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第一章
『弟子への教育。魔法と魔術の難易度』
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それなりの規模の商人がお近づきになろうと娘を寄こした。
とはいえ『妾でも良いが、魔法の才能があるから弟子にどうだ?』という触れ込みなので、呪文を覚えさせるように指導していくことになる。姉妹でやってきているがどちらかを妾にと切望する程ではないし、両方とかいう程に女に困ってはいない。切実に足りないのも育てば助かるのも魔術師だからな。
それはそれとして、ちゃんと二人に俺の要望を伝え、向こうの要望を『ある程度』聞くと伝えるのが誠意というところだろうな。
「ようこそ、まずは自己を紹介しよう。俺はミハイル、専門はゴーレム魔法だ」
「大戦の話は追々で良いだろう。まずは君たちの待遇と、こちらの要望だな」
「このゴルビー地方には魔術師が足りておらず、君たちには才能がある」
「だから俺は指導するし、君たちのどちらかがこの領地の為に役に立ってくれるか、あるいは身代わりを見つける事が出来れば特に拘束する気はない。ここまでが義務だと思ってくれ。女性として遇するかに関しては、お互いに性格を知り合い、この領地の将来性を知ってからでも遅くは無いだろう。色んな意味で飢えてはいないし、魅力的に思える様にする自信がある」
三人でテーブルに座り、ひとまず挨拶と要望を終わらせる。
いけすかない奴だとか、何かを期待して『強請る』というのはお互いに気持ち良くないからだ。性的な意味よりも人間関係の方が今は重要だな。互いに出し抜き、従えてやろうなんか思う奴を近くに置いて居たくはないだろう。
俺は二人が話を飲み込むまで待ってから指導を始めることにした。
「ええと、という事はお妾さんとかはまだ良いって事ですか?」
「妾も弟子も、どちらかやれば良いのよね? なら問題無いわ」
「前者の質問に関してはさっきそう言ったぞ。待遇を良くしたいとか、『お嫁さんになって苦労は出来るだけしない人生』が欲しいなら、そっちの方向でも頑張ってくれ。だが、必要としているのはまず魔術師だ。後者に関して、君は交渉のイロハを先に理解すべきだな。もちろん、当たり触りの無い範囲で覚えるだけなら構わんよ。家庭教師ほどに優しくはないが、最低限の教育は保証する
妹の方は天然過ぎて鈍く、姉の方は礼儀から先に教えるべきかと思う程だ。
ともあれ嫌悪するような性格でもないし、それぞれ先ほど見た性格のままなので許容できる。これから時間を掛けて矯正して行けば良いだろう。その上で、俺は領主なので時間が制限されるし、発展途上の領地なので裕福な生活に関しては、努力次第だと言う他はない。
「では早速、最低限の教育を始めよう。まずは全体の概要からだ」
「この世界では一部の加護を別として、呪文を行使し能力を向上させる」
「君たちは呪文を沢山使える加護を持つ。初歩段階では恵まれているな」
「反面、同ランクの者同士で比べあったりすることには向いていない。自分が得意な分野で活躍し、他者とは比べ合わない方が向いているだろう。目的とする分野の呪文を延々と唱え、あるいは書き写すことで成長していくわけだ。練習用の呪文所に関しては今度造るが、その前に分野について説明しよう」
ここまで告げると妹の方は頷き、姉の方は首を傾げる。
それでも姉のセシリアが疑問をいきなり口にしないのは、先ほど交渉術と当たり障りのない内容で良いのかと忠告した為だろう。なので彼女の方を向き、質問を許可することにした。
「質問です。魔力が多い方が恵まれているのは判りますが、私とアンナではどんな差があるのですか? 同じような加護でも微妙に違いがありますよね」
「良い質問だ。個性に目を向けるのは良い事だからな」
おそらくコンプレックスがあるのだろう。
妹のアンナは魔力回復なので、何も考えずに使用魔力を考察するならば、一日ではアンナの方が大量の魔力を用意できることになるだろう。しかし、それは決してセシリアが妹に劣っていると言う意味ではないのだ。まあ、冒険者になって中級以下の呪文を連発するような環境に進むならば話は別なのだが。ただ本人の希望で大学に進んで魔法科で学ぶとしても、此処で俺の弟子として領地経営をするにしても、どちらもセシリアの才能は活かされるはずだ。
