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第五章
『早く移動できる意義』
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俺たちは国境添いの町に移動しながら休憩を挟んだ。
長時間移動し続けると馬がバテるのでそれではいきなり戦えないからだ。それは先行する傭兵たちもそうで、彼らは基本的に徒歩か普通の馬なので猶更に休憩を挟む必要があった。
とはいえ寄り道で俺を探すくらいである。もうしばらくすれば辿り着けるだろう。
「ここまでの道のりは直線では無かったですし、起伏もそれなりにありました。これを整えたり、あるいは詰め所を兼ねた防衛拠点、そして伝令用の替え馬を置いた駅を作る。そうすれば交易も防衛もやり易くなるとは思えませんか?」
「それはそうだね。これまでは時間も予算も掛かったが……」
「今はゴーレムもありますからね」
ペレストロイカ……再構築計画についてもう一度話す。
実体験で味わうと、その成果は身をもって体験できるからだ。今ではアンドリオ副団長だけではなく、他の騎士たちも話を聞いている様に見える。彼らにとっても時間と言うのは貴重だからだ。
その上で、俺は皆に見えるように出来るだけ大きく地面に矢印と数字を描いた。
「これまで十日で移動していた道が七日を移動できるとしましょう」
「商人ならば二十日掛けて売買としていたとして、最低三日分の営業を延長」
「あるいは移動する時間を延ばして二か所で販売なり、遠くの町で売れます」
「さらに安全に成れば護衛だって少数で済む。経費が減って儲けが増えると思うか、それとも遠くで儲ける機会を得たと思うかは判りません。しかし、確実に利益は上がり税収は増えるでしょう。だからこそ安全にする為に、根本から解決する必要が出て来る」
まずジグザグの道と真っ直ぐの道を描き、数字を添える。
ここまで露骨な差があるような場所はあまりないだろうが、皆が敬遠している悪路も多い筈なので、そこを開通すれば全区間で総合的に見れば平均して安定するだろう。すると今までの道よりも新街道を使った方が良いという事に成り、今までの卸先には新街道を経由するなり、逆に中間地点に来てもらっても良い。経費を考えて値引きをすれば向こうから来るだろうし、新街道経由でも儲けが出るならば二か所で販売するだろう。
そこまでは商人や貴族向けの話だが、ここからは騎士向けの話になる。
「このままでは同じことの繰り返しになるという訳だね?」
「ええ。隣国の情勢が落ち着くのをまってはそうなるでしょうね。だから、この際ですので根本的に解決します。まあ、そのつもりで柵を立てたり大規模な堀を作るだけで、穴を抜ける奴は出て来るでしょうけど。それでもグっと減らせると思いますよ」
アンドリオ副団長が話の先を察すると俺は頷いた。
そしてジグザグの道の脇に山を示す三角形を幾つか、あるいは谷を示すお椀の様な絵を描いて行く。こういった起伏の多い地形に加えて、森林があるからこそ魔物は隠れて移動できるし、そこで食料を調達できるのだ。隠れる場所も食料も無いゴルビーで魔物の数が少ないのは、単純に魔物も『見えている範囲』では人間も喰っていけないからである。
MAPを大まかに記載した所で、道の周囲へ小さな線を何本か、そしてMAP全体の大枠へ大きく太い線や丸を付け足していった。
「今までは国内だったので領境に柵と見張り小屋で足りました」
「ですが国境ではそうもいかないでしょう。隣国には動かせる柵を用います」
「加えて、ど真ん中を抜けられる様にしておき臨時措置に見えるようにします」
「実際には関所破りが使うような場所に、大きな空堀を作りこちら側に柵を立てて段差を利用します。これは国境の町くらいは同様の措置で守っても良いですね。そちらは用水路を兼ねて水を敷く事も計算に入れても良いでしょう」
今度は穴を示す窪みと、その向こうに柵を示す線を描いた。
イメージ的には合わせて2mほどの段差を作ると同時に、相手の頭がこちらの腰以下に来る様に計算するつもりだ。理想を言えば槍を使わなけば双方ともに戦えないくらいでも良い。人間側は守ることが重要で、必ずしも華麗にかつ必要はないのだ。確実に勝てる状況でだけ戦えば良い。
もっとも、その事を頭では理解しつつも、感情的には納得できない者も多いのだ。
「おい。その程度のことで魔物を蹴散らせるのか?」
