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第九章
『水棲種族の用意した代価』
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飛行呪文はマジックアイテムの作業が終了し、ゴーレムへと取り掛かる。
関節の応用で可変機構を用意し、腕の動きを邪魔しない程度の翼を取り付けておいた。これを開いたら飛行呪文の付与構文が成立し、普段は折れ曲がる事で、文字が成立しない様にしている。本当のことを言えばコックピットも欲しかったが、墜落すると危険なので残念ながら当分先だろう。
水棲種族がやって来たのは、そんな作業の途中であった。
「約束の品をお持ちいたしましたぞ。欠けている部分があるとは思いますが、そこは味見と言う事で御寛恕願えれば幸いですな」
「駄目元で思ってたので構いませんよ。むしろ素材の方が重要ですかね」
島の様に巨大な魚と言うのは本当だった。少なくともビルよりは大きい。
それも一階部分がフル・サイズのコンビニになってる大き目のビルくらいはある。切り身を積み上げただけでコレなのだから、切断前がどのくらいの大きさがどのくらいかもはや不明である。みたところ肝や目玉がないが……それは食べてしまったのか、腐ったのか、あるいは彼らも必要としていて勝手に持って行ったのかは判らない。
だが、こちらとしては安価に肥料を手に入れれたのだ。文句を言うべきでは無いだろう。
「魔石はそのままお譲りできます。素材に関しては一部、こちらの勇士が後に残す為に欲しいと申しましてな。特に鱗の中で軽い物と、骨の堅い部分を欲して居るのですよ。ですが、そちらに優先権がありますので、お話に参りました次第です」
「察するに鎧と槍ですか? さて……断るのは容易いですが……」
自分たちが命を懸けて戦ったのだから、記念品を欲しいというのは判る。
しかも巨大な魚の魔であるがゆえ、軽量なのに堅い部分というのは水中に住まう彼らには重要だろう。何しろ重い鎧を付けて居たら動きが鈍くなるが、今回の場合は敵がそのまま使っていたからな。見た目よりも遥かに軽いと思われた。
問題なのは、その部分は俺達も欲しているという事だ。魔物の素材を使ったマジックアイテムの実験で使いたいのと、場合によっては水中用ゴーレムであるルサールカに使える可能性があるのだから。
(待てよ……実験そのものは出来るのか?)
(こっちで魔法の槍を用意するって事にして、素材は受け取る)
(鎧と槍を一揃いは確定で作って、こっちが使わない部分でも作る)
(そもそもルサールカは別に高速移動する必要はないんだ。あくまで検証用なのと、遠洋船の護衛用でしかない。だが、それなら水棲種族を味方につけるだけでも良い筈だ。物凄く軽くて、飛行用ゴーレムに使えるなら抑える必要はあるが……それならもっと軽い魔物は居る筈だ)
損して得取れと言う言葉もある。彼らに不満を持たせるより感謝だろう。
水棲種族は海で活動する亜人で、オロシャ国では殆ど関わりがない。だから不満を持たれても構わないと言えるが、逆に友好関係を築く場合の利益は計り知れないのだ。元の世界と違って大航海時代があり得るとも思えない。海は彼らの領域として、彼らが不便と思う様な陸地主体の大きな島を譲り受けた方が楽だろう。その時に水棲種族に護衛を頼めるかどうかはかなり重要である。
もし海洋進出をしない場合でも、海外交易を代わりにやってくれる利益性は無視できない。
「では最初の幾つかに限り、その素材で宝貝の槍と鎧を用意しましょう。こちらは魔物の素材で宝貝を作ったらどうなるかと言う研究がしたいのです。有益だと判れば自分でも抑えたいですが、最初の幾つかに関してはそちらにお売りしますよ。その間に、こちらも研究が出来ますからね。水棲種族の好む形状さえ判れば作れます」
「それはありがたいですな! では水上歩行の宝貝込みでお支払いしましょう」
ちゃんと役に立ったことで水上歩行のマジックアイテムもお買い上げである。