そういう意味でセシリアは運が良くないが、悪運がある。
「呪文そのものは無数にあり、中には大量の魔力を消費する物が在る。君の加護は儀式魔法で広範囲に呪文を掛けるとか、俺のところのゴーレムの様な、魔法の品を作成するような分野に向いているな。研究者向きと言っても良いだろう」
「なるほど。参考になりました。ありがとうございます」
俺が嘘偽りなく、躊躇いなく答えたことでセシリアも安心したようだ。
あるいは俺を試していたのかもしれないが、こうなる事は半ば予想出来ていたので彼女が試したつもりならば、その結論は間違いだ。悪い大人は最初から回答を用意できるし、そもそも思考を誘導できるからな。とはいえ彼女を騙しているつもりはないので、単純にセシリアが不安なだけで、思わず尋ねただけなら良かった……と言うべきだろう。
せっかくなので魔力容量を例に出して板切れに書き出してみた。
初心者の魔力で20ちょいとして、30は保証されており、これが一人前になると50だとか、大成することに成功すれば100近くなる。魔法のアイテムを作ると20とか30が最低単位になるので、セシリアは魔力タンクのようなサポーターとしてなら特待生に成れるほどの才能があるだろう(ただ、その場合は責務が付きまとうので微妙ではある)。
「あの、質問良いですか? 私は何に向いているのですか?」
「呪文を使いたいが、不測の事態に対して温存しておきたいような状況や、そもそも連発する必要性のある時だな。冒険者ならば前者の様な状況は良くあるし、錬金術師の様な生産系なら後者の可能性が多くなるだろう」
姉の様子に妹の方も興味が湧いたようだ。
ようやくコンプレックスを脱出出来そうな姉の前で、平然と尋ねようとしているあたり、やはり妹の方は天然だな。だが逡巡すると疑われるし、そもそも見習いどころかまだ勉強を始めて間もない段階だ。大成する事が出来れば、姉も妹も似たような事が出来るし、あえて特性に特化すればまるで別の才能に育つんだろう。ただ、その時の事を伝えることも出来るが、あまりここで言う意味はない。
ついでこちらも板切れに書き出して置こう。
初心者の20として、一人前になる頃に30ちょいくらい。3~5くらいの呪文を連発し、10くらい使う生産系の呪文なら向いているが……魔法のアイテム作成には向いていない。少なくとも導師くらいにならないと無理だし、大成すれば50ちょいくらいだ。そこまで行けば話は変わるが、そこまで生き残れるならもう冒険なんかしていないだろう。なお、魔力回復の方が才能があると言われているのは、もっとも何倍もの魔力を支払えば呪文を強化できる補助呪文がある為である。この時点では話さないけどな
「次に分野と専門について説明しよう。この世界では魔法を研究して細分化して来た」
「そうする事で出来ない事が増えるが簡単だ。例えば神の奇蹟は至難どころじゃない」
「魔法というのが世間がイメージする『偉大な魔法』だが、この段階で既に難しい」
「実際に呪文を使っている連中の大半は、魔術という呪文を使用している。これは魔法の七割くらいしか網羅していないが、難易度は半分前後になる。学習にしても行使にしても、どれだけ優れているか判るだろう? お前たちが大人になって覚えるとしたら、こっちが限界と言われるだろうな」
ともあれ、呪文を唱える段階の説明でしかないので、次に行こう。
一般的に呪文を使うのは魔術師と呼ばれる者たちで、魔法を使うのは大学で研究している連中か、魔法使いの家に生まれたような家系だ。物心つく前から専門用語が飛び交うし、家に専門の補助具とか沢山あるし、ノウハウも山盛りである。それを他の連中が覚えようと思えば物凄く敷居が高くなるって話だ。俺も転生時に軽く悩みはしたが、覚えられる限界の解説を聞いて即座に切り捨てることにした。
ここで再び好奇心が湧いて来たのかセシリアが再び質問したそうだったので許可を出すことにした。
「確認したいことが二つあります。一つ目はどれほどの差あがるのですか? 考慮の余地が無いような呪文もあるのでは?」
「あー。そうだな。実際に呪文が失われるのはその理由だが……」
今度ばかりは少し逡巡した。隠す気はないが説明が難しい。
