転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ

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2 そうです。俺、その魔導書です。

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     「笑うな!クリストファー・エリオット!」
    アークが忌々しげにクリスを睨み付けて言った。クリスは、目尻に滲んだ涙を指先で拭いながら言った。
    「だって、お前、この国1の魔導師のこと、下手くそって」
    クリスは、そういうとげらげらと笑い転げた。
    「言うにことかいて、下手くそ!」
     「ちっ!」
      アークは、舌打ちしてクリスから目をそらすと、ベッドの上に座っている俺の方を睨み付けた。
    「ああ・・お前、なんて名だっけ?」
     「細川  ユウ」
     俺は、アークにさっきもらった暖かいスープの入ったカップを両手で持ったまま答えた。両手から伝わってくる温もりや、おいしそうなスープの匂いを感じて、俺は、なんだか、雲の中を漂っているようなフワフワした気持ちがしていた。
     あの後、二人は、俺を封じられていた迷宮、今では、ダンジョンと呼ばれている場所から連れ出すと近くの町の宿屋へと連れ帰った。
    二人は、俺の体を風呂で洗ってくれた後、丁寧に布で拭いて、アークのものらしいシャツを着せてくれ、ベッドへ座らせスープを入れたカップを渡してくれた。
    ほんとは、俺は、気恥ずかしくって、二人の介助から逃れようとしたけど、それを彼らは許さなかった。
    「もう、体調は、よくなったのか?」
   アークは、不機嫌そうに俺にきいた。俺は、ちらっとアークを上目使いに見上げて言った。
   「お陰さまで」
    「お前」
     アークがベッドの脇に置かれていた椅子に腰掛けながらため息をついた。
    「生意気とか、言われないか?」
    「別に」
     俺が答えると、アークは、かぁっと頬を上気させて怒りに拳を握りしめて俺の方に身を乗り出した。
    「そういうとこだよ!」
     クリスが爆笑して苦しげな息をしながら、怒りに震えるアークの肩に手を置いて言った。
    「まあまあ、それぐらいにしといてくれないか、アーク。このままじゃ、笑い死にしてしまいそうだから」
   「ちっ!」
    アークは、また舌打ちして、クリスの手を振りほどくと言った。
   「覚えてろよ、クリス」
   俺は、ゆっくりと暖かいスープを啜りながら二人のやり取りを聞いていた。
   どうやらこの二人は、この辺りを治める大国の王の命でダンジョンに眠っているという魔導具を探しているらしい。
    アークは、大国の魔導師団長であり、クリスは、騎士団長であり、第2皇子のようだった。
    人心地つくと俺は、二人のことをじっと観察していた。
   二人とも、タイプは違うがイケメンだ。
   黒髪に深い緑の瞳をした男っぽいアークに比べると、金髪に青い瞳をしたクリスは、少し、優しげに見えないこともなかったが、どちらも背の高いがっしりとした肉体をした大男だった。
    さっきも、アークは、俺を軽々と抱き上げて、ダンジョンから連れ出したしな。
    俺は、思い出して顔が熱くなっていた。
   お姫様だっこされたって、どんだけだよ!
   「ところで、ききたいんだが、ユウ」
   クリスが俺に向き直って、真剣な表情をした。
    「なぜ、ユウは、あんなところにいたんだ?」
    「それは・・」
     俺は、悩んだ。
   この人たちに本当のことを話してもいいのだろうか。
   俺が昔したことを知ったら、俺を使って、また、たくさんの人を殺そうとかしないとは限らない。
    俺は、もう、あんなことさせられたくはない。
   俺がいい淀んでいるとアークが俺を庇うように言った。
    「こいつは、どうやら、長い時間あそこに封じられていたみたいだし、まだ、記憶が曖昧なのかもしれない。少し、様子を見た方がよくないか?クリス」
    「それもそうだが」
     クリスが深く息を吐いた。
    「国の魔導師団長と騎士団長が二人がかりで挑んで、何も成果がなかったなんて、どの面下げて王都に帰ればいいって言うんだ?アーク」
   「そのことか」
    アークは、クリスに言った。
   「もともとあの場所に、世界を救う魔導具があるということが怪しい伝承にすぎんのだから、仕方がないだろう」
       「しかし、それでは、我々のアストラル王国が、このまま魔王軍に蹂躙されるのを防ぐことができないということだぞ」
    魔王軍?
