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6 失いたくないものができました。
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「要するに」
半壊した宿屋の部屋の中で、クリスは、にこにこといつものように微笑みながらきいてきた。
「これは、すべて、この魔導書、つまり、ユウがやったことなんだ?」
「ああ」
アークは、俺を両手で抱き締めて頷いた。
「この本・・魔導書であるユウが、彼らを召喚したらしい」
「らしいって・・」
クリスは、地獄から現れた悪魔もかくやというような恐ろしい笑顔を浮かべてアークと俺を見つめて言った。
「たかだか痴話喧嘩ごときのために、魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚って。まあ、それは、いいとして」
それは、いいんだ?
俺は、アークの腕の中からクリスにきいたが、クリスは、俺を無視して言った。
「問題は、これからどうするか、だ」
「これから?」
アークにきかれて、クリスは、溜め息をついた。
「いいか?お前たち。喧嘩しても、いいさ。だが、人に迷惑をかけるな!人としての基本、だろ?」
「それは、そうかもしれないが・・」
アークが口答えするのに、クリスは、冷え冷えとした笑みを向けた。
「この人たちが、迷惑してないって?してるよ、当然。寝てるとこそのまま、呼び出したんだぞ!しかも、一ヶ月もこのままって、マジで、どう責任とる気だよ!」
「そ、それは・・」
アークが目を泳がせる。
「とにかく、王都にある俺の館に客人としてお招きして過ごしてもらおうかと」
「はぁ?」
クリスが怒りを爆発させた。
「魔王ディエントスを王都に入れる気か!お前は、正気なのか!」
「俺は、別に、かまわんぞ」
ディエントスが面白そうにクリスに話しかけたのをきっと睨み付けると、クリスは、続けた。
「それに!光の精霊王アルカイドをお迎えするって!えらいことになるぞ!教団のみなさんが、こんなことを見逃してくれると思ってるのか!それを、自宅に招く、だって?どう考えったって、国賓待遇だろうが、国賓!」
「いや、気を使わないでもらいたい」
精霊王アルカイドがクリスに優しく微笑みかけた。
「私も、人の子の生活というものにまんざら興味がないというわけでもないのでな。この際、人間界を見物させてもらおうかと思っているのだ」
「マジで?」
クリスが、まな尻を上げて、アークと俺を見た。
「ほら、光の精霊王に気を使わせているじゃないか!」
別に、その人気なんか使ってないと思うんだけど。
俺は、念話をクリスに送った。
ただ単に、珍しいものを見物して、うまいものを食って、かわいい女の子とかに囲まれてちやほやされたいだけじゃね?
クリスの顔色がさぁっと青ざめた。
「どうした?クリス」
アークがクリスに駆け寄ってよろめくクリスを支えると、魔王と精霊王が腰かけているベッドの隅に座らせた。
「大丈夫か?」
「ああ・・」
クリスが額を押さえて俯いた。
「すまない、アーク。なんだか、酷い頭痛がして」
「無理は、体に毒だ。休んだ方がいいぞ、クリス」
アークに言われて、クリスは、ぐわっと激昂した。
「誰の、せいだ、誰の!私が体調を崩してるのは、アーク、お前とお前の魔法書のせいだろうが!」
辺りが、静まり返る。
荒い呼吸をしているクリスに、精霊王が慰めるように肩を叩いて言った。
「落ち着くがいい、クリスとやら。我々は、当惑してはいるが、怒りはしていない」
「ア、アルカイド様・・」
クリスが、弾かれたように立ち上がってアルカイドに礼をとる。
「申し訳がありません。ご無礼ばかり、お許しを」
「かまわん。楽にするがいい、クリスよ。我々は、なんにせよ、今は、そこな魔導書のサーバントにすぎぬのだからな。あまり気を使ってくれるな」
「おう、そうだぞ、人間」
魔王ディエントスも、にやにやしながら言った。
「いまさら、ペコペコされても、別に、嬉しくもないしな。それより、飯でも食わせろ。腹が減った」
「ちっ!」
クリスは、舌打ちしながらも、頷いた。
「すぐに、食事を用意させる」
「すまない、クリス。お前に苦労かけて」
アークが、ショボンと項垂れる。それを見たクリスがここぞとばかりに捲し立てた。
「本当にな!もう、謝らなくってもいい。そのかわり、そのろくでもない魔法書を今すぐに、燃やしてしまえ!悪いことはいわない、その方が、絶対、人類のためになる」
「その本の扱いに困っているというのなら、私が貰ってやる」
魔王ディエントスがクリスに向かって言うと、精霊王アルカイドも頷いた。
「うむ。人間には過ぎた力だというなら、精霊界で預かってもよい」
「いや、この本は、誰にも渡すわけにはいかない」
アークが俺を抱き締めて言った。
「これは、俺のたった一人の伴侶なのだからな」
「本が伴侶?」
魔王と精霊王が奇妙な表情を浮かべた。クリスが2人に向かって慌てて言った。
「気にしないで下さい。こいつは、本の精にたぶらかされておかしくなってるんです」
本の精って、俺のこと?