掌を使って続きの言葉を遮りながら、板切れに何を書くか悩んだ。最終的にその辺にある土と、少し離れた場所にある砂を示した。具体例としてこの方が判り易いだろう。その上で次の質問を考慮し、少し考えておく。おそらく二問目は俺に関する事だからな。
ある程度の答えを考えた上で説明を再開した。
「判り易い差としては四大の操作や生成とその他になる。『地・水・火・風』これを四大と呼ぶが、火を生み出せば燃え温まり、水を操ればワインが動き始める。しかし、砂や雪は作れないし、生み出せない。それが魔法と魔術の差だが、実際に砂を生み出す理由は殆どないな。雪だって凍らせる呪文がある以上は、特に必要を感じない」
「ありがとうございます。次にゴーレム魔法は魔法ではないのですか?」
クリエイト・エレメンタルが魔法で、クリエイト・ファイアが魔術だな。
砂の創造なんか不要だし、四大精霊に当てはめる時点で定義が間に合わなかったこともあり、世間で使う魔術からは失われてしまった。雪を生み出せば涼しいかもしれないが、そんな呪文よりも凍結の魔法で水や金属を凍らせた方が早い。これがコントロール・エレメンタルなんかは更に大きな意味が出る。砂漠に住まない限りは砂を操る呪文なんか不要だからな。ちなみに難易度だけでなく、消費魔力にも差があるので普通は誰も重要視しないのだ。
その上で、来るべきものが来た。実に説明が難しいゴーレム魔法である。
「ゴーレム魔法は精霊魔法と並んで過渡期の魔法になる。そこからゴーレム魔術や……そうだな。判り易いのは火の精霊魔術に水の精霊術という下位の魔術が生み出されていった。難易度も習得呪文数も七割以下という欠点がある代わりに、一部の上位呪文をいきなり使える。目標がある奴はゴーレム魔法や精霊魔法の方が余程早い。俺はあまり勧めないが」
「先生は自分の魔法なのであまり勧めないんですね。意外です」
実に複雑だが、精霊魔法はともかくゴーレム魔法は微妙である。
覚えられる魔法が、ゴーレム系とソレに組み込めるタイプの呪文のみになる。クリエイト・ファイアで装飾ライターとか、クリエイト・ウォーターで水を吐き出す彫像は作れるが、クリエイト・アースなんかはない。クリエイト・エアがあれば扇風機を造れそうなものだが、やはり存在しないのだ。線もk根いゆえの欠点であるが……メリットとして上位呪文に当るモノがいきなり習得できるのが大きいんだよな。
俺の場合はそういった問題も知って居たし、そもそもやりたい事があったので確定事項だったのだが。ただ、この領地を発展させるためにゴーレム魔法の優先度は低いし、それこそ下位のゴーレム魔術を適当な奴に教えても良いくらいだと思っていた。
「精霊魔術は兼業用と言っても良いから、遊牧民の風使いとか見れば判り易いだろ? ああいうのが下位魔術の使い手なんだ。ゴーレム魔術の場合は、じゃあ何になるかってゴーレムの生産だが、ゴーレムって基本的に弱いんだよな。俺もこの十年くらいでようやく達人に成れたほどさ。だからあまり勧められない。こないだ見た塩を造るゴーレムとか、ああいうのが作りたいなら止めんが」
「え? でも先生が作った三大ゴーレムって凄いんですよね?」
「だよねだよね? 黒鉄のアダマンティンとか国の守り神なんだよね?」
風使いや水使いは、兼業戦士が覚えても有用な下位魔術だ。
しかしゴーレム魔術は工場でロボットを組み立てるような物だ。ロボットアームそのものといった知識のある転生者である俺くらいしか思いつけない存在だと言っても良い。じゃあ、平和になった今の時代で何の役に立つのか微妙だと言える。誰が好き好んで弟子を専門家にするのか……という所だ。
三大ゴーレムとは魔将を次々に退けた……とされる銘付きのゴーレムで、俺が作った名作だと言い換えても良い。だが、それが平和な時代にどれほど役に立つのか微妙なんだよな。
「加護ってものがなければ……の話だな。それにアダマンティンは剣聖でも壊せん特別仕様だが、強いと聞いたことはあるか?」
「え? ええと……サーガに出てくるくらいしか聞いたことが……お姉ちゃん?」
「確かに守り神とか魔将を退けたとは言われてるけどあれってそう言う意味なの?」
ゴーレム創造魔法は魔力配分のレシピで差が作れる。
