魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第五章

『ペレストロイカ』

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 王宮での政策が通り、東部開発の正式な命令書が来た。
名目は新街道を整備することで、流通を良くすると同時に、戦力の行き来を簡便化。商売だけではなく、魔物退治をやり易くするという話である。俺にはゴーレムで街道整備せよという代わりに、動員命令に参加することで貢献とみなして、高額な税金を『翌年度から』定額にしてもらえるらしい。

これは既に粘土が切り替わって三カ月ほど過ぎて居るのと、あまりにも早く終えてしまったら他からやっかみが来る対策らしい(本当かな?)。

「あまり余所者を居れたくないのだがね。だが陛下の仰せとあらば仕方があるまい。そこの所を理解しておいてくれたまえよ」
「陛下には伯が協力的であったとお伝えしますのでご安心を」
 正式な命令書があるので話が通し易くなった。
街道を敷くと同時に、東側にある国との境を見易くする。もちろん守り易くもなるので領境での魔物退治はし易くなるだろう。先行するバルガス同胞団のメンバーからも、その旨は伝わっていると思われた。後は領主の希望で南側も整備したり、欲深い奴は西側も頼んで来るのでそれを片付けたら終わりだ。

だが真に賢い領主は、既に畑や家屋がある場所を貫通させ、一直線の道を作らせたのだ。もちろん代替として、畑を俺たちが整備するという条件だが。

「おや。ここでは木材を高くは買い取らないんで?」
「そういうのは先に話した奴の特権だな、イゴール。下手に誰も彼もやっても足元を見られるだけだ。それに領境に柵だけじゃなくて、砦を作る必要がある場所もあるからな。買い取るほど多くはないよ」
 バルガス同胞団のイゴールという男が再合流した。
先行した場所での情報を踏まえ、次の経由地へと移動する。領主によっては諸手で歓迎する者も居るが、王宮からの要請でも領地には入れたくない者も多いのだ。そいつを説得するのは骨が折れるし、近隣の領地が良くなっているのを見たら考えが変わって『やはりうちも!』と言うのも居るので、大抵は取り合わずに迂回して行った。

この日も情報を受け取って場所を何処添いにするかを決めるために適当な村の近くに野営しようと思ったのだが……。

「そこのお前ち! 我々の誘導に従ってもらおう!」
「そういうお前たちは何者だ? 担当者名と騎士団序列を提示されたい」
 現れたのは馬に乗った騎兵数名だ。
馬は臆病なので戦争に連れていけるような軍馬は金で買ったら金貨百枚前後と高額である(普通は手元で育てる)。その為、地方の小領主ごときでは領主である男爵ですら持っていないことが多い。それを考えれば全員が軍馬に騎乗した彼らは騎士であり、地方巡検の騎士か、さもなければ重要拠点を守っている騎士団の団員であろう。

そういえば前にも行ったと思うが、この国の基本単位は『伯爵』と『男爵』になる。騎士団長は任された要塞の名前+伯爵で、男爵ならばそこの隊長職か独自の砦の名前がつく。なので大抵は名乗りを上げると誰なのか丸判りらしい。

「なんだと、成り上がりの新貴族風情が偉そうな!」
「我らはウッラ-ル騎士団所属の騎士である。大人しく指示に従え!」
「そうか。任務中ゆえに申し訳ない。我らは王宮からの命で行動中である。互いに王命で動くゆえに要請を聞くことは出来るが、別系統の為に命令には従えない。そこのところを理解いただきたい」
 反応は-1と0の組み合わせだった。
思わず激高した一人目は言うに及ばず、騎士団の名前を出して内容だけを語った二人目も言うべき内容を間違えている。成り上がり者の新貴族といったが、おそらくトレードマークのゴーレムをもとに俺が誰かを判断したのだろう。こちらが誰か判っているのだから謀反だと疑いようがない訳で、仮に相手が騎士隊長の男爵であろうと、こういってはなんだが伯爵本人であろうと頭ごなしの命令を聞く必要はなかった。

そもそも、貴族が別の貴族に命令できるようなら今起きている問題は起きてないのだ。少なくとも今回の街道敷設に関わる大臣か王命でない限り、俺が命じられる事は無い(派閥とかその辺で裏事情は変わって来るが)。

「貴様! 逆らう気か!」
「逆らうと容赦せんぞ!」
「そうは言ってない。王命で任務の実行中で、これは確かめてもらえば直ぐに判る。それとも何か? 君らは外交使や海軍の早馬を見かけたら何も言わずに徴用するのか? 少なくとも、どうして力を借りたいのかくらいは説明すべきだろう。魔物なら魔物と話のさわりを利かせてくれたら要請くらいは聞けるんだ」
 俺は即座に反応する二人を無視して他の者に語り掛けた。
彼ら二名だけではなく他にも居ることを考えると、団長とは言わないが騎士隊長率いる戦闘序列(正式に組み入れられた小隊)であるはずだ。彼ら二名がいつも話を通しているのか、あるいは地元出身者で焦っているのかもしれない。だが、これだけこちらの話を素通しどころか激昂している様ではどうしようもない。『そんなこと知るか!』と斬り掛かって来られたら反撃するしかないしな。同じ王命で動く者同士なら協力し合いたいものである。

