ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

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第4章

21.焼きそばを食べよう

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 §

「はい完成! ヴォルフくん! お客さんに渡して!」
「おう!」
 文化祭が始まったばかりの時はまばらだったお客さんの数も、正午前後になると一気に増えて大繁盛となった。
 オレは、数日前にナハトたちに宣言した通り、焼きそばを作る係になった。実は、オレは焼きそばの作り方は熟知している。
 鉄板に油を薄くひいた後に、豚バラ肉とキャベツを炒め、それらが程よく焼けたところでメインである麺を投入。麺を投入したら水を軽くかけて蒸らし、水気がある程度飛んだところでソースを投入! 後はひたすら混ぜて麺にソースを絡ませればおいしいソース焼きそばの完成だ!
 ちなみにこれは昔、母さんに教わった焼きそばの作り方である。つまり、お袋の味というやつだ。
 焼きそばを作る係はオレ、パックに詰める係はナハト、列の整理や飲食コーナーで出来上がりを待つお客さんに焼きそばを配る係がヴォルフを含む他のクラスメイトたちだ。
 最初の内はヴォルフにも焼きそばを作るのとパックに詰める作業を手伝って貰っていたんだけど、すぐに暑さでへばったためナハトと交代してもらった。魔族の大半は全身を厚い毛皮で覆われているから、暑さに弱いようだ。熱々の鉄板の近くに立つのは堪えるだろうな。
「大繁盛だね! クオンくん!」
「それは良いことだけど大丈夫か、ナハト? 疲れないか?」
「ううん。大丈夫。私はヴォルフくんみたいに全身を毛皮に覆われてなくてどちらかというと人間に近いからね。ある程度の暑さは平気だよ」
 そう言いながらナハトは、オレが作った焼きそばを手早くパックに詰めていった。物凄く手馴れている。ひょっとしたら普段から料理をしたりしているのかもしれないな。とても頼もしい。
「そういえばさ、魔王もだけど、ナハトもいつの間にかオレのことを名前で呼ぶようになったよな」
「うん。嫌だった?」
「むしろ逆。嬉しいよ」
「良かった。だって、クオンくんはクオンくんなんでしょ?」
「そうだな。オレはオレだ」
 オレはオレ。暁 クオンという名の、一人の人間だ。勇者とか役割とか、誰かから押し付けられる言葉は、きっと気にしなくてもいいんだ。