ここまでは良い流れであり、俺の判断も間違ってはいないと思う。巨大な魔物を倒したというトロフィーを奪えば反感を買っただろうし、何らかの記念品を兼ねて授与は必要なのだろう。だからこそこちらの申し出は渡りに船であり、より良い友好関係が築けると思われる。
ただ……水棲種族は馬鹿ではない。それどころかこの龍学才という男は、優れた交渉力の持ち主であり、また物の価値と言う物を『良くも悪くも』判っている男だった。
「そういえば領主の御役目ゆえに、お手を煩わせる分だけ高額なのだとか。他に作り手が少ない分だけ難しいのでしょうな。しからば、その時間を補わせていただきましょうぞ」
「……? 行政への協力ではありませんよね?」
「然り然り。価値観が違うのです、それでは返って迷惑でしょう」
報酬に関する回答に苦笑いをせざるを得なかった。
俺は領主と言う立場の者を拘束する事で、高額の報酬を要求していた。そうでなければ気軽に頼まれてしまい、それでは俺が何もできなくなるからだ。だから時間拘束を補ってくれるナニカというのは助かるが、逆に言えば俺自身の時間を売り物にすることで高額の報酬を得ることが出来ないということだ。ひとまず水棲種族の見地で勝手な協力をするなら困るが、ちゃんとした報酬ならば悪くないのかもしれない。
そしてその事を容易く見抜いたという時点で、龍学才の眼力は侮れない。
「儂も協力させていただきましたが、作成できる宝貝には術を使える者の協力が必須。そして、人数が多い方が大幅に短縮できるのでしたな? ならば、こちらで術を所有する者を探して参ろうではありませぬか。近くに居り暇ならば安価に、遠い海域であったり忙しくして居れば高価にですな」
「……素晴らしい案をありがとうございます。お互いの為になりそうですね」
その内容は実に卒なく、素直に答えて良いのか一瞬悩みそうになった。
見学者を増やせば付与の術をパクれそうでもあり、既に付与自体は覚えているのであれば、コツをパクれると言えなくもない。だが、知らない場所でされなければ判らない上、疑いの目を持たなければ実に清々しい内容に見える。こちらが水棲種族に隔意を持つならばこれほど嫌らしい条件はなく、同時に隔意を持たなければこれほどに協力的な内容はないのだ。
だから此処での判断は、『俺が持って居ないモノ』に対する感謝で考えるべきだろう。何をやっても出来ない事は出来ないし、可能と有れば状況を大きく変更できることもあるのだ。そして水棲種族が今後百年・二百年経過した後に、敵対者になる可能性があるかどうかが分かれ目である。
「では、ひとまずこちらがお渡しすると約束した物の分だけ報酬を戴くとして、協力費を計上。こちらが何かしら欲しい物があれば御願いする時に相殺する……と言う事で構いませんか?」
「それで構いませぬぞ」
報酬をもらう約束をして居る筈なのに、こちらから貢献を約束させられた。
粘り腰のタフなネゴシエイターであると同時に、順逆を入れ替える自在の弁舌。それを支えるのは、短くはかない水棲種族個人の見地を捨て、種族全体の利益を考えられる全体思考のなせる業だろう。
ただ、前述した通り、これまで得られなかった増産ペースや、所持していない呪文を用意できるのは大きい。この点を活かして考えるべきであろう。
「もちろん、真珠や香辛料でも構いませぬ。誠意として、前回に注文いただいた物の他に色々と目録を用意しました。ご検分あれ」
「拝見します」
そして最後に情報を無償で提供することで、こちらが折れたことに対したのも実に見事だ。特に配慮への言及をすること無く、自分の方から提示したことで、一見、彼らの朴訥さをアピール出来ているのだから。
なお……この時の情報は割りと衝撃だった。
高価な買い物をしたカカオよりもコーヒーが割りと安価だったことだ。というか値付けは中間貿易の影響だと思われるので、思ったよりも近くでコーヒーが採れるのだろう。なんだか損したような気がすると同時に、探索してもカカオが見つからなかったということで、交渉で手に入れル窓口を確保できたのは安堵出来る内容だったろう。