そして、それは相手も同じだったのだろう。任せていた二人の前に身分がありそうな男が下馬しながら話し始めたのだ。

「ゴルビー男爵の言う通りだ。筋を通すべきだろう。……我らウッラール騎士団の者が失礼した。副団長を拝命しているアンドリオと申します」
「ウッラール子爵閣下でしたか。こちらこそ失礼しました。背景をお伺いさせてください」
「「……っ」」
 下馬した騎士は兜のフェイスを上げたが、一部だけでも二枚目に見える。
それだけではなく貴族然とした物腰なのに、家名を名乗らずに自分の名前だけを名乗っているのが評価点が高い。在所の貴族が騎士団入りすることもあるわけだが、それでも普通は自分の家の家名を誇るわけだ。それなのにマウント合戦には興味なく、それどころか『軍人として評価してくれるとありがたい』とばかりに名乗るのは高潔さにも見えた。反対に二名は面白くなさそうだった。

ちなみに子爵という爵位は存在せず、制度として副将や副大臣がソレになる。在所の貴族であれば基本的には後継者のことだな。

「察してくれている通り魔物の害が出ていましてね。先触れの従騎士が戻る際に君を見かけたという話で、途中で立ち寄らせてもらったのですよ。彼らは件の町出身でね、容赦していただきたい」
「いえ。戻れる故郷があるなら当然の事です。こちらこそ失礼をお詫びしましょう」
「「……。……」」
 先ほどの二人は別の意味で黙った。
尊敬する上司であろう彼に頭を下げさせた恰好(下げてないけど)であり、俺も筋を通しただけで要請を聞く気になっている。いくら何でも自分たちがミスをしたことに気が付いているだろう。あるいは『戻れる故郷がある』と言ったことに、俺の故郷が滅ぼされたとでも同情しているかもしれない。まあ、転生したから戻れないだけだけどな。

とはいえ、ここでしんみり話している時間は惜しい。
どこかの町が襲われているな現在進行形で危険な筈だし、俺達の任務も長丁場なのだ。仮に町が滅びて再興に力を掠義理が出てしまうのはマズイ。さっさと行動すべきだろう。

「いま見えている機体は足が遅い旧型です。途中まで先行させるとして、新型で私も移動しましょう。それなら騎兵に劣りませんので、概要だけでもお願いします。あの男はバルガス同胞団の者ですので、先行してもらいます」
「そうか! それはありがたい。まず、場所は東部との国境にある町なんだ」
 ここで重要なのは時間だが、同時に情報も重要だ。
そこで俺は足の遅いゴーレムを言われた場所までイゴールに先行させることにした。危険があって飛び込むときは特別料金を割増しで払うと決めているので、ゴーレムを盾に安全に戦えるならばとイゴールも力強く頷いている。

アンドリオ子爵……というか副団長と作戦を詰めることにした。こう言っては何だが蹴散らせば直ぐに終了と言う訳にもいかないだろう。だが、こちらも長々と戦う訳にもいかないので、サクっと終わらせる為には重要な事であった。

「本来は二個騎士団が東部したのだけれどね、それがこのところの魔物騒動だろう? 一つが移動して密度が下がってこの有様だよ」
「でしたら我々の任務も無駄ではないかもしれませんね。街道を敷くと同時に、領境を守り易くしています。長居は出来ませんが、その町でも同じような対策をして行きましょう」
 色々と話したが、物凄い魔物が出たわけではないそうだ。
交代要員も巡回要員も足りなくなって来て、休息のために要塞に戻ったら何処かに穴が空く状態らしい。それでも他の地域ならまだしも、東部との国境は魔物が多いのだ。それに対して町をグルリと囲むような壁は存在しないし、自警団の数も少ないので、今まで何とかやれていた分の反動が来たらしい。

そんな俺の話に少しだけ顔を明るくしながらもアンドリオ副団長は更なる懸念を示した。

「今はそれでも良いだろうね。しかしだ、このまま南の騒乱が続くようなら……ヨセフ伯の話載る必要があるかもしれない」
「その必要はないと思いますね。詳しくはお話しできませんが、我々の計画はあくまで一部です。そして、私はこの計画をペレストロイカ(再構築)と呼ぼうと思っていますから」
 アンドリオ副団長は突っ込んだ話はしなかった。
だが、ヨセフ伯という判り易い例を出してくれたので察することはできる。ヨセフ伯にしても東部要衝を守っているウッラール騎士団を味方に付けたいから裏で話をしているのだろう。本来ならばその話は言うべきではない。だが、あえて打ち明けてくれた彼に俺も一部なりと匂わせることにした。

経済と防衛網を再構築する計画、ペレストロイカについて。
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