「騎士が全力で戦えば亜人程度は勝てて当然だ。しかし、全力出撃で何時間、合計で何日戦い続けられる? 国境の守りは移動も含めて激務だろう? この防衛網はあくまで兵士でも勝てるようにすること。騎士ならば余裕で勝てるようにする事だ。そうすれば少数なら自警団でも問題なくなるし、数が多くても騎士団が来れば勝てる」
前にも言ったと思うが勇者軍ではよくやった話だ。
だから相手の主張を否定するのではなく、今回も『蹴散らすのではない』と念押しして置く。おそらくは彼らから見れば、『柵を背中にすれば回り込まれることが無い』くらいの認識なのだろう。それはそれで分断という基本形だから間違いはないのだが、長期では話が丸で変わって来る。
ここで重要なのは疲労度であり、腕前を気にせずに戦い続けられることである。
「言わんとすることは判るよ。だからこそ騎士団は二つあったからね。一つで済むなら我々が出撃している筈がない。そうだろう?」
「副団長……」
俺の言葉をアンドリオ副団長が肯定した。
貴族である彼としては労力と所要時間が問題という意見は判るのだろうし、その彼が肯定しているならば部下としては反論もし難いのだろう。システマチックな戦いを嫌う騎士としての感情と、尊敬する上司に付き従う部下としての感情がせめぎ合っているに違いない。
今の所物分かりが良くて理性的だ。
これで二枚目で貴族なのだから天は二物も三物を与えている。戦闘力は最低でも他の騎士と遜色ないくらいにはあるはずなので、余程の事が無ければ彼が次のウッラール騎士団の団長に成るだろう。そうなれば東部域も安定するかもしれない。
「ひとまずこの方法は勇者軍で散々試してますから大丈夫ですよ。ゾンビやスケルトンはまず越えようとも思わないし、ゴブリンは背が低いから下からだと柵を倒せませんからね。大物に注意すれば行ける筈です。問題は密売人の後を付けて奴らの群れ一つが、密売人が作った『橋』からコッソリ入り込むことですね」
「それは運が悪いと考えるしかないな。後は主要な場所の防護か」
俺は戦歴はあるが、それでも万が一の事は起きると説明した。
アンドリオ副団長は肩をすくめて済ませてしまう。日常的に危険と隣り合わせで、魔物の害が起きている東部では村一つが滅び駆けるくらいはよくある双だ。実際にはそれまでに騎士団が駆けつけ、自警団が必死で食い止めている間に殲滅するらしい。その時に出る被害に比べたら、運悪く忍び込んだゴブリンの群れが、そのまま何処かに攻め入るくらいは仕方ないで済ませられるのだろう。
まあ当面は自警団も規模が維持されるだろうし、何とかなると考えているのかもしれない。人当たりが良い様で、こういう冷厳さは貴族の視点に思えた。
「防護に関しては何処かで見た練り石……コンクリートでしたか? あれを使うか王都の魔術師を呼ぶしかないですね。コンクリの方は火山灰と砂とあとナニカってところまでは覚えてるんですが、残念ながらあまり存じなくて申し訳ありません」
「ああ。それなら私が知っているよ。確か石灰とかいう岩を砕いた物の筈だ。城門の防御や町の壁に使えないか調べたことがある」
いま話ているのは、所詮はゾンビやゴブリンのレベルだ。
街道の主要な場所や国境添いで魔物多発地帯になるとそうもいかない。オーガやトロルが当たり前のように出るだろうし、そういう連中を倒せるのが騎士だとしても、穴を掘って柵を立てただけの陣地は簡単に倒されてしまうだろう。ゴブリンにとって頭くらいの位置でも、オーガにとっては腰とか胸くらいで会って一番壊し位置かもしれない。
そう思っていたのだが石灰だったのか……情けは人の為ならずと言うが、巡り巡って良い情報を聞けたものだ。
(石灰岩なんか判らんが、指定できるなら注文すれば良いだろう)
(あと石灰なら確か、貝殻を砕けば作れる筈……だ)
(何だったかな……夏休みの宿題で観察するのに使った覚えが……)
(ああ、そういえば肥料になるんだったか。……でも、そう聞くとセメント作るのに使うのが惜しい気がするな。干した小魚込みで畑に撒いた方が良い気がしてきた。やっぱりゴーレムが関わらないとアイデアを思いつけんな。仮に素材の質を向上させる呪文を開発できても、限界ってものはある。漁業を始めたばかりのゴルビーじゃあ絶対に無理だ)
ただ、ゴルビー地方で利用するのは無理そうだ。
火山が何処にあるかも分からない状態なのでフルで輸入していると割に合わないどころではない。少なくとも貝の養殖が上手く行ったら儲けものくらいだろう。無駄な思索の時間を費やしたという訳ではないが、このアイデアは没である。
