聖女なんかじゃありません！～異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます～

16 メメント・モリ

16ー9 ルーイエの街に

　16ー９　ルーイエの街に

　そうしてわたしは、無理やりライナス先生の実家へと同行することになった。
　ライナス先生の横にちょんと座っているわたしを乗り合い馬車の他の乗客たちはじろじろと無遠慮に見つめてきた。
　中には、口笛を吹いてひやかしてくる者もいた。
　「すごいねぇ、お姉さん。男を追いかけてくるなんてな！」
　「というか、飛んでたよね？」
　糞生意気そうなガキが母親にささやくのが聞こえた。
　わたしは、にっこりと微笑んだ。
　「そんなわけないでしょ？」
　「でも」
　「気のせいですから！」
　わたしは、きっぱりくっきりと告げた。
　そのガキは、まだ繰り返す。
　「でも、飛んでたし」
　うるさいな！
　わたしは、そのガキを睨み付けた。
　ガキは、瞬く間に青ざめていってしまいにわっと泣き出した。
　わゎっ！
　わたしは、知らんぷりを決め込むことにした。
　自分で自分が怖い！
　それから、オーキッド領の辺境の街であるルーイエの街に着くまでの間、馬車の中には微妙な空気が流れていた。
　ちっ！
　わたしは、そっと舌打ちした。
　だから、ガキは苦手なんだ！
　視線を感じて振り向くとあのガキがじっとわたしを見ていた。
　わたしは、がるるるるっと牙をむいた。
　またガキがわっと泣き出した。
　「どうしたの？この子ったら」
　母親らしい女が子供をあやしながら困ったように笑った。
　「ほんとに変な子なんだから」
　わたしは、窓の外を眺めた。
　流れていく風景を見ていると、なんだか眠くなってくる。
　わたしは、いつしかうとうとと居眠りを始めていた。
　
　夢を見ていた。
　夢の中で見知らぬ少年がわたしに微笑みかけた。
　「君は、強いな」
　わたしは、首を振った。
　わたしは、強くなんてないし！
　だけど、少年は、いやいやと首を振って見せた。
　「君は」

　がたん、と馬車が揺れてわたしは、目覚めた。
　うん？
　もしかしてわたし、夢を見てた？
　なんの夢？
　わたしは、頭を振った。
　思い出せなかった。
　「トガー」
　ライナス先生が身を乗り出して前方を指差した。
　「ルーイエの街が見えてきたぞ！」
　わたしは、ライナス先生が指差す先を見つめた。