つまり意図的に防御特化でタフネスに作ったのがアダマンティンだ。剣聖が練習台にしていたから特に有名だが、オーガの剛力でもビクともせず、加護を山盛りにした肉弾戦タイプの魔将ですら壊せない存在ではあった。だが、戦場以外では役に立たないし、個別の亜人くらいしか見ない平和な時代では無用の長物なのだ。それでもアダマンディンのみを王都に飾っているのは、国家防衛用にはピッタリだからである(侵攻作戦には向かないから余計に)。
蛇足なので説明しなかったが、人間が乗り込むタイプのゴーレムはゴーレム魔術の亜種になる。初心者のコントロール・ゴーレムで製作者が付与した魔力を打ち破るとか不可能だからな。一時的に出力する呪文として、特化することでようやく成立するはずだった。もちろんそんなのはまだ研究段階だぜ(一時的に在籍していた大学時代に盗まれかけたので、凍結しているのも大きい)。
「まあ、そう言う訳だ。基本的には基礎的な魔術を覚えて、自分が進みたい道の上位呪文を専門にする方を勧める。俺の弟子として大学にスカウトされたいからゴーレム魔法を覚えるとか、遊牧民に幅を効かせるために精霊魔法を覚えたいなら話は別だがな。四大精霊魔術とかは余程の熱意が無ければ認めない。まあ、まずはゆっくり考えてみてくれ」
「「はい」」
ともあれ詰め込み過ぎは良くない。
一度話を切って、専門性と呪文の覚え方のみを理解させておいた。覚える系統の呪文に関しては、やりたいことが見つかってからでも良いだろう。
こうして俺たちは領主の館で同居する間がらになった。
彼女たちが呪文を覚えるようになり、この領地の為に役立つのはもっと先の事だろう。お妾さん? 押し付けられた挙句、性格に難があってまだ若いのにありえないよな。向こうが俺を慕ってるなら話は別だが、そんなのはまだ気配すらない。それに嫁さんは王家から降って来ると思うので絵を出す気に成れなかったのもあるだろう。
それなりの規模の商人がお近づきになろうと娘を寄こした。
とはいえ『妾でも良いが、魔法の才能があるから弟子にどうだ?』という触れ込みなので、呪文を覚えさせるように指導していくことになる。姉妹でやってきているがどちらかを妾にと切望する程ではないし、両方とかいう程に女に困ってはいない。切実に足りないのも育てば助かるのも魔術師だからな。
それはそれとして、ちゃんと二人に俺の要望を伝え、向こうの要望を『ある程度』聞くと伝えるのが誠意というところだろうな。
「ようこそ、まずは自己を紹介しよう。俺はミハイル、専門はゴーレム魔法だ」
「大戦の話は追々で良いだろう。まずは君たちの待遇と、こちらの要望だな」
「このゴルビー地方には魔術師が足りておらず、君たちには才能がある」
「だから俺は指導するし、君たちのどちらかがこの領地の為に役に立ってくれるか、あるいは身代わりを見つける事が出来れば特に拘束する気はない。ここまでが義務だと思ってくれ。女性として遇するかに関しては、お互いに性格を知り合い、この領地の将来性を知ってからでも遅くは無いだろう。色んな意味で飢えてはいないし、魅力的に思える様にする自信がある」
三人でテーブルに座り、ひとまず挨拶と要望を終わらせる。
いけすかない奴だとか、何かを期待して『強請る』というのはお互いに気持ち良くないからだ。性的な意味よりも人間関係の方が今は重要だな。互いに出し抜き、従えてやろうなんか思う奴を近くに置いて居たくはないだろう。
俺は二人が話を飲み込むまで待ってから指導を始めることにした。
「ええと、という事はお妾さんとかはまだ良いって事ですか?」
「妾も弟子も、どちらかやれば良いのよね? なら問題無いわ」
「前者の質問に関してはさっきそう言ったぞ。待遇を良くしたいとか、『お嫁さんになって苦労は出来るだけしない人生』が欲しいなら、そっちの方向でも頑張ってくれ。だが、必要としているのはまず魔術師だ。後者に関して、君は交渉のイロハを先に理解すべきだな。もちろん、当たり触りの無い範囲で覚えるだけなら構わんよ。家庭教師ほどに優しくはないが、最低限の教育は保証する
妹の方は天然過ぎて鈍く、姉の方は礼儀から先に教えるべきかと思う程だ。
ともあれ嫌悪するような性格でもないし、それぞれ先ほど見た性格のままなので許容できる。これから時間を掛けて矯正して行けば良いだろう。その上で、俺は領主なので時間が制限されるし、発展途上の領地なので裕福な生活に関しては、努力次第だと言う他はない。
