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第1章
7.それぞれの役割
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あっという間に、下校の時間がやってきた。
今朝、ヴォルフの魔法でずぶ濡れになってしまった服はちゃんと乾いていたから一安心だ。
そういえば、前にもヴォルフのせいでずぶ濡れになったことがあって、その時は無詠唱で弱めに『ヒッツェヴェルメ』を発動させて服を乾かしたな。けど、生乾きになってしまって気持ち悪かった覚えがある。やっぱり、洗濯物はお日様で乾かすのが一番だな。
そんなことを考えながら校舎を出た瞬間、
「さあ、帰るぞ。勇者よ」
仁王立ちした魔王に、声をかけられた。
「わざわざ待たなくても良いのに」
「一緒に下校する相手がいないと寂しいではないか」
「寂しいって……」
ちょっと呆れてしまいつつも、オレは嬉しかった。一人で帰るより、誰かと一緒に帰った方が楽しいからな。
「……初めてのモンスター退治はどうだった?」
「ん、ああ……」
魔王と並んで歩きながら、オレは思ったままのことを伝えた。
「まず、あまりにも急すぎた。みんなびっくりしてたじゃん」
「モンスターとの遭遇は、基本的に唐突だ。魔法使いは常にモンスターに襲われるリスクがあるのだから、いかなる時もすぐ対応できるようにならねばいかんのだ」
「それはお前の考えだろ。誰かぎ大怪我したらどうするつもりだったんだよ」
「案ずるな。ゲートに送った全生徒の動向は遠見の魔法で把握していたし、いざという時は転移の魔法で引き戻すつもりだった」
おお。ナハトが予想してた通りだった。ちゃんとオレたちの身を案じてたんだな。
「転移の魔法か。凄い魔法だよな。……あっ。それがあれば一瞬で家まで帰れるんじゃないか?」
「怠惰はいかんぞ勇者。それに、転移魔法はいつでもどこでも使える魔法ではない。転移場所までの道筋の把握、座標の指定など、条件を満たさなければ使用できない。そのため、様々な前準備を要する。準備に数日を費やしたのだぞ」
「うわあ。めんどくさい」
道筋や座標云々はよく分からなかったけど、転移の魔法を使うにはとてもめんどくさい条件をこなさないといけないのは分かった。
「うむ。転移魔法を使う我の苦労を理解できたようだな。それを理解できたなら自分の足で歩め、勇者よ」
「はいはい」
「はい、は一回だぞ」
「はーい」
相変わらず細かい魔王だ。まるで、母さんみたいだ。
「それにしても、勇者よ。ゲートの中では上手く立ち回っていたではないか」
「そうか。お前は遠見の魔法ってので見てたんだよな」
「うむ。見てたぞ。勇者は、他のチームメイトとしっかり協力できていた。それに、仲良くなれたようだな」
「ああ。うん。ナハトとヴォルフと仲良くなれたのは嬉しいな。急にモンスター退治をしろって言われた時はびっくりしたけど、結果的には良かった」
ナハトは元からオレのことを気にかけてよく話しかけてくれてたけど、今回のモンスター退治でもっと仲良くなれたような気がする。
ヴォルフとはあんなに仲が悪かったのに、今回の件で打ち解けた。
オレはやっと、魔族の友達ができたって胸を張って言えるかもしれないな。
「そうか。友が増えるのは喜ばしいことだ」
「うん。それは良かったよ本当に」
その後、しばらくオレたちは無言で歩き続けた。
トラオム学園と家の途中には長い坂道がある。その坂道は、登校中は下り坂だから楽だが、下校中は登り坂になる。歩いていくと結構疲れる。だけど、登りきったら疲れが吹き飛ぶほど綺麗な景色が目に入る。高台で、久栄市の中心部が一望できるのだ。
「うむ。相変わらず綺麗だな」
坂道を登り切ったところで魔王が足を止めた。そして、夕日に照らされた町をじっくりと眺め始める。
「ああ。良いよなこの景色」
