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しおりを挟む因みにご両親はその愛人を囲うことを認めてはいるが、平民である彼女が本館に足を踏み入れることを許していない。だから愛人は新たに建てたこぢんまりとした別館に住んでいるという。
だが私は正妻となるため、住むことになるのは本館だ。そのことについて愛人から何かを言われそうだな、と思ったら。
「結婚契約書を用意した。これを読んでサインしてほしい」
そう言われて差し出された書類に目を通す。書いてあったのは
一つ、正妻としての権限を与えるが愛人となるジェニーに対し不当な振る舞いはしないこと。
一つ、公の場に出る場合は仲睦まじい夫婦として演じること。
一つ、ジェニーに子が生まれたら自分の子として育てること。
上から二つ目までは別に良い。だが最後のはどういうことだ。愛人が育てればいいのになぜ私が育てなければならないのだ。
「…質問がございます。私が子育てをする理由を教えてください」
「私は嫡男だ。跡継ぎが必要となる。お前が育てる理由は貴族としての教育を望んでいるからだ。家庭教師はもちろんつけるが、貴族としての振る舞いなどはジェニーでは教えることが出来ない。だから子が生まれたらお前の子として申請する」
「それは愛人の方は了承するのですか?」
「問題ない。私がしっかりと説明すればわかってくれるはずだ」
…本当かよ。
「では、もう一つ質問です。私はその愛人の方と接することはないと誓いますが、もしその愛人の方から接触してきた場合はどうしたらよいでしょうか?」
「そんなことなどあるはずがない。ジェニーは守ってやらねばならないほど弱々しく、だがとても賢く優しい人なんだ。だが、私が正妻を迎えたことで落ち込むだろう。だがそれでお前に何かを言うような人ではない。私がしっかりとお前はただの飾りだと説明しておくからな」
…さいでっか。その言葉に嘘がないことを祈るのみだ。
この契約書について物申したいことはある。だが、家の存続が掛かっている結婚だ。私に不満を言う権利はない。
そう思った私は何の不満も愚痴も零すことなくサインをした。
私が嫁いでから。お屋敷にいる使用人達も私のことを認めず、きっと肩身の狭い思いをするのだろう。と思っていたのだけど。
「若奥様、お食事のご用意が出来ました。料理長が若奥様の為に腕を振るいましたので存分にお楽しみください」
と言われ出てきた食事は、想像以上に豪華な食事。腐りかけの食事でも用意されると思っていた私は拍子抜けした。
「湯あみの後は若奥様をピカピカにさせていただきます!」
と全身を素晴らしいエステ技術によってピカピカに磨き上げられた。おかげで髪も肌もツルツルだ。
「今日はお天気もよろしいですし、お庭でお茶でもいかがですか?」
と庭へ出れば可愛いテーブルセットに美味しいお茶とお菓子。このお菓子も料理長がわざわざ作ってくれたらしい。美味しいだけじゃなく見た目も可愛い。
居心地良すぎ~…。
想像してたのと全然違ってかなりびっくりしている。旦那様はもちろん、私に会いに来ることはない。別館にて愛しい愛人と共に過ごしている。だからなのか、屋敷の使用人たちは私にとても気を遣ってくれるようだ。むしろ――
「全く若旦那様も騎士としてはとても優秀な方らしいんですけど女性の趣味がちょっと…」
とか
「あの人のどこがいいのか私たちにはさっぱり。平民出なのにまるで王女様にでもなったかのような横暴な振る舞い。別館に行くのが嫌です」
など。ありとあらゆる愚痴を吐いていた。おかしい。確かエリオットは『守ってやらねばならないほど弱々しく、だがとても賢く優しい人』だと言っていたはずなんだけど。
「気持ちはわかるけどあまり人の悪口は言わない方がいいわ。どこで誰が聞いているのかわからないわよ」
と言えば、「若奥様! なんと出来た方なのでしょう! 若旦那様も早く目を覚ませばよろしいのに」と言われた。私は一生目が覚めなくていいのだけど…。
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