江ノ島の小さな人形師

sohko3

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誰からも愛されなかった少女

鎌倉高校前駅

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 それにしても、これからわたしの暮らす江ノ島の最寄は「江ノ島駅」のはずなのに。

 どうしてふたつも手前の「鎌倉高校前駅」で待ち合わせなのかしら。

 その理由はきちんと電話で聞かされてはいる。

 先方は、この駅から江ノ島方面へ歩く機会はこれから多いだろうから、今の内に道を覚えておいた方が良いだろう。

 そう言っていた。

 いたのだけれど、ついつい疑ってしまう。

 意地悪な家族がいつもそうしていたように、少しでもわたしが疲れるように、何の意味もなく徒歩での移動距離を伸ばそうとしているのではないかしら。なんてね。


 自虐はするけれど、今更そんなささいなことで心を痛めたりはしない。

 もうすっかり、正常ではない扱われ方に慣れきっている。


 かくして、疑惑の「鎌倉高校前駅」に到着した。

 電車が発車するまでの数刻、電車が影になって駅のホームは薄暗かった。


「うわぁ~……きれい……」

 電車が発車した後に背後を振り返ると、目の前には海が広がっていた。

 電車の中から、ガラス越しに見たのとは全然違う。

 今日は太陽の光が強いのか、海の広範囲を白い光が散っていて、まるで地上に星屑の降ってきたみたいに羽香奈には見えた。

 去っていった電車の後姿を見るように視線を動かすと、これから彼女の暮らす江ノ島の背景にはくっきりと富士山が浮かび上がっていた。

「富士山がこんなに大きく見えたのって、はじめて……」

 これから自分が暮らすのは、こんな場所なんだ。

 もうすっかり、人間には期待していない彼女だからこそ、素敵な風景にはなんだか心が躍るような気がした。

 さて、と。

 待ち合わせは駅の外だったから、運賃を払って出ておかないと。

 出口へ向かうため、身をひるがえした。


 ホームには長い木のベンチが複数並んで設置されていたが、その出口から一番近い席に、羽香奈と同じ年くらいの少年が座っていた。

 足元にはブリキのバケツが置いてある。

 上は袖のないポロシャツ、下はジーンズ、サンダル。

 そのどれもが空色で統一されているから、首から下は全てが空色。

 青い空と海を背景に立ったらその部分が溶け込んでしまわないかしら、なんて勝手に考えてしまう。


 髪の色が黄土色にも近い色素の薄い茶髪で、それは羽香奈自身と同じもので、よく見慣れた色だった。

 だからお互いに自己紹介する前から、羽香奈もなんとなく察しが付く。

 あの人が、待ち合わせの人かな。

 葉織はおりくん、とかいったっけ。


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