3 / 15
3
しおりを挟むある日、ずっと館に引きこもっているのも飽きたので侍女と護衛を連れて街へぶらりと出かけた。何か欲しい物があるとかじゃないからただのウィンドウショッピングだ。たまにはこうして外に出て違う景色を見たかったのだ。
「アメリア!? アメリアじゃないか!」
近くのカフェにでも入ろうかと思っていたら、ふいに名前を呼ばれた。声のする方向へ顔を向けるとそこには学生時代の友人であるレイモンドがいた。
――レイモンド・アデルーク公爵令息様。学生時代に仲良くなった友人の一人。
彼はとても頭がよくて顔もいい。家柄もよくて男性からも女性からも人気があった。
そして彼と彼の婚約者とも気が合って、私の元婚約者も合わせてみんなで一緒に過ごすことが多かった。
そして私の初恋の相手。
レイモンド様の婚約者のセセリア・モルトラン公爵令嬢様はお美しいのはもちろん、とても明るくて少しお転婆だけどとても気のいい方でレイモンド様とお似合いだった。だから私は嫉妬することはなかったし、2人の仲睦まじい姿を微笑ましく見ていた。
そう言えば公爵令嬢なのに『商人になって世界中を回りたい』だなんて爆弾発言をした時は驚いた。冗談だとわかっていたから『実現すると良いですね、成功したら教えてくださいね』なんて言って皆で笑っていた。懐かしい思い出だ。
レイモンド様が初恋の人だとはいえ、お互い婚約者がいる身。想いを伝えるなんて愚かなことはしない。私たち4人で過ごすことがとても居心地が良かったのだ。
ただの友人として過ごし、そして去年そのまま卒業した。
そんな彼は今頃、家を継ぐために忙しいだろうになぜこんなところで再会するのか。あら? そういえば結婚式の招待状はまだ送られてきていなかったような。
「アメリア、久しぶりだな。元気だったかい?」
「ええ。お陰様で。レイモンド様も…あ、失礼いたしました。アデルーク様」
つい学生時代のことを思い出して馴れ馴れしく話してしまった。もうそんなこと出来はしないのに。
「やめてくれ。昔のように接してもらえると嬉しい。もう学生ではないけど親友だろう?」
本当にこの人はあの時のまま、いつだって優しくて心を砕いてくれる。
「それにしても領地へ戻ったんじゃなかったのかい? 確か今年の春ごろ、大雨で大変なことになったと聞いている。婚約していたラマーニ侯爵令息とそろそろ結婚するはずだろ? それなのに王都にいるなんて何か用事でも?」
ラマーニ侯爵令息様。私と婚約解消した方。その方は私のリンジー領の隣で王都からは離れている。社交シーズンなどでない限り王都に来ることはない。
「……それが」
これは言ってもいいのか。どうしようかと考えあぐねているとレイモンド様は「もしかして何かあったのか?」と聞いてきた。
「あの…実は私、別の方と結婚いたしましたの。それで今は王都にいるのですわ」
「え? 別の人? え? 誰と? いつ?」
切れ長の目がこれでもかと見開かれ相手は誰なのかと質問されるレイモンド様。
「あの…ニコラーク伯爵家のエリオット様ですわ」
「ニコラーク伯爵家の、エリオット…」
どうされたのかしら? 呆然とされて。
「…それはどうして? と聞いてもいいかい?」
隠してもしょうがない。どうせちょっと調べればわかることだから。
「ご存知の通り、私の領地は今年の春に大雨による大災害に見舞われました。それで、今までの被害と重なってかなりの借金をせざるを得なくなりまして…。お恥ずかしい話なのですが、ラマーニ様との婚約が解消になりましたの。それでエリオット様が借金の返済をしてくださるとのことであちらから婚姻の打診が来ましたのよ」
「………そうだったのか」
あら? かなり肩を落としていらっしゃるように見える。…きっと優しい方だから、リンジー領がこうなったことで起こった私のことに心を痛めているのかもしれない。
「……今、君は幸せかい?」
「……ええ。伯爵家では大変良くしてくださいますのよ」
エリオット様とのことを正直に話す必要はない。使用人みんなは本当に良くしてくれている。その点は幸せだ。
「…それでは私はこれで失礼いたしますわ。レイモンド様もお元気で」
これ以上長く彼といるのはあまり良いとはいえない。もし誰かに見られて変な噂が立てば、レイモンド様にご迷惑が掛かる。もう二度と会わない方がいいだろう。
レイモンド様と別れてそのまま伯爵邸へと帰って来た。
「若奥様、先ほどお会いした方はどなたですか?」
「ああ、学生時代の友人よ。レイモンド・アデルーク様。…学生時代によくしていただいたの。それだけよ。他に何もないわ」
街へ一緒に出た侍女は、私が浮気することを心配しているのかレイモンド様のことを聞いてきた。私は浮気するつもりもレイモンド様とどうこうなるつもりも一切ないから、そこははっきりと言っておいた。
56
あなたにおすすめの小説
割込み王女に祝福を(婚約解消いただきました。ありがとうございました)
久留美眞理
恋愛
没落貴族の令嬢ベアトリックスは、父を亡くした後、母の再婚相手のブライトストーン子爵の養女となった。この義父の借金を返済するために、義父によって新興成金の息子エドワードとの縁談を画策されてしまう。家門を救い、母を守るため、彼女はこの結婚を受け入れる決意をし、エドワードと婚約が成立した。ところが、王宮の茶会で会った王家の第三王女が、エドワードにひと目惚れ、ベアトリックスは婚約を解消されてしまった。借金を肩代わりしてもらえたうえ、婚約破棄の慰謝料まで貰い、意に添わぬ結婚をしなくてよくなったベアトリックスはしてやったりと喜ぶのだが・・・次に現れた求婚者はイトコで軍人のレイモンド。二人は婚約したが、無事に結婚できるのか?それともまた一波乱あるのか?ベアトリックスの幸福までの道のりを描いた作品
今度の婚約は無事に結婚というゴールにたどり着けるのか、それとも障害が立ちはだかるのか?ベアトリックスがつかむ幸福とは?
婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ
鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。
平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」
婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。
彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。
二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。
……はずなのに。
邸内で起きる不可解な襲撃。
操られた侍女が放つ言葉。
浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。
「白の娘よ。いずれ迎えに行く」
影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。
守るために剣を握る公爵。
守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。
契約から始まったはずの二人の関係は、
いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。
「君を奪わせはしない」
「わたくしも……あなたを守りたいのです」
これは――
白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、
覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。
---
実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます
さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。
生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。
「君の草は、人を救う力を持っている」
そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。
不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。
華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、
薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。
町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』
鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」
婚約破棄をきっかけに、
貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。
彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく――
働かないという選択。
爵位と領地、屋敷を手放し、
領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、
彼女はひっそりと姿を消す。
山の奥で始まるのは、
誰にも評価されず、誰にも感謝せず、
それでも不自由のない、静かな日々。
陰謀も、追手も、劇的な再会もない。
あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、
「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。
働かない。
争わない。
名を残さない。
それでも――
自分の人生を、自分のために選び切る。
これは、
頑張らないことを肯定する物語。
静かに失踪した元貴族令嬢が、
誰にも縛られず生きるまでを描いた、
“何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。
【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました
ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」
公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。
留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。
※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。
【完結】
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる