」
日頃風呂でお尻までしっかり洗ってて良かった。
いやこんな異常事態を想定して毎日体洗ってるわけじゃないけど。
強烈な羞恥心に耐えながらじっとしていたが、俺の尻穴に変化はなさそうだ。
「ユキ、ちょっと腰上げてくれる?」
促されて、そろりと腰を持ち上げた。
より颯真に尻を見せつけるような姿勢になっている気がしてならない。めちゃくちゃ恥ずかしい。
少し足を開いているせいで、俺の秘すべき場所は颯真から全部丸見えだ。
マジで何してんだろ俺たち。
冷静になりかけた時、何かが俺の腰のモノを握った。
「え!?」
当然犯人は颯真だ。
颯真が俺のちんちんを握っている。本当になんで?
「オメガだとしても何もしないで濡れるはずないし、気持ち良くならないとダメかなと」
「だ、だからって……ぅ……」
問いかける前に説明してくれる有能な友人……じゃなくて、せめて事前に許可取ってくれ。
持ち主は違うが、俺も颯真もついてるものは同じだ。
気持ち良くなるためにしていることも大差ないらしい。的確な動きで、俺のムスコは確実に硬さを持ち始めている。
「ん、んっ……ちょっと、颯真……っ」
友人の前で二度目の勃起はシャレにならない。
なのに颯真は動きを止めず、やめさせようと手を伸ばした俺の腕を押さえてまで続行している。何が彼をここまで駆り立てるのか。
「ちょ、イきそうだから、離して」
「早いな。溜まってた?」
「そういうのいいから……ッ」
このままじゃ颯真の手を汚してしまう。
もうすでに先走りでぐちゅぐちゅ言ってる気がするけど、友人の手でイっちゃうのはもっとまずい気がする。
押さえつけられてない方の腕を伸ばして颯真の手を掴もうとして────彼の手が離れた。
「あ……」
良かった。なんとか出してしまう前にやめてもらえた。
そんな安堵が、体の緊張をほぐしてしまったのかもしれない。
颯真の手のひらは俺の尻に移動しただけだった。指先が窄まりに触れ、僅かに押し開かれた。
「ひっ! ぁ、あ!?」
手のひら全体で尻たぶが左右に開かれている。だから多分、そこへ触れたのは親指だ。
きつく閉じている襞を撫でるような動きをされて腰が逃げを打つ。
しかししっかり掴まれているので逃げられない。
「……濡れてる」
あり得ない場所から微かに水音がして、俺は目を見開いた。
そんな、じゃあ俺は本当に。
「あ、あぁっ!」
俺の後孔は、アルファによって性的に高められたことにより濡れてきているらしい。
混乱の極みにある俺は、腰だけを上げた状態で固まってしまった。
そこに指を差し込まれるなんて思わずに。
「うそ、なんか入って……颯真、そうまっ」
「わ。指、根本まで入った。オメガって本当にここでできるんだ……」
俺のケツ穴に根本まで指挿れちゃったんですか!?
さっきから全然頭が働かないけど、それがまずいことははっきりわかる。
俺は必死に上半身をひねり、体を横向きにして颯真から逃げようとした。
でも腰を掴まれているし、何より後孔に感じる違和感のせいで大きな動きを取れない。
「だめ、それはだめ、そうま、抜いて」
「……」
「ひぁ! やめ、中で動かさないで……」
颯真はなぜか無言で、あろうことか挿入した指を動かしてきた。
少し抜いて、押し込んで。ぐるりと中で回して、指先を曲げて。そんな刺激がダイレクトに中から伝わってくる。
俺は半泣きなんてもんじゃない、ほぼ号泣状態だ。勝手に目から汗が大量に出る。
でも颯真はやめてくれない。なんで。俺が嫌がることをするようなやつじゃないのに。
「また勃ってきてる。気持ちいいんだ……?」
「ちが、やだ、嘘だぁっ」
「今のユキ、すごくいい匂い。匂いが強くなった……」
恍惚とした颯真の声で、彼がオメガのフェロモンに当てられて正気を失っている可能性にやっと気がついた。
俺は自分のフェロモンがわからない。
もしかしたらエロ行為のせいで、今までより強くフェロモンが出ているのかもしれない。
アルファ用抑制剤は飲んでいると言っても、オメガと接する機会が少ないのは颯真だって同じだ。
効果の弱い市販薬で抑えているだけの俺のオメガフェロモンに、耐性がないのだろう。
これ以上は颯真のためにもいけない。
「やめろっつってんだろ!」
俺の匂いを嗅ぐためにだろう、上半身をこちらへ倒してきた颯真の頭を捕まえて、遠慮なく頭突きをかました。
痛い。しかし俺より颯真のほうがずっと痛かっただろう。
モロに頭突きを食らった頭がふらりと傾いで、横倒しになる。その拍子に指が抜けた。その刺激にすら甲高い声が出てしまったが、今はそれどころじゃない。
脳震盪まではいかなかったようで、颯真はすぐに身を起こした。
さっきまでの、酔ったような浮ついた様子は消え失せている。
「正気に戻ったか……?」
颯真はこくりと頷いて、ベッドの上に正座した。
「ごめんユキ……俺、ひどいことを」
「いや俺の方こそごめん、とんでもないことさせちまった」
「……いや、それは……」
沈黙が降りる。できれば「とんでもないこと」について深く考えない方向でお願いしたい。
俺は素早く尻をタオルで拭いた。うわ、ぐちゃっとした。
そして汚れていない場所で颯真の指も拭いた。それはもう念入りに。
「手、洗ってこい」
尻の穴に突っ込まれた指そのままでこれ以上会話するつもりはない。
俺の強固な意思が伝わったのだろう、颯真はのろのろとベッドから降りて部屋を出ていった。その間に俺は身支度する。
パンツを穿いて、放り出されていたスウェットのズボンもしっかりと引き上げる。念のため窓を全開にした。
戻ってきた颯真と入れ替わりに部屋を出て、廊下に投げてあったシャツと一緒にタオルを脱衣所に持っていった。シャツは脱衣カゴに入れ、タオルは念入りに洗っておく。
「タオルは乾いたら返す。学校でいいか?」
「あ、うん。いつでもいいよ」
部屋に戻ると、颯真はラグの上に正座して、肩をすくめ小さくなっていた。
その横にあぐらをかいて座る。
「ユキ、本当にごめん。俺……」
「わかってるからいい。オメガのフェロモンのせいで頭ぶっ飛んでたんだよな?」
「多分……」
「いいよ、怒ってないし。ちょっと怖かったけど、それだけだから」
膝の上で握られた颯真の手がぎゅっと音を立てた。後悔してるんだろう、こればかりはどうしようもない。
それより、俺にとってはもっと重大なことがある。
「俺、ホントにオメガになってるんだ」
「……みたいだね」
アルファの理性を失わせる匂いと、勝手に濡れる後孔。
性について素人の俺たちですらわかる結果だ。
極めて非現実的、非科学的ではあるが、俺は間違いなく、たった数日のことだったとしても────オメガに変化してしまった。
「マジか……はーー……」
重苦しい溜め息も出ますとも。
あの空き地での出来事は夢じゃなくて、あの少年も本当に神様的な存在だった。
現状病院にかかる選択肢はなく、あと数日で約束の一週間ではあるがもとに戻れる保証も、ない。
天罰みたいなものを無関係の人間に与え、効果はランダム、元に戻せるのは一週間後だなんていう神様、明らかに信用できないし。
けど後ろ向きに考えたって破滅的な思考になるだけだ。
それなら、今の俺にできることは。
「よし。俺は今日からオメガとして生きる」
「え?」
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