「では早速、最低限の教育を始めよう。まずは全体の概要からだ」
「この世界では一部の加護を別として、呪文を行使し能力を向上させる」
「君たちは呪文を沢山使える加護を持つ。初歩段階では恵まれているな」
「反面、同ランクの者同士で比べあったりすることには向いていない。自分が得意な分野で活躍し、他者とは比べ合わない方が向いているだろう。目的とする分野の呪文を延々と唱え、あるいは書き写すことで成長していくわけだ。練習用の呪文所に関しては今度造るが、その前に分野について説明しよう」
ここまで告げると妹の方は頷き、姉の方は首を傾げる。
それでも姉のセシリアが疑問をいきなり口にしないのは、先ほど交渉術と当たり障りのない内容で良いのかと忠告した為だろう。なので彼女の方を向き、質問を許可することにした。
「質問です。魔力が多い方が恵まれているのは判りますが、私とアンナではどんな差があるのですか? 同じような加護でも微妙に違いがありますよね」
「良い質問だ。個性に目を向けるのは良い事だからな」
おそらくコンプレックスがあるのだろう。
妹のアンナは魔力回復なので、何も考えずに使用魔力を考察するならば、一日ではアンナの方が大量の魔力を用意できることになるだろう。しかし、それは決してセシリアが妹に劣っていると言う意味ではないのだ。まあ、冒険者になって中級以下の呪文を連発するような環境に進むならば話は別なのだが。ただ本人の希望で大学に進んで魔法科で学ぶとしても、此処で俺の弟子として領地経営をするにしても、どちらもセシリアの才能は活かされるはずだ。
そういう意味でセシリアは運が良くないが、悪運がある。
「呪文そのものは無数にあり、中には大量の魔力を消費する物が在る。君の加護は儀式魔法で広範囲に呪文を掛けるとか、俺のところのゴーレムの様な、魔法の品を作成するような分野に向いているな。研究者向きと言っても良いだろう」
「なるほど。参考になりました。ありがとうございます」
俺が嘘偽りなく、躊躇いなく答えたことでセシリアも安心したようだ。
あるいは俺を試していたのかもしれないが、こうなる事は半ば予想出来ていたので彼女が試したつもりならば、その結論は間違いだ。悪い大人は最初から回答を用意できるし、そもそも思考を誘導できるからな。とはいえ彼女を騙しているつもりはないので、単純にセシリアが不安なだけで、思わず尋ねただけなら良かった……と言うべきだろう。
せっかくなので魔力容量を例に出して板切れに書き出してみた。
初心者の魔力で20ちょいとして、30は保証されており、これが一人前になると50だとか、大成することに成功すれば100近くなる。魔法のアイテムを作ると20とか30が最低単位になるので、セシリアは魔力タンクのようなサポーターとしてなら特待生に成れるほどの才能があるだろう(ただ、その場合は責務が付きまとうので微妙ではある)。
「あの、質問良いですか? 私は何に向いているのですか?」
「呪文を使いたいが、不測の事態に対して温存しておきたいような状況や、そもそも連発する必要性のある時だな。冒険者ならば前者の様な状況は良くあるし、錬金術師の様な生産系なら後者の可能性が多くなるだろう」
姉の様子に妹の方も興味が湧いたようだ。
ようやくコンプレックスを脱出出来そうな姉の前で、平然と尋ねようとしているあたり、やはり妹の方は天然だな。だが逡巡すると疑われるし、そもそも見習いどころかまだ勉強を始めて間もない段階だ。大成する事が出来れば、姉も妹も似たような事が出来るし、あえて特性に特化すればまるで別の才能に育つんだろう。ただ、その時の事を伝えることも出来るが、あまりここで言う意味はない。
ついでこちらも板切れに書き出して置こう。
初心者の20として、一人前になる頃に30ちょいくらい。3~5くらいの呪文を連発し、10くらい使う生産系の呪文なら向いているが……魔法のアイテム作成には向いていない。少なくとも導師くらいにならないと無理だし、大成すれば50ちょいくらいだ。そこまで行けば話は変わるが、そこまで生き残れるならもう冒険なんかしていないだろう。なお、魔力回復の方が才能があると言われているのは、もっとも何倍もの魔力を支払えば呪文を強化できる補助呪文がある為である。この時点では話さないけどな