俺は、クリスの態度に怒りが頂点まで達していた。
俺が。
本の中から俺の手足がするんと伸びていく感覚がした。
俺は、叫んだ。
「たぶらかされたんだろ!たぶらかしたのは、お前たちだろうが!」
その場にいる全員が凍りついたかのように俺の方を見つめていた。
はっと、俺は、気づいた。
俺、人間の姿になってる!
俺は、全裸でアークの膝の上に抱えられていた。
わわっ!
俺は、思わず体を隠した。
恥ずい!
「ユウ!戻ったのか」
アークが俺の耳元にキスして言った。
「心配したんだぞ、本のままでうんともすんとも言わなくなったんだから」
「・・言ってたし」
俺は、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「念話で話しかけたけど、無視してたんじゃないか」
俺は、アークの腕から逃れようともがいた。だが、アークは、俺を離そうとはしなかった。
「念話?」
アークが、はっと気づいた様子で言った。
「あの、頭の中でぼそぼそなんか言ってる感じ、あれ、ユウだったのか?」
「そうだよ!」
俺が肯定すると、アークは、納得いったという様子で頷いた。
「すまなかった。てっきり疲れてて、幻聴がきこえてるんだとばかり思っていた。このところ、魔王討伐のことでいろいろあったもんだから」
「私の討伐、だと?」
魔王ディエントスが剣呑な声を発した。
「貴様のような虫けらがこの私を倒すだと?もう一度、死んでみるか?人間よ」
「さっきのは、油断してたんだよ。今度は、そう簡単にはやられない」
「アーク、やめといた方が」
アークが俺をそっと離して横に立たせると、自分が着ていた茶色のローブを俺に着せ、そっと頬を撫でた。
「ユウ、危ないから退いてろ。すぐに、片付けてお前のもとに戻るから、待っていてくれ」
「でも・・」
アークは、立ち上がると魔王と対峙した。
「いいか?この虫けらは、一味違うってことを見せてやる」
3分後。
俺は、膝の上にアークを抱えて床の上に座り込んでいた。
「アーク・・」
「ユウ、どこだ?お前が、見えない・・」
アークの伸ばした手を俺は、頬に押し当てた。
「ああ、ユウ、そこか・・すまんな、婚姻したばかりだというのに、お前をまた一人にしてしまう」
「アーク」
アークの片腕はもげ、下半身は失われていた。辺りには、血の臭いが漂っていて、俺は、気分が悪くなりそうだった。
「しっかりして!」
「ふん」
魔王ディエントスは、悪びれる様子もなく、にっと笑った。
「弱い虫けらのくせに魔導書の力をあてにもせずにこの私に向かってくるとは、なかなか見所がある。気に入った。お前を魔王城に戻るまでの従者としてやろう」
ええっ?
