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第4章 黒魔術
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(フレデリク視点)
彼女だ、と思った。
祖母が持っていた一枚の絵姿。
そこに描かれていた『彼女』を見た瞬間の――その衝撃をどう表現したらいいだろう。
可愛らしい女性の絵だった。
こちらを見つめる、青空のような明るい青い瞳から目が離せなかった。
艶やかな黒髪に、弧を描いた赤い唇に触れたい――幼心に宿った初めての衝動に戸惑いながらも、僕は確信した。
彼女だ。
僕は、彼女がいい。
「どうしたの? この絵が気に入ったの?」
絵を見つめたまま動かない僕に祖母が声をかけた。
「……このひとは誰?」
「私の親友のリリアンよ」
「リリアン……」
そっと口にしたその可愛らしい響きが胸にくすぐったかった。
「お祖母さま。僕はこのひとと結婚したい」
そう告げると祖母は驚いたように目を見開いた。
「フレデリク……それは無理よ」
「どうして?」
「その絵は十代の姿だけれど、実際のリリアンは私と同じ歳なのよ」
「それだとどうして結婚できないの?」
「――それにね、リリアンはもう結婚していて、あなたと同じ歳の孫もいるのよ」
彼女が結婚している。
それは僕にとって衝撃だった。
祖母曰く、リリアンとその夫は幼馴染で、結婚して何十年経った今でもとても仲が良いのだという。
彼らが別れることはないし、年齢が離れ過ぎている僕との結婚はありえないと。
それでも諦められなくて、祖母と会った時はいつもリリアンの話をねだった。
彼女は見た目も性格も可愛らしく、優しくて、初めて会った時から身分が低い祖母のことを厭うこともなく、王太子であった祖父との仲も積極的に応援してくれたのだという。
祖母から話を聞くたびにリリアンへの想いは募るばかりだった。
たとえ年齢差があろうとも関係なかった。
彼女に会いたいと願ったけれど、社交界から引退し王都から遠く離れた領地で暮らす彼女と会うことは叶わなかった。
そんな僕の心など知る由もない周囲から、そろそろ婚約者を決めようという声が上がりはじめた十歳のある日、リリアンの孫であるマリアンヌと会った。
後から思えば、それは年齢も家柄も合う彼女との『お見合い』だったのだろう。
マリアンヌは髪色こそ栗色だけれど、その顔立ちといい、空色の瞳も唇の形も絵姿のリリアンにとてもよく似ていた。
だから僕は。
思わず父に伝えてしまったのだ。
――マリアンヌを婚約者にしたいと。
十歳の子供が決めたとはいえ――その判断は間違いだった。
血が繋がっていて顔も良く似ていたけれど、マリアンヌの中身はリリアンとは似ても似つかなかった。
気の強いマリアンヌは何かと僕と張り合おうとする。
時にキツくなるその顔立ちは、リリアンとは全く違うものだった。
それでも婚約者となった以上、友好的に接しなければならない。
そう思い、マリアンヌと仲良くしようとし――それなりに親しくしてきたのだが。
十四歳の時、リリアンが亡くなったという知らせが届いた。
彼女だ、と思った。
祖母が持っていた一枚の絵姿。
そこに描かれていた『彼女』を見た瞬間の――その衝撃をどう表現したらいいだろう。
可愛らしい女性の絵だった。
こちらを見つめる、青空のような明るい青い瞳から目が離せなかった。
艶やかな黒髪に、弧を描いた赤い唇に触れたい――幼心に宿った初めての衝動に戸惑いながらも、僕は確信した。
彼女だ。
僕は、彼女がいい。
「どうしたの? この絵が気に入ったの?」
絵を見つめたまま動かない僕に祖母が声をかけた。
「……このひとは誰?」
「私の親友のリリアンよ」
「リリアン……」
そっと口にしたその可愛らしい響きが胸にくすぐったかった。
「お祖母さま。僕はこのひとと結婚したい」
そう告げると祖母は驚いたように目を見開いた。
「フレデリク……それは無理よ」
「どうして?」
「その絵は十代の姿だけれど、実際のリリアンは私と同じ歳なのよ」
「それだとどうして結婚できないの?」
「――それにね、リリアンはもう結婚していて、あなたと同じ歳の孫もいるのよ」
彼女が結婚している。
それは僕にとって衝撃だった。
祖母曰く、リリアンとその夫は幼馴染で、結婚して何十年経った今でもとても仲が良いのだという。
彼らが別れることはないし、年齢が離れ過ぎている僕との結婚はありえないと。
それでも諦められなくて、祖母と会った時はいつもリリアンの話をねだった。
彼女は見た目も性格も可愛らしく、優しくて、初めて会った時から身分が低い祖母のことを厭うこともなく、王太子であった祖父との仲も積極的に応援してくれたのだという。
祖母から話を聞くたびにリリアンへの想いは募るばかりだった。
たとえ年齢差があろうとも関係なかった。
彼女に会いたいと願ったけれど、社交界から引退し王都から遠く離れた領地で暮らす彼女と会うことは叶わなかった。
そんな僕の心など知る由もない周囲から、そろそろ婚約者を決めようという声が上がりはじめた十歳のある日、リリアンの孫であるマリアンヌと会った。
後から思えば、それは年齢も家柄も合う彼女との『お見合い』だったのだろう。
マリアンヌは髪色こそ栗色だけれど、その顔立ちといい、空色の瞳も唇の形も絵姿のリリアンにとてもよく似ていた。
だから僕は。
思わず父に伝えてしまったのだ。
――マリアンヌを婚約者にしたいと。
十歳の子供が決めたとはいえ――その判断は間違いだった。
血が繋がっていて顔も良く似ていたけれど、マリアンヌの中身はリリアンとは似ても似つかなかった。
気の強いマリアンヌは何かと僕と張り合おうとする。
時にキツくなるその顔立ちは、リリアンとは全く違うものだった。
それでも婚約者となった以上、友好的に接しなければならない。
そう思い、マリアンヌと仲良くしようとし――それなりに親しくしてきたのだが。
十四歳の時、リリアンが亡くなったという知らせが届いた。
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