江ノ島の小さな人形師

sohko3

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熱帯植物園

百年前から

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 入場料を払って中に入る。熱帯植物園、と聞いて羽香奈がイメージするのは、学校の遠足で行ったどこかの温室。

 日本では熱帯の植物は自然には育たなくて、温室で無理やり調節して育てて展示するものだと思っていたのだが。

「南の島みたいな木が普通に生えてるよ?」

 園内の小道を挟むように、熱帯の植物が生えている。

 江ノ島は緑の多い場所ではあるが、植物園の外に生えている樹木とは明らかに趣が違う。

「江ノ島って、オレ達が思ってるより暑い場所なのかなぁ」

 葉織も植物園に関することは全く詳しくないので、入場の際に受け取ったパンフレットを開く。

「一八八二年にアイルランドの貿易商の人が作った庭園で、その頃から南国の植物を栽培してたんだって」

「百年くらい前なの? 想像つかないね……」


 とりあえず、大展望塔はメインディッシュとして最後までとっておくことにして、園内を一周見て回る。

 どれも小規模ながら温室、動物園、遊具もあって見どころが多い。

「あっ、弁天橋! 真正面から見えるね!」

 角度自体は江ノ島の仲見世通りから江ノ島神社に入り、瑞心門から見下ろすのと同じだ。しかしそれよりも高い位置から見下ろすとまた印象が変わるのか、羽香奈は大はしゃぎだ。

 展望塔からの眺めはもっと凄いはずだから羽香奈は喜ぶんじゃないかな。そんなことを葉織は考えていたのだが。

「見たぁ? さっきのアイツ、春子のビビった顔~」

「笑えるよね~。
高いところ怖い癖になんで無理して上ったりするんだろ!」

「アタシ達の金魚の糞してないと、アイツ、他に友達いないもんね~」

 高校生くらいに見える女性が三人、下卑た笑いを響かせながら葉織達の後ろを通り過ぎた。

 側にあるベンチに三人並んで腰を下ろして、今度は別の話を始める。


 なんだか嫌な予感がしつつ、羽香奈を見ると、彼女もちょっと不安そうな顔になっていた。

 楽しい時間に水を差されたような気分だが、気にしているゆとりもなさそうで、ふたりは頷き合って歩き出す。


 展望塔は元は灯台だったが今はその役目は終えている。

 回転灯の入っている塔のてっぺんの小部屋だけは白に、そこから下の鉄塔は青で塗装されているようだが、ところどころ錆が浮いているのが目立っている。


「葉織くん、何か見える?」

「……上の方。
遠いからはっきりじゃないけど、ちょっと黒い靄が見えてる……かもしれない」

 展望塔自体にも入場料がかかるので支払い、エレベーターに乗る順番をもどかしい思いで待っていた。



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