オレンジ色に染まる雲と建物が、とても綺麗だ。
「我は、この景色が好きだ。いつまでも眺めていられる」
「いつまでも見てたら日が沈むぞ。でもまあ、気持ちはわかるな」
久栄市は田舎でもなく、都会と言えるほどでもない。そんな場所だ。農業が盛んな市だが、市街地にはデパートもあり、そこそこ賑わっている。
オレたちが住んでいる場所は市街地に近い。だけど、ちょっと市街地を外れるだけで田んぼや畑がある場所に出る。
この田舎過ぎず、都会過ぎない感じは、落ち着くなあ。
「そういえば、我と勇者が出会ったのもこんな風に夕日が綺麗な日であったな」
「あの時はびっくりしたよ。いきなり、オレを倒して世界を支配するなんて言うからさ」
「……ああ。我は、そうしなければならないのだ」
そう、魔王は力なく呟いた。どこか落ち込んでいるように見える。
「……なあ。ひょっとして嫌なんじゃないか?」
「何がだ」
「オレを倒すのが」
どうやら、図星だったようだ。一瞬尻尾をぴんと立てたかと思えば、すぐに力なく垂れた。やっぱり、魔族は尻尾で感情がわかりやすいな。
「我は魔王だ。勇者を倒す。そして世界を支配する。それが魔王として生まれた我の役割なのだ」
「役割……」
「うむ。そして、勇者として生まれたお前の役割は、我を倒して世界の平和を守ることだ」
「……あのなあ。前から言ってるけど何でオレが勇者なんだよ」
別に特別な力を持っているわけじゃない。魔法を上手く扱えるわけでもない。そんなオレが勇者だなんて思えない。
「魔素を束ねる力と、全ての属性の魔法を操る力。そして、勇者を感知する力。魔王にはそれが生まれた時から備わっているのだ」
「へえ。じゃあ、その勇者を感知する力ってのでオレを見つけたのか?」
「うむ。我の感知能力が、間違いなくお前を勇者だと示している」
生まれた時から、色々な力を持っていたのか。それは便利だ。だけど。
「その感知能力がおかしくなってるんじゃないか? オレは、お前みたいに生まれた時から特別な力を持ってたわけじゃないし」
「いーや。我の感知能力に狂いはない。間違いない。きっと、お前は我を倒すための力を秘めている」
魔王は腕組みをしながら、きっぱりとそう言い放った。どうやら、オレを勇者だと信じているようだ。
「じゃあ、何でそんな危険な力を持ってるかもしれないやつと暮らして鍛えようとしてるんだよ。まるで、オレに倒されたがってるみたいじゃないか」
「な、何を言う。我がそのようなことを願うわけがないだろう。貴様のような軟弱者を倒して世界を征服してもつまらない。だから鍛える。それだけだ」
魔王が、明らかに動揺している。こいつ、嘘をつくのが下手だなあ。
「なあ。魔王の役割とやらを果たすのが嫌なら嫌って言えばいいんじゃないか?」
「ま、魔王とはそのように軽いものではない。役割を果たすということは魔王としての責任を果たすということでもあり……」
「……オレにはよく分からないけど、嫌だったら、魔王の役割なんて考えずに好きなようにすればいいんじゃないか?」
「好きなように……?」
生まれた時から役割というものが与えられていたとしても、その役割通りに生きる必要があるのだろうか。そんな苦しそうな生き方を、しなければいけないんだろうか。
「なんか、偉そうなこと言ってごめんな。でも、役割を果たさなきゃいけないなんて思いながら生きるのって苦しそうだと思ってさ」
「むう……」
オレは、周りに流されやすい人間だ。だけど、誰かから与えられた役割に流されて、魔王を倒すなんてことはしたくない。それだけは、確かだ。
「オレは、お前を倒したくない。これからも、一緒に暮らせたら嬉しい。そう、思ってるよ」
「……そうか。勇者がそう思うのなら、我に言うことはない」
……なんか、空気が重くなったな。話題を変えよう。
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