その遂行は無駄ではなかったとはいえ、気にしていない者も居る。それは時間が重要なこの場のメンバーだ。
「ミハイル君。そろそろ出発の時間だが?」
「ああ、失礼しました。確か石灰なら貝殻を砕いても作れるのを思い出しただけです。国内で石灰岩があまりないなら、隣国からまとめて輸入するのもアリですね。それと王都の魔術師にはもうすぐ会う予定なので、その時に防衛拠点を作る呪文が無いか話をしてみますよ」
俺が出発の準備をしないのでアンドリオ副団長が声をかけて来た。
秘匿しても意味が無いので考えていたことをそのまま伝えた。隣の国は海添いなので食料として貝は山ほど食べているだろう。もしかしたら貝塚だってあるかもしれない。それらを荷馬車一杯仕入れて、ゴーレムで砕けば粉々にするのは簡単だ。それに少量ずつなら人間でも簡単に砕けるしな。
それを伝えるとアンドリオ副団長は嬉しそうな顔をする。
「ありがたい話だ。それと、先ほどから見ているコレの姿を見て思いついたのだが、問題無ければルートを変えても良いかな? ただ突っ込むより増援を絶ってから合流する方が早そうだ」
「それは構いませんよ。ソブレメンヌイなら問題ありません」
アンドリオ副団長が立てた作戦はこうだ。
今いるメンバーは機動戦力だけなので速度を出すことが出来るが、町の防衛に参加すると機動力が殺されてしまう。それなら先に増援を叩いてしまい、町を囲む魔物を後ろから挟撃した方が速いというのだ。正面から救援に向かう中にはバルガス同胞団と三機のゴーレムたちが居る。無茶さえしなければ破壊されたり、殺されたりはしないというのもある。
そして、ここで利を齎すのは新型ゴーレムの大きさだった。
ケンタウルス型で多重関節であることから足が速く、四肢なだけの旧型よりも余程動き速い。さらに高さがあるので、敵集団を撃破する姿が『敵味方』から見える筈だという。味方は増援が来たと士気が上がるし、魔物たちはナニカが暴れて自分達を殺していると判れば、もう来なくなる可能性が高いと予測しているそうだ。魔物が仲間と思ってもどうせ来るのは一緒だし、町には説明できるイーゴールや案内の騎士も居るので士気が落ちることはない。
こうして俺たちは予定より若干早く、魔物の群れに飛び込むことに成った。
俺たちは国境添いの町に移動しながら休憩を挟んだ。
長時間移動し続けると馬がバテるのでそれではいきなり戦えないからだ。それは先行する傭兵たちもそうで、彼らは基本的に徒歩か普通の馬なので猶更に休憩を挟む必要があった。
とはいえ寄り道で俺を探すくらいである。もうしばらくすれば辿り着けるだろう。
「ここまでの道のりは直線では無かったですし、起伏もそれなりにありました。これを整えたり、あるいは詰め所を兼ねた防衛拠点、そして伝令用の替え馬を置いた駅を作る。そうすれば交易も防衛もやり易くなるとは思えませんか?」
「それはそうだね。これまでは時間も予算も掛かったが……」
「今はゴーレムもありますからね」
ペレストロイカ……再構築計画についてもう一度話す。
実体験で味わうと、その成果は身をもって体験できるからだ。今ではアンドリオ副団長だけではなく、他の騎士たちも話を聞いている様に見える。彼らにとっても時間と言うのは貴重だからだ。
その上で、俺は皆に見えるように出来るだけ大きく地面に矢印と数字を描いた。
「これまで十日で移動していた道が七日を移動できるとしましょう」
「商人ならば二十日掛けて売買としていたとして、最低三日分の営業を延長」
「あるいは移動する時間を延ばして二か所で販売なり、遠くの町で売れます」
「さらに安全に成れば護衛だって少数で済む。経費が減って儲けが増えると思うか、それとも遠くで儲ける機会を得たと思うかは判りません。しかし、確実に利益は上がり税収は増えるでしょう。だからこそ安全にする為に、根本から解決する必要が出て来る」
まずジグザグの道と真っ直ぐの道を描き、数字を添える。
ここまで露骨な差があるような場所はあまりないだろうが、皆が敬遠している悪路も多い筈なので、そこを開通すれば全区間で総合的に見れば平均して安定するだろう。すると今までの道よりも新街道を使った方が良いという事に成り、今までの卸先には新街道を経由するなり、逆に中間地点に来てもらっても良い。経費を考えて値引きをすれば向こうから来るだろうし、新街道経由でも儲けが出るならば二か所で販売するだろう。
