江ノ島の小さな人形師

sohko3

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熱帯植物園

高所恐怖症

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 展望塔の最上階には灯台のライトが設置された展望フロアがあり、中に入ることも出来る。

 その部屋の片隅に膝を抱えて蹲り、泣いている少女がいた。

 フロアはさして広い部屋でもなく中央に大きなライトが設置されてもいるので狭苦しい。

 平日の午前中だからか彼女以外に人気がなく、人出の多い週末だったりしたらもっと早く、他の誰かから注意されていたかもしれない。

 彼女が膝に顔を伏せてこちらを見ていないのをいいことに、葉織は頭の上でぐるぐるとうずを巻いていた黒い靄を回収した。

 羽香奈が葉織を押しのけるように前に出て、

「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

 彼女の隣に膝を着き、声掛けする。

 いくら助けに来たとはいっても相手は女の子だから、葉織よりも自分が声掛けする方がいいだろう。

 その間、葉織は彼女に見られないよう人形作りを行う。

 そう、ふたりの間では取り決めしておいたのだ。

 少女……春子は涙に濡れた目で羽香奈を見た。

 羽香奈は傍目には、いかにも大人しげな、人のよさそうな無害な少女にしか見えない。

 春子は自分より年下と思われる少女に気遣われるのに若干の気恥ずかしさを覚えて頬を染めながらも、目を拭って羽香奈に縋るような目を向ける。

「と、友達と一緒に、遊びに来たんだけど……
私、高いところがダメで……
嫌だったんだけど、みんなが行くって言うから……
でも、上がったら思ったよりずっと、ずっと怖くって……」

 嘲笑うような態度の友達三人は軽やかな足取りで階段を下りていってしまい、春子はひとり、展望塔に取り残された。

 外で風を感じていると高さを意識して怖くて、這うようにしながらこの展望フロアに逃げてきたのだという。

 葉織は灯台のライトの反対に回り込んだところで、人形を作った。

 泣いていた直後の春子の喉はつっかえつっかえで声も小さく、聞き取りづらい。

 だが、ほとんど同じ内容の話を葉織は黒い靄から訴えかけられていた。

 
「高校生にもなってこの程度が怖いなんて、ありえないって……嘘つき、って」

 出来上がった人形もいま現在の彼女と全く同じポーズだった。

 つまり、春子が「高い場所が怖い」というのは嘘でもなんでもない、心からそう感じている真実なのだ。

 葉織や先ほどの三人組のように、この場所に何の恐怖心もない者もいれば、羽香奈のようにちょっとだけ怖い、という者もいる。

 春子のように身動きすら出来なくなるほどに怖い者だっている。

 恐怖心というのは個人差であって、大げさだなぁと軽んじたり、まして笑いものにするなどあってはならない。
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