【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

文字の大きさ
8 / 30

8.異世界に来たのだから

しおりを挟む
「ところで、なんで俺はまた召喚されたんだ?」

 ある程度お腹も膨れてきたタイミングで気になったことを訪ねてみた。まさかまた魔王が復活したとか言わないよな?

「会いたかったから」
「へ?」
「私がソウタに会いたかったからだよ」

 なんだと!? ってことは、フェリクスはまだ俺を諦めていなかったってこと!?

「実はね、ソウタと別れる時に印をつけたんだ」
「印?」
「そう。ソウタの額にね」

 フェリクスはにっこり笑って楽しそうにそう宣った。おでこに印って……まさか!?
 ハッと気が付いた俺の顔を見てますます笑みを深めるフェリクス。おいおいおい、全っ然気が付かなかったぞ……

 あっちの世界へ戻る前日、あのバルコニーで告白をされた日。俺はフェリクスの真剣な告白を断った。その時フェリクスは『最後にあなたの幸福を願わせてほしい』と言って俺の額にキスをした。
 少し長いキスだったなと思っていたが、どうやらあのキスの時に俺に魔法をかけていたらしい。それも俺がどこにいるのかわかる、いわゆるGPS的なものを。

「ソウタが向こうへ帰ってからいろいろとわかったことなんだけど、どうやらこの世界とソウタの世界は時間軸が同じようなんだ」

 フェリクスは俺がいなくなってから額に付けた印を辿り、俺が向こうでどのような動きをしていたのかを観察していたそうなのだ。
 朝と夜は同じ場所から印が動く様子はない。だが日中は印の場所が移動する。これは家から仕事へ向かったということ。俺があっちの世界に戻ってからしばらく俺の印の動きを見て確信を得たそうだ。

 それに俺はこっちの世界にいた時に、フェリクスに向こうの世界はどんなところなのか、どんな生活を送っているのか、仕事はどんなことをしているのか、そういったことを聞かれたくさん話をしている。
 その時の情報と擦り合わせていたのも大きい。

 この一か月の間に召喚魔法の内容も熟知し、膨大な魔力はフェリクス一人で賄えることもわかった。
 どういうことかというと召喚魔法をいろいろ弄って省エネで俺を召喚できるようにしたそうなのだ。それでも多くの魔力が必要なことは変わらないものの、フェリクス一人の魔力でできるようになったそうだ。

「ソウタはドニチがお休みなのだろう? だから今日ソウタが帰宅したのを見計らって召喚したんだ。上手くいったね」
「いやいやいやいや! いつの間にそんな魔法を開発してたんだよ!?」
「んー……ソウタが魔法は想像力が大切だと言っていた時から徐々に、かな?」
「ってそれ、ほとんど最初の時じゃん!?」

 この世界に来て、俺は初めて魔法というものを勉強した。チートだったからというのもあるが、大体のことを学んだ後は魔力の使い方も魔法もあっという間に使うことができた。
 それからフェリクスにどうやって魔法を使っているのかを聞かれ、俺独自の理論を話したのだ。最初はフェリクスも驚いていたけど、元々優秀なフェリクスは俺の魔法講義にしっかりとついてきた。
 それどころかいろいろ質問も飛び、俺もそれに答えている内にフェリクスは誰よりも早く新しい魔法を習得した。
 それがまさか自分で独自の魔法を開発するところまで成長していたなんて……

「ねぇソウタ。私はソウタのことが好きだ。これほど心から人を好きになったことが初めてなんだ。そんなソウタを諦めるなんてできないよ。だからこれから覚悟しておいてね」
「え……マジっすか……」
「あ、でもちゃんと明後日の夜にはあちらの世界に戻れるようにするから安心して」

 フェリクスって爽やかな顔しておきながら、かなりの執着心をお持ちのようだ……俺、まさか貞操の危機!?
 と一瞬不安になったものの、フェリクスは俺を無理やりどうこうしようとする気はないようだった。
 食事が終わり風呂に入った時も俺一人でのんびり入らせてもらえたし、寝る時も同じベッドで寝るなんてこともない。もしそんなことになったら頑として断ろうと思っていたからちょっと拍子抜けしてしまった。

 それとなんだかフェリクスの雰囲気が変わった気がする。
 以前は王子様然とした様子があったのに、久しぶりに会ったらものすごく柔らかくなったというか。もしかしてこっちが素なんだろうか。
 でも俺はこっちの方が付き合いやすくて気楽だと思った。



「ソウタさん! お久しぶりっす!」
「シャノン! 元気にしてたか?」

 翌日、朝食後に俺の部屋にやって来たのはシャノンだった。シャノンは俺の顔を見るなり勢いよく駆け寄って抱きついてきた。それがまるで尻尾を振って喜ぶ犬のようで可愛くて堪らない。
 思わず頭をわしゃわしゃとかき混ぜるように撫でてやると、「にへへ」と嬉しそうに笑ってくれた。こんなに可愛い子だけど魔物相手には非情にもなれるめちゃくちゃ強い討伐士だ。