「次に分野と専門について説明しよう。この世界では魔法を研究して細分化して来た」
「そうする事で出来ない事が増えるが簡単だ。例えば神の奇蹟は至難どころじゃない」
「魔法というのが世間がイメージする『偉大な魔法』だが、この段階で既に難しい」
「実際に呪文を使っている連中の大半は、魔術という呪文を使用している。これは魔法の七割くらいしか網羅していないが、難易度は半分前後になる。学習にしても行使にしても、どれだけ優れているか判るだろう? お前たちが大人になって覚えるとしたら、こっちが限界と言われるだろうな」
ともあれ、呪文を唱える段階の説明でしかないので、次に行こう。
一般的に呪文を使うのは魔術師と呼ばれる者たちで、魔法を使うのは大学で研究している連中か、魔法使いの家に生まれたような家系だ。物心つく前から専門用語が飛び交うし、家に専門の補助具とか沢山あるし、ノウハウも山盛りである。それを他の連中が覚えようと思えば物凄く敷居が高くなるって話だ。俺も転生時に軽く悩みはしたが、覚えられる限界の解説を聞いて即座に切り捨てることにした。
ここで再び好奇心が湧いて来たのかセシリアが再び質問したそうだったので許可を出すことにした。
「確認したいことが二つあります。一つ目はどれほどの差あがるのですか? 考慮の余地が無いような呪文もあるのでは?」
「あー。そうだな。実際に呪文が失われるのはその理由だが……」
今度ばかりは少し逡巡した。隠す気はないが説明が難しい。
掌を使って続きの言葉を遮りながら、板切れに何を書くか悩んだ。最終的にその辺にある土と、少し離れた場所にある砂を示した。具体例としてこの方が判り易いだろう。その上で次の質問を考慮し、少し考えておく。おそらく二問目は俺に関する事だからな。
ある程度の答えを考えた上で説明を再開した。
「判り易い差としては四大の操作や生成とその他になる。『地・水・火・風』これを四大と呼ぶが、火を生み出せば燃え温まり、水を操ればワインが動き始める。しかし、砂や雪は作れないし、生み出せない。それが魔法と魔術の差だが、実際に砂を生み出す理由は殆どないな。雪だって凍らせる呪文がある以上は、特に必要を感じない」
「ありがとうございます。次にゴーレム魔法は魔法ではないのですか?」
クリエイト・エレメンタルが魔法で、クリエイト・ファイアが魔術だな。
砂の創造なんか不要だし、四大精霊に当てはめる時点で定義が間に合わなかったこともあり、世間で使う魔術からは失われてしまった。雪を生み出せば涼しいかもしれないが、そんな呪文よりも凍結の魔法で水や金属を凍らせた方が早い。これがコントロール・エレメンタルなんかは更に大きな意味が出る。砂漠に住まない限りは砂を操る呪文なんか不要だからな。ちなみに難易度だけでなく、消費魔力にも差があるので普通は誰も重要視しないのだ。
その上で、来るべきものが来た。実に説明が難しいゴーレム魔法である。
「ゴーレム魔法は精霊魔法と並んで過渡期の魔法になる。そこからゴーレム魔術や……そうだな。判り易いのは火の精霊魔術に水の精霊術という下位の魔術が生み出されていった。難易度も習得呪文数も七割以下という欠点がある代わりに、一部の上位呪文をいきなり使える。目標がある奴はゴーレム魔法や精霊魔法の方が余程早い。俺はあまり勧めないが」
「先生は自分の魔法なのであまり勧めないんですね。意外です」
実に複雑だが、精霊魔法はともかくゴーレム魔法は微妙である。
覚えられる魔法が、ゴーレム系とソレに組み込めるタイプの呪文のみになる。クリエイト・ファイアで装飾ライターとか、クリエイト・ウォーターで水を吐き出す彫像は作れるが、クリエイト・アースなんかはない。クリエイト・エアがあれば扇風機を造れそうなものだが、やはり存在しないのだ。線もk根いゆえの欠点であるが……メリットとして上位呪文に当るモノがいきなり習得できるのが大きいんだよな。
俺の場合はそういった問題も知って居たし、そもそもやりたい事があったので確定事項だったのだが。ただ、この領地を発展させるためにゴーレム魔法の優先度は低いし、それこそ下位のゴーレム魔術を適当な奴に教えても良いくらいだと思っていた。
