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しおりを挟む私が嫁いでもう少しで2年が経とうとしている時。エリオットが私の元へ訪ねてきた。
「1週間後、領地へと戻らなければならなくなった。1ヵ月くらいで戻る予定だが屋敷のことを頼んだ」
「かしこまりました」
「それと……」
「はい。なんでございましょうか」
「いや…。久しぶりに本館へ足を運んだが、屋敷の中が随分と変わっていて驚いた。君が指示したのか?」
変わった? ああ、もしや花を飾ったり家具の配置を変えたりとかそういったことだろうか。
「はい。いつ何時お客様がいらっしゃるかもわかりませんので、屋敷の中をある程度手入れさせていただきました。何か不都合がございましたか?」
「いや、以前と違い華やいでいて雰囲気が明るくなった。やはり女主人というのは必要なのだと実感した」
はぁ。さいでっか。
「不都合がなくようございました。ではこのまま続けさせていただきます。…それとお願いがございます」
「なんだ?」
「…愛人の方ですが、あれから何度か私に会わせるようこちらへ来ているようです。私は契約書通り、接触を避けるためお会いすることはありませんがエリオット様がいない間に頻繁に来ることも考えられます。エリオット様からも再度お伝えいただきたいのです」
そう。彼女は全く諦めておらず何度も何度もこちらへ来ては、執事長に軽く追い払われているらしい。全くその執念は大したものだ。
「…わかった。改めて私の口から伝えておく」
それを聞いて少し眉間に皺を寄せたエリオットは、1人別館へと帰っていった。
「…まさか屋敷の中のことを褒められるとは思わなかったわ」
「別館は何もそういったものはありませんしね。あの愛人が購入するのはいつも自分の物だけですもの。別館の内装などは一切興味がないですから、若旦那様も気が付いたのだと思いますわ」
私が思わずそう呟けば、私付の侍女がそう答えた。
別館は本館ほどではないが建物自体は立派だ。だけど愛人が癇癪を起し、花瓶などを叩きつけて壊したりするものだからそういった物は排除されたらしい。それなのにエリオットはそれに気が付いていないという。
「この本館を見て若旦那様も理解されてくださればよろしいのですけど…」
頬に手を当てため息を零す侍女。彼女とは違い、私は別に気が付いてほしくはないしどうでもいい。
そして1週間後、エリオットは領地へと出発した。そして私の不安が見事に的中したのだ。
「ちょっと! 今まで何度も訪ねてきたのによくも逃げ続けてきたわね!」
二度と会いたくない愛人が、使用人の目を盗み堂々と屋敷の中へと入って来たのだ。朝食を取りに食堂へ行く途中で運悪く彼女と会ってしまった。
「…あなたはここへ入ることは出来ないはずよ。今すぐ別館へお帰りなさい」
「エリオットにいじわるなこと言わないで! 私わかってるんだから! 私のことが邪魔でわざとあんなこと言ったんでしょ!? 許さないんだから! あんたみたいな悪女なんてエリオットに相応しくないのよ! 早くとっととどこかへ行きなさいよ!」
……またこの話。何度説明すれば理解するのだろうか。きっと一生理解なんてしてくれないんでしょうね。
「ジェニー様。こちらへの立ち入りは禁止されております。速やかに別館へお戻りください」
愛人の大きな声を聞いたのか、誰かが呼びに行ったのか。恐らく両方だとは思うけど、執事長が慌ててここへ来て愛人を追い返そうと私を庇うように前に立った。
「あんたも邪魔よ! いつもいつも私の邪魔ばかりして! あんたなんかエリオットに言ってすぐクビにしてもらうんだから! 謝ったって許してあげないから覚悟しておきなさい!」
また勝手なことを…。愛人がエリオットに言ったところでクビに出来るわけがないのに平気でそんなことを宣うなんて。ここの使用人たちの雇い主はニコラーク伯爵家当主だ。エリオットではない。それに愛人が気に入らないからと使用人をクビにすることなんてエリオットにだって出来ることではない。
「それとそこの性悪女! 私とエリオットの仲を邪魔しようとしてエリオットを領地へ返したでしょ!? 卑怯なことなんてしないで正々堂々と勝負しなさいよ! こうやって離されたって私とエリオットは永遠の愛で結ばれているんだから!」
……えーと。彼女は何を言っているのだろうか。私が2人の邪魔をするためにエリオットを領地へ送ったと、そう言った?? なんで私がわざわざそんなことをしなければならないのか…。
「何か勘違いされていらっしゃるようですけど、私はあなた達の仲を邪魔するつもりも意地悪をするつもりもないわ。エリオット様は用事があり領地へと戻られただけ。それを私のせいにされても困るわ。
それにエリオット様からも言われているのでしょう? ここへ来ることはやめて欲しいと。だったら大人しく言われた通りにしていた方があなたにとっては良いはずよ」
「きー--っ!! 何よ正妻ぶって! エリオットは私のモノよ! 愛されないからって私にこんなことをしてタダで済むと思わないでよね! エリオットに言いつけてやるんだから!!」
そう大声で叫んだあとは、執事長に引きずられるようにして別館へと帰っていった。
「……私『きー--っ!』って言う人、初めて見たわ」
嵐が去った後、私がポツリと零すと周りにいた使用人たちがぷっと噴き出していた。
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