おれは、アークをぎゅっと抱き締めて魔王の方を見た。
「でも、死にかけてるし」
「治せばいいではないか、魔法書よ。お前には、容易いことであろう」
まあ、そうなんだけど。
俺は、治癒の魔法を発動した。
俺とアークは白い光に包まれ、アークのからだの失われた部分は、どんどん再生されていった。
「アーク、大丈夫?」
俺がきくと、アークは、むくっと起き上がって言った。
「うぅ・・さずがに一日に二回も生き返ると変な気がするな」
「その前に、2度も死にかけるなんて、どうかしてるだろ!」
クリスがすごく冷たい目をして俺たちを見つめて言った。
「まず、風呂に行け!行って、汚れを落として、服を着替えてこい!ついでに、2人とも反省してこい!」
俺たちは、クリスの剣幕に追いやられるようにして部屋から駆け出した。
ドアを開けるとそこには人だかりができていた。人々は、裸にローブを纏った俺と、下半身丸出しのアークを見て、どよめいていた。
「ただの喧嘩、だ。気にするな。散れ」
アークの雰囲気に押されて、人々が少しひいたのを見て、アークは、俺を抱き上げると宿屋の一階にある風呂場へと向かって走り出した。
1階の食堂には、ちょうど朝食時で人がけっこう集まっていた。
そこを俺を抱いてアークは、すごい勢いで突っ切っていった。
人々の視線が痛い。
風呂場へ駆け込んだアークは、俺を下ろすと、ローブを脱がせてキスしてきた。
「ユウ・・無事だったか?どこにも怪我などしてないか?」
「お、俺は、大丈夫だけど・・それより、アークの方が、大丈夫なの?」
俺は、アークに上から下まで舐めるように見つめられて、全身が熱くなっていた。
「アーク・・も、いいから・・」
「だめだ。どこも、本当に、怪我してないだろうな」
「怪我なんて、してないから」
俺は、軽くぽんぽん、とアークの肩を叩いた。
「もう、やだよ!」
「ユウ・・お前は、不思議、だ」
アークは、俺をじっと見つめて、そして、抱き締めると口づけした。そして、俺を抱き締めたまま、耳元で囁いた。
「こうしてると、まったく普通の人間なのに。お前は、本当に本なんだな、ユウ」
「そうだよ、俺は、人間じゃない」
俺は、アークに抱かれて、繰り返した。
「俺は、人間じゃない。俺と婚姻の契約をしたこと後悔してるのか?アーク」
「まさか」
アークは、俺の頬にキスを落とした。
「こんな面白いこと、人生で初めてだよ、ユウ」
アークは、そうしてくっくっ・・と笑い始めた。
「この俺と喧嘩するためだけに魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚したって?マジで、すごいな、お前は」
アークは、俺を抱き締めて言った。
「マジで、すごい!」
アークにぎゅうぎゅう、抱き締められて、俺は、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
失いたくないかも。
俺は、アークの体温を感じていた。
暖かく、優しい。
それは、ずいぶんと長い間、俺が得ることのできなかったものだった。
この温もりを、守りたい。
そう、俺は、思っていた。
半壊した宿屋の部屋の中で、クリスは、にこにこといつものように微笑みながらきいてきた。
「これは、すべて、この魔導書、つまり、ユウがやったことなんだ?」
「ああ」
アークは、俺を両手で抱き締めて頷いた。
「この本・・魔導書であるユウが、彼らを召喚したらしい」
「らしいって・・」
クリスは、地獄から現れた悪魔もかくやというような恐ろしい笑顔を浮かべてアークと俺を見つめて言った。
「たかだか痴話喧嘩ごときのために、魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚って。まあ、それは、いいとして」
それは、いいんだ?
俺は、アークの腕の中からクリスにきいたが、クリスは、俺を無視して言った。
「問題は、これからどうするか、だ」
「これから?」
アークにきかれて、クリスは、溜め息をついた。
「いいか?お前たち。喧嘩しても、いいさ。だが、人に迷惑をかけるな!人としての基本、だろ?」
「それは、そうかもしれないが・・」
アークが口答えするのに、クリスは、冷え冷えとした笑みを向けた。
「この人たちが、迷惑してないって?してるよ、当然。寝てるとこそのまま、呼び出したんだぞ!しかも、一ヶ月もこのままって、マジで、どう責任とる気だよ!」
「そ、それは・・」
アークが目を泳がせる。
「とにかく、王都にある俺の館に客人としてお招きして過ごしてもらおうかと」
「はぁ?」
クリスが怒りを爆発させた。
「魔王ディエントスを王都に入れる気か!お前は、正気なのか!」
「俺は、別に、かまわんぞ」
ディエントスが面白そうにクリスに話しかけたのをきっと睨み付けると、クリスは、続けた。
「それに!光の精霊王アルカイドをお迎えするって!えらいことになるぞ!教団のみなさんが、こんなことを見逃してくれると思ってるのか!それを、自宅に招く、だって?どう考えったって、国賓待遇だろうが、国賓!」
「いや、気を使わないでもらいたい」
精霊王アルカイドがクリスに優しく微笑みかけた。
「私も、人の子の生活というものにまんざら興味がないというわけでもないのでな。この際、人間界を見物させてもらおうかと思っているのだ」
「マジで?」
クリスが、まな尻を上げて、アークと俺を見た。
「ほら、光の精霊王に気を使わせているじゃないか!」
別に、その人気なんか使ってないと思うんだけど。
俺は、念話をクリスに送った。
ただ単に、珍しいものを見物して、うまいものを食って、かわいい女の子とかに囲まれてちやほやされたいだけじゃね?
