聖女なんかじゃありません！～異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます～

11 新しい世界

11ー1 反抗

　11ー１　反抗

　ノラ・ランダーズは、不幸だった。
　とはいえ、この４８年の中で彼が幸せだったことなんてごく数えるほどしかなかったのだが。
　彼の会ったこともない両親は、二人とももうとっくの昔にこの世から去っていた。
　彼が両親について知っていることは、父親が騎士団の騎士であったということ。
　そして、母親がウサギの獣人であったということだけだった。
　平民でありながら実力で騎士団へと入団した父は、街の娼館にいたウサギの獣人の奴隷の少女に恋をした。
　そして、生まれたのが彼だった。
　だが、ノラが両親のそばにいられたのはごく短い期間でしかなかった。
　物心つくころには、すでにノラは、奴隷商人のもとで戦闘奴隷として働いていた。
　この世界では、奴隷は基本使い捨てだ。
　ボロボロになるまで働かされて、動けなくなれば捨てられる。
　ノラもまた例外ではなかった。
　ノラの不運は、働き盛りの頃に『動かずの病』にかかったことだ。
　徐々に手足が動かなくなり、体のコントロールができなくなる。
　そして、最後には、自力で呼吸ができなくなり死に至るこの病の一番恐ろしいところは、死ぬまで意識が鮮明であるということだった。
　幸か不幸か。
　ノラは、普通よりも頑強な肉体と優れた戦闘センスに恵まれていた。
　ノラは、ゆっくりと進んでいく病を抱えたまま前線に立ち続けた。
　なぜなら、それが彼の唯一の存在する理由だったからだ。
　奴隷は、消耗品だ。
　働けなくなれば人生は終わる。
　ノラは、怪我を負うことが多くなり、だんだんと戦闘が難しくなっていった。
　それでも、彼は戦うことを諦めなかった。
　諦めればそこで終わりだ。
　廃棄奴隷の最後は、目も当てられないほど酷かった。
　働けなくなった廃棄奴隷は、街で人々に施しをこうて生きるしかない。
　それは、地獄だった。
　ノラは、生まれながらの奴隷だった。
　彼は、運命というものを受け入れることに慣れていた。
　それでも、彼は、生きることを諦めなかった。
　それが彼なりの抗議だった。
　この世界に対する抗議。
　彼をこの世界に産み落とした者たちへの抗議。
　そして、運命というものへの反抗だった。