そこまでは商人や貴族向けの話だが、ここからは騎士向けの話になる。
「このままでは同じことの繰り返しになるという訳だね?」
「ええ。隣国の情勢が落ち着くのをまってはそうなるでしょうね。だから、この際ですので根本的に解決します。まあ、そのつもりで柵を立てたり大規模な堀を作るだけで、穴を抜ける奴は出て来るでしょうけど。それでもグっと減らせると思いますよ」
アンドリオ副団長が話の先を察すると俺は頷いた。
そしてジグザグの道の脇に山を示す三角形を幾つか、あるいは谷を示すお椀の様な絵を描いて行く。こういった起伏の多い地形に加えて、森林があるからこそ魔物は隠れて移動できるし、そこで食料を調達できるのだ。隠れる場所も食料も無いゴルビーで魔物の数が少ないのは、単純に魔物も『見えている範囲』では人間も喰っていけないからである。
MAPを大まかに記載した所で、道の周囲へ小さな線を何本か、そしてMAP全体の大枠へ大きく太い線や丸を付け足していった。
「今までは国内だったので領境に柵と見張り小屋で足りました」
「ですが国境ではそうもいかないでしょう。隣国には動かせる柵を用います」
「加えて、ど真ん中を抜けられる様にしておき臨時措置に見えるようにします」
「実際には関所破りが使うような場所に、大きな空堀を作りこちら側に柵を立てて段差を利用します。これは国境の町くらいは同様の措置で守っても良いですね。そちらは用水路を兼ねて水を敷く事も計算に入れても良いでしょう」
今度は穴を示す窪みと、その向こうに柵を示す線を描いた。
イメージ的には合わせて2mほどの段差を作ると同時に、相手の頭がこちらの腰以下に来る様に計算するつもりだ。理想を言えば槍を使わなけば双方ともに戦えないくらいでも良い。人間側は守ることが重要で、必ずしも華麗にかつ必要はないのだ。確実に勝てる状況でだけ戦えば良い。
もっとも、その事を頭では理解しつつも、感情的には納得できない者も多いのだ。
「おい。その程度のことで魔物を蹴散らせるのか?」
「騎士が全力で戦えば亜人程度は勝てて当然だ。しかし、全力出撃で何時間、合計で何日戦い続けられる? 国境の守りは移動も含めて激務だろう? この防衛網はあくまで兵士でも勝てるようにすること。騎士ならば余裕で勝てるようにする事だ。そうすれば少数なら自警団でも問題なくなるし、数が多くても騎士団が来れば勝てる」
前にも言ったと思うが勇者軍ではよくやった話だ。
だから相手の主張を否定するのではなく、今回も『蹴散らすのではない』と念押しして置く。おそらくは彼らから見れば、『柵を背中にすれば回り込まれることが無い』くらいの認識なのだろう。それはそれで分断という基本形だから間違いはないのだが、長期では話が丸で変わって来る。
ここで重要なのは疲労度であり、腕前を気にせずに戦い続けられることである。
「言わんとすることは判るよ。だからこそ騎士団は二つあったからね。一つで済むなら我々が出撃している筈がない。そうだろう?」
「副団長……」
俺の言葉をアンドリオ副団長が肯定した。
貴族である彼としては労力と所要時間が問題という意見は判るのだろうし、その彼が肯定しているならば部下としては反論もし難いのだろう。システマチックな戦いを嫌う騎士としての感情と、尊敬する上司に付き従う部下としての感情がせめぎ合っているに違いない。
今の所物分かりが良くて理性的だ。
これで二枚目で貴族なのだから天は二物も三物を与えている。戦闘力は最低でも他の騎士と遜色ないくらいにはあるはずなので、余程の事が無ければ彼が次のウッラール騎士団の団長に成るだろう。そうなれば東部域も安定するかもしれない。
「ひとまずこの方法は勇者軍で散々試してますから大丈夫ですよ。ゾンビやスケルトンはまず越えようとも思わないし、ゴブリンは背が低いから下からだと柵を倒せませんからね。大物に注意すれば行ける筈です。問題は密売人の後を付けて奴らの群れ一つが、密売人が作った『橋』からコッソリ入り込むことですね」
「それは運が悪いと考えるしかないな。後は主要な場所の防護か」
俺は戦歴はあるが、それでも万が一の事は起きると説明した。
アンドリオ副団長は肩をすくめて済ませてしまう。日常的に危険と隣り合わせで、魔物の害が起きている東部では村一つが滅び駆けるくらいはよくある双だ。実際にはそれまでに騎士団が駆けつけ、自警団が必死で食い止めている間に殲滅するらしい。その時に出る被害に比べたら、運悪く忍び込んだゴブリンの群れが、そのまま何処かに攻め入るくらいは仕方ないで済ませられるのだろう。