飛行呪文はマジックアイテムの作業が終了し、ゴーレムへと取り掛かる。
関節の応用で可変機構を用意し、腕の動きを邪魔しない程度の翼を取り付けておいた。これを開いたら飛行呪文の付与構文が成立し、普段は折れ曲がる事で、文字が成立しない様にしている。本当のことを言えばコックピットも欲しかったが、墜落すると危険なので残念ながら当分先だろう。
水棲種族がやって来たのは、そんな作業の途中であった。
「約束の品をお持ちいたしましたぞ。欠けている部分があるとは思いますが、そこは味見と言う事で御寛恕願えれば幸いですな」
「駄目元で思ってたので構いませんよ。むしろ素材の方が重要ですかね」
島の様に巨大な魚と言うのは本当だった。少なくともビルよりは大きい。
それも一階部分がフル・サイズのコンビニになってる大き目のビルくらいはある。切り身を積み上げただけでコレなのだから、切断前がどのくらいの大きさがどのくらいかもはや不明である。みたところ肝や目玉がないが……それは食べてしまったのか、腐ったのか、あるいは彼らも必要としていて勝手に持って行ったのかは判らない。
だが、こちらとしては安価に肥料を手に入れれたのだ。文句を言うべきでは無いだろう。
「魔石はそのままお譲りできます。素材に関しては一部、こちらの勇士が後に残す為に欲しいと申しましてな。特に鱗の中で軽い物と、骨の堅い部分を欲して居るのですよ。ですが、そちらに優先権がありますので、お話に参りました次第です」
「察するに鎧と槍ですか? さて……断るのは容易いですが……」
自分たちが命を懸けて戦ったのだから、記念品を欲しいというのは判る。
しかも巨大な魚の魔であるがゆえ、軽量なのに堅い部分というのは水中に住まう彼らには重要だろう。何しろ重い鎧を付けて居たら動きが鈍くなるが、今回の場合は敵がそのまま使っていたからな。見た目よりも遥かに軽いと思われた。
問題なのは、その部分は俺達も欲しているという事だ。魔物の素材を使ったマジックアイテムの実験で使いたいのと、場合によっては水中用ゴーレムであるルサールカに使える可能性があるのだから。
(待てよ……実験そのものは出来るのか?)
(こっちで魔法の槍を用意するって事にして、素材は受け取る)
(鎧と槍を一揃いは確定で作って、こっちが使わない部分でも作る)
(そもそもルサールカは別に高速移動する必要はないんだ。あくまで検証用なのと、遠洋船の護衛用でしかない。だが、それなら水棲種族を味方につけるだけでも良い筈だ。物凄く軽くて、飛行用ゴーレムに使えるなら抑える必要はあるが……それならもっと軽い魔物は居る筈だ)
損して得取れと言う言葉もある。彼らに不満を持たせるより感謝だろう。
水棲種族は海で活動する亜人で、オロシャ国では殆ど関わりがない。だから不満を持たれても構わないと言えるが、逆に友好関係を築く場合の利益は計り知れないのだ。元の世界と違って大航海時代があり得るとも思えない。海は彼らの領域として、彼らが不便と思う様な陸地主体の大きな島を譲り受けた方が楽だろう。その時に水棲種族に護衛を頼めるかどうかはかなり重要である。
もし海洋進出をしない場合でも、海外交易を代わりにやってくれる利益性は無視できない。
「では最初の幾つかに限り、その素材で宝貝の槍と鎧を用意しましょう。こちらは魔物の素材で宝貝を作ったらどうなるかと言う研究がしたいのです。有益だと判れば自分でも抑えたいですが、最初の幾つかに関してはそちらにお売りしますよ。その間に、こちらも研究が出来ますからね。水棲種族の好む形状さえ判れば作れます」
「それはありがたいですな! では水上歩行の宝貝込みでお支払いしましょう」
ちゃんと役に立ったことで水上歩行のマジックアイテムもお買い上げである。
ここまでは良い流れであり、俺の判断も間違ってはいないと思う。巨大な魔物を倒したというトロフィーを奪えば反感を買っただろうし、何らかの記念品を兼ねて授与は必要なのだろう。だからこそこちらの申し出は渡りに船であり、より良い友好関係が築けると思われる。