「精霊魔術は兼業用と言っても良いから、遊牧民の風使いとか見れば判り易いだろ? ああいうのが下位魔術の使い手なんだ。ゴーレム魔術の場合は、じゃあ何になるかってゴーレムの生産だが、ゴーレムって基本的に弱いんだよな。俺もこの十年くらいでようやく達人に成れたほどさ。だからあまり勧められない。こないだ見た塩を造るゴーレムとか、ああいうのが作りたいなら止めんが」
「え? でも先生が作った三大ゴーレムって凄いんですよね?」
「だよねだよね? 黒鉄のアダマンティンとか国の守り神なんだよね?」
風使いや水使いは、兼業戦士が覚えても有用な下位魔術だ。
しかしゴーレム魔術は工場でロボットを組み立てるような物だ。ロボットアームそのものといった知識のある転生者である俺くらいしか思いつけない存在だと言っても良い。じゃあ、平和になった今の時代で何の役に立つのか微妙だと言える。誰が好き好んで弟子を専門家にするのか……という所だ。
三大ゴーレムとは魔将を次々に退けた……とされる銘付きのゴーレムで、俺が作った名作だと言い換えても良い。だが、それが平和な時代にどれほど役に立つのか微妙なんだよな。
「加護ってものがなければ……の話だな。それにアダマンティンは剣聖でも壊せん特別仕様だが、強いと聞いたことはあるか?」
「え? ええと……サーガに出てくるくらいしか聞いたことが……お姉ちゃん?」
「確かに守り神とか魔将を退けたとは言われてるけどあれってそう言う意味なの?」
ゴーレム創造魔法は魔力配分のレシピで差が作れる。
つまり意図的に防御特化でタフネスに作ったのがアダマンティンだ。剣聖が練習台にしていたから特に有名だが、オーガの剛力でもビクともせず、加護を山盛りにした肉弾戦タイプの魔将ですら壊せない存在ではあった。だが、戦場以外では役に立たないし、個別の亜人くらいしか見ない平和な時代では無用の長物なのだ。それでもアダマンディンのみを王都に飾っているのは、国家防衛用にはピッタリだからである(侵攻作戦には向かないから余計に)。
蛇足なので説明しなかったが、人間が乗り込むタイプのゴーレムはゴーレム魔術の亜種になる。初心者のコントロール・ゴーレムで製作者が付与した魔力を打ち破るとか不可能だからな。一時的に出力する呪文として、特化することでようやく成立するはずだった。もちろんそんなのはまだ研究段階だぜ(一時的に在籍していた大学時代に盗まれかけたので、凍結しているのも大きい)。
「まあ、そう言う訳だ。基本的には基礎的な魔術を覚えて、自分が進みたい道の上位呪文を専門にする方を勧める。俺の弟子として大学にスカウトされたいからゴーレム魔法を覚えるとか、遊牧民に幅を効かせるために精霊魔法を覚えたいなら話は別だがな。四大精霊魔術とかは余程の熱意が無ければ認めない。まあ、まずはゆっくり考えてみてくれ」
「「はい」」
ともあれ詰め込み過ぎは良くない。
一度話を切って、専門性と呪文の覚え方のみを理解させておいた。覚える系統の呪文に関しては、やりたいことが見つかってからでも良いだろう。
こうして俺たちは領主の館で同居する間がらになった。
彼女たちが呪文を覚えるようになり、この領地の為に役立つのはもっと先の事だろう。お妾さん? 押し付けられた挙句、性格に難があってまだ若いのにありえないよな。向こうが俺を慕ってるなら話は別だが、そんなのはまだ気配すらない。それに嫁さんは王家から降って来ると思うので絵を出す気に成れなかったのもあるだろう。
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田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
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星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
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※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
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