    俺は、二人の会話に耳をそばだてていた。
   この時代には、魔王がいるのか。
   俺は、ふうふうっとスープを吹いてから一気に飲み干した。そして、口許を手の甲で拭うと二人にきいた。
    「魔王、って?」
    「魔王ディエントスのことだ」
     二人が言うには、魔王ディエントスは、100年ほど前にこの世界に現れたらしい。
   そして、魔物を束ねて人間を狩るようになったのだという。
   「今や、世界は、魔王軍の脅威にさらされている」
   「だから我々は、王の命を受けて魔王を討伐するために必要な魔導具を探してこのダンジョンへとやってきたのだ。しかし」
    クリスが手を広げて天を仰いだ。
   「封じられていたのは、こんな子供一人だけ。他には、何もなかったわけだ。このままでは、人類は、魔王によって滅びるのを待つしかない」
    「魔王って、そんなに強いの?」
    俺の質問に二人は、信じられないものを見るような目で俺を見て言った。
   「当たり前だろう?何を言ってるんだ。ユウ、もし、魔王が普通の魔物並みの力しか持たないのなら、我々がとうに討伐しているさ」
    クリスが言ったから、俺は、少し、うつむいて考え込んだ。
   この二人は、たぶん、いい人、だ。
   だけど。
  大国の人々がみな、いい人だとは、限らない。
  俺は、俺を書いたあの魔導師のことを思い出していた。
   「呪われた書よ。お前を手に入れた者は、この世界の全てを手に入れるであろう」
    奴は、最後に、そう言った。
     俺は、俺が殺した人々の断末魔の悲鳴を思い出して、ぶるっと震えて自分の体を抱き締めた。
   俺は、罪人だ。
   恐ろしい罪を犯した。
   あんなことは、もう、2度としたくない。
   「どうしたんだ?ユウ」   
  アークがそっと俺の体に触れた。
   その瞬間、俺の体の震えが止まった。
   優しく、暖かい何かがアークから俺に向かって流れてくるのを感じて、俺は、涙ぐんだ。
   この人たちは。
   俺は、思っていた。
   救うに足る人たちなんじゃないかな。    
  俺は、少し潤んだ目でアークとクリスを見た。
   「俺が・・」
   俺は、二人に向かって言った。
  「俺があんたたちの探している魔導具だとしたらどうする?」
    「はい?」
    二人が固まった。
   そうだよね。
   俺は、はぁっと溜め息をついた。
   こんなわけのわからないこと、ないよね。
   俺は、二人に手を差し出して光弾の魔術式を手に纏わせて展開して見せた。
   「信じられない」
    アークが息を飲んで呟いた。
   「これは、古代の禁じられた魔術式だぞ。たしか、大魔導師  エドランと共に滅んだ筈の魔導書に記されていたという魔術だ」
    「本当か?アーク」
     クリスに、アークは、頷いた。
   「ああ、俺も全ては解読できないが、おそらくそうだ。この術式の一部をかつて、師であるオーガント卿が持つ古代魔術について書かれた書で見たことがある」
        「では、本当に、この少年が、我々の探し求めている魔導具だというのか?」
    「俺は」
    俺は、二人に言った。
    「たぶん、エドランとかいう奴によって書かれた魔導書、だ」
    「なんだって?」
    アークが俺を興奮した様子で見つめた。
   「お前があの禁断の書『太虚の書』だというのか?」
    何それ?
   俺は、ちょっと引いていた。
   俺、そんな名前で呼ばれてるの?
   「ああ」
    俺は、気を取り直してアークに向かって頷いて見せた。
   「俺が、その魔導書だ」
    「マジか・・」
    アークが俺をまじまじと見つめてきたので、俺は、少し、照れてしまいうつ向いた。
   こいつら、ほんと、無駄にイケメンだな。
   「もし、それが本当なら、俺は、お前を滅ばさなくてはならない」
   アークが言ったので俺は、顔をあげて彼を見つめた。
   「俺を滅ばす?」
   「ああ」
    アークが俺に向かって言い放った。
  「『太虚の書』は、呪いの書だ。それが存在するだけで人類は、危険にさらされることになる。だから、それを発見した魔導師は、それを滅しなくてはならない、と言い伝えられている」
    マジで?
   俺、殺されちゃうの?
   俺は、身を固くしてアークを見つめていた。アークは、俺のことをじっと見つめていたが、やがて、溜め息をついた。
   「だが、それは、言い伝えに過ぎん。実際には、そんなものはない、と言われていたんだしな。お前が、誰か、安全な人間のもとにしっかりと管理されさえしていれば、問題はない筈だ」
    「安全な人間って?」
     俺は、アークにきいた。アークは、少し考えてから答えた。
   「魔術を扱えて、お前と契約を結ぶことができて、しかも、心の正しい者、だな」
    「例えば?」
    クリスがきいたら、アークがにやりっと笑った。
   「この俺とか」
    はい?
    俺とクリスは、絶句してアークをただただ見つめていた。
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