黄泉津役所

浅井 ことは

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祭り

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「ちょっと待ってろ。志那呼んでくる」

とりあえず財布とスマホだけでいいかといつものショルダーに入れて玄関で靴を履いていると、「出かけるの?」と母に声をかけられたので、すぐに帰ってこられるだろうとは思いつつ、「祭りだから見回りについて行ってくるだけ」と誤魔化し、心の中で母さんごめんと手を合わせる。

「気をつけるのよ?」

「うん。志那さんも一緒だから大丈夫」

行ってきますと車に乗り込むと、またあの不思議な感覚。
こればかりはどうなっているのか分からないが、便利だなとは思う。

「本当は志那さんの車なんだよね?」

「ええ。でも使ってませんでしたから」

「車なんてどこに置いておくの?」

「共有の駐車場に。ちゃんと免許もありますよ」と免許証を見せてくれる。

「俺も持ってる。役所が管理してくれてるんだ」

「俺もバイクの免許欲しいけど親父がダメだって。卒業したら車の免許はとるし、それまで待てだって」

「あっという間に三年生になりますよ。ああ、ここでしたか」

もう着いたの?と外を見るが真っ暗でちょっと怖い。

車を降りて階段を上がるが、二人がいなかったら一人では登れなかったかも。

『やっと来たのか。一言は決めたのか?』

「夜に突然すいません……」

『待ちくたびれたぞ。それに珍しい客も』

「ご無沙汰しております」

『まあ良いわ。さてと一言だけだ』

「はい。俺の願いは……大切な人を守れる力が欲しい……です」

「まさかとは思ったが……」

「具体的に言わなくていいんですか?」

「一言……一言ひとこととも言えるし、一言いちごんとも言えるんならば、一言いちごんなのかな?って」

『なぜそう思った?』

「調べたんです。ひとことより丁寧な言い回しで、一言一句ってあるでしょ?ひとことを大切にするって意味で。なら、俺が言葉を扱えるのならばその言葉を使ってみんなを守りたいと思ったんです。というより、それしか思いつかなかったんですけど、俺に出来るのは今それだけだから」

『よかろう。ならば印を与える』

「おい!そんな事したら……」

「気に入られてますね。ま、一言主さんですから変なことはしないと思いますよ」

拝殿の前に立てと言われて進むと、首の辺りがチリッとして『終わった。良いか?人を守るための言葉を使うのならば、強い意志を持たねばならん。だが、悪しきことに使えばその耳の後ろの印がやけるように熱くなる』

「もし使ったら?」

『使わんだろうと信じておるぞ』

「気配が消えましたね」

「あいつよく寝るからなぁ」

終わったなら帰ろうと言われて車で家の近くまで戻った時に、近くのコンビニによって欲しいと頼んで、店でお菓子とジュースを買っておく。

「また食うのか?太るぞ?」

「買い置きだよ。見回ってきまぁーすで何も持ってなかったら変に思われるじゃん」

「それなら私も」と志那さんが袋を持って出てきたので見せてもらうと、三色団子にみたらし団子、こしあんの黒糖まんじゅう……

「大福は売り切れてました」

これで桃ちゃんの心を掴んでたのか!
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