 §

 十四時を過ぎる頃には、長蛇の列は解消され、またお客さんはまばらになった。
 確か、飲食店でこういう風にお客さんが少なくなる時間帯のことをアイドルタイムって言うんだっけ。
 アイドルって言うと歌って踊る人たちを想像しちゃうけど、そうじゃないらしい。この場合のアイドルは、仕事が無くて暇なことを指すようだ。ややこしいな。
 とにかく、お客さんの数も落ち着いたため、オレを除くクラスメイトのみんなは遅めの昼食を取ったり、他のクラスの出し物を見て回ったりすることになった。他のクラスの出し物も気になるけど、オレは後夜祭をゆっくりと楽しむことにしよう。
 ちなみに、クラスメイトのみんなの昼食はオレが作った焼きそばだ。クラスのみんなにもぜひ食べて欲しいということで、ナハトがちょっと多めに材料を注文したようだ。そのために担任のテルン先生と交渉したとか。したたかだなあ。
「ナハト。ここはもうオレ一人で大丈夫だから、教室に行ってヴォルフたちと一緒に焼きそばを食べてきなよ」
「うーん。今、お客さんいないしここで食べちゃうよ。万が一、お客さんの大群が来たら大変でしょ?」
「そんなことは無いとは思うけど。まあ、ナハトがそれでいいなら」
 と、いうわけでナハトはオレの隣で焼きそばを食べ始めた。しばらくはお客さんが来なさそうだし、大丈夫だろう。
「んっ。美味しい! 初めて食べるけど、こんなに美味しいんだね焼きそばって」
「気に入って貰えて良かったよ」
 目を輝かせながら焼きそばを頬張るナハトを見ると、オレも嬉しくなる。お客さんの反応も悪くなかったし、クラスの出し物を焼きそば屋にして正解だったなあ。
「クオンくんも食べなよ。はい、あーん」
「いや、オレはいいよ。ナハトが全部食べて」
「あーん」
 箸で掴んだ焼きそばを、ナハトが有無を言わさず差し出してくる。オレが食べるまで手を引っ込めないという意思を感じる。
 仕方ないので、黙って口を開くとナハトがオレの口の中に一口大の焼きそばを入れてくれた。
「美味しい?」
「ああ。美味しいよ。友達と一緒だからなおさらな」
「えへへ。良かった」
 食事は、一人で食べるより誰かと一緒に食べる方が美味しく感じるから不思議だ。誰かと食べるってことが、最高の調味料なのかもな。
「あっ。クオンさんとナハトさんがイチャイチャしてます!」
「ごほおっ!?」
 どこからかかけられた言葉に衝撃を受けて、オレはつい焼きそばを喉に詰まらせてしまった。
 慌てて水を飲んだ後に顔を上げると、そこにはユウくんとゼーゲンさんが立っていた。
「えっ。クオンさんとナハトさんってそういう関係だったンすか?」
「どういう関係だよ! 誤解だから!」
「うーん。これは怪しいですね」
 微笑ましげな表情を浮かべるユウくんとゼーゲンさんを見て、オレは悟った。これは今すぐ誤解を解かないとこれから先ずっといじられると。
「これはあれだ! 焼きそば作りで両手が塞がってたオレに気を効かせてナハトが焼きそばを食べさせてくれただけなんだ! そうだよな、ナハト!」
「酷いよクオンくん。私とのことは遊びだったんだね……」
「おいナハト!? 何故そこで誤解を深めるような発言をした!?」
「ごめん。クオンくんをからかうのが面白そうだったからつい……」
 つい、じゃない! 背筋が冷えたよ! まったくもう!
 ……まあ、目の前の二人に冗談だってことは伝わったみたいだしいいか。
「ごほん。それはともかく、来てくれたんだな。ユウくん」
「はい! ゼーゲンさんが車で迎えに来てくれました。僕の学校は文化祭が無いから、どんなものなんだろうって実は気になってて、楽しみにしてたんです!」
「ちなみに途中でちょっと寄り道しつつ、お客さんが少なそうな時間を見計らってここに来たッスよ! 気遣いができる男ッスよね! オイラ!」
「そうだったんだ。とにかく、二人も焼きそばを食べるといいよ。ナハト、二人に渡してくれ」
「りょーかい」
 近くの椅子に腰かけてもらったところで、ナハトがパックに詰まった焼きそばを箸と一緒に二人に渡した。すると、ユウくんはしっかりと噛みしめながら、ゼーゲンさんは豪快にバクバクと食べ始めた。
「おいしいですね! キャベツはしんなりとしていて、なおかつ程よい歯ごたえがあります。豚肉はしっかりと焼き目がついていてジューシーです。麺にはソースがしっかりと絡んでいて、これは美味しすぎて手が止まらないですね」
「う、うん。評論家みたいなコメントだな……」
 ユウくんの感想は、テレビの料理番組でよく見る食レポのようだった。ユウくんには野球だけではなく、そっちの才能もあるのかもしれないな。
「う、美味いッス! なんスかこれ! こんな美味い食べ物があったンスか!?」
「美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと大げさすぎないか?」
「全然大げさじゃないッスよ! オイラ、美味すぎて感動してるッス! 毎日でも食べたいくらいッスよ! ……んぐうっ!?」
「ありゃ。ゆっくり食べないとダメだよ。はい、お水」
 勢いあまって焼きそばを喉に詰まらせたゼーゲンさんに、ナハトがそっと水を差しだす。ゼーゲンさんはそれを慌てて飲み干した後、再び焼きそばにがっつき始めた。よっぽど気に入ってくれたみたいだな。
「おっ。兄貴も来たのか。それと、えっと……」
 教室で焼きそばを食べ終わったのだろう。屋台に向かってヴォルフがてくてくと歩いてきた。ユウくんの姿を見て、名前を言おうとする素振りを見せたが、思い出せないようだ。
「海江田 ユウです。いいかげんに名前を覚えてくださいよ。オオカミさん」
「だからオレ様はオオカミさんなんて名前じゃなくてヴォルフだ! お前こそ早く名前を覚えろよな!」
 怒るヴォルフを見て、オレはつい笑ってしまった。
「おいクオン。何で笑ってんだ」
「いや、お前とユウくんは案外仲良くなれそうだなと思ってさ。あと、お前、口の端にめっちゃソースが付いてるぞ」
「な、なにいっ!?」
 慌てて口を拭うヴォルフを見て、オレたちは爆笑した。この様子だと、ヴォルフも焼きそばを気に入ってくれたようだな。良かった。
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