高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

24 シエル・デトワールの日記

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 こんばんは、僕はシエル・デトワール。
 
 今日も最低で最悪な一日が終わる。

 窓の外を見ると、世界は墨を塗ったように真っ暗で、廊下の行灯に照らされた僕の顔が、まるで亡霊のように漆黒の窓に落とされていた。
 
「髪がのびたな、そろそろヘアカットしたいなあ」

 僕は髪を指先でくるくるしながら、肩を落としてつぶやく。
 
「あ~あ、今日も愛されなかったなあ」
 
 というのも、愛しのマリ姉に会えたのに、ロックに邪魔された。

「ちくしょう!」

 一年ぶりにマリ姉のおっぱいにハグできると思ったのに……むぅぅ残念。でも、僕はあきらめないぞ。マリ姉とイチャラブするためにパルテール学園に入学した、と言っても過言ではないからな。にゃはは。
 
「っていうか、それにしても、ここはどこだ?」

 えっと……僕はいま男子寮の風呂からあがって、自分の部屋に戻るところなんだけど。
 
「あれ? マジでここどこ?」
 
 うん、これは道に迷ったな。もちろん、人生の道には迷いがつきものだけど。いやいや、今回はそうではない。普通に自分の部屋がどこかわからなくて道に迷っていた。むぅぅ、こんなときは、一階の警備室にいる騎士に訊くしかない。
 
 うーん、騎士のことを考えると、ロックの顔が浮かぶ。ふと、手首を見ると縄の跡があったので、ビビった。むぅぅ、ロックのやつ、きつく結びやがって。絶対に面白がってやってるだろっ!

 ロックは、いつか犯人を捕まえるための捕縛術だと豪語しているけど、ロープで僕を縛るなんて、ドSな嗜好があると思う。

 ソレイユもソレイユだ。

 僕が縛られてるのを涼しい顔で、チラッと見てくる。公務の書類か何かに目を落としながら、冷ややかに笑ってることもあるし。むぅぅ、笑ってないで助けてくれよな、ソレイユ、あんた次期国王なら国民が虐められてるのを笑って見るなよ! 

 とは言っても、僕としても縄の縛りかたの勉強になるから、まあ、いいんだけどね。にゃはは。冒険には縄の扱いは必須だもん。
 
「男たるもの、いろいろやることがあって大変だ」

 そうつぶやきながら、男子寮の部屋をのぞきながら歩いていると、ふと、思った。僕は多額の入学金を払ったおかげで一人部屋を選べたからいいけど、四人部屋の男の子たちって大変だろうな、いろいろなストレスが溜まることもあるだろう。

「僕には四人部屋の生活は無理だな」

 ロックだってソレイユだってもちろん一人部屋だ。あいつらは僕と違って超一流の貴族っていうか王様レベルだからな。格が違う。
 
 僕の父親はフーマ教皇だけど、ちょっと訳ありなんだ。まぁ、こんなこと廊下を歩きながら考えることじゃないか……。

「はあ、ため息がでちゃう」
 
 一階に降りた僕は、警備室にいる騎士に自分の部屋を訊いた。
 騎士のお兄さんは「一人でいける?」なんて心配してくれたけど、ここはがんばって一人で行くことにした。今日から僕も高等生だ。いつまでも子どもじゃない。マリ姉だって僕が男らしく成長した姿を見たいはずだ。

「まってろよマリ姉、今度こそハグだかんなっ!」

 実は、僕は知っている。マリ姉だって、ハグされることは嫌いじゃない。どさくさに紛れておっぱいを揉んでも、怒られたことは一度もない。むしろ嬉しそうなときもあった。満更でもなく気持ちいいのかな? にゃはは。
 
 さてと、二階に上がり廊下を歩くと、僕の部屋はあった。

 にゃんだ、あっさり見つかった。

 でも、あれ? 

 隣の部屋の表札を見るとロックだった。それと、向かいの部屋は、なんとソレイユだった。
 
「にゃんだ、みんな近いじゃん」
 
 これならいじめっ子が追いかけてきてもすぐに守ってもらえるな……やったあ、っておいおい。僕はもう高等生なんだから、自分でなんとかするという発想を持とうよ。ダメだ、ダメだ……僕は。
 
「強くなるんだ、僕は!」
 
 そのためにパルテール学園に入学した。
 ここには拳闘部があるからだ。
 宗教学校にはそんな野蛮な部活はない。ひたすら昔の人が考えた、えら~いお言葉を詠唱させられる日々だ。

 正直言ってくだらない。

 聖典の詠唱は中等部でマスターしたから、もういいだろう。大人になったら嫌ってほど詠唱しなくてはならないだろうから、いまは好きなことをやってもいいだろ?
 
