高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

文字の大きさ
19 / 84
第一部 春

17 愉快な仲間 ベニーとメル

しおりを挟む
 ねえ、ルナ、あなたって本当は王族なんでしょ?
 
 ねえ、ルナ、どの男子がタイプ。
 
 なんて訊きたい!
 でも、それをやってしまうと、いきなりゲームバランスが崩壊しそう……うふふ、なんなのだろうか、わたしの存在って……バカみたい。乙女ゲームならではの都合の良いモブキャラにくせに調子にのってはダメよ、マリ・フローレンス。自重をしなさい。
 
 都合の良いということで思い出したが、わたしの宿泊している部屋は四人部屋となっていて、いまマジで都合の良いことに卒業生が出たため、ひとつベッドが空いている。
 
 すると、メイド長からそのベッドを使うように言われた。ルナは、マリと一緒に寝れる、なんてはしゃいでいるけど、それはもう最初から決められたシナリオ。さらに、その部屋には癖の強い仲間がいるのだが、紹介が疲れそう。やれやれよね、まったく。
 
 わたしは開け放たれた扉をノックすると、「ちょっといいかしら」と声をかけた。
 
 部屋のなかには二人の少女が着替えちゅうだった。ちょうど入浴にいくところなのだろう。制服から部屋着になると、二人はわたしの隣にいる転校生を見つめた。
 
「やったー! やっぱりこの部屋に来たぞー!」
「う……後輩がよかったです……」

 喜んでいるのは、高等部三年生のべニース・ヴィルタンという名前で、愛称はべニー。赤髪にブルーの瞳を宿す彼女はとにかく明るくて天真爛漫な性格で演劇部に所属している。運動神経が抜群で素晴らしい踊りを披露してくれるみんなのアイドル。
 そんなベニーは、歌唱力がないことだけがコンプレックス。なのでそのことに触れると地雷を爆発させるので、取り扱いにはご注意くださいませ。
 
 そして、隣で肩をすくめる少女の名前はメルキュール・ビスコット、愛称はメル。紺碧のショートヘアに漆黒の双眸が光る彼女は背が低いため見た目は中等部の女子生徒みたいだけど、立派な高等部の二年生。文芸部に所属していて、こよなく本を愛する読書家で博識がある。たまに名言や諺など話してくれる歩く国語辞典。

 そんなメルちゃんは、いつも静かでもじもじしてて引っ込み思案なため友達が少ない。わたしはいつも、もっと自分からお話しなよ、とアドバイスする。でも……。

 マリ先輩うるさいです。

 とツンツン反抗してくる。そのくせに、二人きりのときは手を繋いでくる甘えん坊。まあ、簡単に言うと生意気なツンデレ妹って感じね。ホント、都合の良い愉快な仲間たち。でも楽しいから大好き。
 
「ベニーだぞ。よろしくなっ」

 ウィンクする瞳から星屑が光る。ここはアイドルの握手会ではないよ、ベニー。

「……メルです。会うは別れのはじまり、よろしくおねがいします」

 もう別れのことを考えているのは喜んでいる証拠。んもう、わかりにくいのよね、メル。
 
 そんな二人に向かってお辞儀をするルナは、

「これからよろしくお願いします! ルナスタシア・リュミエールです」

 と言ってにっこりと笑った。
 ルナには人を笑顔にさせる力があって、それは自分の笑顔から来ていることを本人は自覚しているのだろうか? わたしもベニーもメルもいつの間にか、みんなルナの笑顔に釣られて微笑んでいた。
 
「なあ、風呂にいくところだけど、マリリンもルナルナも行く?」

 ベニーの問いに、「ルナルナ?」とルナは訊き返した。
 わたしはすぐに説明をする。なぜならベニーはいつも言った切りで人の話を全然聞いていないからだ。
 
「あ、ごめんね。ベニーはすぐに人にあだ名をつけるのよ」
「へ~、ルナルナか……うん、かわいい」
「二回言ってるだけなんだけどね……」

 わたしはやれやれ、疲れるわって感じで、ふぅとため息をつく。ルナは自分のベッドはどこかと探していたので、わたしは顎で示してあげた。部屋には二段ベッドが二つ、壁際に向かい合って並んでいた。ルナのベッドはわたしの上だった。
 
「じゃ、さきいくぞ~」
「あ! まってくださいベニー先輩っタオル、タオル」

 メルはベニーのタオルを持ってゆっくり歩くと追いかけていった。そのやりとりを見つめながら、ルナは笑っていた。無垢な笑顔は見ていると癒される。
 
 ルナは田舎の村の出身だった。
 人口が少ない村のため同年代の友達はいなくて、いつも小さい子の遊び相手ばかりしていたみたい。村は農業と機織りが主な収入源。けして生活は楽なものではなく。それはルナの持って来たボロボロの鞄を見れば一目瞭然だった。

 若者はみんな都会に出て出稼ぎ労働者になる。ルナもそのつもりで都会のこの学園に入学した。泣けなしの金を家族に出資させたことだけが、ルナの心に突き刺さっている。そんなルナは鞄から取り出した家族の写真を見つめながら目を潤ませていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

処理中です...