ただ……水棲種族は馬鹿ではない。それどころかこの龍学才という男は、優れた交渉力の持ち主であり、また物の価値と言う物を『良くも悪くも』判っている男だった。
「そういえば領主の御役目ゆえに、お手を煩わせる分だけ高額なのだとか。他に作り手が少ない分だけ難しいのでしょうな。しからば、その時間を補わせていただきましょうぞ」
「……? 行政への協力ではありませんよね?」
「然り然り。価値観が違うのです、それでは返って迷惑でしょう」
報酬に関する回答に苦笑いをせざるを得なかった。
俺は領主と言う立場の者を拘束する事で、高額の報酬を要求していた。そうでなければ気軽に頼まれてしまい、それでは俺が何もできなくなるからだ。だから時間拘束を補ってくれるナニカというのは助かるが、逆に言えば俺自身の時間を売り物にすることで高額の報酬を得ることが出来ないということだ。ひとまず水棲種族の見地で勝手な協力をするなら困るが、ちゃんとした報酬ならば悪くないのかもしれない。
そしてその事を容易く見抜いたという時点で、龍学才の眼力は侮れない。
「儂も協力させていただきましたが、作成できる宝貝には術を使える者の協力が必須。そして、人数が多い方が大幅に短縮できるのでしたな? ならば、こちらで術を所有する者を探して参ろうではありませぬか。近くに居り暇ならば安価に、遠い海域であったり忙しくして居れば高価にですな」
「……素晴らしい案をありがとうございます。お互いの為になりそうですね」
その内容は実に卒なく、素直に答えて良いのか一瞬悩みそうになった。
見学者を増やせば付与の術をパクれそうでもあり、既に付与自体は覚えているのであれば、コツをパクれると言えなくもない。だが、知らない場所でされなければ判らない上、疑いの目を持たなければ実に清々しい内容に見える。こちらが水棲種族に隔意を持つならばこれほど嫌らしい条件はなく、同時に隔意を持たなければこれほどに協力的な内容はないのだ。
だから此処での判断は、『俺が持って居ないモノ』に対する感謝で考えるべきだろう。何をやっても出来ない事は出来ないし、可能と有れば状況を大きく変更できることもあるのだ。そして水棲種族が今後百年・二百年経過した後に、敵対者になる可能性があるかどうかが分かれ目である。
「では、ひとまずこちらがお渡しすると約束した物の分だけ報酬を戴くとして、協力費を計上。こちらが何かしら欲しい物があれば御願いする時に相殺する……と言う事で構いませんか?」
「それで構いませぬぞ」
報酬をもらう約束をして居る筈なのに、こちらから貢献を約束させられた。
粘り腰のタフなネゴシエイターであると同時に、順逆を入れ替える自在の弁舌。それを支えるのは、短くはかない水棲種族個人の見地を捨て、種族全体の利益を考えられる全体思考のなせる業だろう。
ただ、前述した通り、これまで得られなかった増産ペースや、所持していない呪文を用意できるのは大きい。この点を活かして考えるべきであろう。
「もちろん、真珠や香辛料でも構いませぬ。誠意として、前回に注文いただいた物の他に色々と目録を用意しました。ご検分あれ」
「拝見します」
そして最後に情報を無償で提供することで、こちらが折れたことに対したのも実に見事だ。特に配慮への言及をすること無く、自分の方から提示したことで、一見、彼らの朴訥さをアピール出来ているのだから。
なお……この時の情報は割りと衝撃だった。
高価な買い物をしたカカオよりもコーヒーが割りと安価だったことだ。というか値付けは中間貿易の影響だと思われるので、思ったよりも近くでコーヒーが採れるのだろう。なんだか損したような気がすると同時に、探索してもカカオが見つからなかったということで、交渉で手に入れル窓口を確保できたのは安堵出来る内容だったろう。
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