「僕には計画あるんだ」
 
 身体を鍛えてロックみたいに強くなり、科学を学習してソレイユみたいに博識になるんだ。

 これからの時代は科学だ。

 神はいるなんて昔の人が考えた嘘っぱち、いまの僕には必要ないね。こんなこと言ったらお父さんにぶん殴られるだろうけど、ええい、かまうもんか。
 
「僕はいま成長期なんだ」
 
 鍛えれば身体は強くなるし、学習すれば頭も良くなる。ロックとソレイユを超えた存在になれるはずだ。そうすれば、マリ姉は僕のことを選んでくれるはず。そして、こんな言葉を言うはずだ。
 
 あら、シエルがんばってるわね、こっちにおいで、ハグしてあげる……ぷるるん、いやん、おっぱいは優しくして♡
 
「なんてねっ! うぉぉ、ハグしてぇぇぇぇ!」

 興奮した僕は部屋に入ったらすぐに歯磨きをした。そして、ベッドに入った。でも、目がらんらんして寝つけない。マリ姉のことを考えると、身体が熱くなる。まあ、そんなときは読みかけの小説を読むにかぎる。いま読んでいるのは、哀れな男がスライムになって冒険するものだ。これがなかなか面白い。

 僕はベットライトを灯した。立ち上がり、制服のジャケットの内ポケットにしまったままの本を取り出す。そしてまた、ベッドに横たわり、本の頁をめくる。

 頁の間に、小さな木の棒が栞になっていた。僕が初等部四年のとき、マリ姉からもらったアイスの棒だ。マリ姉に見つかったら、キモイって言われるだろうけど、僕にとっては宝ものなのさ。別にいいだろ? マリ姉のことが好きなんだから。
 
 ん? これは?

 ふと思いだした。四葉のクローバも栞に挟んでいた。僕は四葉のクローバーをつまんで、まじまじと見つめる。今日も愛されなかったなと思っていたが、そうでもなかった。いたじゃないか。僕のことを見てくれた女の子が。

 一緒に草むしりして、四つ葉のクローバーを探してくれた女の子、たしか三年生って言ってたから先輩か。彼女の名前はルナスタシア・リュミエール。すごく運のいい子だった。

 僕は草をむしりながら、実は四つ葉のクローバーを探していたのだが、彼女はすぐにそのことに気づいた。洞察力があるのかな。でも、見た目はゆるふわんとしたかわいい女の子だから、感が冴えているだけかもしれない。
 
 それと、彼女は観察力が僕よりも圧倒的にあった。四つ葉のクローバは持っているだけで、運気がアップするアイテム。でも、なかなか見つからないんだけど、彼女はすぐに見つけだした。
 
 マジか……すげぇ! と思った。
 
 運命的なものを僕は感じた。ふと思えば、マリ姉意外の女の子に心の揺れを感じたのは初めてのことだ。
 
「え? まさか、これって恋?」
 
 まさかね……にゃはは、僕が恋をしてるなんてロックが知ったら、まだ百年はぇぇって言われちゃう。でも、なんだか愉快な気持ちだな。また彼女に会えるかなあ、もし会えたら四つ葉のお礼をしよう。何か欲しいものがあるかもしれないし、それを訊いてみるのもいいじゃん。よしよし、生きる目的を、またひとつ見つけた。良い感じだ。

 あ~あ、明日も最低で最悪な日になるんだろうけど、それでも愛されるために、いろいろやってみよう。そう思ったら、なんだか眠くなってきた。ふぁ~あ。

 僕は本を読むのをやめて、また四つ葉クローバーとアイスの棒を栞としてはさんだ。そして、枕もとに本を置いて。ベッドライトを消した。なんだか、瞼が重くなってきた。まどろみ、リラックスできて寝れそうだ。おお、神よ。僕を夢の世界へと誘いたまえ。

 おやすみなさい。
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