クリスの顔色がさぁっと青ざめた。
「どうした?クリス」
アークがクリスに駆け寄ってよろめくクリスを支えると、魔王と精霊王が腰かけているベッドの隅に座らせた。
「大丈夫か?」
「ああ・・」
クリスが額を押さえて俯いた。
「すまない、アーク。なんだか、酷い頭痛がして」
「無理は、体に毒だ。休んだ方がいいぞ、クリス」
アークに言われて、クリスは、ぐわっと激昂した。
「誰の、せいだ、誰の!私が体調を崩してるのは、アーク、お前とお前の魔法書のせいだろうが!」
辺りが、静まり返る。
荒い呼吸をしているクリスに、精霊王が慰めるように肩を叩いて言った。
「落ち着くがいい、クリスとやら。我々は、当惑してはいるが、怒りはしていない」
「ア、アルカイド様・・」
クリスが、弾かれたように立ち上がってアルカイドに礼をとる。
「申し訳がありません。ご無礼ばかり、お許しを」
「かまわん。楽にするがいい、クリスよ。我々は、なんにせよ、今は、そこな魔導書のサーバントにすぎぬのだからな。あまり気を使ってくれるな」
「おう、そうだぞ、人間」
魔王ディエントスも、にやにやしながら言った。
「いまさら、ペコペコされても、別に、嬉しくもないしな。それより、飯でも食わせろ。腹が減った」
「ちっ!」
クリスは、舌打ちしながらも、頷いた。
「すぐに、食事を用意させる」
「すまない、クリス。お前に苦労かけて」
アークが、ショボンと項垂れる。それを見たクリスがここぞとばかりに捲し立てた。
「本当にな!もう、謝らなくってもいい。そのかわり、そのろくでもない魔法書を今すぐに、燃やしてしまえ!悪いことはいわない、その方が、絶対、人類のためになる」
「その本の扱いに困っているというのなら、私が貰ってやる」
魔王ディエントスがクリスに向かって言うと、精霊王アルカイドも頷いた。
「うむ。人間には過ぎた力だというなら、精霊界で預かってもよい」
「いや、この本は、誰にも渡すわけにはいかない」
アークが俺を抱き締めて言った。
「これは、俺のたった一人の伴侶なのだからな」
「本が伴侶?」
魔王と精霊王が奇妙な表情を浮かべた。クリスが2人に向かって慌てて言った。
「気にしないで下さい。こいつは、本の精にたぶらかされておかしくなってるんです」
本の精って、俺のこと?
俺は、クリスの態度に怒りが頂点まで達していた。
俺が。
本の中から俺の手足がするんと伸びていく感覚がした。
俺は、叫んだ。
「たぶらかされたんだろ!たぶらかしたのは、お前たちだろうが!」
その場にいる全員が凍りついたかのように俺の方を見つめていた。
はっと、俺は、気づいた。
俺、人間の姿になってる!
俺は、全裸でアークの膝の上に抱えられていた。
わわっ!
俺は、思わず体を隠した。
恥ずい!