まあ当面は自警団も規模が維持されるだろうし、何とかなると考えているのかもしれない。人当たりが良い様で、こういう冷厳さは貴族の視点に思えた。
「防護に関しては何処かで見た練り石……コンクリートでしたか? あれを使うか王都の魔術師を呼ぶしかないですね。コンクリの方は火山灰と砂とあとナニカってところまでは覚えてるんですが、残念ながらあまり存じなくて申し訳ありません」
「ああ。それなら私が知っているよ。確か石灰とかいう岩を砕いた物の筈だ。城門の防御や町の壁に使えないか調べたことがある」
いま話ているのは、所詮はゾンビやゴブリンのレベルだ。
街道の主要な場所や国境添いで魔物多発地帯になるとそうもいかない。オーガやトロルが当たり前のように出るだろうし、そういう連中を倒せるのが騎士だとしても、穴を掘って柵を立てただけの陣地は簡単に倒されてしまうだろう。ゴブリンにとって頭くらいの位置でも、オーガにとっては腰とか胸くらいで会って一番壊し位置かもしれない。
そう思っていたのだが石灰だったのか……情けは人の為ならずと言うが、巡り巡って良い情報を聞けたものだ。
(石灰岩なんか判らんが、指定できるなら注文すれば良いだろう)
(あと石灰なら確か、貝殻を砕けば作れる筈……だ)
(何だったかな……夏休みの宿題で観察するのに使った覚えが……)
(ああ、そういえば肥料になるんだったか。……でも、そう聞くとセメント作るのに使うのが惜しい気がするな。干した小魚込みで畑に撒いた方が良い気がしてきた。やっぱりゴーレムが関わらないとアイデアを思いつけんな。仮に素材の質を向上させる呪文を開発できても、限界ってものはある。漁業を始めたばかりのゴルビーじゃあ絶対に無理だ)
ただ、ゴルビー地方で利用するのは無理そうだ。
火山が何処にあるかも分からない状態なのでフルで輸入していると割に合わないどころではない。少なくとも貝の養殖が上手く行ったら儲けものくらいだろう。無駄な思索の時間を費やしたという訳ではないが、このアイデアは没である。
その遂行は無駄ではなかったとはいえ、気にしていない者も居る。それは時間が重要なこの場のメンバーだ。
「ミハイル君。そろそろ出発の時間だが?」
「ああ、失礼しました。確か石灰なら貝殻を砕いても作れるのを思い出しただけです。国内で石灰岩があまりないなら、隣国からまとめて輸入するのもアリですね。それと王都の魔術師にはもうすぐ会う予定なので、その時に防衛拠点を作る呪文が無いか話をしてみますよ」
俺が出発の準備をしないのでアンドリオ副団長が声をかけて来た。
秘匿しても意味が無いので考えていたことをそのまま伝えた。隣の国は海添いなので食料として貝は山ほど食べているだろう。もしかしたら貝塚だってあるかもしれない。それらを荷馬車一杯仕入れて、ゴーレムで砕けば粉々にするのは簡単だ。それに少量ずつなら人間でも簡単に砕けるしな。
それを伝えるとアンドリオ副団長は嬉しそうな顔をする。
「ありがたい話だ。それと、先ほどから見ているコレの姿を見て思いついたのだが、問題無ければルートを変えても良いかな? ただ突っ込むより増援を絶ってから合流する方が早そうだ」
「それは構いませんよ。ソブレメンヌイなら問題ありません」
アンドリオ副団長が立てた作戦はこうだ。
今いるメンバーは機動戦力だけなので速度を出すことが出来るが、町の防衛に参加すると機動力が殺されてしまう。それなら先に増援を叩いてしまい、町を囲む魔物を後ろから挟撃した方が速いというのだ。正面から救援に向かう中にはバルガス同胞団と三機のゴーレムたちが居る。無茶さえしなければ破壊されたり、殺されたりはしないというのもある。
そして、ここで利を齎すのは新型ゴーレムの大きさだった。
ケンタウルス型で多重関節であることから足が速く、四肢なだけの旧型よりも余程動き速い。さらに高さがあるので、敵集団を撃破する姿が『敵味方』から見える筈だという。味方は増援が来たと士気が上がるし、魔物たちはナニカが暴れて自分達を殺していると判れば、もう来なくなる可能性が高いと予測しているそうだ。魔物が仲間と思ってもどうせ来るのは一緒だし、町には説明できるイーゴールや案内の騎士も居るので士気が落ちることはない。
こうして俺たちは予定より若干早く、魔物の群れに飛び込むことに成った。
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