「シャノン、くっつきすぎだ」

 眉間に皺を寄せたフェリクスが、俺に引っ付いていたシャノンをべりっと剥がす。シャノンはそれにぶーぶーと不満の声を上げている。
 俺はまぁまぁと二人を宥めるとシャノンに椅子を勧めた。するとすぐに使用人の人がシャノンの分のお茶を用意してくれ、香り高い紅茶が並ぶ。

「シャノン、あれから魔物の方はどうなった?」
「魔王がいなくなったことで、今はだいぶ収まってきたっすよ!」

 討伐士と騎士団が総力を挙げて掃討戦を行ったこともあって、今じゃ魔物による被害はかなり抑えられてきたそうだ。それはこの国だけじゃなくて、各国でも共通していることだそう。
 復興しなければならない地域も多くあるが、魔王がいなくなったということで人々はとても明るくなり、復興も早く終わるだろうと考えられている。

「ソウタさん、今日は何か用事があったりするんすか?」
「いや、特に何もないよ」
「本当っすか!? じゃあソウタさん、今から一緒に討伐士の仕事、してみないっすか!?」

 討伐士の仕事って魔物討伐とかだよな? 魔物の数は以前よりも減ったとはいえ、まだまだたくさんいる。それにこの世界じゃ討伐士と呼ばれているが、漫画やアニメでよくある『冒険者』と同じようなものだ。
 魔王を倒すなんて冒険をやったが、冒険者の真似事はまだしていない。どうしよう。すんごい面白そう!

「え、やりたい! 一回やってみたいと思ってたんだ!」
「本当っすか! やりぃ! じゃあ早速行くっすよ!」

 折角異世界に来て魔法まで使えるんだ。漫画とかアニメで観ていた冒険者の仕事をやれるなんて楽しそう以外にないだろ!
 わくわくとした気持ちを抑えられずハイテンションのままシャノンと立ち上がる。だがそんな俺たちに待ったをかけたのはフェリクスだった。

「ソウタ!? 駄目だ、魔物討伐なんて危険だ! それにソウタは一目で『賢者』だとわかってしまう。そうなれば人々が押し寄せ街は大混乱となる」
「は? 危険って魔王以上に危険なやつなんているか? ……でも、確かに俺の黒目黒髪は正体が一発でわかるよな」

 俺のことはこの国だけじゃなくこの世界全体で広まっている。姿絵なんてものも出回っているらしく、平凡な俺でもちょっとした有名人だ。
 しかもこの世界はいろんな髪色や目の色の人がいるが、どちらも黒色っていうのはいないんだそう。この色を持っているというだけで、俺の正体はすぐにバレてしまうそうだ。
 そんな俺が街に行って、人々を混乱させるのは本意じゃない。

「んー、じゃあこうすればいい」
「なっ!?」

 俺は魔法で目と髪の色を変化させた。ちょっと憧れてた金髪に、というのは俺の平凡顔じゃ似合わないことはわかりきっているので明るめの茶色だ。
 黒目黒髪イコール賢者と結びついているのなら、色を変えてやればそうそうバレはしないだろう。

「うおおお! なんか一気に雰囲気変わるっすね! そんなソウタさんも似合ってるっす!」
「お、そうか? じゃあ大丈夫そうだな」

 うんうん。これなら街に行っても問題なさそうだ。と、俺とシャノンはわいわいと盛り上がっているが、ただひとりずっと眉間に皺を寄せて難しい顔をしているフェリクス。
 そんなに俺が討伐士の仕事をするのが嫌なのかよ。

「……ソウタがどうしても行くと言うのなら私も行く。今はダグラスもいないしソウタを守る者がいないから」
「シャノンが一緒だし大丈夫だと思うのに……ちょっと過保護すぎないか?」
「それでもだよ。……心配なんだよ、ソウタ。あなたが私の目の届かない場所で危険なことをするというのが」

 悲痛な面持ちで俺の手をそっと握るフェリクス。まぁ俺は魔法がチート並みとはいえ、運動神経はてんで駄目。旅に出ていた時も基本ダグラスが俺を守ってくれていたからフェリクスも安心して前に出られたんだ。
 討伐士は死と隣り合わせの仕事でもある。俺が考えている以上に危険な仕事だからこそ、フェリクスはここまで心配してくれるんだろう。

「……わかったよ。じゃあフェリクスも一緒に行こう」
「ああ、ありがとうソウタ」

 俺がそう言うとほっとしたように笑ってくれた。
 それなら善は急げとばかりに、俺たちは早速出かけることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...