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第3章 ヒロイン
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「アン! 会いたかった!」
翌朝。
登園して馬車を降りるなり待ち構えていた殿下に抱きつかれた。
「会えなくて死にそうなくらい辛かった……」
「――おととい会いましたよね?」
「昨日は会えなかったじゃないか」
一日くらい……と言いそうになったが、それを言ってしまうと面倒なことになりそうだと気づいて開きかけた口をつぐんだ。
殿下との付き合いは一ヶ月ほどだが、だいぶ人となりが分かってきた。
ゲームでは『ワンコ系』と表現されていた殿下だが、私を慕い、常に側にいたがるさまは本当に犬のようだと思う。
まっすぐにぶつけられる好意はとても純粋で――純粋すぎるそれが少し怖く感じることもある。
アルノーの愛情表現は穏やかで、好きといった言葉をくれることも少なくて。
それでも、それが当然と思っていたから……殿下の、全身で好意を示されることはどうにも慣れないというか恥ずかしい。
「でん……くるし……」
ぎゅうぎゅうと締めつけられるように抱きしめられると、恥ずかしさよりも辛さが勝る。
「殿下。その辺にしてください」
側にいたカミーユが殿下を引き剥がしてくれた。
「――どうしてお前が一緒の馬車から降りてくるんだ」
ムッとした顔で殿下がカミーユを睨みつけた。
「昨日はバシュラール家に泊まりましたので、そのまま一緒に来ました」
「泊まっ……た……」
呆然とした表情で殿下は呟いた。
「な……んで」
昨日早退したカミーユは、祖父である私の兄の手伝いで王立図書館に行っていた。
その時、ついでにマリアンヌの事を調べてくれたのでその報告に兄と共に夜、屋敷を訪れた。
そうしてしばらく話し込んでいる内にすっかり夜も更けてしまったので、二人とも泊まっていったのだ。
「親戚の家に泊まるのはそう変なことではないでしょう」
「親戚だろうと他の男がアンの家に泊まるなんて!」
叫んだ殿下に私は再び抱きしめられた。
「アン。今日から王宮で暮らそう」
「え?」
「僕の隣の部屋が空いているからそこに……」
「それはいけませんわ」
隣の部屋というのはおそらく王子妃の部屋だろう。
――本当に結婚するかも分からないのにそんな所に住むのは……
「殿下。婚約者とはいえ結婚前ですよ」
「お前はアンの家に泊まったのだろう」
「泊まるのと暮らすのは全く別ですよね」
「おはようございます!」
殿下とカミーユが言い合いをしていると明るい声が響いた。
声のした方へ顔を向けるとシャルロットが立っていた。
「――シャルロット嬢。何の用だ」
「今日はフレ……殿下ではありません」
たたっと駆け寄ると、シャルロットは私に向けて手にしていた紙袋を差し出した。
「マリアンヌ様、持ってきました!」
「まあ、早速?」
「家を出る時にちょうど焼き上がったので」
「焼き立て?!」
殿下の腕から抜け出ると紙袋を受け取る。
ずっしりとした重みのある、まだほんのり温かな袋をそっと開けると甘い香りが鼻をくすぐった。
「いい匂い……」
ああ、なんて美味しそうで幸せな匂いなんだろう。
昨日シャルロットと会った時、思い出したことを聞いてみた。
彼女の家のパン屋の名物に『メロンパン』があるのだ。
ゲームにも出てきてとても美味しそうで、その話をシャルロットにしたら持ってきてくれると約束してくれたのだ。
前前世でも好きだったメロンパン。
シャルロット曰く、味も食感も日本にあったそのものだという。
あれを六十年振りに食べられるなんて!
うう、焼き立てなんて、今すぐ食べたい……
でもそれはお行儀悪いわよね。
お昼まで我慢しないとならないなんて辛すぎる。
一口くらい……やっぱりダメかしら。
翌朝。
登園して馬車を降りるなり待ち構えていた殿下に抱きつかれた。
「会えなくて死にそうなくらい辛かった……」
「――おととい会いましたよね?」
「昨日は会えなかったじゃないか」
一日くらい……と言いそうになったが、それを言ってしまうと面倒なことになりそうだと気づいて開きかけた口をつぐんだ。
殿下との付き合いは一ヶ月ほどだが、だいぶ人となりが分かってきた。
ゲームでは『ワンコ系』と表現されていた殿下だが、私を慕い、常に側にいたがるさまは本当に犬のようだと思う。
まっすぐにぶつけられる好意はとても純粋で――純粋すぎるそれが少し怖く感じることもある。
アルノーの愛情表現は穏やかで、好きといった言葉をくれることも少なくて。
それでも、それが当然と思っていたから……殿下の、全身で好意を示されることはどうにも慣れないというか恥ずかしい。
「でん……くるし……」
ぎゅうぎゅうと締めつけられるように抱きしめられると、恥ずかしさよりも辛さが勝る。
「殿下。その辺にしてください」
側にいたカミーユが殿下を引き剥がしてくれた。
「――どうしてお前が一緒の馬車から降りてくるんだ」
ムッとした顔で殿下がカミーユを睨みつけた。
「昨日はバシュラール家に泊まりましたので、そのまま一緒に来ました」
「泊まっ……た……」
呆然とした表情で殿下は呟いた。
「な……んで」
昨日早退したカミーユは、祖父である私の兄の手伝いで王立図書館に行っていた。
その時、ついでにマリアンヌの事を調べてくれたのでその報告に兄と共に夜、屋敷を訪れた。
そうしてしばらく話し込んでいる内にすっかり夜も更けてしまったので、二人とも泊まっていったのだ。
「親戚の家に泊まるのはそう変なことではないでしょう」
「親戚だろうと他の男がアンの家に泊まるなんて!」
叫んだ殿下に私は再び抱きしめられた。
「アン。今日から王宮で暮らそう」
「え?」
「僕の隣の部屋が空いているからそこに……」
「それはいけませんわ」
隣の部屋というのはおそらく王子妃の部屋だろう。
――本当に結婚するかも分からないのにそんな所に住むのは……
「殿下。婚約者とはいえ結婚前ですよ」
「お前はアンの家に泊まったのだろう」
「泊まるのと暮らすのは全く別ですよね」
「おはようございます!」
殿下とカミーユが言い合いをしていると明るい声が響いた。
声のした方へ顔を向けるとシャルロットが立っていた。
「――シャルロット嬢。何の用だ」
「今日はフレ……殿下ではありません」
たたっと駆け寄ると、シャルロットは私に向けて手にしていた紙袋を差し出した。
「マリアンヌ様、持ってきました!」
「まあ、早速?」
「家を出る時にちょうど焼き上がったので」
「焼き立て?!」
殿下の腕から抜け出ると紙袋を受け取る。
ずっしりとした重みのある、まだほんのり温かな袋をそっと開けると甘い香りが鼻をくすぐった。
「いい匂い……」
ああ、なんて美味しそうで幸せな匂いなんだろう。
昨日シャルロットと会った時、思い出したことを聞いてみた。
彼女の家のパン屋の名物に『メロンパン』があるのだ。
ゲームにも出てきてとても美味しそうで、その話をシャルロットにしたら持ってきてくれると約束してくれたのだ。
前前世でも好きだったメロンパン。
シャルロット曰く、味も食感も日本にあったそのものだという。
あれを六十年振りに食べられるなんて!
うう、焼き立てなんて、今すぐ食べたい……
でもそれはお行儀悪いわよね。
お昼まで我慢しないとならないなんて辛すぎる。
一口くらい……やっぱりダメかしら。
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