「ユウ!戻ったのか」
アークが俺の耳元にキスして言った。
「心配したんだぞ、本のままでうんともすんとも言わなくなったんだから」
「・・言ってたし」
俺は、ぷいっとそっぽを向いて言った。
「念話で話しかけたけど、無視してたんじゃないか」
俺は、アークの腕から逃れようともがいた。だが、アークは、俺を離そうとはしなかった。
「念話?」
アークが、はっと気づいた様子で言った。
「あの、頭の中でぼそぼそなんか言ってる感じ、あれ、ユウだったのか?」
「そうだよ!」
俺が肯定すると、アークは、納得いったという様子で頷いた。
「すまなかった。てっきり疲れてて、幻聴がきこえてるんだとばかり思っていた。このところ、魔王討伐のことでいろいろあったもんだから」
「私の討伐、だと?」
魔王ディエントスが剣呑な声を発した。
「貴様のような虫けらがこの私を倒すだと?もう一度、死んでみるか?人間よ」
「さっきのは、油断してたんだよ。今度は、そう簡単にはやられない」
「アーク、やめといた方が」
アークが俺をそっと離して横に立たせると、自分が着ていた茶色のローブを俺に着せ、そっと頬を撫でた。
「ユウ、危ないから退いてろ。すぐに、片付けてお前のもとに戻るから、待っていてくれ」
「でも・・」
アークは、立ち上がると魔王と対峙した。
「いいか?この虫けらは、一味違うってことを見せてやる」
3分後。
俺は、膝の上にアークを抱えて床の上に座り込んでいた。
「アーク・・」
「ユウ、どこだ?お前が、見えない・・」
アークの伸ばした手を俺は、頬に押し当てた。
「ああ、ユウ、そこか・・すまんな、婚姻したばかりだというのに、お前をまた一人にしてしまう」
「アーク」
アークの片腕はもげ、下半身は失われていた。辺りには、血の臭いが漂っていて、俺は、気分が悪くなりそうだった。
「しっかりして!」
「ふん」
魔王ディエントスは、悪びれる様子もなく、にっと笑った。
「弱い虫けらのくせに魔導書の力をあてにもせずにこの私に向かってくるとは、なかなか見所がある。気に入った。お前を魔王城に戻るまでの従者としてやろう」
ええっ?
おれは、アークをぎゅっと抱き締めて魔王の方を見た。
「でも、死にかけてるし」
「治せばいいではないか、魔法書よ。お前には、容易いことであろう」
まあ、そうなんだけど。
俺は、治癒の魔法を発動した。
俺とアークは白い光に包まれ、アークのからだの失われた部分は、どんどん再生されていった。
「アーク、大丈夫?」
俺がきくと、アークは、むくっと起き上がって言った。
「うぅ・・さずがに一日に二回も生き返ると変な気がするな」
「その前に、2度も死にかけるなんて、どうかしてるだろ!」
クリスがすごく冷たい目をして俺たちを見つめて言った。
「まず、風呂に行け!行って、汚れを落として、服を着替えてこい!ついでに、2人とも反省してこい!」
俺たちは、クリスの剣幕に追いやられるようにして部屋から駆け出した。
ドアを開けるとそこには人だかりができていた。人々は、裸にローブを纏った俺と、下半身丸出しのアークを見て、どよめいていた。
「ただの喧嘩、だ。気にするな。散れ」
アークの雰囲気に押されて、人々が少しひいたのを見て、アークは、俺を抱き上げると宿屋の一階にある風呂場へと向かって走り出した。
1階の食堂には、ちょうど朝食時で人がけっこう集まっていた。
そこを俺を抱いてアークは、すごい勢いで突っ切っていった。
人々の視線が痛い。
風呂場へ駆け込んだアークは、俺を下ろすと、ローブを脱がせてキスしてきた。
「ユウ・・無事だったか?どこにも怪我などしてないか?」
「お、俺は、大丈夫だけど・・それより、アークの方が、大丈夫なの?」
俺は、アークに上から下まで舐めるように見つめられて、全身が熱くなっていた。
「アーク・・も、いいから・・」
「だめだ。どこも、本当に、怪我してないだろうな」
「怪我なんて、してないから」
俺は、軽くぽんぽん、とアークの肩を叩いた。
「もう、やだよ!」
「ユウ・・お前は、不思議、だ」
アークは、俺をじっと見つめて、そして、抱き締めると口づけした。そして、俺を抱き締めたまま、耳元で囁いた。
「こうしてると、まったく普通の人間なのに。お前は、本当に本なんだな、ユウ」
「そうだよ、俺は、人間じゃない」
俺は、アークに抱かれて、繰り返した。
「俺は、人間じゃない。俺と婚姻の契約をしたこと後悔してるのか?アーク」
「まさか」
アークは、俺の頬にキスを落とした。
「こんな面白いこと、人生で初めてだよ、ユウ」
アークは、そうしてくっくっ・・と笑い始めた。
「この俺と喧嘩するためだけに魔王ディエントスと光の精霊王アルカイドを召喚したって?マジで、すごいな、お前は」
アークは、俺を抱き締めて言った。
「マジで、すごい!」
アークにぎゅうぎゅう、抱き締められて、俺は、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
失いたくないかも。
俺は、アークの体温を感じていた。
暖かく、優しい。
それは、ずいぶんと長い間、俺が得ることのできなかったものだった。
この温もりを、守りたい。
そう、俺は、思っていた。
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